軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二話 ユージの妹サクラ、稀人・キースの子孫と会う

『ようこそサクラさん、ジョージくんも!』

『迷わず来られたかね? 離れた場所ですまない。空港から近いこともあってね』

『気にしないでください! シーフード、すっごい楽しみですから!』

アメリカ、ロサンゼルスの市街地から西へ。

サンタモニカのレストランには夕陽が射し込んでいた。

『キースさんの子孫という方はまだ来てませんか』

『ええ、ジョージくん。さっき、もうすぐ着くって連絡があったわ』

レストランの個室でユージの妹・サクラと夫のジョージを迎えたのは、プロデューサーと脚本家の初老の夫婦。

ドレスアップしているわけでもないのに品がいいのは金持ちオーラのせいか。うらやましいものである。

『うわあ、レストランなのにベビーベッドまで用意してある……』

『はは、馴染みの店だからね。その方が落ち着いて食事ができるだろう?』

海が見えるレストランの広々とした個室、当たり前のように用意されていたベビーベッド。

サクラ、金持ちの気遣いにちょっと引き気味である。

と、ホストであるプロデューサーに話しかけるウェイター。

一言二言交わして、ウェイターはさっさと立ち去っていった。

『ちょうど到着したみたいだよ』

『キースさんの子孫……どんな人なんだろう』

『サクラ、考えたってしょうがないよ。ほら、もうすぐ来るんだし!』

ユージがいる世界で痕跡を見つけた稀人・テッサと、キース・シュミット。

テッサの母と姉は日本で見つけて手紙を渡すことができた。

それだけではなく、テッサの母と姉は、ユージの通訳とネットを通じてテッサの嫁とコミュニケーションを交わすほどの関係となっている。

エルフが義娘で、エルフが義妹なのだ。うらやましいかぎりである。

一方でキースの子孫を探すのは難航していた。

なにしろキースがいたのはこの世界で100年以上前で、ヒントも少ない。

調査会社を使ってやっとたどり着いた人物は、この荒唐無稽な話を疑っていた。

ユージの物語の検証番組が放送されて、ようやく信じるようになったらしい。

個室の扉が開く。

ウェイターに続いて入ってきたのは、若い女性。

『遅れてごめん! アタシ飛行機乗ったのはじめてでさ! まあペンシルベニア州を出たのも初めてなんだけどね!』

声がでかい。

そしてテンションが高い。

『そんでこんな気取った店もはじめてだよ! あ、アタシはケイト・スミス。よろしく!』

握手を求めているのだろう。

グッと手のひらを突き出す女性。

手がでかい。

というか身体がでかい。

『は、初めまして、サクラです』

勢いに呑まれ気味のサクラの手をガシッと握る。

ケイトと名乗った女性は、空いた手をサクラの肩に置いていた。

『日本人! いやあ、街で見かけることはあったけどホント小ちゃいね! お嬢ちゃんはいくつなの?』

サクラ、子供扱いである。

アメちゃんいる? とでも聞いてきそうなほど。

まあ身長差を考えたら仕方ないのかもしれない。

サクラは身長160cmで小さいわけではない。日本人にしては。

単純にケイトと名乗った女性がでかかったのだ。

180cm近いだろう身長。

太っているわけでも筋肉がスゴいわけでもないのにがっしりとした印象を与えるのは、骨格のせいだろう。

明るいブラウンの髪は長い。

垢抜けない服装は、あまりファッションに興味がないのだろうか。

『お、お嬢ちゃん……私もう32才なんですけど。ふふ、そう、でもそれだけ若く見られたってこと。まだまだイケるわね!』

ニヤニヤと笑みを浮かべて答えるサクラ。

どうやら三十路で一児の母なのに、若く見られたと喜んでいるようだ。チョロい。

『32! 見えないわー。あ、アタシは20才!』

『え? そんなに大きいのに?』

『はは、歳に身長は関係ないでしょ!』

ばっしばっしとサクラの肩を叩くケイト。

サクラはそっか、それもそうね、などと宣っている。

なにやら二人は意気投合したようだ。

呆気にとられる三人を置いて。

『いやあ、ホントだったんだね! なんか胡散臭い話だったしさ、最初はなに言ってんだコイツら? と思ってたんだけど』

『そりゃ信じられないよね。私だってお兄ちゃんとやり取りできなきゃ信じなかったと思うぐらいだし』

『だろ? そんで無視してたんだけど、まあしつこいしつこい! そんな話を友達にしたらさ、テレビでやってるって言うじゃないか! それでその友達と一緒に見て、話を聞いて……』

『信じる気になったの?』

『まあね! 両親が共働きで、アタシは小さい頃は爺ちゃんとよく遊んでたんだ。それで話を聞いたことがあってね。爺ちゃんの爺ちゃんは、ある日突然、妖精に連れ去られたんだって』

『そっか、神隠しはこっちじゃ妖精に連れてかれたって言うんだっけ。キースさんは木こりで、森にいたはずなのに異世界にいたんだってね』

『爺ちゃんの婆ちゃんは、いつか帰ってくるって信じてたらしいけどね。それで結婚もしないで、爺ちゃんの爺ちゃんの友達に助けられながら自分でも働いて、爺ちゃんの父さんを育てたって。ああもう爺ちゃんとか婆ちゃんとかややこしい!』

『4世代も前だもの、しょうがないわよケイト』

食事しながら会話するサクラとケイト。

プロデューサーと脚本家の夫婦とジョージは二人の会話に口を挟まず食事を楽しんでいた。

さすがサンタモニカ、シーフードが美味しかったので。

違う。

そもそもサクラとケイト、稀人の関係者同士が親交を深めるのがこの食事会の目的だったので。

『あれ? そういえば、キースさんはキース・シュミットでしょ? でもケイトはケイト・スミス。話を聞く限り直系だと思うんだけど……』

『ああ、サクラは知らないのね。ほら、大戦があったでしょ? その時にシュミットからスミスって改名したんだって!』

『サクラ、こっちでは有名な話だよ。もちろんそのままの人もいるけど、ドイツ系アメリカ人はけっこう変えたみたいだね』

『あ、そうなんだ。それにしても……シュミット、スミス。鍛冶師かあ』

『ぴったりだって言うんだろ? アタシもそう思うよ! しかもほら、アタシはピッツバーグに住んでるからね!』

ペンシルバニア州ピッツバーグ。

いまは別の産業にシフトしているが、かつては鉄鋼業の街として栄えた都市である。

この街を本拠地にしているアメフトのプロチームが『スティーラーズ』と名乗るほど。

見た目がゴツいドイツ系で、鉄の街に住んで名前の由来が鍛冶師。

たしかにぴったりかもしれない。安直とも……たまたまである。

『それにしても、爺ちゃんの爺ちゃんか……あ、手紙ありがとね! とりあえず爺ちゃんの婆ちゃんの墓には報告してきたから。せめて爺ちゃんが生きてればなあ……』

『その、ケイトのお父さんは?』

『うーん。父さんはさ、父さんの爺ちゃん夫婦に面倒見られることが多かったみたいで。そうするとキースさんの息子なわけよ。いきなり出てって母さんに迷惑をかけやがって! 孫よ、お前はそんな風になるなよ! って言われて育ってきたみたいでさ』

『……そっか』

『まあしょうがないと思うんだけどね。いちおう父さんにこの話はしたんだけど、信じる信じない以前にそんなヤツ知らん! って。いやまあアタシも知らないんだけどね!』

異世界に行った稀人・キースの嫁は、旦那が神隠しにあった、いつか帰ってくると信じて働いてきた。

キースの息子は、母と自分を捨てて出ていっただけ、と捉えていたようだ。

当然といえば当然なのかもしれない。

『爺ちゃんが婆ちゃんから聞かされた思い出話をいくつか聞いたことあるぐらいだなあ。だからアタシも、キースさんがどんな人なのかあんまりよく知らないんだ』

『そりゃそうよね、もう100年以上経ってるんだもの。私だってお祖父ちゃんのお祖父ちゃんがどんな人か知らないし』

『だろ? まあアタシとしては、爺ちゃんの婆ちゃんと、爺ちゃんの墓に報告してそれで終わりって感じ! それでも、爺ちゃんの爺ちゃんが家族を捨てたんじゃないって報告できただけでうれしいんだけどさ』

『もっと早くわかればよかったんだけど……』

『いやあ、五年やそこらじゃ変わらないって! その頃じゃ爺ちゃんも死んでたしね! ユージさんが向こうに行ったのはそれぐらい前なんでしょ?』

『あ、うん。今から五年前ぐらい』

『だったらそんな暗い顔するなって! しょうがないものはしょうがないんだから!』

『ふふ、ありがとケイト! 年下に励まされちゃった!』

『そうそう、その感じ! しっかし、異世界かあ……』

『ケイトも興味あるの?』

『そりゃね! だって魔法が使えるんだろ? アタシだってこう、映画みたいに!』

バッと手のひらを突き出すケイト。

イメージしているのは魔法少女的なアレではなく、ファンタジー映画の魔法使いだろう。

だが。

『うーん、魔法は使えない人もいるみたいだから、どうなんだろう。それより……』

『うん? どうしたサクラ? アタシに遠慮しなくていいぞ?』

『魔法使いより、名前の通り鍛冶師とか女戦士のほうが似合いそう!』

『はは、確かにな!』

魔法使いではなく、サクラは肉体派の職業をイメージしたようだ。

サクラの頭の中のケイトはビキニアーマーを着ていることだろう。

何気に失礼な女である。

まあセットでゴブリンやオークを想像しないだけマトモかもしれない。

『女戦士……ふむ、ビジュアルとしてはありか? だが安っぽくなるな……』

ブツブツと呟くプロデューサー。

職業病である。

『うーん、こっちではキースさんの足跡が残ってない、と。100年以上経ってるんだもの、しょうがないわね。検証番組と映画では触れずにいくか……それとももっと調べて……』

ブツブツと呟く脚本家の女性。

こちらも職業的には仕方がないことだろう。

そして。

『両手剣を振り回してゾンビの集団を斬り倒していく女戦士……いいね!』

サクラの夫・ジョージはちょっと手遅れのようだ。

こちらの世界にも異世界にもゾンビはいない。

ユージが異世界に行ってから6年目の春の終わり。

妹のサクラは、キースの子孫に連絡を取ることに成功した。

サクラが直接会う前に、すでに子孫のケイトはキースの嫁の墓参りを済ませていたようだ。

キースからの手紙を持ち、墓の前で読み上げて。

ユージ、過去の稀人のテッサとキースから託された依頼を達成したようだ。

クリア報酬はないが。

いや。

すでにもらっているエルフの善意が、きっとこの依頼の報酬だったのだろう。