軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

65.声援

九十一層を探索してから二日後。

今日はついに《夜天の銀兎》が九十二層の攻略に乗り出す日だ。

いつも通り、七時くらいに作戦室に来ると先客がいた。

「おはよう、オルン。いつもこんなに早く来ているのか?」

俺が作戦室に入っていたことを確認したウィルが挨拶してくる。

――いつもよりも硬い口調で。

顔も強張っていて、いつものチャラチャラした感じが全くしない。

「おはよう。ちゃんと寝れたか?」

「あー、微妙だな。浅い眠りを繰り返していた気がする。とはいえ、寝不足ってわけじゃないから問題ないぜ?」

……そりゃそうだよな。

四人とも今日の迷宮探索には普段以上の思い入れがあるはず。

下手な言葉は掛けられない。

「……ウィル、少し付き合ってくれないか?」

ウィルを連れてやってきたのは、室内訓練場だ。

使用許可は取ってないけど、壁に貼ってある予定表を確認したところ、十時まで使用されることはないみたいだし、使わせてもらおう。

「こんなところに連れてきて何をしようって言うんだ?」

俺は収納魔導具から木製の双刃刀を出現させてから、それをウィルに 抛(ほう) る

「おっととっ」

ウィルが戸惑いつつも双刃刀を受け取ったことを確認してから、木製の長剣を出現させる。

「あそこでダラダラと時間を潰すくらいなら、準備運動がてら俺と模擬戦をしないか?」

「…………ふ、それもいいかもな」

苦笑しながら提案を同意してくれたウィルが構える。

それから、木同士を打ち付ける音が何度も何度も訓練場内に響き渡った。

俺とウィルが戦い始めて一時間と少しが経った。

お互い息を切らせている。

「はぁ……はぁ……はぁ……。準備運動に、しては、ハード、だったな」

「ウィルが、本気で、やるからだ」

「ははは、オレは、まだ、四割程度、だったぞ」

「にしては、息が、上がりすぎてないか?」

「……ふぅ。……ありがとな。おかげでスッキリした」

息を整えたウィルが、御礼を言ってくる。

「……俺は準備運動のためにウィルを利用しただけだ。礼を言われることなんてしていない」

「ははっ、そうかよ。じゃあそういうことにしておく。それじゃ、シャワー浴びてから作戦室に戻ろうぜ。そろそろ他の奴らも来ている頃だろ」

ウィルから少し表情の硬さが取れた気がする。

もっといい方法を思いつければ良かったんだけどな。

何が『器用貧乏』だよ。

不器用すぎるだろ……。

訓練場に併設されているシャワールームで汗を流してから、作戦室へと移動した。

ちなみに模擬戦の時は別の服に着替えていたぞ?

これから迷宮探索なのに、迷宮探索用の服で模擬戦をするわけにはいかないからな。

作戦室に戻ってくると、既に他の三人が集まっていた。

「おはよう、二人とも。ウィルはともかく、オルン君がギリギリなんて珍しいね」

「男の友情を深めていたんだよ」

全員表情が硬いな。

いつも場の雰囲気を良くしてくれるルクレも、今日はあまりテンションが高そうではない。

何とかリラックスさせたいところだけど、いい案が思い浮かばない。

「さて、今日はついに九十二層へと 赴(おもむ) く。目的は当然、黒竜の討伐及び93層の到達だ。今日こそ九十三層の土を踏もう!」

「「「「おぉ!!!!」」」」

セルマさんは他の三人に比べれば表情が柔らかい気がする。

それでも普段よりは緊張しているように見えるけど。

迷宮探索が始まったら、みんな普段通りになってくれるといいな。

そして俺たちは作戦室を出て、大迷宮を目指して移動を開始する。

《夜天の銀兎》本部の敷地はかなり広い。

居住区画や探索部の部屋がある本館の他にも、いくつもの建物が立っている。

本館を出てから敷地を出るための門までは、少し歩くことになる。

門に到着すると、そこにはたくさんの団員が集まっていた。

「第一部隊、頑張ってくださいー!」

「今日こそ黒竜倒しちゃえ!」

「今のお前たちなら九十三層に行ける!」

団員のみんなが、第一部隊に声援を送ってくれる。

勇者パーティに居た頃、大迷宮に潜るときに民衆から声援を送られることがあった。

あの時もすごく力を貰っていたけど、なんか、今の方が込み上げてくるものがある。

クランに加入したばかりの俺でこれなんだ。

他の四人は 筆舌(ひつぜつ) に 尽(つ) くし 難(がた) いんじゃないだろうか。

「師匠! もう一度、黒竜を倒してきてください!」

「ししょー! 応援しているよー。がんばれー!」

「オルンさん! きっと無事に帰ってきてください!」

第十班の面々が駆け寄ってきて、声援を送ってくれた。

俺は堪らず三人の頭を撫でる。

「ありがとうな。 先に(・・) 九十三層に行ってくるよ」

「へへっ、僕たちもすぐに追いついて見せますから、待っていてくださいね!」

「あぁ、ちゃんと待ってる。お前たちなら俺に追いつけるよ」

「えへへ~。ししょーに頭撫でられるの好き~。明日も明後日もあたしの頭を撫でてもらうんだから、ちゃんと帰ってきてね? アルバさんみたいに帰ってこないなんてヤダよ?」

「当たり前だ。ちゃんと帰ってくるから、良い子で待っててくれよ?」

「あの、その、が、がんばって、ください」

「ありがとう。全力を尽くしてくるよ」

「レインお姉ちゃん、がんばってー!」

「レインさんは最強魔術士なんだから、負けないよ!」

「みんなを守ってあげてくださいー!」

「もぉ、こんなの聞いてないよ……」

レインさんが涙を流している。

この短い間にレインさんの色々な表情を見てきたけど、涙を見たのは初めてだ。

レインさんは俺たち全員のお姉さんであることに拘っていたし、無理して取り繕っていた部分もあるだろう。

俺は初めて本当のレインさんを見たのかもしれない。

「おらぁ! ウィルクス! そんな覇気の無い顔してんじゃねぇぞ! お前はこのクランで一番のディフェンダーだ! ディフェンダーがそんな顔してんじゃねぇ! 仲間が不安になるだろうが!」

「そうだそうだ! お前はいつものようなチャラチャラした感じが一番似合っているんだ! そんな誰かもわからん表情してんじゃねー!」

「ルクレが居るんだ! 全員無傷で帰ってくるに決まってる!」

「ルクレ大丈夫よ! アンタは強い! たっくさん努力をしてきたじゃない! もう負けないわ!」

「ははは、すっげぇ力になるな……」

ウィルが声を震わせながら呟く。

「ん、そだね。これはボクたちだけの戦いじゃないんだね」

ルクレがウィルの言葉に同意する。

「リーダー頑張ってください!」

「大陸最高の付与術士がこのまま九十二層でくすぶっているわけないよね!? 早く勇者パーティを追い越して、名実ともに一番になってきなさい! 今日はその第一歩よ!」

「お前ら……」

多くの声援を受けていると、俺たち第一部隊の前に総長が現れる。

「この一年で《夜天の銀兎》は大きく変わった。私を含め幹部メンバーは一新され、当時ほどの勢いもない。中には《夜天の銀兎》はもうだめだという声もあった。しかし、私はこの1年に意味があったと思っている。《夜天の銀兎》はまだまだ飛躍できるのだと、世間に知らしめてほしい! そして何よりも君たち自身の為に、今日は全力を尽くしてきてほしい。君たちが、無事に笑顔でここに帰ってきてくれることを、私を含めて団員全員が祈っている」

総長の言葉を聞いたセルマさんが、目を閉じながら空を見上げる。

暫くしてから目を見開きまっすぐ総長を見つめる。

「必ずや九十三層に到達してみせます。皆行くぞ!」

仲間の声援を背に受けながら、俺たちは門の外へと踏み出す。

いつの間にか四人の表情から硬さが無くなっていた。

味方の存在っていうのは偉大だな、と実感した。