軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第一話:スライムは手紙を受け取る

進化したことで新たな力を得て、上機嫌でオルフェたちのもとに戻る。

ただ、進化したことで不都合も生まれた。

溢れ出る瘴気だ。

瘴気とは邪神とその眷属が使う魔力のようなもの。

今までの俺は瘴気も使おうと思えば使える程度でしかなかったのだが、今や魔力と同じように常に血液のように体を巡っている。

……見るものがみれば、確実にそういう存在だとわかる。

問答無用で襲われるかもしれない。

それはまずい。

なので、瘴気を生み出す器官と循環させるためのパスを魔力で覆って瘴気を漏らさないように自らの体を作り替えた。

ここまで繊細な作業は進化前では到底不可能だっただろう。

そして……。

「ぴゅいぴゅぴゅ(魔術回路作り放題か)」

もう一つ進化で大きな変化がある。

今までは、過去の俺の魔術回路を劣化再現が限界だった。

だが、今では望むままに魔術回路を生成できる。

つまりは魔術回路自体を好きに設計できるのだ。

量も質も自由自在。

これは燃える。

どうしても先天的な魔術回路によって使える魔術と使えない魔術が存在する。

しかし、今の俺は魔術に会わせて魔力回路を作り替えることでありとあらゆる魔術を使える。

久々に、研究者、求道者として心に火がついていた。

何パターンか、魔術回路を設計しておこう。しばらく退屈しないで済みそうだ。

帰る前に城下町に寄り道する。

もうすでに早朝と呼べる時間だ。

【創成】の力を借りて、変身し、【収納】から取り出したローブを纏う。

思ったとおり、青年の姿になれた。力が増したおかげだ。

以前のように時間制限もとくにない。

【収納】していた金を使い、買い物をするために城下町に来た。

大人用の服などがほしいし、進化で体力を使ったせいか小腹がすいている。

早い時間なのに空いている店はそれなりにあり、簡素な服と果物を買い込む。

リンゴにかぶりつくと、しゃきっとした歯応えと瑞々しい果汁が溢れた。

「朝の散歩も悪くないな」

こうして、一人で街を歩くのはいつ以来だろう?

そんなことを考えながら、城までの近道に裏路地に入る。

すると、背後から気配を感じた。

俺でなければ気付けないほど、完璧に気配を消し、音もなく近づいてくる。

もっと詳しく言うなら、人では持ちえない感知系のスキルがなければ気付けなかったほどの使い手。

そして、その何者かは俺の上着へ手紙を入れて、消えていった。

……相変わらずだな、あの子は。

「久しぶりにあったんだから、少しぐらい話をすればいいのに」

六人目の娘、他の姉妹たちが知らない最後のエンライト。

【影】のエンライト。

暗殺・諜報のエキスパートにして、姉妹のなかで唯一特別な使命を持っている子だ。

それゆえに、あの子にだけはスライムへの転生計画を伝えていた。

あの子が俺に連絡を取る。よほどのことが起こっているのだろう。

そう思い手紙を見る。

なるほど、これは厄介だ。

買い物を終えた俺は、再びスライムに戻って翼を生やし城に戻る。

窓からぴゅいっと入る。

体を溶かせば、鍵が閉まっている窓からでもするっと入り込める。

スライムの利点だ。

借り受けている部屋に戻ると、いきなりオルフェが抱き上げてきた。

「あっ、スラちゃん。また、勝手にいなくなって」

「ん、探した。また、何か変なことしてそう」

「……体の色が変わっているわね。それに、魔力量が跳ね上がっているわ」

「それだけじゃないですわ。とんでもない力を漏れ出ないようにしています」

「ぴゅーぴゅぴゅぴゅー♪」

娘たちの追及をスラ口笛でごまかす。

屋敷や馬車の中でない限り、スライムとして扱う。そのルールがあるから今は逃げられる。

「もう、スラちゃんは困ったらすぐにこれだもん」

「声帯を作るのが辛いって言ってるの、本当かあやしい」

「ええ、スラさんが普通に話せても驚かないわ」

……鋭い。

今回の進化でもう俺は普通に言葉が発せられる。声帯作りも一瞬だ。

「ぴゅーぴゅぴゅぴゅー♪」

だから、とりあえずスラ口笛でごまかす。

本当にスラ口笛は便利だ。

「みんな、レオナが待っていますわ。早く行きましょう」

「あっ、そうだった。大事な話があるって言ってたね」

レオナが大事な話? あの子が接触してきたこのタイミングでというのは偶然だろうか?

しかし、それを考える暇もなくオルフェに抱きかかえられ、朝食が用意されている部屋に向かった。

大事な話は朝食を食べながら行う。

レオナが料理を運ばせたのは、いつも使う部屋ではなく、機密情報をやり取りするために作られた特別な部屋。

姉妹たちと俺が部屋に入ると、扉が閉められ、音を遮断し、侵入者を拒む結界が張られる。

朝食のメニューは話しながら食べられるように、サンドイッチだ。

シンプルだが、生みたて卵を使った卵サンドも、生ハムをたっぷりと挟んだハムサンドも美味しいし、デザートのイチゴと生クリームを挟んだサンドイッチには幸せが詰まっている。

「みんな、集まってくれてありがと。朝ご飯を食べながら、私の話に耳を傾けて。あと、パパ。ここなら問題なくパパとして振舞えるから、そうしてね」

屋敷と馬車以外ではスラちゃんルールと言っても、この部屋であれば秘密が漏れることはない。

進化する前から愛用している少年の姿を取る。

「そうだな。これより、マリン・エンライトとして会話をしよう」

娘たちの視線が俺に集まる。

「前から思ってたけど、お父さんって子供の頃はすごくかわいかったんだね。ほら、お父さん。あーん」

「ん。こんな弟がほしい。あーん」

オルフェとニコラがサンドイッチを食べさせながらうれしそうにしている。

娘にこういうことをされるのは……すごくいい。

「……オルフェお姉ちゃん、ニコラ。大事な話があるから、脇道にそれない。まっ、気持ちはわからなくないけど」

そう言えば、昔は女顔でよくからかわれたな。

年を取るにつれて、そういうことはなくなったが。

「ごほんっ、それでね。まずはいいほうの話からね。ようやく、この国も落ち着いてきた。もうエンライトの力なしでやっていけるよ。お姉ちゃんたちありがと。ほんとうに助かった。私の契約は満了。報酬も受け取ったし、引継ぎも終わらせた。いつでもみんなで帰れるよ」

レオナが出ても大丈夫と言うなら、大丈夫だろう。

彼女の顔にはクマができている。

仕事の追い込みというよりは、引き留める連中から逃げるのが大変だったのだろう。

「レオナ、それ本当? 嬉しいな。みんなで屋敷に戻れるなんて」

「ん。屋敷の工房が恋しい」

オルフェとニコラが真っ先に喰いつく。

彼女たちにとって、アッシュポートの屋敷で全員で暮らすのは夢だった。

最終目標は、エンライトの屋敷を取り戻すことだが、それはもうしばらくかかりそうだ。

「今、いいほうの知らせと言ったわよね。悪いほうの知らせは何かしら?」

冷静なシマヅの声が響く。

「それなんだけどね。グランファルト王国がちょっときな臭いんだよね。巫女姫エレシアの誕生日を祝う催しがあるんだけど、そこでひと悶着ありそう」

グランファルト王国とは、エンライトの屋敷がある国だ。

「エレシアか」

懐かしい名だ。

かつて、エンライトの屋敷に修行のため来ていた王族にして、【暴食】の邪神との戦いでは共に戦った戦友。

「具体的にはどう悶着があるのですか?」

「まだ表に出てない情報だけど、グランファルト王国の王様ってそう長くないんだよね。それでね、その催しでは後継者の指名を行う。わざわざ、エレシアの誕生日を祝う場でそうするってことは、どういうことかわかるでしょ?」

「なるほど、後継者はエレシアってわけか」

「うん。圧倒的な国民からの人気、【暴食】の邪神を滅ぼしたこと、それからエンライトと友好的な関係があること。それがエレシアの強み。でも、当然面白くないって思う人も多いわけ。とくに後妻とか、その後妻の実家の公爵家と取り巻きとか、その息子とかね」

だいたい状況が見えてきた。

エレシアの身に危険がせまっている。

あの子の母親はすでに死んでおり、後妻は公爵家出身で政治的な手腕に長けており、国王の寵愛のもと公爵家の勢力を要職につけやりたい放題をしている。

あの女王にとって、国王が死に寵愛が失われ、自分が嫌がらせを繰り返していたエレシアが王座に就くのは悪夢だろう。

国王の寵愛があればこそ、やりたい放題できた。その寵愛を失えば、彼女もその取り巻きも今までやってきたことの報いを受ける。

……それを指を加えて見ているわけがない。

ここまで話が進んでいるなら政治的な妨害は失敗している。なら、最後に残るのは実力行使。

「早く、エレシアのところに行かないと!」

「ん。あの子は友達。守る」

「ねえ、父上。その公爵家はたしかエンライトの屋敷を奪った成金デブのところよね」

「あらまあ、それならエレシアが王になるのなら簡単に屋敷を取り戻せますわ」

エレシアを助け、屋敷を取り戻す。

完璧なシナリオだ。

「だからね、次の目的地はグランファルト王国にしたい。エレシアに連絡すれば、招待状ぐらいもらえるだろうしね」

「賛成」

「ん。反対する理由がない」

「私もよ。父上との思い出の場所、必ず取り戻すわ」

「万が一のために、大抵の毒を治す薬を作っておきますね」

満場一致で、次の目的地が決まった。

俺たちの故郷グランファルト王国。

実は、あの子の手紙もこの事件の絡みだ。

もしかしたら、五人の姉妹に六人目を紹介することになるかもしれない。