軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四話:スライムは仕返しをする

流行り病を治すため、ミラルダ共和国に【医術】のエンライトであるヘレンは向かった。

そのヘレンがいた研究所が襲われてヘレンが開発した特効薬の生産ラインは破壊され、ヘレンが行方不明になった。

それを知ったオルフェとニコラは屋敷に戻ると素早く身支度を整えて、ヘレンを助けるために出発した。

「ねえ、ニコラ。ものすごく強引にアッシュポートの守衛の人たち振り切ったけど大丈夫かな」

「仕方ない。ニコラもできればいてあげたい。でも、それどころじゃない」

アッシュレイ帝国は、流行り病の特効薬をグランファルト王国から手に入れるために交渉を行っていた。

そこで、あんまり無茶を言うようならアッシュレイ帝国のために薬を作るとニコラが言った。

おかげで、グランファルトも譲歩してくれたのだが……。

「あの人たちの気持ちはわかるけどね。ニコラが出て行っちゃったらもしものとき困るし」

「ん。……でも、もっと怖いことがある」

「何かな、言って見て」

「グランファルト王国がニコラを殺しにくること。ニコラがいなくなれば、有利な条件じゃなくてもっといい条件が結べるって考えてるかも」

「あははは、さすがにそれはないよ。私たちがどれだけすごい発明をして国に貢献して」

オルフェの言葉が遮られる。

馬車が凄まじく揺れた。

「これ、どっちだと思う」

「残念ながら私たちの国のほう。後ろの馬車見て」

俺たちが乗っているゴーレム馬車は見た目普通の馬車に偽装しているが、魔法金属の合金でできているので生半可な攻撃が効かない。

加えて、いろいろと不思議な機能がついている。

たとえば、馬車の中にいながら全方向の映像を投影できる。

その機能を使い、後方の映像を窓を開かずに確認していた。

「間違いないね。この家紋はあの人だ」

「ん。あの豚」

屋敷を奪った。あの成金デブ公爵だ。

なにやら叫んでいる。ニコラが収音装置を起動させる。

『撃て、撃て、もっと派手な魔法を打ち込め、逸らすな。直撃でいいぞ!』

『あそこに乗っているのは、グランファルトの至宝と呼ばれるエンライトの姉妹たちです。万が一のことがあれば』

『国家反逆罪だ! あいつらはグランファルト王国の国益を損なったのだぞ! 捕縛しろ。いや、死んでも構わん! すべての責任はわしがとる』

『とは言いましても、あの二人に怪我などをさせれば、他のエンライトすべてが敵に回ります。【医術】【剣】【王】を敵に回してしまえば終わりですよ。グランファルト王国が滅びかねません』

『ばれなければ問題ない!』

オルフェとニコラが頭を抱えていた。

「オルフェねえ、屋敷は取り戻したいけどグランファルト王国には帰りたくないって本気で思えてきた」

「うっ、否定できないかも。ニコラ、どうする?」

どうするというのは反撃するか逃げるか。

さきほどから、何発も魔術を喰らっているが、堅牢なゴーレム馬車はびくともしない。

被害としては、偽装で馬車を引いていた四足歩行ゴーレムがかぶっている鹿の皮が燃えたぐらいだ。

「ニコラは逃げるに一票」

「あの怖い人以外、いやいやって感じだし。痛いことしたら可哀そうだね。逃げちゃおう」

「ん。わかった。加速する。これをやるとあとで整備が必要になって面倒」

ゴーレム馬車は、通常状態でも馬車より若干早いし、魔力を注ぎ込むことでもっと速くなる。

全力で走れば確実に逃げ切れる。

……だが、その場合には駆動系が痛んでメンテが必要になるデメリットがある。

「ぴゅいっ、ぴゅいっ!」

「スラちゃん、任せてって言ってるの?」

「ぴゅいっ!」

ここで逃げきれても、メンテで馬車を止めればその分ヘレンのもとへたどり着くのが遅れてしまう。

それは避けたい。

「わかった、任せるよ。ニコラ、今のままのペースで進んで」

「ん。でも、追いつかれそうになったら本気を出す」

ゴーレム馬車の巡行は普通の馬車より早いとはいえ、さすがに相手がペースを考えない全力疾走をしてくれば追いつかれてしまう。

さて、さっそくお仕事をしよう。

【分裂】をして、偽スラちゃんたちをニ十体ほど出す。

偽スラちゃんたちが床の隙間から落ち、俺たちの馬車から現れたと気付かれないようにこっそり草むらに隠れた。

そして、偽スラちゃんたちは俺たちを負う成金デブ公爵の馬車が近づいたタイミングで草むらから飛び出した。たまたま現れた野生のスライムを演出するためだ。

そっちのほうがいろいろと都合がいい。こうしておけば、成金デブ公爵たちを襲ったのは、オルフェの使い魔ではなく野生のスライムの集団だと言い張れる。

偽スラちゃんたちは緑色に染まっていた。

最近ご無沙汰の毒スライムモード。強酸で触れるものを溶かしてしまう凶悪なスラちゃんだ。

偽スラちゃんたちは全員が馬車の進路上にいる。

兵士たちはスライムたちに気にも留めない。所詮、最弱の魔物だと甘く見ているのだ。

「ぴゅふふふふ」

その油断が命取りになる。

オルフェが目を丸くしてる。

「緑色の小さなすらちゃんがいっぱい」

「ちょっと可愛い。スラ、こんど縮んで」

「ぴゅひっ!? ぴゅぴゅ!!」

ニコラに対して怒る。

どうしてこの大きさのこだわりをわかってもらえない!

今が一番抱き着きやすいベストサイズだと言うのに。

そんなことをしているうちに、偽スラちゃんたちが敵とぶつかる。

とはいっても、馬車の車輪に踏みつぶされるだけだが。

「ぴゅはっ」

「ぴゅひっ」

「ぴゅふっ」

「ぴゅへっ」

「ぴゅほっ」

収音機で偽スラちゃんたちの悲鳴が聞こえてくる。

「うわぁ、スラちゃん。小さいスラちゃんたちが可哀そうだよ」

「ぴゅいぴゅい(大丈夫)」

ぶっちゃけ、スライムに物理攻撃は効かない。つぶれはするが、べつにつぶれても構わない。

今の偽スラちゃんは強酸を纏った毒スライムモード。

鉄すらたやすく溶かすそのボディを脆弱な木のタイヤで踏みつけたりすれば……。

「うわああああああ」

「馬車がああああああ」

「一体、どうなってるんだぁぁぁぁぁあ」

当然タイヤが溶けて歪み横転する。

俺たちを追っていた馬車は全滅だ。

偽スラちゃんたちは追い打ちをかける。横転した馬車の車軸に張り付き完全に足回りをダメにしてしまう。

これで、相手の馬車は時間をかけて修理しない限り走り出すことはできない。

「小さなスラちゃん、すごいね」

「でも、すっごく睨まれてる。殺されちゃいそう」

馬車を全滅させたものの偽スラちゃんたちは可愛そうに兵士たちに囲まれてしまった。

数は多くても一体一体は小さくか弱いスライムだ。

もう、兵士たちは俺たちに追いつくことは諦めたようだが、怒りの矛先を偽スラちゃんたちに向けたらしい。

ぴゅいぴゅい鳴きながら、可愛そうに偽スラちゃんたちは一か所に固まって身を寄せ合う。

兵士たちは笑った。そして偽スラちゃんたちも笑う。

兵士たちが怪しみ始めたころ、偽スラちゃんたちが合体した。

キング偽スラちゃんだ。

その異様な迫力に兵士たちが弓や魔法を放つが、俺自身のステータスが向上している恩恵を受けているうえ、あの巨体。まったく効いていない。

兵士たちは恐れをなして逃げ始めた。

「いたたたた。なんだ、いきなり馬車が倒れたと思ったら、これはどういうことだ! おい、だれか説明しろ!」

タイミングが悪く、成金デブ公爵が倒れた馬車の荷台から這いずり出てきた。

そして、キング偽スラちゃんっと目が合う。

「うおおおおお、なっ、なんだこのでかいスライムは、だれか、だれか!?」

助けを呼ぶが、兵士たちはみんな逃げた後だ。

その姿がこっけいで笑いそうになる。

あの成金デブ公爵にはさんざん好きにやられた。

殺してしまいたいが相手は貴族だ。

殺すといろいろ面倒。襲撃犯は野良のスライムだと後で言い張るつもりだが、万が一はあるので殺しはしない。

ちなみに、野良スライムの襲撃と言い張るためにさきほどから馬車の窓から顔を出して。僕はここにいるよ。君たちを襲ったのは別スライムだよアピールをしていた。

「ぴゅいっぴゅ!(偽スラちゃんごー)」

殺すといろいろと面倒だけど、何もしないわけにはいかない。

きっちり恨みは晴らす。

俺とは関係ない通りがかりのスライムには一つの命令をした。

偽キングスラちゃんが口の中で、今まで吸収した魔物の毒をミックスし、さらに薄めて、ぺっと吐き出した。

成金デブ公爵がびしょぬれになった。

「かゆうううううううううううううい、かゆっ、かゆううう、かゆ」

毒スライムモードの強酸液なんてぶっかければ骨も残らないので、わざわざ一週間以上死ぬほどかゆくなり、寝ることもできなくなるなんて、人道的な毒を調合させた。

「ぴゅっぴゅぴゅ(ぐっじょぶ)」

俺が褒めるとキング偽スラちゃんに翼が生えて飛んでいく。

そうして、俺とは関係ない通りがかりのスライムは消えていった。

あとで合流する予定だ。

ありがとう、通りがかりのスライムよ。ご褒美を用意しておかないと。

「スラちゃん、追っ手を撒けたね。小さなスラちゃんには悪いけど、あとで問題になったら野生のスライムだって言っちゃおうか」

「ぴゅいっ!」

よくわかっている。

こうして、俺たちは追っ手を振り切り、ミラルダ共和国を目指す。

ゴーレム馬車なら、おそらく一週間もかからずに到着するだろう。ヘレンはきっと無事だ。

そう信じながら、ゴーレム馬車を走らせ続ける。