軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四話:スライムは遊びに行く

レオナが、巫女姫エレシアに手紙を出し、その返事を待っていた。

その返事が戻ってくるまではアッシュポートの屋敷で過ごす。

もちろん、ただ待っているだけじゃない。

他にも手は打っている。

あくまでレオナの手紙は、正式なルートでさまざまな相手に見られることを前提にしたもの。

それとは別にエレシアにしか見られてはいけないものを記載した手紙をスライムフォーの中でもひと際優秀なスライムワンに持たせて送っている。

さらなる進化を経たことで、俺の眷属たる偽スラちゃんたちも強化されている。

もともと、他の偽スラちゃんとは一線を画す性能のスライムフォーは力の上昇幅が大きかった。

だが、それで満足せずさらに手を加えている。

スライムフォーは数十体分の細胞を使い、改良設計を加えた特別製であり、本体から切り離したスライム細胞が許す限界まで強化済みであったが、強化上限まで上がっていたのでさらに手を加える余地ができたのだ。

今のスライムフォーを倒せるものは、エンライトの姉妹ぐらいではないかと思う。

スライムワンは、スライムフォーの中でもっとも忠誠心が強く、騎士のような思考を持ったスライム。

エレシアの護衛としては最適だろう。

偽スラちゃんたちは、俺の性格をベースにした疑似人格を与えたうえで、それぞれ自己進化するようにしていた。

それぞれ、まったく別の性格になっているのが面白い。

新入りのスライムフォーなどは、大変愉快でお茶目な性格であり、真面目とは言い難いが、発想が柔軟で抜け目がなく、スライムワンとは別方向で優秀だ。

「ぴゅいぴゅっぴ(もう一体作るか)」

精鋭部隊、スライムフォー。四体というのはおさまりが悪い。

五体というのが一番、しっくりくる。

そして呼び名も変えたい。やっぱり、スライム+番号ではなく、スライム+色のほうがかっこいい。五体揃えば、そうしよう。

せっかく時間もあるのだし、スライムフォーとは別のアプローチで、進化したスライム細胞に適した形での設計を一から行う。

……そう言えば、セイメイが俺の細胞から作りあげて、陰陽術を用いて作った使い魔と式神のハイブリット、カオティックス・スラちゃん。あれの設計思想は面白かった。

今の俺なら、あれをさらに発展させることができる。

久々に、エンライトとしての探求心が疼く。

問題は、どの偽スラちゃんを改造するかだ。

スライムフォーのような精鋭部隊に改造する場合、スペックだけじゃなく、それを動かすソフト、つまりは頭脳が重要だ。

ただ、疑似人格を植え付けるだけでは足りない。

経験を積んで自己進化した個体をベースにしたいところだが……。

「ぴゅむむむむ」

なかなか、心当たりがいない。

そもそも、そういう優秀な個体を強化したのがスライムスリーだし、先日有望だと思った偽スラちゃんをスライムフォーにした。

いや、一体居たな。

偽スラちゃんの中でも重鎮だ。……とても優秀だが、派手なことはせずに仕事を完璧にこなしつつ、他の偽スラちゃんのサポートに徹するせいで目立たない職人タイプ。そのせいで、スライムスリー結成のときに、うっかり候補から漏らしてしまった。

奴の名はスラリーダー。

偽スラちゃんたちの取りまとめ役として生み出し、これまで偽スラちゃんたちをうまく統率してくれた。

スラリーダーこそ、最強の偽スラちゃんに相応しいかもしれない。

俺をベースにした疑似人格を持つ偽スラちゃんたちは、スライムフォーほどじゃないにしろ、みんな少々お茶目だし、ノリが良く、たまに羽目を外す。そんな連中を統率できるのだ。リーダーとしての素質に疑いはない。

「あっ、お父さん。いた」

ニコラの第二工房で、触手を駆使して設計図を書いている俺をオルフェが抱き上げる。

「ぴゅいっぴゅ?(なんのようだ)」

「今日はクリスのところに行く日だよ」

「ぴゅむっぴ(そうだったな)」

エンライトの帰還は、アッシュポート側のお偉いさんたちも気にしている。

今のうちにアッシュレイ帝国に取り込もうと、連日使者がやってきており、それらを全部はねのけていた。

……王都に移り、オルフェ、ニコラ、ヘレンには超一流の研究設備、優秀な助手、莫大な研究費を与える。

レオナは爵位と領地と中央の政治に関わるだけの権限、シマヅは将軍の地位と莫大な報酬。

提示してくる条件は非常に破格で魅力的はあるが、姉妹たちは拒否した。

俺としては、この条件なら受け入れても、いいと思っている。

レオナの夢に関して言っても、アッシュレイ帝国で領地をもらい、土地を開拓し、街を作り、発展させていき自治区にする。

そして、干渉を減らすように交渉すれば、実質国のようなものになる。

ただ、娘たちが己の考えで断ったのなら、その意志を尊重する。

というわけで、どんどん吊り上がっていく条件を断り続けていたのだが、クリスから招待状が届いた。

若くして、ヴィリアーズ公爵家の当主となったクリス。

俺にとっては、兄弟子と初恋の人の娘。

……エンライトと親交があるからこそ、国から依頼を受けて交渉にやってきたのだろう。

それがわかっていても、さすがにクリスの招待は断れない。

実のところ、早く様子を見に行きたかったが、今のエンライトが会いに行くというのは政治的にまずいところがあり、遠慮していたのもある。

「お父さん、準備はいい」

「ぴゅいっ!」

あの年で当主になれば色々と悩みも尽きないだろう。

元気そうであればいいが……。

公爵家からの招待というだけあって、豪華絢爛な馬車が迎えにやってきた。

オルフェとニコラ、そしてレオナとともに馬車に乗り込む。

オルフェとニコラが行くのは親交があるからであり、レオナはエンライトの代表としてヴィリアーズ公爵と会うため。

「レオナが来るってことは、ただの挨拶じゃすまないよね」

「オルフェお姉ちゃん、向こうだってその気だからね。ただ、友達と会うってだけじゃ終わらないよ」

「そんなものかな」

「そんなものだよ」

レオナの言う通りだ。

今回の件にはさまざまな思惑がある。

力があるとこういうしがらみが多くて面倒だ。

「ん。そっちはレオナに任せる。ニコラに政治はわからない」

目に隈を作ったニコラはそれだけ言うと眠りについた。

ここ連日、徹夜続きだ。ほとんど眠らず、体力を回復させるポーションで無理やり集中力を維持している。

それだけ、ゲオルギウスの改修に夢中になっている。

にも関わらず、こうやってついてきた。ニコラは勘違いされやすいが優しい子だ。

ヴィリアーズ公爵の屋敷にやってきた。

見事な大庭園は健在だ。色とりどりの花が咲き乱れ、いい香りがする。

その風景と香りを楽しみながら庭園を馬車で抜ける。

その先にはクリスと使用人たちがいた。元気そうで安心した。貴族社会をうまく生き抜いているらしい。

馬車から下りて、オルフェに抱きかかえられながらクリスのもとへ行く。

「オルフェ様、ニコラ様、レオナ様、このたびはヴィリアーズの屋敷までご足労いただきありがとうございます」

「ううん、私もクリスに会いたいって思ってたところ」

「ん。ついでにご馳走があれば言うことはない」

クリスの顔が緩む。

それは、ヴィリアーズ公爵の顔ではなく、少女としての表情だった。

「私も会いたかったです。それだけに、お仕事の話をしないといけないのが残念です。中に入ってください。今回は、私だけじゃありません。その、ちょっと怖そうな人ですが、話がわかる方です」

当然と言えば、当然だが、クリスはただのクリスではなくヴィリアーズ公爵として、エンライトと交渉に望んでいる。

そうなれば、アッシュレイ帝国もそういう話ができる人材をよこす。

「わかった。じゃあ、その人が来たら私は【魔術】のエンライトになるよ。それまでは、オルフェだからね」

ぎゅっとオルフェがクリスの手を握る。

目頭が熱くなる。俺の娘はいい子だ。

そうして、楽しそうに旅であったことを話しながら、応接間に通された。

そこには、眼鏡をかけた初老の男性がいた。

細身で理知的な印象を与えてくる。

……油断できない相手だ。レオナに目線を送ると、レオナもそう感じたようで、頷く。

さて、いったい何を切り出してくるやら。

応接間には、エンライト側として、オルフェ、ニコラ、レオナ。

アッシュレイ帝国側は、クリス、そしてキリシュ・トワイラル侯爵に加え、何人かの文官が並んでいる。

すでに、それぞれの自己紹介を行った。

クリスの指示で茶菓子とハーブティが運ばれてきた。

最初に口を開いたのはクリスだ。

「単刀直入に言わせてください。我々、アッシュレイ帝国はエンライトの力を欲しています。我々にはあなたがたが望むだけの報酬、必要な環境と人員の提供をする準備があります。どの国よりも、エンライトの力を評価し、理解しているのはアッシュレイ帝国です」

オルフェたちが目を見合わせ、レオナが代表として返事をする。

「そういう話は全部断ることにしています。エンライトの姉妹は属さない……エンライトが生み出すものは強すぎる。グランファルト王国にいたころは、いろいろと雑で表に出す発明と表に出さない発明を選べた。……ですが、アッシュレイ帝国でそういうことができるとは思えない」

それこそがアッシュレイ帝国を拒絶する理由だ。

アッシュレイ帝国に住居を用意するだけならともかく、国からの支援を受けて研究をすれば、その成果を報告する義務が生じる。

表に出すものと出さないもの、それらを選ぶ自由があるなら話は別だが、それを許すほどアッシュレイ帝国は甘くない。

レオナの言葉を受けて、トワイラル侯爵が返事をする。

「では、その条件をこちらが呑んだとしたら? 成果物について、報告するかどうかはエンライトの判断に任せてもいい」

「そういう契約をしたとしても、いずれ懐柔されるか、脅されるか、盗まれるか、あなたたちは隠したものを奪おうとするでしょう? 私たちは誰の持ち物にもならない」

「……ふむ、それを明言することのリスクは承知の上でしょうか?」

「承知の上です。乱暴な手を使ってくるなら、それに応える準備もある。幸い、今はエンライトが揃っています」

エンライトの力が手に入らないとなれば、その力を他の国や組織に利用されるまえに潰す連中が現れるだろう。

それでもいい、抗う力がある。

「意志は固いようですね。では、これ以上の勧誘を諦めましょう。エンライトの敵になるつもりはない」

意外にものわかりがいい。

エンライトの姉妹が国外に出る原因となった、成金デブとはえらい違いだ。

「レオナ殿、どこかの組織に属するつもりはないとのことですが、一時的な依頼であれば受けてくださるのでしょうか?」

「利益と正義で判断したうえで」

「では、さっそく依頼を。グランファルト王国の巫女姫、エレシア・グランファルト。彼女の誕生祭。それを無事に終わらせてください。彼女が倒れれば、グランファルト王国とアッシュレイ帝国で戦争が起こる」

戦争という言葉に、オルフェとニコラが驚く。

逆にレオナはこくりと頷いた。

「そうなるでしょうね。ですが、なぜそれをエンライトに依頼を? 護衛のプロに任せたほうがいいのでは?」

「……【王】のエンライト、レオナ・エンライト。あなたならとうに情報は掴んでいるでしょう。この件には七罪教団、そして最後の邪神が絡んでいると。邪神を持ち出されて対抗できるのは、エンライトぐらいだ」

レオナは独自の情報網により、戦争が起こる危険性、七罪教団と最後の邪神の関与を知っていた。

そして、アッシュレイ帝国にいながらそれを把握している相手と出会えてうれしいのだ。

「アッシュレイ帝国としては、邪神の力を得たグランファルトと戦争はごめんというわけですね」

「つまらない駆け引きはしない。その通りだ。それに、レオナ・エンライト。君も初めからアッシュレイ帝国の力を頼るつもりだったであろう? 君の送った手紙は届きはするが、その返事はどこかで握りつぶされる。君たちが正規の手順で誕生祭に参加するには巫女姫エレシアの誕生祭に招かれているクリス・ヴィリアーズ公爵の使者として潜り込むのが一番早い」

「はて、なんのことやら。……そういう依頼であればお受けしますよ」

そうして、クリスと共にエレシアの誕生祭に参加することが決まった。

……それに加えて、さまざまな密約をレオナとトワイラル侯爵がしているが好きにさせておこう。

エレシアの次はクリスか。

なんの偶然か、邪神とかかわったものたちが集まっている気がする。

ここで、セイメイやカネサダまで現れたら笑ってしまいそうだ。

何はともあれ、俺は俺で準備をしよう。

……今回、戦闘で本気は出せない。俺が本気を出せば、必死に押し隠している瘴気が漏れ出て、もはや俺自身が邪神であることがばれる。

そのためにも、スライムフォー、改めスライムファイブの強化は最優先だ。彼らがいれば、俺が本気を出す必要もなくなるだろう。