軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

330.白亜の聖女

不死鳥の社の中でオリヴァーと二人、ルーナの帰りを待っていた。

「……オルン」

会話もまばらに、二人で静かに待っていると、目の前の空間が歪み始めた。

陽炎のような光の歪みの中から、ゆっくりとルーナが歩み出てくる。

その瞳には、涙ではなく確かな光が宿っていた。

「……オルンさん、オリヴァーさん、ただいま戻りました」

その声を聞いた瞬間、張りつめていた空気が一気に解けた。

オリヴァーが「無事でよかった」と呟き、肩をすくめる。

ルーナの身に纏っている雰囲気が一気に大人びて見えた。

彼女の身体に大きな変化は見られないが、先ほどまでと違う髪飾りを着けていた。

「おかえり、ルーナ。ティターニアとは話が出来たか?」

「……はい。きちんとお別れが出来ました。私が今日こうしてここに居られたのは、お二人のおかげです。ありがとうございました」

「ルーナのその顔が見られただけで、俺たちは十分だ。すごく良い瞳をしてる」

オリヴァーが嬉しそうに笑う。

「ふふっ、そう見えますか?」

彼女は小さく笑って、胸に手を当てた。

「ティターニアから、大切なものを受け取りましたから。悲しみでも、後悔でもなく――未来へ繋ぐための力を」

言葉の一つひとつが、まるで月の光のように柔らかく胸の奥に染みていく。

長い夜を越えて、ようやく彼女は前へ進む準備ができたのだと分かった。

「それじゃあ、戻ろうか」

そう告げると、ルーナとオリヴァーが頷く。

「はい」「ああ」

俺たちは不死鳥の社を後にした。

鳥居をくぐり天霊神社へと戻ると、境内の方から慌ただしい足音が響いた。

「オルンさんっ!」

駆け寄ってきたのはナギサだった。

肩で息をしながらも、ただならぬ緊張を宿した表情をしている。

その背後には、険しい顔つきのキリュウさんの姿も見えた。

嫌な予感が、胸の奥で鈍く鳴る。

「どうした?」

「じ、実はっ! 先ほど、連邦の艦隊が……、キョクトウの海域に侵入してきました!」

「――なっ」

オリヴァーが驚愕の声を上げる。

だが、ナギサの報告はそれで終わりではなかった。

「しかも、その艦隊と一緒に、……悪魔の一体、《焚灼》がやってきています!」

空気が一瞬で張りつめる。

悪魔――それは、邪神の直下に位置する存在だ。

教団の最高戦力と言って差し支えない。

「現在はシオンさんが《焚灼》を抑えています! 他の連邦兵は、フウカ姉さまやキョクトウの兵が迎撃中ですが……敵は西方だけでなく、南北からも攻めてきていて、状況が混乱しています!」

「くそっ……!」

すぐにでもシオンのもとへ駆けつけたい――だが頭では分かっている。

戦域が広がっているなら、俺がやるべきは【精神感応】で全体の情報網を構築し、味方の動きを統率することだ。

それが、最も多くの命を救う。

理屈では理解しているのに、心が追いつかない。

その時――隣でルーナが一歩前に出た。

「オルンさん。シオンさんの援護には、私が行きます」

「ルーナ……?」

彼女の瞳は揺れていなかった。

まるで光そのものを宿したように澄み切っている。

「私は、妖精たちと繋がる力を授かりました。悪魔の相手は私が得意とするところです」

そう言って、彼女は空に向かって呼びかけた。

「――ピクシー、力を貸してください!」

その声に応じるように、無数の光の粒が風に乗って舞い上がる。

『……もちろん!』

「ぶっつけ本番となりますが、いけますか?」

『……愚問だね。……わたしは妖精の女王の娘だよ?』

「ふふふっ、そうでしたね」

澄んだ鈴の音のような声が響き、彼女の周囲を柔らかな光が包み込んだ。

続いて、ルーナは髪飾りにそっと触れる。

白い髪飾りが、淡く輝きを放った。

「ティターニア……貴女の力も借りますね」

囁くと同時に、眩い光が弾ける。

彼女の身体を覆う輪郭が白に染まり、髪、衣、瞳までもが光を纏う。

「――【 月精調和(ルナーニア) 】」

その瞬間、空気が震えた。

白い光が境内を満たし、鳥居の上に止まっていた小鳥が羽ばたく。

やがて光が収まると、そこに立っていたのは――まるで神話から抜け出たような姿。

全身を白亜に染め、聖気を纏うその在り様はまさに《白亜の聖女》だろう。

ルーナは静かに息を吐き、振り返って俺に微笑んだ。

「それでは、行ってきます」

「――ああ。頼んだ、ルーナ」

白の光が舞い上がる。

彼女の身体が風と一体となり、天へと飛翔していた。

残された風が、頬を撫でていった。

俺は拳を握り直し、意識を集中させる。

戦況の全容を把握するために――今、俺もまた、己の役割を果たす時だ。