軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十一話:スライムは大賢者となる

ただでさえ、強いクッチャカッチャ……いや、邪神の力を解放した奴は、【傲慢】の邪神ルシファーと呼ぶべきだろう。

【傲慢】は前提条件を無視する力。

本来、対象を吸収体で捕らえないとできないはずの、技量・経験・スキルのコピー、複製人間の合成を無条件で実施されてしまう。

滅茶苦茶もいいところだ。

こちらの戦力を問答無用に奪われるのだから

奴はすでにシマヅの力を得て、ここに配置されたすべての兵の肉人形を生み出した。

肉人形は王都に進撃している。放っておけばあっという間に王都は陥落してしまうだろう。

そちらはレオナに任せる。同じ戦力であれば彼女が負けるはずがない。

あの子は【王】のエンライトだ。

「私を楽しませてみせよ。それとも、もう手札は尽きたか」

クッチャカッチャは笑いながら、シマヅに斬りかかる。

シマヅが押されている。

無理もない、奴はシマヅの技量を盗んだのだ。剣技は互角。元の身体能力が劣っているのだから、不利になるのは当然。

「ぴゅいっ!」

オリハルコンの槍に変形して突進する。

俺であれば、シマヅと同等の技術を持つ二人の打ち合いでどこに隙ができるかはわかる。

奴の脇腹に突き刺さり、そこから【収納】していた対クッチャカッチャ薬品を注ぎ込むと、奴の表情が苦悶に歪んだ。

この薬は、奴が完全体となった今でも有効。

そして、ここにいるのはシマヅと俺だけじゃない。

「動きが止まった今なら、私でも当てられる!」

「ん。余裕」

「シマヅにばかりいいところは見せられないですわね」

【憤怒】の邪神の力を引き出したオルフェの黒炎、【錬金】のエンライトたるニコラの最高傑作機械筒による砲撃、白い翼の一族のみに許された光の魔術が【傲慢】の邪神ルシファーを捉える。

さすがにこれは効いたようだ。

黒炎が触れた部分は滅却され、砲弾は肉を抉り、白い光は大穴をあける。

それを見逃すシマヅじゃない。

空蹴りで下向きに加速し、落下する奴を追撃。渾身の一撃で両断する。

俺も黙っているつもりはない。

「ぴゅいいいいいいいいいいいいいいい(スラビーム)」

真っ二つになって落ちていく奴に、強酸混じりの強烈な水流を喰らわせる。

地面に叩きつけられ、土ぼこりが舞う。

「お父さん、やったよね!?」

オルフェが興奮した声を上げる。

感知系のスキルを使い状況確認。

まずい。

「ぴゅいっ!(【嫉妬】)」

オルフェたちのほうへ全力で飛行、ドーム状に体を広げて彼女たちを包み、【嫉妬】の邪神の能力を使い奴の肉体に嫉妬した。

次の瞬間、無数の肉槍がスライムボディに突き刺さる。

鋭く速い一撃だ。戦闘に特化したシマヅ以外の娘たちなら反応できなかっただろう。

スライムボディを薄く広げて防御力は下がっても、今の俺は奴の能力に対して無敵。効きはしない。

だが、肉の槍をスライムボディに突き立てた状態のまま、魔術の白い光が襲い掛かってきた。

ヘレンの魔術。奴はヘレンの魔術まで盗んでいたのだ。

あれはオリハルコンでも貫く。

「ぴゅっ(ちっ)」

【嫉妬】が耐性を得られるのは一つだけ、異なる属性の同時攻撃にはひどく弱い。

ぎりぎりで体表のオリハルコン化と角度調整が間に合った。

鏡面加工し角度を付ければ、弾くだけならできる。

オルフェたちに直撃する光はすべて弾いた。

逆にそれを最優先にしたため、オルフェたちに直撃しないコースのものは何発かくらい、スライム細胞がいくらか消滅した。

「ぴゅぐ……」

スライム細胞がばらばらになりそうな痛みが走った。ダメージによるものではない。

【嫉妬】と高度な変形の併用は俺のキャパを超えている。その代償だ。

スライム細胞が震え、強制的にデフォルト状態に戻る。

土煙が晴れて、奴の姿が視認できる。

真っ二つになった肉がくっつき、抉れた肉が盛り上がり、酸で溶けた体調が再生する。

けっして再生しない、【憤怒】の邪神サタンの炎で焼かれた箇所は斬り落として、斬り落とした場所から肉が再生する。

「嫌になるわね。あれ、どうやったら殺せるの」

「ダメージは与えていますわ。あれは圧縮しておいた肉を広げているだけ。きちんと削ってはいますもの」

ヘレンの言うことは正しい。

奴は俺と同じだ。

圧倒的な容量を圧縮し、肉を失うと圧縮を緩めて傷を埋めてパフォーマンスを落とさない。

オルフェの黒炎や、ヘレンの光魔術、酸のような細胞を消滅させるものを喰らうと、じり貧になっていく。

「ん。問題は、どれだけ相手に容量があるか」

「わからない以上、削り続けるしかないね」

額に脂汗を流しながら、オルフェがつぶやく。息が荒い。

邪神の力を使う、黒い炎は彼女にとってもろ刃の剣だ。消耗が激しい。

【傲慢】の邪神ルシファーが微笑む。

「面白いなぁ、面白い。だが、いい加減飽きたし、これ以上消耗するのは避けたい。君たちを倒してからのほうが私の仕事は多い。だから、詰みにしよう。初めから、終わりにしようとしたらいつでもできたんだよ」

笑う【傲慢】の邪神に黒い炎と、砲撃と、白い光が襲いかかる。

こちらは待っていてやるほどやさしくない。

しかし、【傲慢】の邪神ルシファーは黒い炎を相殺し、砲撃を見切って最小限の動きで躱し、水魔術を使った鏡面を生み出して光を逸らしてしまう。

一呼吸で二つの魔術と体捌き。

超人的な魔術の技量がなければできないが、そのほかにも人の限界を超えた反射神経、適切な行動をとるだけの知識と経験が必要だ。

さっきまでの奴ならできなかったし、こんな真似ができるのは世界に一人しかいない。

オルフェが真っ青な顔になり、震える唇で言葉を紡ぐ。

「今の魔術、こんなことできるの、お父さんしか」

【傲慢】の邪神ルシファーは一瞬で距離を詰めて、肉体を変質させた剣でオルフェを斬ろうとする。

その剣をシマヅがとめた。

そして、斬り合い。

さきほどまでも技量をコピーされたこともありシマヅは不利だった。だけど、今回は不利の度合いが違いすぎる。

技量でシマヅが圧倒されていた。

詰み将棋のように一手一手追い詰められ、隙だらけになった腹部に蹴りを喰らって吹き飛ばされる。

俺が割り込む隙もない。

シマヅが【傲慢】の邪神ルシファーを睨む。

「……父上の技量と経験をコピーしたわけね」

【傲慢】の邪神ルシファーが哄笑する。

「私の【傲慢】は前提条件を無視する。それは、スライムに身をやつしたマリン・エンライトでは使えない技量と経験を得ることすら可能だ。エンライトの姉妹たちよ。君たちは確かに優秀だ。人類史でも類を見ないほど。だけどね、君たち全員、専門分野ですら父に追いついていないし、この 私(ちち) は君たちのすべてを知っている。さあ、この 私(ちち) に勝てるか」

演出なのか、【傲慢】の邪神ルシファーはご丁寧に、全盛期の俺の姿を取る。

オルフェが後退り、シマヅは息を乱し、ニコラは何かを言おうとして口を閉ざし、ヘレンは妹たちを励ましているがその動揺を隠せていない。

エンライトの姉妹たちの心が折れた。

勝てるわけがない、その目が言っている。

実力差以上に、彼女たちにとって俺の存在が大きすぎた。

勝てなくて当然の相手、そういう認識がある。

気持ちですでに負けているのだ。

「ぴゅい(娘たちには困ったものだ)」

シマヅとヘレンが持ってきてくれたもの。

それは、【進化の輝石】に必要な素材だ。

かつて極東で得たゲンマ石以外にも、いくつもの素材が必要になり、スラちゃんのままじゃどうしても手に入れられなかったものが二つあった。

材料さえそろえば、新たな【進化の輝石】は作れる。

完成したのは戦いが始まるぎりぎり。

だが、ちゃんと間に合ってくれた。

【収納】で取り出した【進化の輝石】をかみ砕く。

魔物には人間にはない可能性がある。それは進化だ。

その進化を人為的に引き起こそうとして作り上げた宝玉。一次的にすぎないが高次の存在へと姿を変える。

それを、すべての魔物の中でも最も、進化の可能性をもった、【無限に進化し続けるスライム】の身で解き放てばどうなるか?

その答えをここで見せつける。

【進化の輝石】を吸収した体に力がどこまでも溢れてくる。

スライムの特徴である自由自在の形状変化、色素変化、質感の変化、硬度の変化、その能力が極限まで高まる。

今の俺ならなんにでもなれる。

だからこそ、俺が知る最強の姿になる。それは悪魔? 否。それはドラゴン? 否。それは巨人? 否。

思い描く最強はただ一つ……。

形を変えた。

色を変えた。

硬さを変えた。

魔術回路の疑似生成。

思考能力の強化のため、仮想思考領域の生成、直列回路と並列回路、バックアップの形成。

魔力循環の最適化。

最強を形作っていく。

いつの間にか、スライム跳びしていた俺の体は二本足で走っていた。

「【傲慢】の邪神ルシファー。俺もかつての姿を取り戻した。どっちが勝つと思う?」

「もちろん私だ。なにせ、私は君と同じ能力を持ち、それ以外にもさまざまな力を持つ。体力だって無尽蔵。かろうじて力を取り戻した君に負けるはずがない」

道理だ。

だが、そう単純に行かないのが戦いだ。

「俺は違う答えを持っている。技量でも、経験でも、スキルでもない、とても大切なものが俺にはある」

息を吸い込む。

いつものアレをしよう。

「我が名は大賢者マリン・エンライト……これより、エンライトを執行する」

それは、いつもの口上。マリン・エンライトがエンライトの名に恥じぬ戦いをするという死刑宣告。

これを受けて死を免れたのは、【憤怒】の邪神サタン、ただ一体。

姉妹たちに見届けてほしい。

父(マリン・エンライト) は絶対ではないと、この戦いを見て、父の背中を超えて行ける。そう感じ取ってほしい。

そういう戦いはする。

だからこそ、口上をあげたのだ。