軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第40話 モブ、後輩と話しただけで学園アイドルの目が「普通じゃなくなる」

「悠真、ペン貸して」

矢野が手を伸ばしてきた。

「お前またかよ」

「今日は忘れた」

「毎回言ってるだろそれ」

シャーペンを渡した。三限目の終わりのチャイムが鳴る。

矢野がノートを閉じて、シャーペンをそのまま胸ポケットに突っ込んだ。

「返せよ」

「次の時間も使う」

「だったら自分の買えよ」

「明日買う」

絶対買わないだろ、それ。

席を立った。

ちょっと廊下に出るか。座りっぱなしで腰が痛い。

教室のドアを開けて、廊下に出た。

窓の外の銀杏が、だいぶ黄色くなっている。十一月に入ってから、急に冷えてきた気がする。

ふと、廊下の向こうから歩いてくる姿が目に入った。

ショートボブ。小柄で、背筋がいい。

柊だ。

1年がいるなんて珍しい。なんか用事でもあったのか?

柊がこっちに気づいて、少し歩調を緩めた。

数歩手前で止まる。

「あ、先輩」

「おう」

「……あの、文化祭の時、ありがとうございました」

文化祭?

ああ、装飾班のときのことか?

「別に大したことしてないけど」

「いえ、片付けも全部やってもらって。……あの時、すごく助かりました」

「あれくらい普通だろ」

柊が一瞬黙った。

「……普通じゃないです」

柊がまっすぐこっちを見ていた。

「そうか? まあ、元気でやれよ」

「……はい。失礼します」

柊が小さく頭を下げて、廊下の向こうに歩いていった。

まじめなやつだな。

わざわざお礼って。まあ、何かの用事のついでだろ。

廊下の向こうから、ぱたぱたと早い足音が近づいてくる。

教室に戻ろうとした、その時だった。

「悠真くん!」

すぐ横から声がした。

橘だった。なぜかちょっと息が上がっている。

「お昼、屋上でいい?」

「いつもそうだろ。……走ってきたのかお前」

「走ってないし! ちょっと早歩きしただけ!」

「同じだろ」

「全然違うから! じゃあねー!」

橘が早口で言って手を振ると、D組の方に戻っていった。

……なんなんだあいつ。

まあ、いつものことだろ。

教室に戻って席に着いた。

矢野が俺のシャーペンで何か書いている。

「返せって」

「次の時間終わったら返す」

絶対返さないだろ、こいつ。

昼休み。屋上。

おにぎりを受け取って、ラップを剥がした。

「今日は梅!」

「おう」

酸っぱいけど、うまい。

代わりにタッパーを渡した。

「何これ?」

「ひじき」

「わ、ひじきだー!」

橘が蓋を開けて顔を近づけた。

「おいしそう! 私ひじき好き!」

「何でも好きだろ」

「何でもじゃないよ! ピーマンは嫌い!」

「子供か」

「子供じゃない! 大人でもピーマン嫌いな人いるもん!」

真剣な顔で言わんでも。

呆れつつ自分の弁当に戻ろうとすると、隣でカサッと袋の鳴る音がした。

見ると、宮田がごく自然な動作で矢野のポテチに手を伸ばしている。

矢野が無言で袋をずらす。

宮田が無言でもう一回手を伸ばす。

矢野がため息をついて、諦めたように袋を傾けた。

「一枚な」

「わかってる」

宮田が二枚つまんだ。

「……お前な」

「小さいのは一枚に数えない」

「数えるわ」

こいつら飽きずに毎回やってんな。

矢野もいい加減あきらめればいいのに。

ふと見ると、橘が弁当箱を見つめたまま箸を止めていた。

何をぼーっとしてるんだ。

「ねえ、持久走っていつからだっけ」

顔を上げて、唐突に聞いてきた。

「来週」

「やだなー。ほんと嫌い」

「先週も同じこと言ってたぞ」

「だって嫌いなんだもん。悠真くん一緒に走ってくれるって言ったじゃん」

「言ってない」

「先週言ったよ?」

「お前が勝手に決めたんだろ」

「矢野くんも折れるって言ってたし!」

矢野がポテチの手を止めた。

「予言であって同意じゃないって俺言ったよな」

「似たようなものだもん!」

似てない。全然似てない。

宮田がポテチをぱりっとかじりながら、ぼそっと言った。

「……なんか今日紗月怖いんだけど」

橘がピタリと動かなくなった。

ゆっくりと宮田の方を見る。

「……怖くないけど。普通だし」

「いや、目が普通じゃないんだけど。なんか焦ってるっていうか」

「普通だからっ! ね、矢野くんもそう思うよね?」

橘がちらっとこっちを見てから、矢野に振った。

矢野がポテチの袋を揺らす。

「俺に振るな」

「もう! 悠真くんは?」

今度はこっちか。

「普通に見えるけど。いつも通りうるさいし」

「うるさいは余計!」

宮田がこっちを見た。

「水野はそういうの気づかないから参考にならない」

「なんだよそれ」

「見たまんま」

宮田がまた手を伸ばして、ポテチをもう一枚つまんだ。

矢野が「おい三枚目だぞ」と言ったが宮田は聞いていない。

……怖い? 橘が?

普通に見えるけどな。

風が吹いた。十一月の屋上は、先月よりだいぶ冷える。

予鈴が鳴った。

「あ、もう終わり?」

橘が慌ててラップをたたんだ。

「悠真くん、ひじき完食したよ!」

「タッパー返せ」

「明日は何?」

「知らねえよ」

「じゃあ楽しみにしてる!」

橘が笑って、宮田と並んで屋上のドアに向かっていった。

矢野が立ち上がった。

「行くか」

「おう。あとシャーペン返せ」

「あとでな」

あの子、文化祭で悠真くんと作業してた子だ。

なんか、嬉しそうだった。すごく。

——別に、いいんだけどさ。