軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

護衛

翌日。

俺たちは盗賊団の頭目を刑場まで連行するため、王都の地下牢へとやってきた。

俗世から隔離されたその場所は、壁に掛かった松明以外に光の差さない暗闇。

濃密な瘴気が立ちこめている。

常人が迂闊に足を踏み入れようものなら、心が蝕まれてしまいそうだ。

ボルトン団長の後に続く形で石畳の通路を進む。

一番奥の牢へと辿り付いた。

そこはより一層、瘴気が強かった。

暗闇の中、大柄の男があぐらを掻いて横柄に座っていた。

「ガゼル。連行の時間だ」とボルトン団長が言った。

男はゆっくりと顔を上げた。

恰幅のいいその男は、ギラついた目でこちらを見据えてきた。地下牢に入ってなお、目はまるで死んでいない。

「……おお。もうそんな時間か」

盗賊団の頭目――ガゼルはそう呟くと、重たげに腰を上げた。

自らの足で牢を出る。

太い首筋をポリポリと掻いている。

くああ、と大きなあくびを漏らした。

「随分と余裕だな」と俺は言った。「これから処刑なのに」

「ビビるとでも思ったか?」

ガゼルは口角を持ち上げた。

「死にたくないと泣き叫んだり、縋りつくように命乞いをすると? まあ、本当に死ぬのであればそれもあり得たかもな」

「……自分は死なないとでも言いたいのか?」

「俺には可愛い手下たちがいるからな。奴らが必ず助けに来る。――むしろ、今日死ぬのは俺じゃなくお前らだ」

ガゼルは諭すような口調になる。

「悪いことは言わねえ。今すぐ、俺を解放しろ。そうすれば見逃してやる。薄給の仕事のために死ぬのは馬鹿らしいと思わないか?」

「確かにな」

と俺は言った。

「だが、お前を見逃せば、罪のない人々が苦しむことになる。だから、おいそれと逃がしてやるわけにはいかない」

「そうかよ」

ガゼルは残念そうに呟いた。

「なら、精々、自己満足の正義感のために死んでいけや」

俺はその言葉を無視すると、他の者たちと共に奴を刑場へ連行する。

刑場は街の外れにあった。

普段は閑散としている場所だが、今日は盗賊団の頭目の処刑を喧伝していたからか、街の住民たちが大勢集まっていた。

盗賊団の悪評は散々、広まっていた。

連中に対する怒りを募らせた人々が、処刑を見届けようと駆けつけたのだろう。その場には黒く煮えたぎる憎悪が渦巻いていた。

「この鬼畜外道め! 死んで償え!」

「お前のせいでどれだけの人が苦しんだと思ってるんだ!」

その罵倒を耳にしたガゼルは、民衆に向かって叫ぶ。

「ごちゃごちゃ抜かすな! 外からヤジしか飛ばせないカス共が! 言っとくがなあ、俺は一つも後悔してねえからな!」

目をつり上げ、口元を挑発的に歪めた。

「お前らみたいな養分がいるからこそ、俺たちは楽しく暮らせるんだ! これからも奴隷のように弄んでやるよ!」

はっはっは、と高らかに嗤うガゼルを、ボルトン団長は処刑台へ連れて行く。俺たちはその周りを警護していた。

――残党たちは必ず、このタイミングで仕掛けてくるはずだ。

そして、ガゼルが処刑台へと続く階段に足を掛けた時だった。

「今だ! お頭を助けろ!」

見物客たちの間から、飛び出してくる影があった。

一見すると単なる街の住民。

しかし、その動きは俊敏で、洗練されていた。

日の光が彼らの手に握られた短剣を照らし出す。

――やっぱり来たか!

街の住民たちは突然の襲撃に慌てふためき、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

その中でこちらに向かってくるのは……。

いずれも盗賊団の残党たちだ。

「ほらな? 言っただろ? 可愛い手下共が助けに来るってよ」

とガゼルは嗤った。

「お前らはもう、おしまいだよ」

一直線にガゼルの元へと向かおうとする盗賊。

俺はその前に立ち塞がった。

「邪魔する奴は誰であろうと、皆殺しだあ!」

躊躇なく突き出されたナイフを、俺はパリィで弾いた。

「うぉっ……!?」

重心を崩した盗賊の胴体を抜き放った剣で切り裂いた。

「ぐああああ!」

一人を片づけても、まだかなりの数がいる。

十人近くいるだろうか?

佇まいを見るだけで分かる。

全員、それなりの手練れのようだ。

だが、俺たちにとっては大したことではない。

盗賊団の男が首を鳴らしながら、挑発的に言った。

「……たった一人倒したくらいでいい気になるなよ? ガゼル盗賊団全員を敵に回したらどうなるか思い知らせてやる」

「なるほど。それは良いことを聞いた」

と俺は言った。

「――ここにいる者で盗賊団は全員か。なら、お前たちを片づければ、今日限りでガゼル盗賊団は壊滅というわけだ」

「ほざけ!」

頭に血が上った盗賊の男が襲いかかってくる。

だが、俺に斬りかかる前に、横から飛んできた大槌に脳天を撃たれた。水切り石のように石畳の上を弾き飛ばされる。

「はっはー! ナイスショットだ!」

スピノザが大槌を肩に担ぎながら、にやりと笑う。

「あたしらのことも忘れて貰っちゃ困るぜ。……それで? 次はどいつがあたしの大槌に脳天をかち割られるんだ?」

「ふざけやがって! 生意気な口を利けなくしてやるよ!」

盗賊団の中に、切り込む一陣の風。

次の瞬間、バッタバッタとドミノ倒しのように連中が地に伏せる。

剣を振るっていたのは――セイラだった。

「私も皆さんに遅れを取ってはいられません!」

「クソが! ふざけた格好をしやがって! この痴女女! 一斉に掛かれ! まずあいつから切り刻んでやるんだ!」

セイラに襲いかかろうとする盗賊団。

ヒュヒュン!

その眉間を、次から次に矢が貫いた。

「……ウフフ。隙だらけだよ」

離れた場所にある家屋の屋根の上から、ファムが顔を覗かせる。放った矢は正確無比に盗賊たちの息の根を止めた。

もはや戦いというよりは、蹂躙に近かった。

あっという間に盗賊団は殲滅された。

刑場の周りに立っているのは――俺たち衛兵のみとなる。その光景を、処刑台のガゼルは青ざめた表情で見下ろしていた。

俺は処刑台に続く階段を上ると、ガゼルの前へと立った。

「ご自慢の可愛い手下たちは、もういなくなったな」

「あ……あぁっ……」

奴は膝から崩れ落ちると、俺の脚に縋り付いてくる。

「ま、待ってくれ。殺さないでくれ!!」

ようやく死を間近に感じられたのだろう。

ガゼルは必死の形相で、俺に対して命乞いをしてきた。

「お前は今まで、殺してきた人たちの命乞いを聞いてきたのか? 奴隷として売られた人に救いの手を差し伸べたのか?」

そんなはずはない。

「他人の命乞いには耳を貸さなかったのに、自分だけは助けて貰おうとなんてのは、虫が良すぎるんじゃないか?」

俺は言った。

「今日死ぬのは、俺たちじゃなく、お前だったな」

「あああああっ! ああああああああああ!?」

ガゼルは処刑台に首を固定されると、逃れようとジタバタと暴れ回っていた。手足だけが激しく動き回る様は、滑稽でしかなかった。

「止めてくれ! 止めてくれ! 嫌だ! 死にたくないい! 殺さないでくれ! うわああああああああああああああ!?」

「見苦しいな。死ぬ覚悟をしていなかったから、こうなる」

俺はガゼルを見下ろしながら、冷たく言葉を吐き捨てた。

「死にたくないと泣き叫び、縋り付きながら命乞いをして死んでいく――悪党のお前にはこれ以上ない最期だ」

そして頭目は処刑され、手下たちは全員お縄についた。

盗賊団は壊滅した。

王都の人々もこれで安心して暮らせることだろう。