作品タイトル不明
プロローグ:スライムは進化する
【傲慢】の邪神を倒したあともグランリード王国に残っていた。
早く帰りたいのはやまやまだが、邪神と七罪教団の残した爪痕は大きい。
国の中枢まで入り込んで好き勝手やられていたせいで、多種多様の問題が噴出し、エンライトの姉妹たちが復興に協力することになった。
だが、一か月も経つころにはだいぶ落ち着いてきた。
貸し与えられた部屋で、日課のスラ体操をしている。
目に見えて変身技術が向上しているので、スラ体操もどんどん複雑になっている。
十六本の触手を駆使して、銃を分解、メンテ、再構築を数秒で終わらせた。
……体操ではない気はするが趣味と実益を兼ねている。
「スラ、羨ましい。ニコラもたまに手がたくさんほしくなる。二本じゃ作業効率に限界がある」
銀髪の小柄なドワーフ、ニコラが無表情なまま、目だけをらんらんと輝かせて、スラ触手を見ていた。
『作ればいいんじゃないか? 機械腕』
もうスラ文字を体表に浮かべられることはばれてしまっているので、ぴゅいっで伝わりにくいときは文字で意思疎通をしている。
声帯を一々作るのはさすがに面倒だが、こっちは楽だ。
「いい考え。作業用の機械補助アーム。思考を読み取る機能と、極限の精密動作に、一定以上の強度と信頼性。むしろ、機械なら、生身じゃできない機能をいろいろと盛り込んで……腕がなる」
ニコラの目がらんらんと輝いている。
凄まじい勢いで、仕様を作り始めた。
目標が出来たのはいいことだ。
……もうすぐニコラにはプレゼントを届けてやれる。機械腕を使ういい機会になるだろう。
プレゼントは俺とクリスを助けるため、海底に沈んでしまったゲオルギウスだ。
もともと、あれが沈む前に偽スラちゃんを一匹くっつけているので座標はわかっていた。
ただ、海底二千メートルというとんでもない深度であり、たどり着くだけならともかく、引き上げることは不可能だった。
だが、力が増した今なら深海対応の偽スラちゃんを作れるし、引き上げるだけの出力を持たせられる。
とはいえ、普通の偽スラちゃんでは無理だ。精鋭部隊スライムフォーのうち二体を一時的に、マリンスラちゃんに改造して引き上げさせる。
すでに改造を済ませており、スライムフォーの二体が翼を生やして飛んでいった。
きっと、あれが届くとニコラは喜ぶだろう。
ゲオルギウスはニコラの最高傑作であり、夢の結晶だ。
キスぐらいしてくれるかもしれない。
「ぴゅふふふふふ」
「スラ、なんか変な顔をしている」
「ぴゅいっぴゅ!(なんでもないよ)」
そんなふうにスラ体操していると、天使のヘレンとキツネ耳少女のシマヅが帰ってきた。
二人とも、疲れているようだったので【収納】していた、疲労回復ドリンクを渡す。
「ありがとう。スラさん、美味しいわ」
「このドリンク、いつか売り出したいですわね。凄まじい需要になりますわ」
ドリンクはヘレンと俺の共作だ。
安い材料で、味も悪くなく、疲れを抜き、消耗した筋肉の再生を促す効果がある。
ヘレンの言う通り、市場に流せば人気商品になる。
このドリンク一つで、億万長者になれるだろう。
「ん。問題は数をつくれるか。一日、千は作るとなると手作業じゃ無理。自動化した製造ラインが必要」
「別に数を作らなくても単価を上げて、富裕層向けや軍を相手にすればいいですわ」
「儲けるだけならそう。でも、普通の人たちにも使ってほしい。これはみんなを幸せにする」
驚いた。
ニコラが、他人のことを考えるなんて。この旅でニコラも成長しているのだろう。
「そっち方面で私は何もできないですわ。ニコラ、手伝ってくれる?」
「わかった。作業補助用機械腕が終わったら」
こうして、どんどんやりたいことが増えてくる。
『ヘレン、シマヅ、仕事は順調か』
スラ文字で問いかける。
「そうね。残党もあらかた始末したわ。あとは、この国の戦力でもどうにでもなると思う」
「依存症も一か月の治療で完治させました。今は、この国の技術じゃ治せない人たちを個別に依頼を受けて治療しているところですわ。そっちもひと段落しております」
そうか、シマヅもヘレンも役目を果たしたか。
そう言えば、オルフェはどこに行ったのだろう?
「ただいま。たくさんお菓子もらってきたよ」
エルフのオルフェがお菓子がたっぷりつまったバスケットをもってやってきた。
オルフェはグランツリード王国の魔術研究室に籠り、この国の魔術を勉強していた。
レオナが手配して、ありとあらゆる資料の閲覧許可を得ていたので、研究者肌のオルフェは思う存分学んでいた。
それとは逆に、超一流の魔術士であるオルフェから学ぶために、この国の魔術士たちが何人もやってきて毎日楽しく議論をしている。
……ただ、オルフェの可愛さに夢中になり、下心まじりでお菓子の差し入れする男どもが多く、こうしてオルフェはお土産を持ち帰るようになった。
「オルフェねえ、いつも助かる。糖分は大事」
「魔術士ってお金があるのね。高級なお菓子ばかりよ」
「まあ、多少は無理しているのでしょうね。オルフェが可愛いから」
「ぴゅいっぴゅ!」
美味しいお菓子を遠慮なくいただく。
グランリード王国は、古くから文化に力を入れている国なので、お菓子も美味しい。
とくに、クリームたっぷりの揚げ菓子はお気に入りだ。生地に工夫をして油を吸いすぎないようにしているし、油自体も良質でさっぱりしているので、くどくならない。レシピを知りたいぐらいだ。今の俺なら、触手で料理ぐらいできる。
「この国の魔術、独特ですごく面白いよ」
「ん。基本思想レベルで違うのはニコラにもわかった。……ただ、工学・科学・錬金術はあんまり発展してないのは残念」
オルフェがお菓子を食べながら、楽しそうに魔術の話をする。
娘の楽しそうな顔を見ると、こっちまで幸せになる。
一通りオルフェは、この国の魔術を理解したようだ。
ここから先は、オルフェなら自力で先へ進める。これ以上、ここで学ぶ意味は少ない。
シマヅとヘレンの仕事も終わったし、そろそろ出発をしてもいいかもしれない。
レオナから内政の立て直しも順調と聞いている。
レオナと一度話をしよう。これ以上、ここに残ればこの国はエンライトの姉妹たちに依存してしまう。
ヘレンに次々と邪神災害以外の治療依頼が来てしまっているのがその証拠。
そろそろ、出発したほうがいいタイミングだ。
◇
レオナは今日一日外出しているので、話をするのは明日だ。
護衛のスライムフォーにレオナ宛に明日話をしたいと伝えさせた。
そして、俺は。
「ぴゅい、ぴゅうー(ついにこのときが来たか)」
この一か月、俺はスライム体操しかしていなかったわけじゃない。
偽スラちゃんたちを外に放ち、魔物を狩らせて、さらなるスキルの獲得とステータスの増強、スライム細胞のストック確保を行っていた。
それらにより、さらなる力を得て、治療用のスライム細胞、魔力バッテリー用の偽スラちゃんも十分確保した。
この状況でなら、進化を試せる。
そう、【傲慢】の邪神ルシファーは厳密にいえばまだ生きている。【収納】のなかで。
奴が力を取り戻さないように、常にその力を削ぎ続け、消滅寸前状態にしていた。
最初は、いろいろと文句を言っていた奴も最近ではすっかり大人しくなっている。
さっさと【吸収】したかったが、進化をすれば凄まじいダメージが全身を襲う。治療用のスライム細胞がない状態で進化すれば、命を落とす可能性すらあり、激戦でスライム細胞を失っていた状態では進化したくなかった。
だが、今なら問題ない。
「ぴゅいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
ストックした偽スラちゃんたちと合体し、巨大なボディのスーパースラちゃんになる。
さらに、それを元のサイズまで圧縮することでスピードとパワーを両立したスーパースラちゃん2へと。
この状態で、【収納】していた【傲慢】の邪神ルシファーを【吸収】。
どくん、スライムボディが震える。
どくんどくん、体が波打ち、どんどん変形し、膨らんでいく。
意図しない形で、スライム触手が次々と生えて、周囲の木々を貫き、倒す。
体が飛び上がり、地面に叩きつけられる。
魔力が荒れ狂い、周囲に傷跡を残す。
「ぴゅいいいいいいいいいいいいいいいい」
痛い、熱い、存在が歪む。
圧倒的な力が、己のすべてを塗りつぶし、狂わせていく。
体はくれてやる。
だが、この魂だけはゆずりはしない。
スーパースラちゃん2の爆発な力を魂に込めて、俺を俺じゃなくする力から守る。
「ぴゅああああああああああああ!」
半狂乱で暴れ続ける。
大地に巨大なクレーターができ、恐怖を感じた魔物や動物たちが、山中から逃げ出していく。
爆音があたりに響き続け、地形が変わっていく。
もはや、局地的なハリケーンとなっていた。
進化の力に耐えきれないスライム細胞が死滅し、死んだスライム細胞が撒き散らかされる。
それは、過剰なまで注がれた力によりマグマのように煮えたぎり、破壊によってできたクレーターに溜まり、地獄のような光景が生み出される。
まだまだ、力が膨らみ続ける。
その熱に隠れるように、底冷えする冷たい瘴気が体を侵し続ける。
体が消えないようにスライム細胞をつぎ足し、魂を守るために必死で、魂を守るための術式と魔力は維持し続けるようにして耐え続ける。
そして……日が昇るころ、やっと嵐が過ぎ去った。
人気がない山の上で、進化を行ったのだがそこはもう山じゃなかった。
山だったはずの場所は抉れて、煮えたぎるスライム細胞のマグマの湖になっていた。
その湖の上を鳥が通ると湯気に交じった瘴気で墜落し、マグマで溶けた。
その中心、かろうじて作った足場で起き上がる。
「……ぴゅい、ぴゅっぴゅ(用心して良かった)」
今回、魔力補充用のスライムバッテリーが五十二体、治療用の偽スラちゃんニ百一体を使った。
逆に言えば、そうしなければ死んでいた。
だが、それだけの代償を払った甲斐があり、無事に進化を果たしている。
大きな変化は、圧倒的なステータスの向上。
【傲慢】の邪神の使う【傲慢】能力の獲得。
【吸収】がさらなる進化を遂げたこと。
そして、もはや瘴気を呼吸のように使えるようになり、さらには魔術回路は全盛期の俺にすら匹敵する数と質を得た。
「そうか、もう俺は魔物ですらなくなったのか」
あれほど面倒だった声帯作成もまったく苦にならない。
魔術を次々に行う。
スライムの身では行えなかった高難易度の魔術、それを三つ同時に放てた。
もはや、俺に勝てる魔物なんて存在しない。
至高のスライム、いやスライムを超えた何かになった。
……さて、どうしたものか。
もう、ぴゅいぴゅい鳴く意味はない。
スライムではなく、いわば大いなるものだ。
どうどうと言葉を操り、ペットではなくこの力に相応しい態度をとるべきだ。
ただ、それはそれで寂しい気が。……娘に抱きしめてもらえなくなる。
とりあえず、帰ろう。
周囲の人間たちが何事かと調べにくるころだ。見つかってしまえば面倒だ。
翼を生やす【飛翔Ⅱ】。
一瞬で上空数百メートルにまで到達し、音速を超えた速度で娘たちの待つ部屋へと向かった。
種族:デミエヴォル・スライム
レベル:51→54
邪神位階:邪神
名前:マリン・エンライト
スキル:吸収→超吸収new! 収納 気配感知 使い魔 飛翔Ⅱ 角突撃 言語Ⅱ 千本針 嗅覚強化 腕力強化 邪神のオーラ 硬化 消化強化Ⅱ 暴食 分裂 ??? 風刃 風の加護 剛力Ⅱ 精密操作 嫉妬 水流操作 覚醒 脚力強化 追い風 粉砕 精神寄生 怠惰 瘴気操作 水神の加護 火炎操作 火炎耐性
魔術士 魔力向上 魔術耐性 神速 死霧 色欲 創成 傲慢new! 複製生成new!
所持品:強酸ポーション 各種薬草成分 大賢者の遺産 各種下級魔物素材 各種中級魔物素材 各種上級魔物素材 邪教神官の遺品 ベルゼブブ素材 人形遣いの遺産 レヴィアタン素材 湖の水 アスモデウス素材 ルシファー素材 クッチャカッチャ素材
ステータス:
筋力S→S+ 耐久S→S+ 敏捷S+→S++ 魔力S→S+ 幸運A+→S 特殊EX
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