軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

135 突破口

突破口が開けたのは、その翌週のことだった。

《ジョブ「ダンジョンマスター」のランクがAに上がりました!》

「……ふう、ようやくか」

そうつぶやく俺の前では、うねうねとした影の触手群――シェイドローパーが戦ってる。

といっても、俺の敵として戦ってるわけじゃない。

俺が召喚したシークレットモンスターであるシェイドローパーが戦ってるのだ。

シークレットフロアボスであるシェイドローパーは、スキル世界でなら「シークレットモンスター召喚」のスキルで召喚することができたはずだ。

だが、ジョブ世界では「シークレットモンスター召喚」に相当する能力は、簒奪者のカード化使役とダンジョンマスターのモンスター作成に分かれてる。

「シークレットモンスター召喚」のスキルであれば、倒したことのあるシークレットモンスターをいつでも召喚できる。

だが、簒奪者の技能は召喚ではなく、対象に【権能簒奪】を使うことでカードに変えるというシステムだ。

ダンジョンマスターのモンスター作成も、あくまでも自分の作ったダンジョン内で行うもので、どこでも自在にモンスターを召喚できるわけではない。

「シークレットモンスター召喚」では召喚したモンスターに名前をつけることでユニーク個体にして強化することができたが、簒奪者のカードにそうした機能はついてない。

この問題は、スキルからジョブへの変換が俺に不利に働いた例といえるだろう。

しかし、俺は試行錯誤の末に抜け道を見つけた。

ダンジョンマスターの説明文には、

Job──────────────────

直接の戦闘能力はほとんどありませんが、リソースの許す限りダンジョンにモンスターや罠を設置することができます。自分の管理しているダンジョン以外のダンジョンの中ではこの技能は著しい制約を受けます。

────────────────────

と書かれてる。

自分の管理するダンジョンにいてこそのダンジョンマスターということだ。

だが、この制約を逆に読めば、自分の管理してないダンジョンの中であっても、厳しい制限付きながら使えるということだ。

このことに気づいた俺は、崩壊後奥多摩湖ダンジョンの中でシェイドローパーを作成しようと試みた。

が、これは失敗。

Sランクダンジョンという絶対的なアウェーの中だからな。

Cランクの新米ダンジョンマスターが強力なモンスターを作ろうなんて無理がすぎるというものだ。

結局、俺が崩壊後奥多摩湖ダンジョンの中で作成できたモンスターは、スライムをはじめとする最弱の部類のモンスターだけ。

しかも、そのレベルも100を超えないという有様だ。

ダンジョンマスターのモンスター作成にはコストもかかる。

「スライムLv10」を作成するだけでもMPをごっそり削られる。

マナコインで金にあかせて量産するという手もあるが、レベルが100以下ではアークサハギン一体を相手にするのも不可能だ。

貴重なリソースを使って戦力の足しにもならないモンスターを作成してもしかたがない。

それくらいなら簒奪者の技能でカード化した堡備人海たちを召喚したほうがまだマシだ。

ただし、ユニーク化した個体である堡備人海たちがグリムリーパーの即死攻撃で死んだとき、再び召喚できる保証がない。

ピーキーすぎて使いにくいシークレットモンスターズではあるが、これまで一緒に戦ってきたやつらだからな。

愛着もあるから、ロストしかねない運用をするのは気が引けた。

その結論が出てからしばらくのあいだ、俺はダンジョンマスターのモンスター作成のことは頭の隅に押しやっていた。

だが、攻略が煮詰まり、「セイバー・セイバー」の夏休みが近づいてくると、俺の焦りはますます酷くなってきた。

俺は、これまでに見落とした要素がないかと、藁にもすがる思いで自分のステータスを何度となく読み返す。

……あのときのことを思い出すな。

俺が最初にダンジョンに潜ったときのことだ。

自分のステータスに絶望した俺だったが、芹香との会話の影響もあって、自分のスキルの持つ大きな可能性に気がついた。

Sランクである崩壊後奥多摩湖ダンジョンで、Cランクダンジョンマスターの俺にできることはない。

だが、他のダンジョンならどうか?

たとえば、Cランクである黒鳥の森水上公園ダンジョンでなら?

俺はさっそく水上公園ダンジョンでモンスター作成を試し――「シェイドローパーLv1」の作成に成功した。

なんだレベル1か、と思うかもしれないな。

しかし、この話には続きがある。

俺は「シェイドローパーLv1」に、ダンジョンマスターとしての技能で名前をつけた。

スキル「シークレットモンスター召喚」がそうであったように、ダンジョンで作成したモンスターには名前がつけられる仕様なのだ。

その直後、俺の 簒奪者としての(・・・・・・・) 感覚に新たな反応が生まれた。

その感覚に導かれるように宙に手を伸ばすと、名付けを終えた「シェイドローパーLv1」がカードになった。

ラメやホロのふんだんに使われた、シークレットモンスター仕様のカードである。

カードに刻まれた名前は「影夜叉」。

俺が付けたばかりの名前だ。

で、そのカードを使って影夜叉を召喚してみると――

「……まさか最良の可能性が当たりとはな」

回想を終える俺の前で戦ってるのは、シェイドローパー改め影夜叉だ。

【射影分身】で生み出した分身が、グリムリーパーを影の触手で絡め取っている。

その影夜叉を薄目で見つめると、

『 影夜叉(シェイドローパー) レベル10200 多頭蛇』

の文字が浮かぶ。

レベル10200。

これが何の数字かといえば、俺がシェイドローパーを撃破したときのシェイドローパーのレベルである。

スキル「シークレットモンスター召喚」の仕様では、「召喚されるモンスターのレベルは、召喚者のレベル、撃破時のモンスターのレベル、召喚できる他のモンスターのレベルの中から、最大値となるものが適用される」となっていた。

ダンジョンマスターのモンスター作成ではレベル1で作成するのがやっとだったシェイドローパーだが、簒奪者の【権能簒奪】で召喚すると、元となった「シークレットモンスター召喚」の仕様が適用されるということだ。

しかも、ダンジョンマスターではダンジョンとの格の違いのせいで作成不能だったシェイドローパーも、簒奪者のカード化召喚なら問題なく呼び出せる。

スキル世界のスキルとジョブ世界のアビリティの仕様の違いと、この世界でも珍しいはずの上級職の複数セット。

この二つがうまく噛み合った結果だろう。

だが、ここまでは他のシークレットモンスターでも同じことだ。

じゃあ、シェイドローパー改め影夜叉が、他のシークレットモンスターに比べて優れてるのはどこか?

もちろん、【射影分身】で分身を生み出せることだ。

本体は後ろに控えさせ、光で生み出した分身をグリムリーパーにぶつければ、即死攻撃を食らうのは分身だけ。

しかも、本体にはユニークボーナス「状態異常『即死』に常軌を逸した耐性がある」があり、このボーナスは分身にも適用される。

実際に戦わせてみると、即死攻撃が刺さる前にグリムリーパーを倒しきれることのほうがやや多い。

分身はほとんどノーコストで作れるわけだから、五分五分だとしても十分だ。

ちなみに、俺自身もフロアボス戦でシェイドローパーから【権能簒奪】した【射影分身】のカードを持ってはいる。

だが、俺が【射影分身】で生み出した分身は、「何も考えずにしがみつく」といったごく単純な動きしかできなかった。

群体であるローパー向けのスキルを無理やり使ってるわけだからな。

いざというときのデコイにくらいはなるだろうが、いわゆる分身の術のような運用は無理だろう。

ともあれ、影夜叉のおかげで道中のグリムリーパーはもはや脅威ではなくなった。

しかも、元をただせば、影夜叉はダンジョンマスターの技能で作ったモンスターだからな。

影夜叉を出して戦わせるだけでダンジョンマスターのランクが上がるのだ。

二層の最奥にたどり着くまでの道中で、ダンジョンマスターのランクは早くもAになっていた。

「……もう少し粘ってフロアボス前にランクSを狙うべきか?」

俺はボス部屋の前の安全地帯でつぶやいた。

だが、

「いや、それはないな」

ダンジョンマスターは戦闘向きのジョブじゃない。

ランクがSになっても戦闘力が劇的に上がるとは思えない。

「時間がかかるだけで意味がない、か」

敵地のダンジョンの中のダンジョンマスターは、いわば陸に上がった魚である。

Sランクになってできることが増えたとしても、自分の管理するダンジョン内限定では意味がない。

「稼ぎの効率も悪いしな」

道中の雑魚で粘るよりフロアボス戦でのランクアップを狙ったほうが熟練度稼ぎの効率もいいはずだ。

もちろん、死んでしまったら元も子もない。

だが、影夜叉の分身を盾にして戦えば、そう酷いことにはならないはずだ。

レベルアップを封じてる以上、二層で粘ったところで今以上に強くなるのも難しい。

「よし、行くか」

フロアボス前の安全地帯で休息を取った俺は、影夜叉の影に隠れながらボス部屋に入った。

第二層のフロアボスは、シークレットではない通常のフロアボスだった。

道中のベビーケルベロスを巨大化したような、ネザーケルベロスというモンスターだ。

でかいはでかい。

威圧感は相当だ。

だが、

「拍子抜けだな」

俺としては、グリムリーパーの親玉みたいなのが出てきて、際限なくグリムリーパーを召喚するみたいなデッドリーコンボのほうが怖かった。

ボス戦に関しては、俺の出る幕はまったくなかった。

影夜叉に命じ、分身でネザーケルベロスを翻弄すること数時間。

《ジョブ「ダンジョンマスター」のランクがSに上がりました!》

「よしっ!」

ガッツポーズを決める俺を尻目に、影夜叉の尖った触手がネザーケルベロスの最後の首を貫いた。