軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

巡回中

平日の昼間。

俺はセイラと共に街の巡回業務をこなしていた。

「ジークさん。今日はとても良いお天気ですね」

隣を歩くセイラが頭上を仰ぎながら呟いた。

抜けるような青空には、雲一つ浮かんでいない。王都に降り注ぐ日の光は、人々の心の膿を溶かすかのようだ。

「そうだな」

と俺は頷いた。

「おかげで何も起きない巡回中、眠くなる」

王都の中を歩きながら、異変がないか目を光らせる。

住民同士が揉め事を起こしているようなら間に入って仲裁したり、困っているようなら解決するために手を貸すこともある。

しかし――。

今日は何も起こらない、平穏そのものだった。

「平和なのは素晴らしいことですよ?」とセイラが言った。

確かにそうだ。

衛兵が眠気を催すというのは平和な証拠だ。

街中を歩いていると、住民たちがセイラに視線を向ける。

女性たちが彼女の容姿を見て黄色い声を上げていた。

「セイラさん。相変わらず抜群のスタイルね。それにあの胸……。いったい何を食べればあんなふうになるのかしら?」

「素敵よね。私もセイラさんみたいになりたい」

男性たちはセイラのことを鼻の下を伸ばしながら見つめている。

「お。セイラさんだ。眼福眼福……」

「優しい上に、おっぱいも大きい。最高だよなあ」

隣にいる俺ですら、視線が突き刺さっていることに気づくのだ。当然、セイラもそうだと思っていたが違っていた。

「?」

まるで気づいていなかった。

どれだけ自分の容姿に無頓着なんだ……。

「それにしても、スピノザとファムを組ませたのは心配だ。何しろ、うちの分隊きっての問題児二人だからな」

巡回業務は二人一組になって執り行う。

俺はセイラと組むことになり、スピノザはファムと組むことになった。

この分隊で真面目に業務をこなそうとするのは、俺とセイラの二人なので、それぞれが問題児を監督すれば良かったのだが……。

「私があのお二方と組むと、甘やかしてしまいますから」

そうなのだ。

セイラは甘い。甘すぎる。

以前、セイラがスピノザと巡回の際に組んだ時の話だ。

『巡回なんざ面倒臭い。酒が飲みたい』

と愚痴を吐いたスピノザに対して、

『たまには息抜きも必要かもしれませんね。……分かりました! 少しだけなら、お酒を飲んでも良いですよ』と許可した。

『おおっ! 話が分かるじゃねえか!』

喜び勇んだスピノザは、先ほどの気だるさはどこへやら。

酒場へ駆け込むと、店中の酒樽を空にするほど呑んだ。

兵舎に帰ってきた時、スピノザはセイラの背中でベロベロに酔っ払っていた。ボルトン団長にはこってりと絞られた。……分隊長の俺が。

セイラがファムと組んだ時も同じだった。

『――セイラ。僕にはやるべきことがあるんだ。片時も目を離せない。だから、ここは君に任せてもいいかな?』

と打診されれば、普通、理由くらいは訊くものだ。

仕事中なのだから。

それに優先する事項かどうかは確認する。

しかし――。

『ファムさんがそう仰るなら、よほど外せない事情なんですね……。分かりました! 私に構わずそちらを優先してください!』

とあっさり許可してしまった。

ちなみにファムのやるべきことと言うのは、俺へのストーキングだった。

巡回をサボるほどの理由では全くなかった。

セイラは人の言うことをすぐに鵜呑みにしてしまう上、相手の要望を、自分が損をすることが分かっていても聞き入れようとする。

セイラと組んだ者は皆、怠惰の限りを尽くしてしまう。

なので、スピノザとファムを彼女に宛がうことはできなかった。サボりの温床になるのが見えているからだ。

……セイラはダメ人間製造機になりそうだな。

将来、悪い男の食い物にされてしまわないか心配だ。

『この人は、私がいないとダメですから……!』とか言ってヒモ男を飼いそう。

セイラは母性と慈愛に溢れているからな……。

「ジークさんは普段、とてもお優しいですけど、叱る時はビシッと叱りますよね。いつも見ていて凄いなあと思います」

「絞めるところは絞めないと、舐められるからな。……特にスピノザのような者は。飴と鞭の配分を見極めなければ」

「私もちゃんと、人を叱れるようになりたいです」

「なら、練習してみるか?」

「練習ですか?」

「ああ。俺がサボってる衛兵だと思って、注意してみればいい。いきなり本番で叱るのも難しいだろうしな」

「わ、分かりました。やってみます」

セイラは顔を強ばらせながら頷いた。肩を上下に動かし、気をほぐす。頬をぺちんと軽く叩いてから、予行練習に入った。

「ジークさん。そこで何をしているんですか? 私はさっき、街の巡回業務に行くようにと命じたはずですよね?」

「固いこと言うなよ。たまにはこうして骨抜きしないと持たないって」

「そ、そうですよね――じゃなくて! ダメじゃないですか! 街の人たちの生活を守るために仕事をしないと!」

セイラはむむむ、と怒った顔を作ると――。

「ジークさん! めっ! ですよ?」

俺の顔をずびしと指さして言った。

――えっ?

「どうでしょう? 上手く出来ていましたか? ビクッとして、次からはちゃんと仕事をしようと思いました?」

「いや……むしろ逆効果かもしれない」

「ええっ!?」

セイラの怒り方の根底には慈愛が透けて見えるから、怒られた瞬間、もっと怒られたいと思ってしまった。

これは中々、道のりは険しいかもしれない。