軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第一話 ユージの妹サクラ、放送されたユージの検証番組の反響を聞く

『ジョージ、サクラさん、おじゃまするよ! あ、ベイビーくんもね! ってまだ言葉はわからないか!』

『ルイス、静かに! やっと寝たところなんだ』

『あら、そんなタイミングでごめんなさいね』

『気にしないでください。あ、みなさん中へどうぞ』

アメリカ、ロサンゼルスに住むジョージとサクラの家に現れた三人の来訪者。

ジョージの友達のルイス、そしてユージの映画を担当するプロデューサーと脚本家、初老の夫婦である。

何度かこの家に訪れてきた三人が、今日もまたソファに腰掛ける。

違いと言えば、プロデューサーが話しはじめる前からタブレットを取り出したことぐらいだろうか。

今日は最初から仕事モードのようだ。

『わざわざ来てくださってありがとうございます』

『ふふ、いいのよサクラさん。赤ちゃんを連れて移動するのは大変だもの。こんな状況だし』

『私たちにまでパパラッチがつくのはひさしぶりだな。それだけ注目されているということか』

『家に入る前に撮られたよ! これでボクも有名人だね!』

『ルイス、業界では有名人じゃないか……』

ユージの検証番組が放送されて以降、サクラのまわりは騒がしい。

時間が経てば落ち着くから、いまだけだから、などと言っているのはサクラぐらいである。

プロデューサーからは『いまのうちに慣れておくといい』と言われているのだが。

ユージ同様、いまいち実感できないようだ。

『今日はまず検証番組の第二回の報告を』

『ああ、あれは面白かった! わざわざ研究者を連れて日本まで飛んで各種の観測、それに日本や世界各国で見られる行方不明事件や神隠しの検証……興奮したよ!』

『ルイスくん……その、日本サイドはともかく神隠しのほうはけっこう 胡散(うさん) 臭かったと思うけど……』

『ごめんなさいねサクラさん。でも……みんなああいうのが好きなのよ。次回からはちゃんとマジメな番組になるから』

『あ、いえ、それはいいんです。私も面白かったですから』

『初回でセンセーションを、第二話でエンターテイメントを。話題作りには成功した。サクラさん、先日放送した二話目は、動画配信サービスで最も見られた番組となったよ』

手にしていたタブレットで番組の視聴数ランキングを提示するプロデューサー。

ユージの話の検証番組の第二話は、ランキング一位になっていた。

サムネイルにユージはいない。いたら一位にはならなかっただろう。見た目、ただの日本人なので。

『……え?』

『名だたるテレビドラマ、人気作を抜いて堂々の視聴数一位だよ! おめでとうサクラさん、ジョージ! ん? ユージさんにおめでとうって言うべきかな?』

『い、いちい……』

『すごいねサクラ! クライムサスペンスよりミュージカルより映画よりゾンビものより上だって!』

『いちい……お兄ちゃんのお話が……』

アメリカの動画配信サービスで視聴数一位。

全米が泣いた! である。

まあ泣いてはいない。

というかそもそも全米が泣くわけない。泣くのはアメリカ人であって国ではない。ただの比喩だ。

それにしてもジョージ、いかにアメリカといえどゾンビものは一位にならないだろう。相変わらずである。

『すごいのは視聴数だけではない。番組や映画のスポンサーになりたいという連絡もひっきりなしだ。研究にお金を出したいという申し出もね』

『そうなのよサクラさん。この人が動いてたこともあってね!』

『注目すべきは、企業ではなく個人からの申し出が多いことだ』

『え? 個人でお金を出す? なんででしょうか?』

『サクラさん! なんでって決まってるじゃないか! みんな異世界に行きたいんだよ! 行けるものならボクだって!』

『そういうことだサクラさん。行き来する方法を研究してほしい、という申し出がほとんどだ。ユージさんとサクラさんの望み通り、潤沢な資金を元に研究が始まるだろう。だがそれだけではないんだ』

『そっか、行き来したいっていう気持ちはわかりますけど……それだけではないって?』

『異世界に行けるならば、還ってこられなくてもかまわない、という出資者もいるの』

『え?』

『Forb○sに載るような大金持ちに多いのだが……ビジネスで成功してお金を持ち、趣味に生きている者たち。それから大金持ちでも大病を患っている者、私たちのように年を重ねた者が多い』

『……そっか、なるほど』

『わかったみたいね。この世界に飽きた人、治せない病気を持った人、あとは老人ね。知らない世界、それも剣と魔法のファンタジーですもの。知らない世界への興味もあるでしょうし、薬があるかもしれない。それに位階を上げれば長寿になるんでしょう?』

『お兄ちゃんはそう聞いたって。お金を持ってたら、出してもおかしくありませんね』

ユージがいる世界では、生き物を殺すと位階が上がる。

位階が上がると身体能力が上がり、人によってはユージのように魔法が使えるようになるかもしれず、少なくとも寿命が延びる。

希望する者がいて当然だろう。

ルイスは単にファンタジー世界への憧れだけなようだが。

『そうだ。そして……ユージさんとサクラさんの希望通り、まもなく研究者たちの学会が創設される』

『お金持ちたちが資金を出し合って、ね。研究内容はすべて公表されるわ』

『サクラさん、ちょっと調べたんだけどそうそうたるメンバーだよ! まあ怪しげな人たちもいるけどね! はあ、はやくヒントが見つからないかなあ』

『そっか、ついに。何かわかるといいなあ』

ユージの物語が有名になれば、異世界について情報を持つ人が出てくるかもしれない。

あるいは面白がって研究されて、行く方法・還る方法がわかるかもしれない。

そもそもユージとサクラはそれを望んで、映画化を受け入れたのだ。

独占契約料や出演料や取材費、協力費等のお金はもらっているが、それは二の次である。

ユージとサクラには両親の遺産があるので。

研究内容を秘匿せず、公表するというのもユージが出した条件だった。

それは、ここまで掲示板という集合知に助けられてきたユージならではの発想かもしれない。

『検証番組もそうだが、研究を公表することはプラスに働くだろう。サクラさん』

『あ、はい、なんですか』

『キース・シュミットの子孫が、サクラさんと私たちに会う気になってくれたよ』

『ホントですか!』

『ああ。私たちの番組と研究者たちの意見を聞いて、真実かもしれないと思ったようだ。キース・シュミットの孫の孫。まだ若い女性だそうだ』

「『孫の孫……』えっと、子、孫、 曾孫(ひまご) 、 玄孫(やしゃご) 、かな」

『サクラさん! いまのは呪文? どんな、ねえどんな効果があるの!?』

『落ち着けルイス。いまのは日本語だよ。ルイスも勉強してるんだろう?』

『いやあ、なかなか難しくてね!』

サクラが呟いた似た言葉と独特のリズムを聞いて暴走するルイス。

日本語を勉強しているようだが、ネイティブの独り言を理解できるレベルではない。というか日本人でも、玄孫という単語を知らない人もいるだろう。いわんや外国人をや。

『サクラさん、ではキースさんの子孫にアポイントメントを取っていいかい? それと、もしよかったら同席させてくれないか。検証番組や映画で使いたいとなったら別途話をしたくてね』

『えっと、同席ぐらいならいいですけど……その先は相手もいるので、ご夫婦が希望したらその時に相談するってことでもいいですか?』

『もちろんよ、サクラさん』

『あ、でもそうなると日本行きはキースさんの子孫に会ってからのほうがいいかな。あの、私とジョージとベイビーで、近々日本に行こうと思ってるんですけど』

『それは問題ない。なにしろ今やどこにいたって連絡は取れるからね……この世界なら。ではできるだけ早く会えるよう手配する。日本行きも日本での予定も決まったら連絡してほしい。引き続きこちらでボディガードを手配しよう』

『あ、やっぱり必要なんだ。ありがとうございます』

『日本! ジョージ、サクラさん、お邪魔じゃなければボクも一緒に行っていいかな? ぜんぶくっついていくわけじゃないから!』

『ルイスくん? それはかまわないけど……っていうか別行動ならいちいち私たちに聞かなくても』

『ルイス、ひょっとしてグンジさんから連絡があったのか?』

『そのとおりっ!』

グッと力を込めて肯定するルイス。

みんなまあるく、とは言わなかった。そもそもルイスは英語で話している。

『もうアパートを仮押さえしてもらったよ! あとは今度日本に行って契約するだけなんだ!』

『ルイスくん、本気だったんだ……』

サクラ、ちょっと引き気味である。

いかにネットが繋がっていればできるとはいえ、ルイスは名の知れたCGクリエイターなのだ。

異世界に行きたい、日本が気に入った、そんな理由であっさり日本に移住しようと決めたアメリカ人を、サクラは呆れた目で見つめていた。

まあいまの宇都宮にはそんな外国人が増えてきているのだが。

むしろネットが繋がれば仕事ができるだけルイスは恵まれている。

とはいえ、いまも映画は製作中。旅行はともかく、移住するのはまだ先になることだろう。

『じゃあサクラさん、キースさんの子孫にアポイントメントが取れたら連絡するわね』

『あ、はい、よろしくお願いします。場所はどこになりますか?』

『交通費をこちら持ちにしてロサンゼルスに来てもらうよ。なにしろこの街なら、警備がしっかりしたレストランはいくらでもあるからね。私たちの家でもいいんだが……』

『ちょっと緊張しちゃうだろうからね。この人の言うようにレストランの個室を取りましょう。せっかくだから美味しいものを食べたいわ!』

『ふむ、どこにするか。乳児も入れるお店で……ああサクラさん、心配しないでくれ。私たちも同席させてもらうんだ、費用はこちら持ちだよ』

パチリ、とウィンクするプロデューサー。

おごりで美味しい店、と聞いて小さくガッツポーズするサクラ。小市民である。

いや。

プロデューサーと脚本家夫婦の家は緊張するのも確かだが、普通の人はハリウッド関係者が言う『警備がしっかりしたレストランの個室』に緊張しないはずがない。

サクラ、すっかり小市民ではなくなっていたようだ。

これもユージのせいである。