軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

45.お化け、じゃなくて魔術

翌朝、目を覚ました俺は、シャワーを浴びてから、探索用の服装に着替えて、最後にクラン加入時に貰ったロングコートを羽織る。

「……似合ってるのかな?」

その恰好を姿見越しに見てみるが、似合っているのかわからない。

今はこの格好に違和感があるけど、早く慣れるといいな。

この格好をした自分を見ると、《夜天の銀兎》に入ったんだな、と改めて実感させられる。

着替えが終わると椅子に腰かけ、自作の携帯食料を食べる。

迷宮探索中は、激しい動きをすることも珍しくない。

朝からしっかり食事を摂ると最悪の場合、 嘔吐(おうと) してしまう可能性もある。

そのため迷宮探索に行くときは、少量ながらもしっかり栄養の摂れる、自作した携帯食料を食べている。

味もどうにか試行錯誤して、不味くない程度の出来になっている。

簡易的な朝食を終わらせた俺は、外に出ていって新聞を3部買った。

そのままクラン本部に戻り、今日の集合場所である作戦室へと向かう。

向かう途中にある図書室から本を取り出して、作戦室の中に入る。

現在の時刻が7時過ぎ。

時間までは2時間程度ある。

中央のテーブルに新聞と持ってきた本を置いて、椅子に腰かける。

集合時間まで読書しながら時間を潰すことにした。

しばらく読書を続けていると、勢いよく扉が開けられ、

「今日も一番乗りー! ――ってオルンくんが居る!? 早いね~」

ルクレがハイテンションで部屋に入ってきた。

「おはよ」

視線を本から動かさずに、ルクレに挨拶をする。

「うん、おはよ。本読んでるの?」

タイミングよく本を読み終えた俺は、本を閉じ、ルクレに視線を向けながら、

「まぁね。時間あったし」

「にしても、持ってきすぎじゃない? 読み切れないでしょ?」

テーブルの上には三十二冊の本がある。

俺から見て右側に、五冊ずつ積んでいる計三十冊の本。

左側に二冊の本がある。

「こっちに積んでいるやつは、読み終わったものだけど?」

右側にある三十冊の本を示しながら、ルクレの質問に答える。

「……はい? えっ、もしかして昨日から寝ないでずっと読書してたの? 今日迷宮探索だよ!?」

「いや、寝たよ。ここに来たのも七時くらいからだし」

「そっか、良かった。それじゃあ、こんなに読めないでしょ!?」

「ルクレの指摘は 尤(もっと) もだけど、俺は速読ができるんだよ。だからここの本を読み終えてるのはホント」

「お、おぅ……。速読か、一時間半でこんなに読めるなんて凄いね!」

ルクレが素直に褒めてくれた。

俺はひねくれている自覚があるから、裏表の無い人はちょっと苦手なんだけど、ルクレに対しては苦手意識を感じない。

なんでなんだろう?

「ありがと。これから迷宮探索だから、これでものんびり読んでいた方だけどね」

そう言いながら立ち上がり、持ってきたときと同じく魔術を発動させて、本を浮かせる。

「え、魔術……? すごい! こんなの見たことない!」

これも俺のオリジナル魔術の一つだ。

軽いものしか浮かせられないから、人を浮かせることはできないけど、日常生活では非常に役に立つ。

《夜天の銀兎》には秘匿技術がいくつかあるらしいから、この魔術ももしかしたら、と思ったけど、ルクレが驚くってことは、ここにも無い魔術ってことか。

それはいいことを知った。

その時、扉が開かれレインさんが入ってくる。

「ルクレ、朝から騒がないの、全く。――――え?」

レインさんがルクレに注意したときに、宙に浮いている本が視界に入ったらしい。

本の浮いているところを見て、ガクガク震えながら、「ポルターガイスト……? お化け……?」と呟きながら、かなり怖がっている。

「レインさんはお化けとか苦手なんだよ。迷宮内なら大丈夫なのに。――あ、そうだ。にひひ」

ルクレが俺に耳打ちで説明してくれた後、何かを思いついたようで悪い笑みを浮かべている。

「キャー、レインサーン、オバケコワイヨー」

すごい棒読みだ……。

ルクレがニヤニヤした顔で、レインに助けを求める。

「やっぱりお化けなんだ!? だ、大丈夫よ、ルクレ。お、お姉ちゃんに、ま、ままま任せて!」

頼りなさげな口調で声を震わせている。

それでも年上としての矜持からか、ルクレを守ろうとする。

怖がっている姿は見た目相応な感じだな。

面白そうなので、特に訂正せずに眺めている。

すると、

「……ん?」

レインさんの周りに魔力が集中し、魔法陣が出現する。

「ちょっ、レインさん、それはダメだよ!」

魔法陣を見たルクレが驚きながら、レインさんを止める。

(攻撃魔術!? まずい!)

魔法陣に流れる魔力量から中級魔術と判断した俺は、咄嗟にレインさんの周囲の魔力を乱す。

「魔力が上手く流せない!? お、お化けはこんなこともできるの!? でも負けない!」

驚きながらも強引に魔力を魔法陣に流そうとする。

流石はSランクパーティの魔術士だな。――って感心している場合じゃない!

「ごめん、レインさん! これお化けじゃないんで、俺の魔術! だからここで攻撃魔術ぶっ放さないで!」

そう言いながら、急いで魔術を解いて本を机の上に積む。

「……え? オルン君の、魔術?」

お化けのせいじゃないと理解したレインさんが、魔法陣を消し去る。

マジで焦った……。

「うん、本を片付けようと魔術で本を浮かせてたんだ」

「あー……、そう、だったのね……。も、もう驚かさないでよ。軽く攻撃しちゃうところだったじゃない」

軽く? 確かに威力は抑えられてたけどさ……。

安心しているレインさんから離れて、俺の方に近づいてくるルクレ。

「オルンくん、ゴメン。レインさんがここまで本気の反応をするとは思わなくて……」

「結果的に何も無くてよかったよ……」

俺はこのネタでレインさんを弄るのはやめようと、心に固く誓った。