軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十九話:スライムは仕掛けを張り巡らす

姉妹たちが五人揃い作戦が動き始めた。

それぞれの作業を始める。

時間との戦いだ。

ニコラとヘレンはクッチャカッチャを溶かす薬品を作り始めていた。

二人はいろいろと現状についての情報が足りていないので、作業をしながら横でレオナの説明を聞いている。

そして、俺とオルフェは瓶詰めされた液状ミスリルに細工を加えていた。

これは瓶から取り出すと予め設定した通りに陣を描く魔道具。

これがあるからこそ、熟練の魔術士たちが総出で何日もかかる儀式魔術を短時間で行える。

その魔道具に新たな術式を刻む。

汎用儀式魔術を刻んだものはいくつかストックがあるが、それでは奴を抑えきれない。

幸い、先ほどの戦いで奴の肉片を持ち帰っていて解析できるし、俺とオルフェは共にあいつの魔力を肌で感じた。

奴の力を削ぐために特化した術式を新たに組み上げるのだ。

二人で作業していて驚く。

オルフェは俺の思考に追随し、時には先に行く。

……それは屋敷を出るまえのオルフェには不可能だったことだ。

この旅でオルフェは見違えるほど成長していた。

すでに作業を始めて三時間。そろそろ限界だ。

「オルフェ、新術式の骨格はできた。すまないが後は任せていいか?」

「お父さんの中でまだ暴れているんだね」

「それもあるが、人の姿を取り続けるのが限界なんだ」

【創成】の力を借りることで人の姿になっていた。

この姿が一番思考能力・魔術回路の配置が優れていて、魔術を容易に使えるし、こうやって術の開発までできるが負担が大きい。

体内で暴れる奴を妨害しながらこれ以上の維持は無理だ。

「わかったよ。お父さんは体を休めながら、クッチャカッチャを押えていて。あとは私に任せていいよ」

「ああ、頼む」

俺の体が溶けてスライム状態に戻る。

ぴゅふぅー、やっぱりこの姿が一番楽でいい。

ぴゅいっと溶けて脱力する。

術の完成はオルフェに任せられるからこそ、体を休められる。

……残り四時間と数分。

それまでに戦えないほど消耗している事態は避けたかった。

スライムの雫型も保たずにべしゃっと潰れながら全力で細胞を休ませる。

そうして三十分ぐらい垂れスライム状態でまったりとしているとシマヅとヘレンがやってきた。

対クッチャカッチャ薬品のほうはひと段落ついたらしい、ニコラが薬物の生成・培養を行わせる魔道具に背中を預けて仮眠を取っていた。作業があそこまで進めば、待つしかなくなる。

「私たち、父上にお土産を持ってきたわ」

「別行動をとっていた間に、お父様に頼まれたものを手に入れていましたの」

「ぴゅいっ!?(本当か!?)」

シマヅとヘレンがそれぞれに俺が探し求めていたものを渡してくる。

喉から手がでるほどに欲しかったが、希少かつ高価なものでスライムの姿ではなかなか手に入らなかった。

それぞれ極東方面とミラルダ共和国で手に入るとはわかっていたが、そこに滞在するわけにもいかなかったので、見かけたら教えてくれと言っていたものだ。

「ぴゅいっ、ぴゅぴゅぴっ!(よく、手に入ったな。高かっただろうに)」

値段が値段だけに、教えてくれとは言っていたが手に入れてくれとは言っていなかった。

「父上、オルフェと違って私たちにはスライムの言葉はよくわからないわ」

「そうですの? 私はパターン解析が終わりましたわ。ちなみに今は愛しているよヘレンと言っていますわ」

「ぴゅいっ!(嘘つくな!)」

「今の言葉だけはわかったわ。嘘をつくなって言っているわね。というか、父上。私は前から話せることを知っているし、クッチャカッチャの完全体が現れたときに、スライムのまま以前とは比べ物にならないほど流暢に話していたわよね?」

「ぴゅー、ぴゅぴゅぴゅー♪」

口笛を吹くが、シマヅの眼はまっすぐに俺を見つめているし、キツネ耳もピンと立って言い逃れは許さないとアピールしている。

仕方ない。

スライム文字を体に浮かべる。

『この体で声を出すための声帯疑似生成は疲れる。なるべくやりたくない』

「それは嘘ではなさそうね。……父上、体に文字を浮かべる伝達手段があるのに、どうして今までしてくれなかったのかしら?」

『ようやく変身能力に慣れてできるようになった』

嘘じゃない。

ただ、シマヅと再会したときにはできたけど、初めのうちはこういう色素変化にすら苦労したものだ。

「そういうことにしておくわ。これを手に入れるのはさほど難しくなかったの。屋敷が一つ買えるぐらいの値段であることしかハードルがなかったし。お金を払えば手に入るものなら入手は簡単よ。セイメイに頼んで売ってくれる人を探して、あとは金貨の山を積んだわ」

屋敷一つと言うが、それは貴族の屋敷クラスのものの値段のはず。

「私も同じようなものですね。伝手を辿って売っていただける人を探しましたわ」

『よく、そんな金があったな』

「傭兵業界で有名になりすぎたせいで、何も言わなくても依頼主は山ほどお金を積んでくるのよ。おかげで隠れ家一つが金貨で埋め尽くされているわ」

「 私(わたくし) はまずしい人からはあまりお金を取りませんが、あるところからはその人が無理なく払える分をふっかけています。お金がないと救えない人を救うためにはたくさんのお金を用意しておくことが必要ですから。数年前から、私以外に治せないような怪我や病を治してほしいという大富豪の依頼が多くて、お金が余り始めてしまって」

【剣】のエンライトと【医術】のエンライト。どちらも、とても金になる技能を持っている。

二人とも、金や贅沢そのものには興味がないと思っていたが、しっかりとため込んでいたようだ。

『ありがたく受け取ろう』

「父上、言葉だけかしら? がんばって父上のために手に入れたのに。……悲しいわね。父上の元の姿になったとき、オルフェやニコラ、姉上は抱きしめて頭を撫でてあげたのに。私のときだけ元の姿に戻ってもくれなかったわ」

『……それは、お前が一人で倒して【進化の輝石】を使う必要がなかったからだ』

レオナ以外の姉妹たち全員が、【邪神】と戦った。

【邪神】は強力で毎回、【進化の輝石】で大賢者マリン・エンライトの力を使わなければ勝てないところまで追い込まれ、その時は姉妹それぞれを抱きしめた。

だが、シマヅだけは例外だ。

彼女は自分の力で【邪神】に打ち勝ったので、【進化の輝石】を使う必要がなかった。

「なら、解決する方法は簡単ですわね。次に元の姿に戻ったときにシマヅを抱きしめて撫でてあげる。それ以上の報酬はないですわ」

ヘレンがにこにこと聖女の様な微笑みを浮かべる。

『そんなことでいいのか? 俺は構わないが、もっとあるだろう。俺にしか作れない武器や道具がほしいとか、そういうの』

「私にとっては、姉上が言ってくれたのが最高の報酬よ。楽しみにしているわ」

クールぶって澄ました表情をしているが、もふもふのキツネ尻尾がぶんぶん思いっきり振られていた。

よほどうれしいのだろう。

実のところ、シマヅは姉妹の中でも特にわかりやすい。尻尾が正直すぎるのだ。

「シマヅへの報酬は決まりましたわね。私は何をおねだりするか考えておきますわ」

ヘレンの微笑みが怖い。

どんな無茶を言われるだろう?

だが、それは後で考えよう。

二人からもらったものは、もらったままの状態じゃ使い物にならない。

……極東で手に入れて大事にとってあるゲンマ石と二人にもらったものを組み合わせて初めて意味を成す。

今から加工しても間に合う。

これは、新たな切り札の一枚になるだろう。

ありとあらゆる準備が進められていく。

そして、俺たちは移動を始めた。

レオナが匿っていた王族の命令で、ラルズール王国の精鋭軍を伴って城をでる。

馬車の中には、攻城兵器として使われる 巨大機械弓(バリスタ) や大砲などが積まれている。

目的地は王城から十二キロほど離れた湖。

クッチャカッチャとの戦いで一般人を巻き込まないための配慮だ。

もっと離れた場所にしたいところではあるがこれ以上離れると兵力の展開が間に合わない。

兵士たちは湖周辺にいる一般人をすべて避難させ、攻城兵器の設置、魔術士たちは強力な術式の準備をする。

俺たちの作業が始まった。

まず、ニコラが錬金魔術を使って湖の近くに巨大な穴を深くまで掘る。

さらにミスリルを中心にした合金で穴をコーティング。

「オルフェねえ、準備はおっけー」

「次は私の番だね」

オルフェが用意しておいた対クッチャカッチャ用専用術式を刻んだ水銀をばらまくと、壁に魔法陣が刻まれた。

俺は魔力バッテリー用の偽スラちゃんニ十体分の魔力を術式に刻む。

これが術式自体が耐えられる限界だ。

二人で用意したのは攻性封印。解こうともがけばもがくほど捕えたものを傷つけ力を削りとる。封印の強度は通常のものに劣るが、敵の力を削ぐという面ではこれ以上のものはない。

陣が獲物を求めて蠢く。

そこにぴゅいっと、石に封じ込めた邪神を捨てる。

深い穴に落ちていき、術式によって石ごと封印された。

まだまだ準備は終わらない。

「たくさん作ってよかった。特製の爆弾」

ニコラがやまほど爆弾を下に落とす。

強い衝撃を受けたときに起動する爆弾だ。威力は折り紙つき。なにせ大賢者マリン・エンライトの発明品を改良して作ったものだ。

攻性封印から抜け出した瞬間に発動し、この密閉空間で炸裂することで衝撃は逃げ場を無くし威力は数倍になる。

ニコラは分厚いミスリル合金の蓋をする。

そして、後ろの馬車に手招きをする。

馬車から大きな樽をもった兵士たちが次々にやってきて、その中身をぶちまける。

これらはニコラとヘレンが大量生産したクッチャカッチャの体組織を溶かすためのもの。それが蓋の上に注がれて小さな池のようになる。

その池に蓋をして二重蓋状態になる。

実は、一枚目の蓋は爆弾が発動すれば爆風にぎりぎり耐えて、その後壊れるように強度計算をされており、クッチャカッチャが爆撃を食らった後に上の蓋が砕けて大量の体組織を壊す薬が流れ込み、爆弾で弱った奴を苦しめるようになっていた。

攻性封印・爆弾・耐クッチャカッチャ薬品の三段構え。

それすらも耐えたときのために、ラルズール王国の攻城兵器がずらりと並び、王城の魔術士の大部隊が最大威力の術式を放てるように配置されていた。

「みんな、やることはやったよ。あとは本番を待つだけ」

準備を終えたレオナが強く宣言する。

おそらく、ここまでやってもクッチャカッチャは殺せない。

だが、かなり弱らせる。

そこを俺とシマヅが止めを刺す。

「父さん、勝てるよね」

「ん。レオナの作戦を信じる」

どんな予想外が起きてもいいように準備をしておこう。

幸いなことに、俺には計算外の切り札が一つできたのだから。