軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

46.事前打ち合せ

持ってきた本を全て元の場所に戻してから、作戦室に戻ってきた。

「ね、ねぇ、オルンくん、ちょっと、いいかな?」

ルクレが歯切れ悪く話しかけてくる。

この子がこんな感じで話しかけてくるなんて、珍しいんじゃないか?

そんなに話しにくい内容なのか?

「どうした?」

「そ、その、ね? さっきの本を浮かせていた魔術を、教えてほしいなー、って……」

凄く恐縮しながら、さっきの魔術を教えてほしいと言ってきた。

オリジナル魔術を開発した者は、基本的にその魔術を公開しない。

術式が分かれば、誰でもそれが使えるようになる。

自分が必死になって作り上げた魔術を、他の人が簡単に使っていたら、やっぱり面白くないからな。

そのためオリジナルの魔術を世間に公開するときは、魔道具の中にその術式を封入して、同じ効果が使える魔導具として売り出すのが一般的だ。

魔導具にすることで、より複雑な術式にすることができる。

つまり、ダミーを大量に紛れさせることで、本来の術式をわからなくさせるのだ。

本当に魔術に精通している人なら理解できる人もいるけど、そんな人はまずいない。

俺自身、オリジナル魔術が開発できる程度には深く魔術を勉強しているけど、魔導具の術式を解析することはできない。

俺が知る限り、そんなことができる人は一人しかいない。

これらの理由があるから、ルクレは歯切れが悪いんだろう。

とはいえ、これは元々公開するつもりだった。

「うん、いいよ」

「やっぱりダメだよね~。――え!? いいの!?」

「うん、この魔術は他の魔術の開発中に偶然できたものだからね。それに、これは迷宮探索よりも、一般生活に役立つものだから、いずれ公開しようと思っていたんだ。忙しくて公開できていなかったんだけどね」

「ね、ねぇ。それなら、私も教えてもらってもいい?」

レインさんもこの魔術に興味があるようだ。

「勿論構わないよ」

術式を紙に書いてから二人に渡す。

その紙を見ながら魔術を発動する。

周囲にあった椅子やファイル、チョークなんかが宙を舞う。

(1回で成功させるなんて、流石だな。結構複雑な術式だったはずなのに)

「おぉ! すごーい! これ便利~」

「はよーっす。ん? ものが浮いてる。新しい魔術でも開発されたのか?」

ルクレがはしゃいでいると、ウィルが部屋に入ってくる。

そして、ものが浮いている光景を見て、新しい魔術であると、一瞬で看破した。

「ウィル、おはよう。良く魔術だってわかったね。お化けの仕業とは思わないの?」

レインさんがウィルに問いかける。

「は? お化け? 迷宮ならともかくここに居るわけがないだろ。もしかしてレイン、お化けの仕業だと思ったのか? ははは! そんなんだからお子ちゃまって言われるんだよ」

ウィルがレインさんをいじりながら笑っている。

――っ!?

すると、レインさんから寒気がするほどの殺気が放たれる。

レインさんは笑顔のまま、

「ウィル、ゴメンね。良く聞こえなかった。もういちど、いってくれる?」

ウィルが冷や汗をダラダラと流している。

「い、いや、何でもない。気にするな」

「そお?」

「あ、あぁ! 大したことは言ってないしな」

追及がないことに一安心した表情をするウィル。

「次言ったら泣かすから」

すると、レインさんから冷たい声が発せられる

「ハイ、ゴメンナサイ」

ウィルは謝りながら震えあがっている。

「レインさん怖ぇ……」

隣に座っていたルクレが、俺にしか聞こえないほど小さな声で呟いた。

それには激しく同意する。

九時になってセルマさんが部屋に入ってきた。

「おはよう」

「おはよう、セルマ。相変わらず時間ぴったりね」

レインさんはさっきまでの怖かった雰囲気が霧散され、普段のお姉さん 然(ぜん) としたものに戻っている。

「悪い。探索管理部に寄っていてな。――さて、今日の予定についてだが、探索管理部から『ノクシャスシープの羊毛が不足しているから集めてきてほしい』と依頼があった。だから今日は、八十六層にて連携の確認をしながら、ノクシャスシープを狩っていくことにする」

ノクシャスシープとは、全長二メートルにもなる大きな羊の魔獣だ。

その羊毛は非常に硬く、かつ伸縮性にも優れていて、防御力が高い。

更に口から赤黒い息を吐き、それを吸い込むと体が痺れ動けなくなる。

なかなかに厄介な魔獣だ。

魔獣としては厄介な相手だが、羊毛で守られているということは、その羊毛で作られた服などは、相応の防御力を誇ることになる。

そのため、ノクシャスシープの羊毛は需要が高い。

「ここまでで、質問のある者はいるか?」

「一つ聞いてもいい?」

俺が挙手をしてから、質問の許可を取る。

「構わないぞ。なんだ?」

「八十六層となると前衛はあまり活躍できない階層だけど、俺は後衛として参加すればいいの?」

「いや、オルンには前衛アタッカーとして参加してもらう。今後も基本的には前衛アタッカーとして立ち回ってくれ。他のロールの立ち回りが最適だと思ったら切り替えてもらって構わないが、原則は前衛アタッカーとして頼む」

ふむ、基本は前衛アタッカーだけど、結構自由にやっていい、ということか。

これはありがたい。

「それから、八十六層に行く理由は前述の通りだが、それに加えてあまり考えたくないが、オルンと私たちの連携がかみ合わない可能性もある。だが、我々後衛メンバーはお互いの癖を知り尽くしているから、その場合もフォローできる」

なるほど。

俺が機能しなかったとしても、後衛が活躍できる階層なら、切り抜けられる可能性は上がるか。

「納得した」

「他はないか? ……では基本的な連携の確認に移るぞ」

内容は予想通りのものだった。

まず、支援魔術について。

俺はセルマさんのバフを受けず、自分で自由にバフを掛けていいとのこと。

まぁ、【重ね掛け】のある俺は、自分でバフを掛けた方が効率的だからな。

セルマさんは他のメンバーのバフに集中する。

バフの管理をする人が1人減るだけでも、セルマさんの負担はかなり減らせるだろう。

続いて攻撃について。

基本的な 攻撃役(ダメージディーラー) は俺とレインさん。

ルクレは回復魔術の余力を常に残しながら、回復が必要ない時は攻撃に参加。

ウィルはヘイトコントロールに集中。ダメージは二の次。

セルマさんは各種バフをキープしながら、指揮をする。

それ以外にも 細々(こまごま) したことについて 擦(す) り 合(あ) わせをした。

「ざっとこんなものか。他に何か話しておきたいことはあるか? …………無いようだな。では、大迷宮へ行こうか!」

「「「おぉ!!!」」」

セルマさんの掛け声に三人が返答する。

教導探索でも度々やっていたな。これが《夜天の銀兎》のお決まりなのかもしれない。

次は参加したいなぁ……。

大迷宮へ行くために全員立ち上がって、作戦室を後にする。

大迷宮に近づくにつれて、探索者の人数が増えていく。

そして視線が俺に集まってくる。

「有名人だね~」

ルクレから茶々を入れられる。

多くの視線にさらされて、あまりいい気分ではない。

そして様々な声が聞こえる。

――あいつが《竜殺し》?

――《竜殺し》って今フリーって聞いたんだけど。

――でもあのコート《夜天の銀兎》のものだろ?

――ってことは《夜天の銀兎》に入ったのか!?

――これはもしかすると、《夜天の銀兎》の最前線復帰も近いかもしれないな!

――勇者パーティも、のんびりしてられないんじゃないか!?

聞こえてくる声を無視して、俺は集中力を高める。

俺は下層の序盤である六十二層で、剣士から付与術士にコンバートした。

それからはずっと、付与術士として大迷宮を探索してきた。

魔獣の動きや特徴は把握しているものの、剣士としては初めての下層終盤。

緊張しているが、楽しみな気持ちになっている部分も大きい。

俺がずっと希望していたポジションでの迷宮探索だ。

俺のことを迎え入れてくれた、このクランの期待を裏切らないよう全力を尽くす!

ひとまず、今の目標は九十三層の攻略。

勇者パーティに並ぶことだ。

大迷宮の入り口に存在する水晶の前に来た。

俺たちは、水晶にギルドカードをかざして、八十六層へと移動した。