軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

騎士の横暴

街の巡回の途中、広場に差し掛かった。

そこは正門を通り抜けると、すぐのところに位置している。

中央に噴水があり、辺りに石畳が敷かれている。

主婦たちが井戸端会議に興じていたり、子供たちが走り回って遊んでいたり、街の住民にとっての憩いの場所となっていた。

長閑な光景だ。

俺たちが一休み入れるために立ち止まって伸びをしていると、向かいの道から見慣れた顔の二人が歩いてくるのが見えた。

「驚いたな」

と俺は言った。

「大して広い街じゃねえんだ。巡回してりゃ、鉢合わせになることもあるだろ。現に他の衛兵の連中とも会ったしな」

腕組みしながらスピノザが返してきた。

傍にはファムが控えている。

「いや、そうじゃなくて。スピノザが真面目に巡回してることがだよ。てっきり、酒場にでも入り浸ってるのかと」

「バカ言うな。仕事中だぜ? んなことするかよ」

「前はしてただろ」

しっかり飲んだくれて、酔っ払っていた。

「良く言うよ。君は今日も酒場に行こうとしていただろう。ツケ払いが膨らみすぎて出禁になったから止めただけで」

「あっ! ファム! てめえ、チクりやがったな!?」

「僕は部下として、ジークに状況を報告しただけだよ」

とファムが言った。

「ちなみに彼女は巡回もサボろうとしていたよ。僕は止めようとしたんだけどね。カジノに入り浸って一文無しさ」

「洗いざらい全部ぶちまけてんじゃねえ!」

スピノザはファムに掴みかかろうとする。

しかし、ファムは身体を捻ってひょいと躱すと、俺の背中へと隠れた。そこから顔だけをスピノザに向かって覗かせた。

「ウフフ。君の攻撃は当たらないよ」

「これだから陰気な奴は嫌いなんだ。こそこそしやがって。気に入らないなら、ちゃんと正面からぶつかってきやがれ」

スピノザはそう言うと、俺を見据えた。

「……ジーク。そいつをこっちに引き渡しやがれ。今回ばかりは我慢ならねえ。生意気なあいつに教え込まないとな」

「何をだ」

「どっちが上かってことをだよ」

「君のような粗暴な人間と正面からやり合うつもりはないよ。知ってるかい? 争いは同じレベルの者同士でしか起こらない」

「こ、こいつ……!」

「おい。仲間同士で止めないか」

俺は慌てて二人の間に仲裁に入った。

このままだと戦闘が始まってしまいそうな雰囲気だ。街を守るはずの衛兵が街に波乱を引き起こしてどうするんだよ。

「あの二人、相性が悪いみたいですね」とセイラが言った。

「どうもそうらしいな」

明るく豪快なスピノザに、暗くて繊細なファム。

まるで正反対な二人は、磁力であれば引き合うのかもしれないが、人間関係においては反発しあうことの方がずっと多い。

水と油の関係だった。

「同じ分隊の仲間ですし、仲良くして欲しいのですが……」

全く同意見だ。

しかし、こればかりはどうしようもない。

その時だった。

「騎士団の連中が帰ってきたぞ!」

と街の住民が叫ぶ声がした。

「「……!」」

広場にいた連中の目が門に続く道へと向いた。

門の方から白銀の鎧に身を包んだ集団が歩いてくる。馬車も引き連れていた。住民たちは彼らの通るルートの左右に列をなした。

そして、その場に跪いた。

騎士団の連中は魔物を討伐するための遠征に出ていた。彼らが帰った時は、街の者たちはこうして出迎えることになっていた。

俺たちも騎士団の連中の行路を邪魔しないよう、脇に捌けた。

騎士団の連中は我が物顔で石畳の道を闊歩していた。自信が服を着ているようだ。全員の顎が平行よりも上向いていた。

「相変わらず、随分と偉そうだな。気にくわねえ」

とスピノザが小さく吐き捨てた。

「その点に関しては同感だ。権力を笠に着た者ほど醜い者はない。これだけ離れていてもむせ返ってしまいそうだ」

ファムの声色には、嫌悪の色が滲んでいた。

「あっ……」

路地でボール遊びをしていた子供たち。

片方が投げたボールを、もう片方が受け損ね、それは左右に並んだ人垣を超え、騎士団の行路のど真ん中に転がっていった。

「ご、ごめんなさーい」

と言いながら少年がボールを拾いに道に入ってきた。すると、先頭を歩いていた騎士の一人が目の色を変えた。

次の瞬間――。

騎士の右足が、少年の鳩尾を蹴り上げていた。

「うああああ!?」

ドボォ、と痛ましい音が響いた。

少年は呻き声を上げながら、その場に蹲る。

「――っ!?」

隣にいたセイラが息を呑むのが伝わってきた。

街の住民たちも同じだった。

その場の空気が一瞬にして凍り付いた。

「俺たちの行軍を邪魔するなんて、とんでもないガキだ! その舐め腐った性根をバカな親の代わりに叩き直してやる!」

騎士の男はそう言うと、蹲った少年を更に足蹴にした。

頭を抱え、涙を流しながらごめんなさいと何度も口にする少年をいたぶり、周りにいた他の騎士たちもニヤニヤするだけで止めようとしない。

「何て酷い……!」

とセイラは唖然とした表情を浮かべていた。

彼女が動くよりも早く――俺は動き出していた。

騎士が更に少年を蹴ろうとしたところ、軸足に足払いを掛けた。

「うおっ!?」

バランスを崩した騎士は尻もちをついた。睨み付けてくる。

「何だ? お前は?」

「それはこっちのセリフだ。その子が謝ってるのが聞こえないのか?」

俺が睨むと騎士の男は凄んできた。

「お前……衛兵だな? 自分が何をしてるのか分かってるのか?」

「ああ。俺は衛兵だからな。街を守るのが仕事だ。街の住民を脅かす、お前のような奴を見過ごすわけにはいかない」

俺が言うと、騎士が口元を嗜虐的に歪めた。

「随分と威勢のいい衛兵が入ったみたいだな」

そして、腰に差していた剣の柄に手を掛ける。

「衛兵風情が騎士に逆らうなんてのは、言語道断だ。立場ってもんを、バカなお前の身体に分からせてやるよ」

「剣を抜くのなら、相応の覚悟をした方がいい」

「切り捨てる!」

騎士が上段に剣を振りかぶった瞬間だった。

――遅いな。

俺は騎士の顔を掴むと、体重を乗せ、思い切り石畳に叩きつけた。

「がっ……!?」

勢いよく石畳と接吻を交わした騎士は白目を剥き、歯が粉々に砕け散った。うつ伏せに倒れると、ピクリとも動かなくなる。

俺は物言わぬ騎士に向かって、吐き捨てるように言った。

「随分と鍛錬を怠ってるんじゃないか? 隙だらけだ。――と言っても、もはやお前の耳には届いていないだろうがな」