軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第38話 モブ、「前も顔赤くなってたくせに!」と見抜かれる

二時間目と三時間目の間の休み時間。

自販機に行こうと席を立った。

……昼、おにぎり何味だろ。

まあ、何でもいいか。

廊下に出た。

一階まで降りて、自販機コーナーに向かう。

渡り廊下の手前で、掲示板の前に人影が見えた。

小柄な背筋のいい姿勢。ショートボブ。

柊か。

掲示板に張り紙を押しつけて、画鋲を刺している。学級委員の仕事だろう。

自販機で麦茶のボタンを押した。がこん、と落ちてきた缶を取る。

教室に戻った。

屋上。いつもの四人。

おにぎりを受け取って、おかずを渡した。

今日は筑前煮。日曜に作り置きしたやつの残りだ。

「おいしい! れんこんだー!」

「ああ」

おにぎりのラップを剥がした。

宮田が矢野のポテチに手を伸ばしている。矢野が袋をずらす。いつもの風景だ。

それを見て、橘がさつまいもの甘煮を「おいしい」と言ったときの顔が、一瞬浮かんだ。

二人から目をそらした。

放課後。昇降口で橘と合流した。

「一緒に帰ろ!」

「……おう」

正門を出た。並んで歩く。

並木道の銀杏は、先週よりだいぶ黄色くなっていた。

橘がスマホを取り出した。

「ねえ見て見て! 文化祭の写真いっぱいあるの!」

画面をこっちに向けてくる。

一枚目。焼きそばを食べている俺と、ピースしてる橘。中庭のベンチだ。

「これ見て! 悠真くん口にソースついてる!」

「は?」

確かについてる。口の横に赤茶色の点。

「消せ」

「消さないもん! 面白いんだから!」

「面白くねえだろ。消せ」

「絶対消さない!」

「つーか焼きそば食いながらピースすんな」

「だっておいしかったんだもん!」

橘が嬉しそうにスマホをガードした。

「えへへ、あの焼きそばおいしかったよねー」

「ああ。矢野が焼いたやつな」

「矢野くんの焼きそば、意外とおいしかったよね」

「意外とって言ったら矢野が怒るぞ」

「あ、これも見て! メイド服のやつ! 玲奈が撮ってくれたの!」

橘が画面をスワイプした。

D組のメイド喫茶の中。黒いワンピースに白いエプロン。フリルのヘッドドレス。

お盆を持って笑っている橘が写っている。

一回見たからって慣れるもんじゃないな、これ。

「どう? かわいい?」

「知らん」

「えー! 『知らん』って何!」

「知らんもんは知らんだろ」

「嘘だ! 前も顔赤くなってたくせに!」

「なってない」

橘がスマホをまた指で滑らせた。

「あ、これ」

画面に映ったのは——グラウンドの遠景だった。

キャンプファイヤーの火が画面の奥で揺れている。

あの夜だ。

その中に、俺がいた。

火の光の中で、橘の隣で、笑ってる。

——俺、こんな顔してたのか。

……。

何かが浮きかけた。

浮きかけて、やめた。

「……誰が撮ったんだ」

「玲奈だよ。遠くから撮ってたんだって」

橘がスマホを引いた。

「悠真くん、どうしたの?」

「……別に」

「ほんとに?」

「別にって言ってるだろ」

橘が俺の顔を見ている。

「……ふーん」

それ以上は追ってこなかった。

橘はスマホをポケットにしまって、前を向いた。

しばらく無言で歩いた。

「あのさ、」

橘が口を開いた。

「明日もおにぎり持ってくね! 鮭がいい? 昆布?」

「どっちでもいい」

「えー、選んでよ!」

「鮭」

「やった! 鮭ね!」

いつもの帰り道だ。

いつもの角に着いた。

「じゃあね、悠真くん! 明日もおにぎり持ってくからね!」

「……ああ」

橘が手を振って、坂の方に歩いていった。

俺は反対側に歩き出した。

部屋に戻って、制服を脱いだ。スマホを充電器に刺す。

橘からLINEが来た。

『明日のおにぎり鮭ね!! 楽しみにしてて!!』

返信を打った。

『さんきゅ』

送信。

充電器のランプが点滅している。

……まあ、こんなもんだろ。

ベッドに寝転がって、玲奈にLINEを打った。

『悠真くんが最近ちょっと変』

でも、何が変なのかうまく続きが書けなくて、文字を消したり打ったりを繰り返す。

結局、『気のせいかも!』で送った。

玲奈からは『ふーん』ってスタンプ付きで返ってきた。

気のせいだと思う。たぶん。

——でも、あの「別に」。

いつものそっけない「別に」と、なんか違った気がする。

明日のおにぎり、鮭にしよう。悠真くんが選んでくれたし。