軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十二話:大賢者は導く

大賢者マリン・エンライトの姿に戻る。

魔術回路が全盛期のものになったことで、今まで生み出したすべての魔術を使用できる。

そして、人の形をしている故に武術も振るえる。

魔力容量は跳ね上がったが、魔力量は回復しないので、【収納】していた魔力バッテリー用の偽スラちゃんから残らず魔力を絞り切り補充する。

「大賢者・マリン・エンライト。その姿を取り戻したところでどうなる? こちらは君と同じ能力だけじゃなく、ありとあらゆる偉人たちの力、君の娘の力すら使えるというのに」

「それは正しい、だが貴様が真似できないものもある」

身体能力強化魔術の重ね掛けを行いながら、かつてエンライトの屋敷から持ち出していた自らの愛剣を【収納】から取り出し振るう。

儀式礼装パラケルス。

それは、自らが振るうことだけを考えて設計し、鍛えぬいた魔剣にして、魔杖。

こと、賢者マリン・エンライトの装備としては世界最高。

剣として振るえるが、杖としての効果もある。

剣を振るいながら、いくつもの魔術を重ねる。

重力加速、衝撃多重化、斬撃概念付与。

【傲慢】の邪神ルシファーはその名の通り、傲慢であり、会話に集中しすぎて、戦いへの注意がおろそかになった。

その意識の空白を狙った不意打ちに、最高速の斬撃を叩き込む。ゆえに回避は不可能。

かろうじて肉剣で受けたが、一瞬の停滞も見せずに剣ごと奴を斬りさいた。

切断面が波打ち、つぶれていく。

剣に乗せた【衝撃多重化】の術式によるものだ。

切断面から連鎖的に崩壊を連動し、切断面を徹底的に潰し再生できなくする術式。

奴は、破壊が広がり切るまえに翼を生やして距離を取りながら、対抗術式で連鎖を止める。俺の知識があるから出来たことだろう。

「【傲慢】の邪神ルシファー、おまえの能力には制限がある。一定以上の魔力を持つ相手を複製できないし、複雑すぎる武器も再現できない。兵士たちは武装まで複製したのに、シマヅたちを複製せず、シマヅの刀を複製しなかったのがその証拠だ」

これまでの戦いで、やつの手札は見せてもらった。

最初は余裕があって、あえて使わないと疑っていた。

だが、奴の表情の変化、心音。それらに余裕のなさがあった。

人の形をしてくれたから、心を読むことができた。

エンライトの姉妹に対抗するため、俺の姿に変化するのもそれしか手がなかったからにすぎない。

そして、その切り札を使った以上、もう奴に手は残っていない。

「だからどうした。武器の差だけで戦況をひっくり返せるかマリン・エンライト」

「試してみよう」

俺たちは同時に魔術を使用する。

炎と風の複合魔術。魔術士たち一師団で放つ儀式魔術にも匹敵する魔力を込めた一撃。

同じ魔術を使用したのは偶然じゃないだろう。

俺なら、絶対にこうするから。

このまま打ち合えば、奴が勝つ。

儀式礼装パラケルスは杖としても優秀だが、それを基本スペックの差でひっくり返されてしまうからだ。

だが……。

「かはっ!」

お互いの詠唱が完了する直前、三発の弾丸が【傲慢】の邪神ルシファーを貫き、奴がのけぞり詠唱が中断される。

杖を持たない左手には、ニコラが愛用している機械杖の進化版というべきものが存在した。

弾丸の速さは音速の倍をゆうに超える。

数秒しかない詠唱の間だろうが、楽に貫ける。

「【煉獄の嵐】」

詠唱を開始したのが同時だったが、発動したのは俺の魔術のみ。

炎の嵐が奴を包む。

ただの炎ではない、【憤怒】の邪神サタンの炎を俺なりに再現しようとした必滅の炎。

本家ほどではないが、すべてを滅ぼす意志の具現。

ろくに防御術式もなく喰らえば、被害は甚大だ。

その炎の中から、肉剣を構えた【傲慢】の邪神ルシファーが飛び出してくる。体表が焼け剥がれて、もはやその姿はマリン・エンライトと言えるものではない。

放たれるのは、大賢者マリン・エンライトが得意とする、いくつもの魔術で身体能力を加速し、風を推力とした音速を超える突き。

だが、自分の技だけによく知っている。

その太刀筋を読み、躱しカウンターをするが、そのカウンターを奴は受け止め、さらなる追撃も次々と受けられる。

「大賢者マリン・エンライト。コピーしたといっただろう! 太刀筋を知っているのは君だけじゃない」

肉剣が斬れない。

さきほどの剣で学習したのか、かなりの魔力をつぎ込んで肉剣を強化しているようだ。

奴は基本スペックで勝っている分、そっちに魔力を回す余裕がある。

「そうだな。俺の知識と経験があるのなら当然か。だが……全盛期の俺を真似たのは間違いだったな」

剣を受けたはずなのに、奴の全身が切り刻まれ、血が噴き出て墜落する。

追い打ちのようにニコラが作り上げてスラちゃんに【収納】して保管していた爆弾を落とす。

地面に叩きつけられた奴に、爆弾の雨が降り、小型爆弾とは思えないほどの爆発があたりに響き渡る。

剣の型に魔術的な意味を持たせ、剣戟の中で魔術を放つ。剣と魔術を切り離さずに同時に使う。

シマヅが戦場の中で編み出した技だ。

俺が教えたのではなく、シマヅが自らの力でたどり着いた境地。全盛期の俺ならできなかった技だ。

そして、この小型爆弾もニコラの最新作。これだけ取り回しがよく威力が高い爆弾は全盛期の俺は知らない。

今の俺だからこそ、全盛期の俺を圧倒できる。

奴は間違えたのだ。

スラちゃんになって俺が弱くなったと。

「俺は娘たちからたくさんのものをもらっている」

四肢が四散した、【傲慢】の邪神ルシファーは再生に手間取っている。

今なら、大技が放てる。

風を呼ぶ。

これはオルフェの魔術。風を扱う魔術ではすでにオルフェは俺を超えていた。

そして風に乗せるのは細胞を破壊しつくす死の回復魔術。ヘレンが人を癒すための魔術を生み出す際に副産物としてできてしまったものであり、俺は想像すらしていなかったもの。

この二つの分野では、すでにオルフェとヘレンは俺の先にいる。

たしかに、娘たちは未だ、【魔術】【錬金】【剣】【医術】、それぞれの分野で俺を超えたとは言えない。

だけど、それぞれの分野の中で俺を超えているところはちゃんとある。

それを示したかった。

最後の魔術を放つ俺の姿を娘たちが見上げている。

メッセージが届いたかどうかは顔を見ればわかる。

さあ、放つとしよう。

もう残り時間は少ない。

大賢者マリン・エンライトとして残された時間はあと二分。

それだけあれば十分だ。

「【滅光の風】」

オルフェとヘレンのたどり着いた魔術を束ねて新たな魔術を完成させた。

光の風が引き荒れ、奴の細胞すべてを包み込む。

奴は滅びから逃れようと暴れるが、光の風は牢獄となり奴を捉えて離さない。

体の端から光になっていく。体の圧縮を解除し、肉を次から次へと生み出し変化させながら盾にし、消滅をまぬがれようとしている。

思った以上に粘る。

ついに魔力がつきた。魔力バッテリーももうない。

もう、これ以上は何もない。

光の風がやんだ。

奴が笑い、人の形を取り戻し、次の瞬間。

「……父上のメッセージ、受け取ったわ」

シマヅ剣閃がいくつも走る。

その剣閃すべてに魔術的な意味があり、無数の魔術の刃が追撃により奴はこま切れになる。

「ん。ニコラたちはちゃんと進んでた。なら、いつか届く」

ニコラが新開発した。機械杖にて放つ爆弾。弾丸と爆弾の長所を併せ持った新兵器でこま切れになった奴の肉片をさらに細かく砕く。

「お父さん、認めてくれてたんだね」

「その確信があれば、もう迷わないですわ」

俺が先ほど放った魔術をオルフェとヘレンが二人がかりで実行し、光る風が無数の小さな破片になった奴を包みこみ、消滅させた。

そう、娘たちはもう後ろを歩くだけじゃない。

少しずつでも、俺の前を歩き始めた。

この姿でいられる時間は残り五十秒。

もう、伝えるべきことは伝えられた。これ以上大賢者マリン・エンライトでいる必要はない。

いや、一つ約束があった。

「シマヅ、おいで。おまえだけ、この姿で抱きしめてやれなかった」

シマヅが顔を赤くして、普段の彼女からは考えられない幼くて無邪気な笑顔を浮かべて走ってくる。

そして、姉妹たちが見ている前で思いっきり跳びついてきた。

そんなシマヅを抱きしめて頭を撫でてやる。

「俺は、シマヅの強さに甘えていた。今までよく頑張ったな。ありがとう」

シマヅは何も言わずに、ただ俺の胸に顔を埋めていた。

一秒でも長く、俺のぬくもりを味わうように。

「まだ、【進化の輝石】なしにこの姿には戻れない。だけどいつかは……」

そこまでが限界だった。

姿が崩れ、肉体はスライム細胞になり地面に広がる。

そして、いつもの雫型のスラちゃんの体に。

「父上、約束を守ってくれてありがとう。お礼よ」

シマヅは上気した顔で、おでこにキスをした。

「ぴゅい」

少しうれしい。

オルフェたちが駆け寄ってくる。

「シマヅ姉さん、ずるいです」

「ん。ニコラたちもがんばったのに」

「いつのまに素直な子になっていたのでしょうか? いつもなら、強がって格好つけるのに」

シマヅは俺を抱き上げて、笑う。

「ずるくなんてないわ。私は一度目だし……ただ、レオナには悪いわね」

「あっ、レオナはお父さんの姿を見てもないよね」

「可哀そう。父さんには早く、【進化の輝石】なしで戻れるようになってもらわないと」

「案外、【進化の輝石】を研究したら、その答えがでるかもしれませんね」

「ん、いい考え。ヘレンねえ、共同研究しよ。【錬金】と【医術】が揃えばなんでもできる」

姉妹たちが、和気あいあいと盛り上がっている。

微笑ましい光景だ。

……まあ、まだ終わってはいないがレオナが負けるはずはない。

それより先にすることがある。

「ぴゅいぴゅ(見えてるぞ)」

それは一見ただの小石だった。

だが、【気配感知】のスキルで微かな違和感があり、もてるスキル全てで注視することでただの石ではないとわかった。

それは【傲慢】の邪神ルシファーの残滓。

最後の最後で、ほぼすべての力を失いながら自らのコアというべきものを残し、石に擬態してやり過ごそうとした。

「ぴゅいぴゅっぴゅ(いただきます)」

それをがぶりといただいてしまう。

まずい。

【吸収】までしたいところだが……【進化】したときのダメージを考えると、魔力バッテリーなし、修復用偽スラちゃんなしで【吸収】なんてできない。

力が回復するまでは【収納】で保留だ。

今の状態であれば、【収納】の中で暴れまわることはできまい。

「レオナと合流しましょう」

「賛成だね。ニコラ、ゴーレム馬車をとばして」

「ん。わかった」

そうして、俺たちは【傲慢】の邪神ルシファーを倒し、レオナのもとへ向かう。

向こうも終わっているはずだ。