軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

134 不審

紗雪の話題転換を拾ったのは春原だ。

「そうだな。今日の悠人はいつもよりクリティカルが出やすくなかったか? 剣も魔法も魔法剣も、全般的に威力が上がってるような……」

「ええ。いつもの悠人先輩のクリティカル率は10~20%程度ですが、今日は40%近かったです」

紗雪の冷静な指摘に、俺は冷や汗を流す。

俺の現在のジョブは、「ダンジョンマスター/魔剣士/簒奪者/弓使い/戦士」だ。

だが、これを他のみんなに見られれば、間違いなく何があったのかと問い詰められる。

だから俺は、簒奪者の技能で自分のステータスを元の高校生魔剣士のものに偽装してる。

しかし、当然ながら、ステータスを偽装しても、本来のステータスが変わるわけじゃない。

魔剣士以外のジョブを使わないようにはしてるが、魔剣士だけでもユニークボーナスの数が違いすぎる。

クリティカル率に関しては、元のユニークボーナスが「クリティカルの発生率がやや高い」にすぎないのに対し、「クリティカルの発生率がかなり高く、クリティカル発生時にまれに対象を即死させる」「クリティカルが連続で発生すると、与ダメージがかなり上昇する(この効果は累積する)」という破格の強化が入っている。

「やや」が程度表現一段階目、「かなり」が程度表現三段階目だから、これだけでもクリティカル率への補正が10~20%から30~60%と、期待値的には三倍になる。

その上即死だの連続クリティカル時の与ダメ増だのがつくのだから目も当てられない。

紗雪は途中から俺のクリティカル発生回数をカウントしてたみたいだな。

でも、そうでなかったとしても普段との違いに気づかれたにちがいない。

「かなり」で40%に届かないくらいなのだとしたら、程度表現の期待値からすると俺の調子は平均よりも若干悪いことになる。

それでも、「やや」で絶好調のときですら20%だったんだ。

20%と40%では体感レベルで差がわかる。

「……調子が良かったのかもな」

とつぶやく俺に、

「そうでしょうか? 私には今日の悠人さんはどこか迷いがあるように見えましたが……」

テレパスであるほのかちゃんに言われ、返す言葉に詰まる俺。

「だよな。俺も、ひょっとしたら悠人のユニークボーナスが成長でもしたのかと思って、ステータスを鑑定したんだ。でも、以前のステータスと変わりなしだ」

春原が俺のステータスを鑑定したことには気づいていた。

簒奪者の技能があるからな。

鑑定されたという居心地の悪さを表に出さないようにするのに苦労した。

三人から不審そうな目を向けられた俺は、

「……あれだ。生活環境が変わったからかもな……」

と、なんとかそれっぽい理由をひねり出す。

「なんだよ、悠人。両親がいなくなってホームシックか?」

「この場合は家にいるのでホームシックとは違うと思いますが。食事や睡眠時間等、生活が乱れているのではありませんか?」

「あー、かもなぁ」

実際には、食事や睡眠に問題はない。

スキル世界の俺には短期間だが会社の寮での生活経験もある。

……まあ、ブラック寄りの企業だったから寮での生活=規則正しい生活ってわけじゃなかったが。

問題があるとしたら、「セイバー・セイバー」の探索とはべつに、崩壊後奥多摩湖ダンジョンに日参してることだろう。

肉体的な疲労もさることながら、グリムリーパーの即死攻撃をさばくのは精神的にも疲弊する。

もちろん、いまだに突破口が見えないという焦りもある。

……やっぱり魔王や勇者を取るべきだったのか?

いや、【ダンジョントラベル】は役立ってる。

あれがなかったらこんなペースで崩壊後奥多摩湖ダンジョンに通えてない。

ダンジョンマスターを選んだのは間違いじゃなかったと思いたいが……。

焦りが弱気を招き、弱気が無意味な後悔を招いてる。

そのことはわかってるが、そうそう器用に気持ちを切り替えられるわけじゃない。

時間は刻々と経っていく。

元の世界がどうなったかが気になるのはもちろんだが、この世界の時の流れだって無視できない。

俺とはるかちゃんは付き合っている。

俺の両親は海外転勤で家を開けている。

これから夏休みが来る。

夏休みにはこのメンバーで旅行に行くことにもなりそうだ。

芹香の顔が、少しずつ遠くなっていく。

ハズレスキル(当時)を引いて 黄昏(たそが) れる俺を励まそうとしてくれた芹香。

初めてのデートで酔いつぶれ、告白まがいのことを口走った芹香。

ダンジョン崩壊を止めに行く前に、へたにかっこつけようとして失敗したような俺の告白に、真っ赤になってうなずいてくれた芹香。

そんな芹香がいるのは、この世界では俺の記憶の中だけだ。

代わりに隣りにいるのは、俺と一つ違いにまで歳の差がなくなった、公認彼女のほのかちゃん。

スキル世界では年齢差がブレーキになってたが、ジョブ世界ではそのブレーキがなくなった。

彼女になったほのかちゃんはかなり積極的だ。

本来はブレーキをかけそうな母親は、あのはるかさんだからな。

自分との関係に積極的になった「彼女」のアプローチを、ほのかちゃんを傷つけずにかわすのは難しい。

――この関係が進まず、壊れないうちに、元の世界に戻らないと……。

「悠人さん?」

「……ああ、いや。なんでもない」

むりに笑みを浮かべて首を振ると、その場の話題は夏の楽しい旅行へと移っていった。