軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

64.【side第一部隊】前夜

「ついに明日、か」

自室から満月を見上げながら呟く。

「明日、お姉ちゃん達は九十二層に行くんだよね?」

可愛い部屋着を着たソフィアが問いかけてくる。

私の妹は本当に可愛いな。

見ているだけで癒される。

「あぁ、そうだ」

「緊張しているの?」

ソフィアに指摘されて、私は初めて自分の手が震えていることを自覚する。

「そんなわけないだろ。これは武者震いだ。一年越しのリベンジがようやくできるんだからな」

心の中の不安を押し込んで気丈に振舞う。

ソフィアの前で弱い姿を見せるわけにはいかない。

私は強い姉でいなければならないのだから。

じゃないと、ソフィアが不安になってしまう。

家から有無を言わせずにソフィアを連れ出した私には、ソフィアを守る義務がある。

「……怖いなら怖いって言っていいんだよ?」

「……え?」

そう言いながらソフィアが私を抱きしめてくる。

「行ってほしくない。だって、もしかしたらお姉ちゃんが明日死んじゃうかもしれないんだもん。ずっと傍に居て欲しい。それでも、お姉ちゃんは行くんでしょ? だったら私にできることはこれくらいしかできないけど、私の勇気を分けてあげる……! 最近ね? キャロルやログと仲良くなれた気がするんだ。今はパーティの指揮も私がやってて、少しだけど、勇気が湧いてきている気がするの。だから、ちっちゃいけど、私の勇気を分けてあげる! お姉ちゃんなら黒竜にも勝てるよ! 頑張って!」

ソフィアは、強くなったんだな。

ついこの前まで、人の顔色を伺ってばかりの引っ込み思案な子だったのに。

変わるきっかけはオルンがくれたのか?

泣き虫だったソフィアがここまで強くなっているんだ。

私がこんなところで怖がっているわけにはいかないな。

「ありがとう、ソフィア。ソフィアのおかげで、勇気が湧いてきた。私たちは――」

私は自室でボロボロになっている《夜天の銀兎》のジャケットを眺めている。

「アルバートさん、明日、九十二層に――黒竜に挑むよ」

アルバートさんが居なくなって私がパーティの最年長になった。

そこで改めてアルバートさんの偉大さがわかったよ。

私はちゃんとお姉ちゃんができているかな?

アルバートさんほど、私はみんなと歳が離れていないから、みんなのお姉ちゃんになろうって決めて、私なりに頑張ってきたつもりではあるけど、どうだろうね?

「……明日私たちはアルバートさんに追いつくよ。 前(・) の勇者パーティの一員だったアルバートさんに。そして 今(・) の勇者に追いついて、追い越して、私が――私たちが 次(・) の勇者になる! 明日はその第一歩。天国から見守ってくれると嬉しいな。私たちは――」

「綺麗な月だね~」

《夜天の銀兎》本部の屋上から、満月を見上げる。

「ふっふっふ~、《夜天の銀兎》の大きな戦いの前夜にふさわしいね!」

ボクは不安になるといつも月が見える場所に来る。

そう不安なんだ。

この一年間ボクたちは誰よりも努力を重ねてきた自負がある。

だけど、それでも届くのかわからない。

こんな弱気なところ、アルバさんに見られたら笑われちゃうね……。

もしかしたら天国で絶賛爆笑中かもしれない。

あれ? なんかそう考えたら、ムカムカしてきたぞ?

「……今度こそ誰も失わない。あんな思いはコリゴリだ。そのためにこの一年回復魔術の勉強をたっくさんして、オリジナル魔術だって作ったんだ。ボクがみんなの生き死にを握っている。もう誰も死なせない。ボクたちは――」

「ほら、メンテナンス終わったぞ」

「お、サンキュ、おやっさん」

空いたスペースで、 アランさん(おやっさん) に手入れしてもらった 双刃刀(相棒) を軽く振るう。

「相変わらずの完璧な仕事だな。手に馴染みすぎて逆に怖いぜ」

「そいつは良かった。……ウィル、お前は強くなった」

「……なんだよ、いきなり」

「お前は強くなった。探索者としての実力もそうだが、それ以上に心が、な。相変わらずチャラチャラしているが、俺の知っていたお前なら、今頃逃げ出していたはずだ。だけど、逃げないで闘っている。お前は、強くなっているよ」

「…………ははは、なんだよそれ。……オレが無様を晒して アルバートさん(尊敬する人) を殺したんだ。あそこで死ぬべきなのはオレだった。なのにオレが生き残ってしまった。だったらやるしかないだろ……! 怖かろうが、後ろ指を指されようが、オレがあの人の夢を引き継いで、大迷宮を攻略しないといけないんだ……! そのためにも――」

◇ ◇ ◇ ◇

「「「「明日、黒竜を倒して、九十三層の地を踏むんだ!!!!」」」」