軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

133 夏の企画

喫茶店のボックス席では、俺の隣にほのかちゃんが座り、向かい側に紗雪と春原が座ってる。

高校生カップル二組かよ、爆発しろ、と思うかもしれないな。

でも、ほのかちゃんの俺への距離があきらかに近いのに対し、紗雪と春原のあいだには目に見えない境界がある。

歳上にしか興味がないと公言してはばからない春原は、おちゃらけながらも紗雪のパーソナルスペースを尊重しいる。

紗雪は密な関係が苦手だからな。

一見他人との距離を気にしなそうな春原だが、こういうきめ細かな配慮もできるのである。

同級生の女子の中には、表面的にはふざけあいながらも、実は春原のことが好きなんじゃね? というやつが何人かいるな。

「夏ですか。何か大型の探索をするということでしょうか?」

「ちっちっち! 甘いな、紗雪ちゃん! 夏といえば海! 夏といえば水着だろ!?」

「……最低です」

と、冷たい目を春原に向ける紗雪。

「ですが、それも悪くないかもしれませんね」

「えっ、水着が?」

思わず聞き返す俺に、

「ち、ちがいます。『セイバー・セイバー』で夏の旅行などできればな、と」

少し頬を染めて紗雪が言った。

「わっ、楽しそうだね!」

と、ほのかちゃんが即座に賛成。

「じゃ、決まりだな!」

「おい、俺の意見を聞いてないだろ」

「何言ってんだ、悠人。ほのかちゃんの水着姿が見たくねえのかよ!?」

「み、見たくないんですか? そりゃ、私じゃお母様のような見応えはないかもしれませんけど……」

「そ、そんなこと言ってないだろ!?」

すがるように言ってくるほのかちゃんに慌てる俺。

正直に言えば…… 行きたくない(・・・・・・) のだ。

もちろん、楽しくなさそうってわけじゃない。

絶対楽しい。

それはわかってる。

だが、だからこそ、ジョブ世界に残れるかどうか不明な俺が、踏み込んでいいのかわからない。

仲間たちとの高校二年の夏の思い出は、スキル世界の俺ではなく、ジョブ世界の俺が楽しむべきものなのだ。

俺は慌てて言い訳をひねり出す。

「……いや、彼女がいると複雑だと思ってな」

言ってみて、それがあながち嘘でもないことに驚いた。

スキル世界の俺にとって、ほのかちゃんは本来彼女じゃない。

だが、そのことに最初ほど違和感を覚えなくなってるのだ。

この世界に馴染んできてしまったのか?

それとも、まさか、ジョブ世界の俺がスキル世界の俺を侵食してるのか?

そもそも、スキル世界の俺とはべつにジョブ世界の俺がいたと考えるべきなのか、俺がこの世界に現れたときに二人の俺は統合されてしまったと見るべきなのか。

そんな基本的なこともわからないのが現状だ。

俺は「彼氏」としての感覚で、ごく自然に、ほのかちゃんがいつもよりちょっと大胆な水着を着てビーチに立った姿を連想した。

きっとものすごくかわいいだろう。

かわいくないわけがない。

だが、そのかわいさは全周囲に放射されてるわけで……。

当然、海にいる男という男の視線を釘付けにするにちがいない。

その視線の中にはよからぬものも多分に含まれてるはずだ。

たとえからまれても俺が撃退すればいいことだし、なんならほのかちゃん自身で大抵の危険は切り抜けられる。

でも、彼氏としてはそういう問題じゃないんだよな。

「ほのかちゃんの水着を他の男に見られると思うとちょっとな……」

自分の彼女の水着姿を他の男に見られたくない……というのは独占欲がすぎるんだろうか。

「ゆ、悠人さんっ……」

目をハートにして、ほのかちゃんが俺の腕に身を寄せてくる。

「悠人っ、おまえは今全世界のモテない男を敵に回したぞ!」

「春原もべつにモテないわけじゃないだろ」

無駄な歳上属性さえなければとっくに彼女の一人もできてるだろうに。

そういえば、以前は「歳上属性持ちの親友なんてまるでギャルゲだな」と思ったものだが、最近は春原がそういうやつであることにあまり違和感を覚えなくなった。

こいつはこいつでいろいろあって、自分の弱い部分をも受け止めてくれる女性を求めてる。

実際、やんちゃな春原に母性を刺激されるタイプの歳上の女性だっているかもしれない。

春原はほのかちゃんに身を乗り出し、

「そ、そうだ、ほのかちゃん! はるかさんを誘ってくれたりは……?」

「えー、春原さんをお義父さんと呼ぶのはちょっと……」

「なんでだよおおおおっ!!」

と春原が吠えてターンエンド。

「その、冗談はともかく……せっかく悠人さんとの旅行なのに、お母様を呼ぶのは控えたいかな、と」

「それはそうよね」

と紗雪。

「彼氏といちゃついてるところを母親に見られるのはほのかでも嫌か」

「いえ、いちゃついてるところを見られるのはこの際かまわないのですが……」

「か、構わないのね」

「でも、水着姿でお母様の隣に立つのはちょっと……いえ、絶対いやです! 悠人さんをお母様に寝取られてしまいます!」

「寝取られねえよ!」

とつっこむ俺。

「まあ、水着姿のはるかさんの隣に立ちたくないっていうのは同意かな……。私なんか、ほのかちゃんの横に立つのも気が引けるんだけど、ね」

紗雪の言葉の後半はほのかちゃんに聴こえないような小声だった。

自己評価低めの紗雪だが、実は男子からは隠れた人気があるんだよな。

ほのかちゃんみたいな圧倒的な美少女ではないものの、クラスでは普通にかわいいほうだ。

大人しそうな文学少女、というところにも、心惹かれる男子が多いらしい。

実際には、紗雪が大人しそうに見えるのは表面だけで、内面には頑固なほどのはっきりとした芯があるのだが。

ちなみに紗雪は着痩せするタイプらしく、ローブのようなシンプルな装備を身につけるとその胸の大きさが……

「……悠人さん?」

ほのかちゃんが俺をじとりと睨んでくる。

俺の邪念を読んだんだろう。

テレパスであるほのかちゃんはとくに意識しなくても周囲の人の感情に敏感だ。

スキル世界でのほのかちゃんも山伏修行の結果「感応」というスキルを身に着けていた。

……未だに疑問に思うのは、山伏修行でスキルを取得できたことのほうなんだけどな。

あのときのほのかちゃんのスキルの取得方法は、ジョブ世界の熟練度システムにちょっと近いような感じもする。

「……ところで、悠人先輩。今日は調子がよさそうでしたね」

と、紗雪が助け舟を出してくれる。

胸をチラ見したことがバレなかったのか? ……と思いたいが、沙雪は紗雪で他人の感情に(普通の意味で)敏感だ。

たぶん、気づかなかったことにしてくれたんだろう。

だが、その助け舟も、俺にとって別の意味で有り難くない話題だった。