軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五話:スライムは精鋭部隊を作りあげる

クリスの屋敷で一時的にアッシュレイ帝国に協力することになった。

協力とは言っても、クリスの付き添いとしてグランファルト王国に同行し、巫女姫エレシアを守るというだけであり、元から俺たちがしようとしていたことだ。

一見するとアッシュレイ帝国に利益がないように思えるが、七罪教団が暗躍しており、展開しだいではグランファルト王国とアッシュレイ帝国の戦争が起こってしまう。

それはアッシュレイ帝国の望むところではない。

……まあ、それは建前で向こうにも様々な思惑がある、エンライトの力を借りたという前例を作るだけでも大きな意味があるのだ。

なにせ、エンライトの力を借りたと内外に示すことで、いざというときはエンライトの力を行使できると威嚇できる。

そのあたりのことまで考えて、交渉担当のレオナは頑張っているようで、キリシュ・トワイラル侯爵と熱弁を交わしている。

完全にオルフェとニコラは置き去りになっている。

無理もない。彼女たちは魔術と錬金のスペシャリストではあるが、それ以外は普通の少女とさほど変わらない。

「スラちゃん、ぜんぜん何言ってるかわかんないね」

「ぴゅいっぴゅー(よく聞いて勉強しろ)」

オルフェの力を悪い連中に利用されないために、こういうやり口を学ぶのもいい。

いつも俺やレオナが傍にいるとは限らないのだ。

「うん、ちょっと頑張ってみるよ。ニコラもがんばって」

「……ん。でも、徹夜のせいで眠気が」

ニコラが船を漕いでいる。

とりあえず、どこまで耐えられるか試してみよう。

交渉が終わったあとは晩餐会が始まる。

あの理知的なメガネの侯爵……キリシュ・トワイラル侯爵は晩餐会が始まる前に去って行った。

ついでにレオナも。

レオナは今回の交渉を終えて、いろいろと根回しの必要な案件が増えたため先に戻っている。

本来なら晩餐会に参加し、ともにグランファルト王国に向かうクリスの人となりや、彼女の真意を探る。

だが、今回は時間がなさすぎる。

レオナは去り際に、オルフェとニコラにしつこいぐらいに、『何も約束するな』と繰り返した。

晩餐会はあくまで、友達として招かれていると言っても、クリスがアッシュレイ帝国の公爵だ。国の利益のため、友情を利用してもおかしくはない。

「やっぱり、アッシュポートで出されるご飯は美味しいね」

「ん。世界中の美味しいものを集めたっていうのは伊達じゃない」

レオナの心配とはうらはらにオルフェとニコラは楽しくクリスと談笑していた。

俺もぴゅいっと、ご馳走を食べている。

アッシュポートは世界有数の港町であり、世界中の食材が集まる。ましてや、公爵家の晩餐会ともなると誇張抜きに世界中の美味が集まるのだ。

……鮫の卵の塩漬け、黒いダイヤのようなものはなかなかいい。

それに、南方のほうで作られた干しアワビというのが素晴らしい。干すことで旨味が濃縮している。ここまで旨味が強い貝を口にしたのは初めてだ。

ぱくぱくもぐもぐ。俺は世界で一番贅沢しているスライムだろう。

「喜んで頂けて何よりです。お二人とスライムさんには、ずっとお礼がしたかったんです」

【嫉妬】の邪神の一件のことだろう。

あのあと、すぐに俺たちは極東に旅立ち、戻ってきたと思ったらすぐにヘレンの元へ向かった。

「ありがと。とっても素敵なご飯だよ。こんなご馳走初めて。何より、クリスも元気そうで安心したよ」

「なんとかやれています。父にとても厳しく育てられましたし、私が公爵として振舞うために必要なものが揃えられてましたから。たぶん、父はこうなることを見越して準備をしていたのでしょうね」

クリスの言う通り、デニスは失敗するとわかっていた。

……それでもあの兄弟子は娘の命を救うため、そして俺を超えるために邪神の力を得るための実験を行った。

今日の晩餐会はとても楽しい。

だけど、贅沢を言うのであれば、デニスも一緒が良かった。

デザートには驚かされた、一流パティシエの手で豪華絢爛なものを何種類も用意され、少しずつ食べるといういたせりつくせりっぷりだった。

最後まで会話も弾み、気が付けば深夜となってしまっていた。

馬車で屋敷に送ってもらう。

自室に戻るなりオルフェは俺を抱き上げて口を開く。

「ねえ、お父さん。……クリス、何か隠していたよね」

「ぴゅい(わかるか)」

心の底から楽しそうに振舞っていたクリス。

だけど、その笑顔がどこか仮面のようにも見えた。

何かを隠し、それを心苦しく思っている。

「レオナなら、その何かを聞き出せたのかな」

「ぴゅいぴゅぅ(それはどうかな)」

きっと、作り笑いが不自然になったのは、相手がオルフェとニコラだったからだろう。

レオナが相手ならその仮面は完璧だっただろう。……もっともレオナなら、完璧な仮面でも見抜ける可能性はあるが。

「辛いね、友達なのに言えないことがあるって」

「ぴゅいーぴゅー(まあな、そういうものだ)」

こくりと頷く。そして、それはどうしようもないことだと思う。

なにせ、十年以上ともに過ごした兄弟子デニスの気持ちにすら気付けなかったのだから。

……クリスが何を隠し、何をしようとしているのかは知らない。だけど、クリスをデニスと同じようにはしない。

そう決めていた。

それから、数日経ったが巫女姫エレシアに送った手紙の返事は帰ってこなかった。

おそらくどこかで握りつぶされている。

レオナと、キリシュ・トワイラル侯爵の読みが当たった。

そして、それはエレシアとエンライトが接触することを快く思っていない連中がいることの証明だ。

正面からパーティに参加できないことが確定したので、クリス・ヴィリアーズ公爵の付き添いという形で、オルフェとシマヅ、レオナがパーティに参加する手続きを進めている。

ニコラとヘレンはパーティ会場には入らずに、外で支援を行うことになっている。

「ぴゅいぴゅいぴゅ(護衛がつけられているのが救いだ)」

無事、精鋭部隊スライムフォーのうち一匹をエレシアのもとに届けクリアモードで監視につかせることができた。

異常なまでの厳戒態勢で私室にまで女性の護衛がいるありさまで、スライムフォーは意思疎通がままならないと嘆いている。

それでも、なんとか持たせた手紙はエレシアに渡せたようだ。

「ぴゅいっぴゅ(あいつが隣にいれば並の暗殺者じゃどうにもならないだろう)」

スライムフォーの戦闘力は下級ドラゴン程度にはある上に、【気配感知】を持っている。

ひとまずは安心できる。

その間に、さらなる戦力を作り出す。

ここ数日、精鋭スライム部隊の最後の一匹を作るためにかかりっきりになっていたが、ようやく完成のめどが立った。

俺が【進化】したあと、スライムフォー全員を強化したがマイナーチェンジにすぎない。

しかし、今から作るこいつは基礎設計レベルからまったくの別物であり、スライムフォーの面々とは比べ物にはならないスペックを持つ。

「ぴゅいっぴゅっぴ(従来、偽スラちゃんは使えるスキルに制限があるため、それぞれに特化したスキル構成にしていた)」

スライムブルー:鉄壁の守りを誇る忠義の騎士、探知系のスキルと防御系のスキルを中心にした守備型。

スライムブラック:個人主義でナルシストの一匹狼、高速移動スキルと高火力スキルを中心にした攻撃型。

スライムグリーン:お茶目で計算高い奇策士、基本スペックを抑えめにした代わりにスキル数は随一のトリックスター。

スライムイエロー……大らかで頼れる兄貴分、防御系スキルと高火力スキルを兼ね備えた重戦車。

っと、それぞれ得て不得意がある。ちなみに、エレシアのもとに向かったのはスライムブルーだ。護衛にはあいつが一番向いている。

そして、今から生み出すのはオールラウンダーだ。

中途半端という意味ではない、ありとあらゆることができる万能型と言える。

それこそが、スライムファイブのリーダー……スライムレッド。

地下にある工房で、俺は最後の作業をしていた。

ぴくりとも動かない、赤いスライムに魔力を流し込む。

スライムフォーの強化は、西の魔術、ゴーレムなどを強化する技術を流用しており、これ以上の強化に限界を感じていた。

新たなスライムレッドも、そこは同じだ。

違うのは東の技術をも使うこと。

符に魂と魔力を込めて式神とする技術。

たかが呪符で、強力な使い魔を作れるのだ。偽スラちゃんを式神化すれば、とんでもない化け物が生まれる。

実際、俺はその実物を見せてもらっている。

カオティック・スラちゃん。俺のスライム細胞を材料にセイメイが作り上げた式神。

……しかし、この作業は想像以上に難航した。

西の術式と東の術式が干渉し合う。

セイメイの作った正解を見ていなかったら、おそらくもう一月はかかっただろう。セイメイは俺のことをセンセイと呼ぶが、俺もセイメイから多くのことが学べている。

器を西の魔術で頑強に仕上げ、魂を東の魔術で鍛え上げた。

スライムレッドの赤い体が震え、命が宿りその目を見開く。

「ぴゅいっぴゅ、ぴゅー……ぴゅい、ぴゅっぴゅ!(おはよう、スラリーダー。いや、スライムレッド!)」

「ぴゅいっ! ぴゅいっぴゅぴ?(おはようございます! こうして目を覚ましたということは成功ですか?)」

「ぴゅぴーぴゅぴゅ(その身に宿る力でわかるだろう?)」

俺がそういうと、赤いボディから魔力が迸る。

スライムレッドが歓喜のスライムダンスを踊り、その力に酔いしれている。

「ぴゅいっ、ぴゅいっぴゅ。ぴゅいっぴゅ(ボス、ありがとうございます。この力でより一層の忠誠を)」

「ぴゅむ、ぴゅいっぺ(うむ、期待している)」

スライムレッドはさっそく、テレパシーでスライムフォー改め、スライムファイブ全員にテレパシーを飛ばしている。

……個性派ぞろいの連中なので、新参がいきなりリーダーなんてふざけるな。なんてことを言っている。

ベースのスラリーダーは最古参の一体だが、どうしようもなく影が薄く、奴らはおそらく気付いていない。

スライムレッドの最初の仕事は、残りの四人にリーダーとして認めさせることにしよう。

俺が命令するより、今後のことを考えるとそれがいい。なんだかんだ言って、これまでも偽スラちゃんズをまとめあげていたし、今は圧倒的な力がある。うまくやるだろう。

何はともあれ、新たな戦力ができた。

グランファルトで荒事が起きれば、スライムファイブに任せるとしよう。

今の俺が本気を出せば、即座に瘴気が漏れ出して邪神認定されてしまうだろうから。

なにより、楽できるしな。

ぴゅふー、疲れた。

仕事が終わったことだし、娘たちに癒してもらおう。

今日は誰の胸に飛び込もう?