軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十七話:スライムは時間稼ぎをする

クッチャカッチャ、その真の姿が露になった。

あえて、奴は巨大な質量を人型にまで落とし込んだ。

それは異常なまでの密度と力を持つことを意味する。

そして、今も圧倒されている。

「ぴゅいっ」

このままじゃ勝てない。

スライム細胞を焼き尽くすだけの熱量、それもオリハルコンすら概念付与の力で突破してくる。

奴の変化は続いている。クッチャカッチャの輪郭がどんどん鮮明かつ精緻になり、筋肉が盛り上がっていく。

一秒ごとにどんどんとより効率化されていく。

より強い形態へと。

無数にある手札を組み合わせ、最適化されていく。

初めから時間稼ぎのつもりではあったが、こちらから仕掛けていかないと時間稼ぎすらできないようになる。

時間を稼ぐために、あえて積極的に攻める。

そのために根本的なスペックの差を埋めなければ。

全身から閃光を放つ。

人の形を取り、その仕組みを模倣していた奴は網膜を焼かれ、こちらの姿を見失う。

この隙を逃さない。

「ぴゅいいいいいいいいいいいいいい!」

こちらも変身だ。

変身はクッチャカッチャだけの専売特許じゃない。

体内に【収納】していた偽スラちゃん百体以上と合体。

それでいて、サイズを維持する。

百倍まで密度を増すことで圧倒的な力を得る。

ある意味、やつとやっていることは一緒だ。

これこそが俺の切り札、スーパースラちゃん2。

さらに、いつもはあえて抑えている瘴気を放出することでさらなる力を得る。これが今の俺にできる最強形態、スーパースラちゃん3だ。

「来い、か弱きものよ」

奴が手招きをしてくる。

さすがに吸収した人間の能力を得るだけあって言葉も堪能だ。

ここまで露骨に見下されたのはいったい何十年ぶりだろうか。

いいだろう。行こう。

ただし、最高速で。

「ぴゅいっ!(スラアタック!)」

それは体当たり。

だが、世界最強の体当たりだ。

身体能力効果魔術を幾重にもかけた上で、今まで吸収し獲得したスキルをいくつも併用する。

【剛力Ⅱ】【腕力強化】により、圧倒的なパワーを得て、【風の加護】と【神速】により体を加速させ、突進スキルである【角突撃】まで組み合わせた。

さらに禁じ手である【邪神のオーラ】まで纏う。

音速の四倍にいたり、一瞬で奴の体を突き抜けて衝撃波が周囲をずたずたに斬り裂く。

俺自身は形状を変えて、オリハルコンを纏うことで弾丸となることで硬さを得ると同時に貫通力と空気抵抗を減らしていた。

「ぴゅい……(当然、終わりはしないよな)」

胸に大穴が空いたクッチャカッチャが振り向く。

体を動かさず首だけで。それは人体の構造上不可能な動き。

異様な光景だが、奴は人間じゃない。それぐらいの融通が利くだろう。

奴の背後に無数の火の球が現れ、それぞれが違う軌道をえがきながら襲ってくる。

魔力量、概念強化の強さともにさきほどの比ではない、喰らえばただではすまない。

「ぴゅい!(スラウィング!)」

【飛翔Ⅱ】で翼を生やし、火の球の間をすり抜けるが、誘導能力を持っていてうっとうしい。

【飛翔Ⅱ】だけでは、避けきれない速さのため【風の加護】で風を操ることで速さと機動性の両方を増す。

それでも何発かが背後に迫る。

こちらも【火炎操作】で、炎の球を作る。

目的は誘爆すること。

敵の火炎弾は対象に当たると同時に爆発することで破壊する。

だから、何かにぶつけてしまえばいい。

火の球を打ち落としたが、次の瞬間上から凄まじいプレッシャーを感じた。

クッチャカッチャが背中に翼を生やして俺の上を取っている。

……こいつ、鳥型の魔物でも食っていたのか。

炎を纏った拳を振り下ろしてくる。

瞬時にスライム細胞を使った囮人形を拳の直撃コースに配置し、【神速】の超加速を行い視界から消えることで、入れ替わりに気付かせない。

クッチャカッチャの拳が囮人形にぶつかると大爆発した。

これは、かつてスライムイエローが使った手だ。スライム細胞を変異させ強力な爆弾にする。

本家の俺であれば、即座に分身体を爆薬にできるし、威力も段違い。

爆風が晴れた。

クッチャカッチャはさきほどの体当たりで空けた大穴以外にも、四肢のいくつかが欠損したりもげている。

だが、次の瞬間には再生し戦闘前の姿に戻る。

変身能力をもつものは、肉体的な損傷に大きな意味はもたない。すぐに形を変えれば傷は消える。

だからこそ、さきほどの突進は抉った肉が再利用できないように【邪神のオーラ】で消滅させたし、今のスラ爆弾で肉体の何割かを灰にした。

この戦いは相手を壊すのではなく、削り合う戦いだ。

基本スペックでは劣っているし、保有する細胞ストックでも負けているが、手札の組み合わせのうまさで俺がかろうじて上回っている。

実際、さきほどからいろいろと布石を打っていた。

「面白いな貴様。数百年前、私がこの形態をとったとき、ありとあらゆる生き物は私の脅威とはなりえなかった。戦いを楽しいと思ったのは初めてだ」

「ぴゅい、ぴゅいぴゅ」

「ははは、面白いことを言う。貴様には興味がある。時間稼ぎに付き合ってやってもいい。そうだな、望み通り答えてやろう。私の目的、それは貴様らの言うところの【邪神】の本懐を果すこと」

どうやら、スライム語がわかる人間を吸収しているようで、無理に声帯を弄って声を作らなくても話は通じるようだ。

「ぴゅいぴゅう(邪神の本懐とはなんだ)」

「地上を支配する生き物に対する適正な数への間引きと進化の促進。増え過ぎた家畜を処分すると同時に、我らが脅威となりストレスとなることで、努力させ進化を促す。我らはそのために生み出されたシステムだ。人間に近づいた私だからこそ、ある程度、貴様らにわかるように言語化できたようだな。他の邪神ではこうもうまくいかないだろう」

間引き、進化の促進。

あまりにいかにもな答えで笑ってしまえそうになる。

なら、それを作る存在がいるということだ。

あまり愉快ではないな。

「ぴゅいっ、ぴゅぴゅ(そんなものは必要ない。排除する)」

「ああ、それならそれでいい。我ら【邪神】を排除するほどの力と英知があるなら、こちらが適切な数に管理してやる必要も、これ以上の進化も必要ない。我らは不要だ。とはいえ、私は若干特殊でね。人間に近くなりすぎた。人間としての楽しみに興味を持ってしまった。食欲、性欲、睡眠欲。そんな原始的なものをよくぞここまで深く多彩に楽しめるようにしたものだ。君たち人間を尊敬し祝福しよう」

「ぴゅい……ぴゅいぴゅ(そう考えるのであれば、共存という手もある)」

「いや、ないね。もとより貴様らの脅威として生み出された我らはいささか攻撃的だ。嗜虐心が強く、慈悲を持たない。人間としての楽しみを味わうにしても少々手荒くなる。食欲を満たすにも飢えて死にゆく者の前で食べきれぬご馳走を食べてみたいと思う。性欲を満たすにも、女を無理やり愛する男の前で犯してみたい。そうだな、貴様の娘は今の美意識ではとても美しい、是非犯してみたい。それも貴様の前でだ。愛しい娘を踏みにじられて慟哭する父を嘲りながら、極上の美少女を貪るというのはなかなか悲劇的で素晴らしい」

……どうやら、一瞬でも共存できると考えたのは甘かったようだ。

こいつは倒さなければならない。

おしゃべりをしてくれたおかげで、時間稼ぎに必要な術式を準備できた。

戦闘開始と同時に、スライム細胞を切りはなし周囲の壁に染み込ませ壁や天井の内側に立体魔法陣を描き始めた。

ここは龍脈と近かったので、スライム細胞と龍脈を接続し、その力を直接術式に流し込んで循環させるという荒業により、俺個人では使うことができない災害じみた技を放てる。

この体での魔術は、マリン・エンライトのときと比較した場合、魔術回路の劣化により大きく劣る。

だが、その知識を用いて事前に陣を外に刻む儀式魔術であれば、当時に近い魔術はできる。

壁の中、天井、その中にあるスライム細胞が内に秘められた魔力を放ち術式が起動する。

「ほう、面白い。そのような手、今まで吸収した人間の知識にはなかった。貴様を食らいたい、その知識、経験、手に入れたい」

クッチャカッチャは動かない。

いや動けない。

俺が発動させた魔術は重力操作の要素もある。

今、四方から重力が加わっている。

「ぴゅい、ぴゅいぴゅ!(【ベヒーモスの牢獄】)」

高らかに儀式魔術の名を読み上げる。

次の瞬間重力だけでなく、壁に使われていた石材や天井から流れ込む土たちが重力の檻に取り囲まれたクッチャカッチャに流れ込む。

そして、石と土がクッチャカッチャを押しつぶしながら圧縮されていく。

何トンもの石と土が圧縮され、直径五メートルほどの球となる。

「しばしの別れだ。必ずまた会いに行こう。貴様と娘たちに」

これはただの球じゃない。

分子結合が魔術的に何倍にも強められ、魔術強化もされた牢獄。

並の相手なら、中で潰れているし、並じゃない相手でも中から出ることはできない。

だが……。

「ぴゅいぴゅ(もって、八時間)」

体内にある魔力予備バッテリーで限界まで強化しても、八時間が限度。

それ以上は閉じ込められない。

奴は生きていて、外にでようと暴れている。

そして、その八時間でクッチャカッチャの最適化は完全なものとなる。

ここから出るころには、さらに強くなっている。

おそらく、俺一人ではどうあがいても圧倒される。

こうなることはわかっていた。

だが、これ以外に時間を稼ぐ手段はなかった。

だから、やることは一つ。

オルフェたちと合流。

そして、エンライトの姉妹たちと力を合わせ、総力を以て奴を倒す。

俺は追加術式をクッチャカッチャを閉じ込める球に描き、その場を後にした。