作品タイトル不明
第三話 ユージの妹サクラ、打ち合わせやらで日本に旅立つ
『当機はロサンゼルス国際空港を離陸しまして、ただいま水平飛行に入っております。成田国際空港到着時刻は、現地時間で5月16日、午後3時の予定でございます。現地の天候は晴れ、気温は摂氏17度の見込みでございます』
『サクラ、ベイビーは大丈夫かい?』
『うんジョージ。耳抜き対策にミルクを飲ませたらぐずってたのも治まったわ。いまはぐっすりよ』
『そっか、よかった』
ユージの妹・サクラと夫のジョージ、ベイビーは機上の人となっていた。
ロサンゼルス発成田行きのユナイテッ○航空の飛行機の中である。
ちなみにサクラとジョージはふだん日系のエアラインを使っている。マイルもそれなりに貯まっているが、今回は違う航空会社にしたようだ。
『だいたい12時間か。やっぱり起きちゃうだろうなあ。大人しくしてくれてればいいんだけど』
腕の中でスヤスヤと眠るベイビーをそっと撫でて呟くサクラ。
そう。
だいたいの航空会社は、生後一週間ちょっとで乳児が飛行機に乗ることを認めている。
何才から運賃がかかるのか、機内用のベビーベッドの貸出は、チャイルドシートを持ち込んでもいいのか、などそれぞれに決まりはあるようだが。
『ふふ、大丈夫。ボクがまわりのみんなに挨拶しておいたからね!』
ベイビーの初めての飛行機、初めての里帰り。
張り切ったジョージは、離陸前に自分でデザインしたメッセージカードとお菓子を配り歩いていた。
ぐずったらごめんなさい、初めての里帰りでテンション上がってるんだ、うるさかったら両親に言ってね、と吹き出しを付けた写真入りメッセージカードを。
受け取った乗客がにこやかだったのは、乗客の気質も関係あるのかもしれない。残念なことに。
そのためのユナイ○ッド航空、アメリカ人が大半のエアラインである。
『ありがとねジョージ! それにしても……よかったのかなあ』
『サクラ、それを言い出したらアタシのほうがよかったのかなあ、だよ! 初めてペンシルベニア州を出るのに飛行機に乗って、今度は日本まで……』
『気にしちゃダメだよサクラさん! ボクだってこっちに乗るのは初めてなんだ! はあ、すごいなあビジネスクラス! なんでいままでエコノミーに乗ってたんだろ!』
今回、日本へ行くのはサクラとジョージ、ベイビーだけではない。
ジョージの友人・ルイス、稀人のキースの子孫・ケイトも一緒である。
『そうだよサクラ。それにほら、ご夫婦が言ってただろ? あとで話を聞かせてもらって、使えそうなら協力をお願いするからって』
飛行機を手配したのは、プロデューサーと脚本家の初老の夫婦。
日本までの往復チケットは二人の財布、ではなく映像化のための潤沢な資金から出ていた。
しかも合計5人、全員ビジネスクラスで。
そもそも日系エアラインではなくユナ○テッド航空を選んだのは初老の夫婦だ。
赤ちゃんがいるならこっちのほうがいいかもしれないわね、大人へのサービスは日系エアラインのほうがいいんだけど、と。悲しいことに。
『ほらほらサクラさん、みんなも! ユージさんのドキュメント番組も検証番組のシリーズもあるよ! はは、すごいや!』
座席備え付けのモニターを操作していたルイスがはしゃぐ。
機内で見られる映像の中にユージの番組が入っていたらしい。
『ほ、ほんとだ……お兄ちゃんがこんなところまで……』
『例の番組か。アタシ、一回しか見てないんだ! 着くまで見てようかな』
『ケイトさん! だったらコレよりオリジナルの掲示板と画像、動画のほうがおもしろいって! この番組はホントに異世界があるのか、異世界に行ったのかが中心で、ユージさんの物語は二の次だからね!』
『そうなのか? でもそれはまだ番組になってないんだろ?』
『大丈夫、サクラさんが訳したのをボクがまとめてあるから!』
がさごそと手荷物をあさってノートパソコンを取り出すルイス。
準備のいいことである。
まあ準備も何も、ルイスにとってはノートパソコンは日用品であり、家の外に出る時は必ず持ち運んでいるのだが。
『お、じゃあ見せてくれよ! 興味はあったんだけど、アタシはいまいちパソコンが苦手でね』
ユ○イテッド航空のビジネスクラスは、日系エアラインのビジネスクラスのように隣の座席の位置がズレているわけではない。
二席が隣接しているのだ。
組み分けは当然サクラとジョージ、ルイスとケイトとなる。
『ねえサクラ、あの二人さ』
『うん、なんか思ったより自然に話せてるね』
ヒソヒソとささやき声を交わすサクラとジョージ。
視線はノートパソコンを見ながら解説するルイス、ふむふむと覗き込むケイトに向いている。
『うふふふふ。ちょっと二人で行動させる時間を取っちゃおうか』
『そうだねサクラ。ルイス、おまえにもようやく……』
お見合いおばさんか。
ロサンゼルスから成田まで、およそ12時間の空の旅。
一組の夫婦と子供、一組の男女は、思い思いの時間を過ごすのだった。
□ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □
「んんー、つーいたー!!」
『はは、もう日本語かいサクラ』
『そうよジョージ! だってここは日本だもの! ジョージもルイスくんも日本語を勉強してたでしょ? 成果を見せてもらわなくちゃね!』
成田国際空港の第一ターミナル。
無事に空の旅を終えて入国審査をクリアし、預けていた荷物を受け取って税関を通り抜けたサクラたち。
到着ロビーにたどり着いて、サクラはグッと伸びをする。
国際線で『目的地に着いた』と感じるのは、飛行機を降りた時ではなく到着ロビーに出た時だろう。
まあ『入国審査』『税関』を考えると、実際その通りなのかもしれない。
『それにしても、ボクたちのベイビーは賢いなあ。天才かも!』
『ホントねジョージ! むずがったのは離陸と着陸、気圧が変わった時ぐらいだもの! はあ、賢すぎる……きっとウチの子は天才なのよ!』
親バカである。
だがこの程度はどこの家庭でも言われていることだろう。
夫婦間のやり取りなうちはまったく問題ない。……はずだ。
『ありがとうルイス! ユージさんの話、おもしろかったよ!』
『いやいやケイト、まだ王都から帰ってきたところだから! これからエルフの里の話と映像があって、そこでケイトの先祖・キースさんの話が出てくるんだよ? これからだって!』
『あ、そうか! じゃあまた今度アタシに聞かせてね!』
バッシバッシとルイスの背中を叩くケイト。
サクラやジョージ、ルイスと違ってその荷物は少ない。
少ないというか、背中に背負ったバックパック一つである。
ピッツバーグに住んでいたケイトは、プロデューサー夫婦とサクラに会うためにロサンゼルスに来た。
この女、サクラたちが日本に行くと聞いてそのままロサンゼルスに滞在したのだ。
滞在期間はわずか一週間だったが、日本に行って帰ってくるまではけっこうな日数がかかる。
どうやらさほどマジメな大学生ではないらしい。
まあタダ&通訳付きで海外に行く機会があったなら、喜んでついていく大学生は日本でも多いだろうが。
『さてっと。みんな来てるかなー』
持参したベビーカーにベイビーを乗せたサクラが顔を上げ、到着ロビーをキョロキョロと見渡す。
そして。
「おーい、サクラ!」
「サクラさん、お帰りなさい。こちらの男女が警備会社から派遣された者たちです」
「恵美! 郡司さん! お迎えありがとうございます! それからお二人、よろしくお願いします」
成田国際空港の第一ターミナル、到着ロビー。
大声でサクラを呼んだのは、学生時代からの友人である恵美。
その横にはいつもと変わらぬスーツ姿の郡司がいる。
郡司は挨拶もそこそこに、さっそくボディガードを紹介している。空気を読まない男である。
ちなみにボディガードの二人は、目立たぬように私服だった。郡司と違って。
「サクラさん、車を用意してあります。すぐ出発しますか?」
「んー、ちょっとレストランに寄ってもいいですか? 休憩したいのと、ひさしぶりの日本食を……」
「日本食! 日本食って言いましたサクラさん! ボクはわかった!」
「ルイス、落ち着いてください」
『なんだ、ルイスもジョージさんも日本語がわかるのか。アタシだけ、ああ、ベイビーもわからなかったね! 仲間仲間』
『ええーっと、初めまして。英語、ちょっとだけわかります。サクラさんほどじゃないけど』
恵美、郡司に続いてサクラに声をかけたのは、クールなニート。
ついでに交通費とおこづかいぐらいは出すから、と連れてこられたエルフスキーである。
仕事の時は本職の通訳を入れる予定だが、今日はコイツでいいかとなったらしい。
それにしてもジョージとルイス、勉強していたわりに怪しい日本語である。
「長旅でしたものね。ではレストランに向かいましょうか」
『ジョージ、ルイスくん、何か食べたいものある? ケイトは初めての日本でしょ?』
『スシ! アタシは日本でスシを食べたい!』
『ええー? ケイト、スシは店によって美味しい美味しくないがあるんだよ? サクラさん、ボクはラーメンがいい!』
『おいおいルイス、ベイビーがいるんだ、ラーメンは入りにくいだろう。時差のせいでおかしいけど、今は15時。ここはティータイムにすべきじゃないか?』
「『三時のオヤツね! そうね、ケイトが初めて食べる食事はもっとお店を考えたいし。ここはカフェにしようか』えっと、カフェってありましたっけ?」
「カフェ……どうだトニー?」
「そこで俺に振るのかよ! えっとパンフを見ると……スターバック○、タ○ーズ、ドトー○、カフェ○クリエ」
「なに言ってるのトニー! アメリカから来た人たちを○タバとか○リーズに連れてったってしょうがないでしょ!」
「なあ、アイドルタイムなんだし、和食レストランの甘味メニューを狙ったほうがよくない?」
「でかしたミート! それでどうだろう、サクラさん?」
「そうだね、そうしようか! それより、いま気づいたんだけど……みんな、けっこう来てくれてたんだね」
サクラ、笑顔が引きつっている。
恵美、郡司には気づき、その後話しかけられてクールなニートとエルフスキーに気がついた。
だが。
よく見れば、ちょっと距離を置いて話し込んでいる人も、近くのイスに座っていたグループも、カメラを肩に担いで取材風な男も。
コテハンだらけだったのだ。
おい話しかけてこいよ、いやいや知らない女の人がいるしムリだろ、ってかサクラさん以外は日本語わからねえんだし、などとざわざわしている。なにしに空港に来たのか。
「ではひとまず中央ビルに向かいましょうか」
「よしおまえら、出発するぞ! レストランでお茶するだけだから、行かないヤツはもうちょっと待ってるように!」
郡司、続けて名無しのトニーの声かけで男たちが動く。
というか、男たちが動かない。
どうやらお茶はスルーすることにしたらしい。なにしに空港に来たのか。
ともあれ、尻込みする大半のコテハンを他所に、アメリカ組の5人と郡司、恵美、数人のコテハンが和食レストランへ向かうのだった。
女戦士!、そうか! なんか見覚えあると思った、ドラゴンズクラ○ンか?、バカどう見ても3だろ、たしかにビキニアーマー似合いそう、などと盛り上がるコテハンを置いて。
だいたいサクラと同じ発想である。
ケイト、初めての日本は、受難の時になるかもしれない。
コスプレさせられないことを祈るばかりである。
おそらくビキニアーマーなので。