軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

287.過程と結果

テルシェさんの言葉を受けて、思考を弟子たちの見送りから、キョクトウ奪還へと切り替える。

俺たちはこれから、ヒティア公国からキョクトウへと長距離転移を行う予定だ。

ちょうど今日からキョクトウでは霊舞祭が始まる。

この祭りは、年に一度の大行事であり、他国からも多くの人々が訪れる。

キョクトウの中でも最も人の往来が激しくなる時期だ。

その人波に紛れて国内に潜入し、まずは現地の状況を把握する。

そして、情勢を見極めたうえで、教団をキョクトウから排除するための作戦を練るつもりだ。

というのも、今のキョクトウは教団の支配下にあるうえ、島国という地理的な特性もあって、外から届く情報のほとんどは断片的で、真偽の確かめようがない。

だからこそ、現地で自分たちの目と耳を使って確かな情報を得る必要がある。

それを踏まえたうえで、ようやく次の一手を打てると、そう考えている。

理想を言えば、教団を追い出したうえで、フウカが再び姫としての地位を取り戻すのがベストだ。

彼女が姫に戻れば、術理の世界の根幹――不死鳥の社の調査も堂々と行えるようになる。

だが、それはあくまで俺の都合にすぎない。

フウカ自身は、姫の座に戻ることには執着していない。

彼女が望んでいるのは、教団の魔の手からキョクトウを取り戻すこと、それだけだ。

その願いを叶えるために、俺たちは全力を尽くす。

これまで、俺は何度もフウカに助けられてきた。

たとえ、それがキョクトウを取り戻すための駒として俺を取り込むためのものだったとしても、そんなものは関係ない。

フウカは、俺にとって大切な仲間だ。

その仲間が、本気で何かを望んでいるのなら、俺の力が必要だと言うのなら、――俺はなんだって協力してやりたい。

「わかりました。では、行きましょうか」

これからやることを改めて整理してから、テルシェさんとルーナに声を掛ける。

そのまま屋敷を出ようとしたところで、

「オルン様、ここを発つ前に、一つお伺いしてもよろしいでしょうか」

テルシェさんが口を開いた。

「聞きたいことですか? 構いませんよ」

足を止めてテルシェさんに向き直る。

「それでは、私は席を外しておきますね」

「いえ、聞かれて困るような内容でもありませんし、ルーナさんもここに居たままで構いません」

「……そうですか。わかりました」

ルーナが気を利かせてこの場から離れようとするも、テルシェさんがそれを制止した。

「それで、俺に聞きたいことって?」

「お伺いしたいことは、愚妹のことについてです」

愚妹? あぁ、レインさんのことか。

テルシェさんには不測の事態に備えるために、数か月前からツトライルに常駐してもらっていた。

そして、彼女がヒティア公国に戻ってきたのは、今朝のことだ。

何故このタイミングでレインさんの話を? とは思ったが、彼女はツトライルからヒティア公国まではレインさんと行動を共にしていたはずだ。

……その道中で、何か思うことでもあったのだろう。

「オルン様は、ご自身の故郷を滅ぼすきっかけを作ったアレのことを、お赦しになっているのですか?」

きっかけとは、約十年前にレインさんが教団の甘言に乗って、ベリアたちを黎明の里に転移させた出来事のことだろう。

黎明の里には転移阻害の結界はもちろん、それ以外にも外敵に対するセキュリティがいくつも張り巡らされていた。

本来であれば、黎明の里の人間が侵入者に気づかないことはあり得ないと言っても過言ではない。

だが、レインさんの【 空間跳躍(スペースリープ) 】はその妨害をすべて跳ね除けてベリアたちを黎明の里まで転移させることができた。

それは彼女が〝特異魔術士〟だからだ。

以前の俺は自分の異能を自覚することができず、【 瞬間的能力超上昇(インパクト) 】のことを『魔術の 不具合(バグ) 』と考えて、無理やり自分を納得させていた。

だが、そんなものは 不具合(バグ) でも何でもない。

本当の 不具合(バグ) と言えるのは、レインさんやルシラ殿下の近衛であるローレッタさんが扱う特異魔術のことだろう。

……と、脱線したな。今はテルシェさんの質問に答えないと。

「はい、赦していますよ。そもそも彼女を責めたいと思ったことは一度もありません」

「……オルン様が懐の深いお方であることは存じております。ですが、何故あのような愚行を犯した者を赦せるのでしょうか?」

そう問いかけてくるテルシェさんの瞳には、複雑な感情が宿っているように見えた。

「そうですね……。言葉で説明するのが難しいんですが、『レインさんに悪意が無かったから』、ですね」

テルシェさんが俺の言葉を聞き逃すまいと真剣な表情で俺の話に耳を傾けている。

「仮の話にはなってしまいますが、もしもあの日、俺たちが黎明の里にやってきたベリアたちを返り討ちにすることができていたら、どうなっていたと思いますか?」

「それは……、教団が大打撃を受けることになるでしょう。反対に我々は今などとは比較にならないほど、優位に立っていたはずです」

「そうですね。そうなった場合、そのきっかけを作ったのは レインさんです(・・・・・・・) 。彼女は教団に大打撃を与えた立役者になっていたでしょうね」

「っ!? し、しかし、実際は――」

「――えぇ。俺たちは敗北して辛酸を舐めることになりました。……つまり何が言いたいかというと、レインさんのあの一件は俺たちにとって最悪に近い結果に終わりましたが、あくまでそれは結果に過ぎないということです。そこにレインさんの悪意が入っていないのなら、俺は必要以上に彼女を責める気にはなれません」

「…………」

「歴史や過去というのは結果の積み重ねです。これは俺の持論ですが、その〝結果〟というのは、今という〝過程〟の先にあるものだと思っています」

誰もが先の分からない 過程(今) を全力で生きている。

その先の 結果(未来) が、良い方向に進むかもしれないし、悪い方向に進むかもしれない。

それは結果が出るまで分からない。

「結果がすべてだと言う人もいますが、俺は……その過程にも、ちゃんと目を向けていたいんです。だって、俺の 物語(人生) を結果の一言で纏められたら悔しいじゃないですか」

「それが、オルン様のお考えなのですね」

テルシェさんが合点の言ったような表情で呟く。俺の考えが伝わったようで良かった。

「はい。ですが、これはあくまで俺の考えであって、強制したいとは思っていません。テルシェさんがレインさんのやってしまったことを赦せないと思っているなら、その考えを尊重します」

俺は記憶が戻る前に《夜天の銀兎》で過ごしたレインさんとの思い出がある。

それがあったからこそレインさんに悪意が無かったことも分かったし責める気にもならなかったんだろうとも思う。

テルシェさんにもレインさんと姉妹として過ごした思い出があるはずだ。

それが良いものだったのか、悪いものだったのか、それは彼女にしか分からない。

「ですが、一つテルシェさんに言えることがあるとしたら、レインさんはヒティア公国を出てから今日までに積み重ねてきたテルシェさんの知らない 過程(過去) があります。気になるのであれば聞いてみてはいかがですか? レインさんなら喜んで話してくれると思いますよ」

「……ありがとう存じます。オルン様のお話を伺うことができて、自分の中で整理ができました。出立前の貴重なお時間をくださり感謝申し上げます」

余計なお世話だったかもしれないが、俺のアドバイスをテルシェさんは微笑んで受け入れてくれた。

「いえ、俺も話せて良かったです」

少しの間、和やかな雰囲気が漂っていたが、

「――それでは商会本店まで案内させていただきます」

その一言で空気が引き締まった。

そのまま俺たちはダウニング商会本店にある転移部屋へと向かった。