軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二話:スライムは旅立つ

俺たちの屋敷があるグランファルト王国に戻ることになった。

巫女姫エレシアを守るため、そして奪われた屋敷を取り戻すために。

そう決めて、三日目の昼になった。

この三日間は壮絶な体験をした。おもに娘たちが。

引き抜き合戦が始まったのだ。

エンライトの姉妹たちはそれぞれのスペシャリスト、当然グランリード王国だって手放したくない。ずっと国にいてほしいと思っている。

……そもそも、母国であるグランファルト王国が異常だ。エンライトの姉妹が国を出るような問題を起こすなんて。

成金デブが暴走するのはまだわかるが、それを王が認めたというのがおかしい。

もしかしたら、あのときにはグランファルト王は正常な判断ができないぐらいに弱っていたのかもしれない。

そんなこんなで、いよいよ出発日になった。

ゴーレム馬車のメンテをニコラが行っている。

「ん。やっぱり腕がたくさんあると便利」

「ぴゅいっ」

ニコラの背中にはリュックのようなものがあり、そこから鋼の腕が四本伸びている。

それらは独立して動き、ニコラの作業を手伝っている。

「ニコラちゃん、すごく器用だね」

「そうね。そんなものを三日で作ったことも驚きだけど、自分の腕と合わせて六つ、よく扱い切れるわね」

シマヅの言う通り、常人離れしている。

ニコラの圧倒的な処理能力を持つ脳だからこそできることだ。

普通は、意のままに動く手が四つ増えてもまともに扱えない。

「簡単な作業しかさせてないから問題ない。……使ってみた感じだとおおむね良好。ただ、0.1ミリ単位での誤差はある。そこは、まだまだ改善が必要」

満足げに、鼻息を荒くしている。

新しい発明品はお気に召したようだ。

あとでアドバイスしよう。関節部に使っている魔法金属合金のジェル、これの加圧による強度変化の計算が甘い。

ここを調整すれば、さらに精度は高まるだろう。

「メンテ終了。これでいつでも走れる」

ニコラのリュックに四本の機械腕が収納され、それを差し出してくるので、ぱくっと食べて【収納】しておく。

あとは、ヘレンとレオナが来れば出発できる。

あの二人は、どうしたのだろう?

「しつこくて、最後まで粘られてしまいましたわ」

「ごめん、待たせちゃった」

ヘレンとレオナが走ってくる。

その後ろには、この国の高官と思わしきものたちが、まだ追いかけてきている。

……まだ勧誘を諦めていなかったのか。

五人の姉妹の中でも、【王】と【医術】はとくに有用だからしょうがないか。

「ニコラ、ゴーレム馬車のエンジン入れといて」

「ん。そうしたほうが良さそう」

すでに、荷物は全部積みこんでいる。

あとは全員乗り込めば出発できる。

オルフェ、ニコラ、シマヅと一緒に馬車に乗り込み、シマヅがドアを開けて手を伸ばした。

馬車がのろのろと動き出す。

そして、ヘレンとレオナが追いつくとシマヅがひょいっと馬車内に二人を引っ張り上げ、ゴーレム馬車が急激に加速した。

二人を追いかけていた高官たちがぽかんとした顔をしている。

「なんか、逃げるような別れになっちゃったね」

「オルフェねえ、仕方ない。一度捕まったら最後」

英雄のはずなのに、まるで逃走劇。

何はともあれ、五人の姉妹が揃って帰れた。

それで十分だ。

馬車の中で体をぐねぐね、変形の練習だ。

まあ、今となってはあまり練習する必要もないのだが、そうでもしないと落ち着かない。

「スラちゃん、妙にそわそわしてるね」

「……あれは何かたくらんでいるわね。父上はそういうとき、急にうろうろしだしたり、ほとんど無意識に変なものを作ったりしだしたわ」

「そうでしたわね。サプライズでプレゼントを贈る日なんて、朝から、そうなるので全然サプライズになりませんでした」

「あれ、気付かれてないと思ってるのパパだけだったよね」

なんだと!?

今まで気付いて、気付かないふりをしていたのか。

そして、今回も図星だ。

とっておきのプレゼントの用意をしており、それを渡す機会をうかがっていた。

「スラ、いったい何を誰にプレゼントする気?」

ニコラが顔を覗き込んでくる。

……本人に問いただされるとは。なんとか誤魔化さねば。

「ぴゅ~ぴゅぴゅぴゅ~♪」

こんなときにはスラ口笛。本当にスライムで良かった。

「ああ、スラちゃん。ずるい」

「困ったらいつもそれよね」

オルフェが大きな声を上げ、シマヅが呆れている。

仕方ない。スライムだもの。

そうして、にぎやかに旅路は続く。

夜になり、森に入って野営をする。

いつものようにオルフェが弓を持って狩りに出かけた。シマヅも同行する。

あの二人は、食料調達がうまい。今日も獲物をたくさんとってくるだろう。

……さて、そろそろいいか。

テレパシーで待機させているスライムフォーに連絡をとる。

偽スラちゃんたちの中で最精鋭であるスライムフォー。

一体は戦闘力がないレオナの護衛に張り付けて、一体は常に俺の近くに待機し、いつでもサポートできるように。

そして、二体は特殊な改造をして重要任務を任せていた。

今、連絡を取ったのはその二体だ。

『ぴゅっぴゅ(配置に着いたか?』

『ぴゅいっさ! ぴゅぴゅぴ(イエッサー! いつでもいけます』

重畳。

さすがはスライムフォー。できるスライムだ。

あとは主役を呼べばいい。

焚火に当りながら、屋敷から持ち出した技術書を読んでいるニコラの裾を引っ張る。

「スラ、いきなり何?」

「ぴゅいっ! (こっちに来て!)」

ニコラを引っ張ってきて、あれを取り出しやすい位置に移動する。

さあ、これでいいだろう。

「ぴゅいっ、ぴゅいっぴ!(おまえたち、あれを持ってこい!)」

「「ぴゅいっさ!」」

テレパシーではなく、鳴き声で返事が戻ってくる。

空を見上げると、ニコラもそれに習う。

二体の翼が生えたスライムが、それを持ってきた。

一見、魔法金属で出来た鎧に見える。

しかし、ただの鎧ではない。

着たものの力を増幅し、動く鎧で空を舞う。

いわば、機動兵器とでもいう代物。

……ニコラが竜殺しのために作りあげた最高傑作。

名をゲオルギウス。

「ゲオルギウス! スラ、回収してくれた!?」

「ぴゅっへん」

海底の奥深くに沈んだゲオルギウス、偽スラちゃんをつけて位置だけは把握していたが、海底数千メートルから引っ張り上げる力がなく、今の今まで回収できなかった。

だが、ようやくその力を得てスライムフォーに回収を命じたのだ。

さすがのゲオルギウスも深海の水圧で関節部は変形してしまっているし、ゴミなどが付着して不格好だ。……しかも、変に気が利くスライムフォーは、リボンで飾り付けまでしたせいでシュールな格好になっていた。

どや顔をしているスライムフォー二体はあとで折檻だ。

ゲオルギウスはそんな有様でもうちに秘めた力、ニコラの込めた情熱の炎は輝きとなり、見るものを平伏させる何かがあった。

「ありがと。スラ、作り直すには何年もかかるって思ってた。うれしい」

「ぴゅいぃ~」

ニコラが俺を抱き上げ、頬にキスをする。

……がんばった甲斐があった。

娘のキスされる以上の喜びが他にあるだろうか? いや、ない。

「ゲオルギウス、修復……ううん、改良する。ゲオルギウスが海に沈んでから、ずっとどうしたらもっと強いのを作れるのか考えた。それを形にする」

機械腕を作ると決めたとき以上にニコラが燃えている。

きっと、すごいものを作る。それを見るのが楽しみだ。

残りの姉妹たちは、俺たちを少し離れたところから見ている。

ゲオルギウスのことは、あの場に居なかったヘレンもレオナも知っている。

感動の再会に水を差したくないからだろう。

しばらくするとオルフェたちが獲物を手に戻ってきた。

木の籠には、たくさんの川魚と山菜が用意されていた。

「あれ、オルフェお姉ちゃんとシマヅお姉ちゃん、釣竿なんてもってなかったよね」

「レオナ、そんなもの必要ないわ。川に入って、こうすると魚はとれるの」

といって、シマヅは腕を振るう。

それは川で鮭をとるクマのような動き。妙に似合っている。

「まるまる太ってたイワナが川で跳ねるのを見てね、今日はお魚にしたんだ。串焼きにして、焚火で炙ると絶品だよ」

それはいい趣向だ。

そう言えば、キョウで買い込んだ米で出来た極東の酒がある。

魚にはあれが一番合う。今日はいい夜になりそうだ。

オルフェとシマヅが手際よく、内臓を取り除き、塩を塗りこんでから串にさして、焚火の近くにイワナ串を並べていく。

じゅうじゅうと食欲をかきたてる音といい匂いがして、よだれが垂れそうだ。

「みんな、焼けたよ。どんどん食べてね」

「ええ、お代わりはたくさんあるわ」

これはスライムまっしぐら!

スライム跳びをしようとすると背後から抱きしめられた。

ニコラだ。

彼女は、焚火の傍に座ると、俺を膝に乗せてイワナ串を差し出してくる。

「スラ、ゲオルギウスのお礼。今日はニコラが甘えさせてあげる」

その言葉のとおり、ニコラは俺の口もとにイワナや酒を運んだり、ときおり撫でたりと甲斐甲斐しく世話をしてくれる。

これは極楽だ。

こうして夜が更けていく。

おそらく、ニコラの腕ならグランファルト王国に着くまでにゲオルギウスを動けるようにする。

切り札が一つ増える。

あれを一番うまく使えるのは俺だ。

今度は壊したり、海に沈めないように気をつけよう。