作品タイトル不明
第十三話:スライムは任命する
深夜、偽スラちゃんが帰ってきた。
自爆で体積の九十九パーセントが吹き飛んだため、飛行速度が著しく低下しており、戻ってくるのに時間がかかっていた。
だが、その小さなボディに少量、ピンク色の液体を持ち帰ってくれている。
この偽スラちゃんは仕事人だ。
やるべきことをしっかりとしてくれる。
俺は偽スラちゃんと共に森に移動していた。
「ぴゅいっ、ぴゅぅ(ごくろう)」
「ぴゅいっ! ぴゅいっぴゅ!(ボス、ありがたきお言葉!)」
「ぴゅむ、ぴゅいぴゅいぴゅ(うむ、約束通りスライムフォーに任命する)」
「ぴゅいっさ!!」
スライムスリー、改めスライムフォーは無数の偽スラちゃんの中でも特別なスライムだ。
まず、スライムフォーは通常の偽スラちゃん二十倍のスライム細胞を圧縮して作られる。
本体である俺以外では二十倍が限界でそれ以上は圧縮できない。
その戦闘力はステータスだけで上級魔物を凌駕し、多種多様な能力を使用することで、ステータス以上の戦闘力を発揮する。
さらに、偽スラちゃんたちは自律行動の際、俺の性格を元に作った疑似人格を使用しているのだが、スライムフォーたちはさらに自己成長機能を持たせ、成長していく。
簡単に言えば、自我を獲得させる。
自我を持たせ、成長することで、判断能力が高まり任務遂行能力が上昇する。
ただ、この自我の獲得は不思議と個体差があって、自我を持たせることができる偽スラちゃんとそうでない偽スラちゃんがいる。
今回、新たにスライムフォーに任命する彼は、自我を持たせられる側の個体だ。
……というより、もはやすでに自我を確立している気すらする。
「ぴゅいっ、ぴゅいぴゅい(では、始めよう)」
【収納】していたスライム細胞を大量に吐き出し、偽スラちゃんを飲み込む。
スライム細胞は高速回転して柱になり、回転しつつ圧縮して密度を増していく。
魔力光が当たりを照らす。
そして、偽スラちゃんは、スライムフォーの新メンバーに生まれ変わる。
黄色に染まったスライム。
通常の偽スラちゃんたちは透明に近い水色だが、スライムフォーたちは特徴的な色を持つ。
それは識別のためだけじゃない。
色と言うのは存在の指向性を示す。特に魔術に関しては大きな意味を持つのだ。
偽スラちゃんたちは、俺と違って万能にはなれない。本体が使えて偽スラちゃんたちが使えないスキルも多い。
例えば、【分裂】などは本体である俺しか使えない。
だが、色を付け機能を特化させることで一部の上位スキルを使えるようになるのだ。
スライムフォーの面々はそれぞれに使えるスキルが異なっていた。
偽スラちゃんが震える。
「ぴゅひっ、ぴゅぴゅ?(これが、俺?)」
「ぴゅむ、ぴゅいぴゅいぴゅ(うむ、よりいっそうの活躍を期待する)」
これで新たな特別なスライムが誕生した。
出来ることなら、もっとスライムフォーレベルの偽スラちゃんを増やしたのだが、いかんせん自我を持たせることができるだけの素体が少ないし、二十体分のスライム細胞の消費が痛い。
特に、今はスーパースラちゃんになるために必要な分の偽スラちゃんをストックしているし、城内の監視にも相当数放っている。
在庫がほとんどないのだ。
いずれ、時間ができればコツコツとスライム細胞を貯金し、自我が与えられそうな偽スラちゃんが現れたら片っ端から、特別な偽スラちゃんにしよう。
「ぴゅい、ぴゅい、ぴゅいっぺ、ぴゅうぴぴ(今日から貴様は、スライムイエロー。第一の任務だ。レオナの攻めの駒となれ)」
「ぴゅいっさ!」
既にレオナの傍にいるスライムスリーとスライム通信をしたスライムイエローが翼を生やして飛翔していく。
以前とは比べ物にならない速さだ。
俺があえて、駒の前に攻めと付けたのには理由がある。
スライムイエローは非常に頭が良く、しかも臨機応変で対応力のあるスライムだ。
レオナの護衛よりも、彼女の武器となり外に放つ方がよりその能力が輝く。
俺は、スライムレッド、スライムブルー、スライムグリーンたちに新入りが入り、スライムフォーになることを告げる。
精鋭スライムもにぎやかになったものだ。
◇
翌日、朝から会議を始めていた。
俺から持ち掛けるつもりだったが、レオナが主宰した。
その理由は簡単だ。昨日、洗脳されたと思わしい権力者たちが次々とどろどろのピンクの肉塊に変わり城内が大騒ぎになった。
その話はレオナの耳にも入っている。
すでに、レオナの組織だけでの会議は終了しており、今はエンライトの面々とレオナの右腕が集まっての会議だ。
俺は【創成】の力で少年形態になっている。
どうしても、会議でぴゅいぴゅい鳴きながら、ボディランゲージをするのは疲れる。
会議が始まるなり、レオナが俺のほうを見る。
「パパ、何かやったんだよね?」
「うむ、ちょっとした実験をな」
「……やるなら、やるって事前に言ってほしかったよ。こうなるって知ってたら、いろいろと打てる手もあったのに」
「悪かった。情報収集だけのつもりだったのだが、どうしても試したいことがあってな。やってみればこの結果だ」
肉の木から切り離す際に、こうなることも想定できた。
だが、一度引き返すことよりあの場で実験し、敵の能力を把握することが重要だと考えた。
「なら、パパ。その実験でわかったことを教えて」
「ああ、昨日のことをすべて話そう」
俺は、昨日の出来事を話していく。
王城の離れに巨大な地下空間があり、その最奥に巨大なミミズのような化け物がいたこと。
その化け物が人を喰らい、喰らった人を吐いたあと、まるで操り人形のように七罪教団に従うようになっていたこと。
巨大なミミズの体内に、食われたはずの人間が取り込まれており、体内で切り離すと、洗脳され城内にいた人間がどろどろのピンク色の肉塊になったこと。
「……よくわかったよ。敵の能力は、洗脳じゃなくて複製だったんだね。だったら、気が付かないうちに洗脳されることはない。そういう意味では脅威度が下がった。敵が私を狙わなかった理由もわかったよ。少なくとも連れ出して、その化けものに食わせないとならない。守りが固い私は狙えなかったわけだ」
「別の意味では危険度があがっているがな」
「だね、複製された存在なら、洗脳を解くなんて初めから無理だし、時間と共に敵が増えていく。兵士とか騎士とかが喰われ始めたらまずいかもね。同じ能力で死を恐れずに襲い掛かってくる。それに、問題はグランリード王国だけじゃない。気が付いたら、世界各国の王や要人が化け物とすり替わっているなんてこともありえるよ」
レオナの言う通りだ。
現状は、グランリードにいる化け物に喰わせないといけないため、ハードルが高く被害はグランリードだけに収まっているが、それも時間の問題だろう。
あの化け物自体が動く可能性がある。
そもそもグランリード王国を掌握しているのだ。
その気になれば、他国の要人を呼び出すこともできる。そして、化け物とすり替えて本国に送り返すなんてことも想定される。
「なにかいい考えがある?」
ニコラが眠そうに目をこすりながら問いかける。
俺が頼んだ仕事のせいで、彼女は徹夜明けだ。
「うん、私にとっておきの策があるよ。聞いて驚け、その化け物の体内に突入、取り込まれているすべての人たちを救出、中から大打撃を与えて殺す。完璧だね」
あたりが静寂に包まれる。
そんななか、オルフェが手を上げる。
「あの、レオナ。それって作戦って言わないんじゃ」
「オルフェお姉ちゃん、勘違いされがちだけど複雑で面倒な手順を踏むのがいい軍師というわけじゃないよ。シンプルかつ効果的な手が取れるならそっちを優先する。……実際のところ、これ以上の手はない。向こうだって、送り込んだ駒が急にいくつも消えて慌ててる。パパの分身が侵入したことで警戒もされているだろうけど、それでも行くべきだって私は判断したの」
同意だ。
駒を失った混乱は時間と共に収まるが、侵入されて強まった警戒が緩まることはない。
なら、一秒でも早く攻めるべきだ。
「……それにね。今の特徴を聞いていくつか、心当たりができた。大昔の伝説に残っている、災厄を巻き散らかした魔物、カッチャクッチャ。その特徴が、パパの話した化け物と一致するんだ。カッチャクッチャも、同じように人を食べて複製をつくり、人間社会に駒を浸透させていく。それだけじゃなくてね、その巨大なミミズは吸収端末で、力が溜まると本体を生み出す。その本体は、吸収端末が吸収した人の力を得る。もし、伝説のカッチャクッチャが【邪神】で、今回の魔物と同一なら、時間をかけるほどとんでもない魔物が生まれる」
レオナは完全記憶能力と瞬間記憶能力の両方を持っているが、特筆すべきは、情報整理能力。
ありとあらゆる能力を分類、整理しているので、必要なときに必要な情報が瞬時に出てくる。
【王】としての必須の能力。
故に、瞬間的にこの情報が引き出せた。
事態のまずさに気付いた面々が、言葉を失う。
もう、あの化け物は国中の猛者たちを吸収させ始めているかもしれない。
その猛者たちすべての力を得た本体とやらが現れれば、いかに三人のエンライトがいたとしても手が出せないかもしれない。
本体が活動し始める前に、吸収端末を破壊する必要性が増した。
「わかった。レオナの言う通りだね。一刻もはやく、強引でも潰すしかない」
「ん。同意。でも、下手に戦力を引き連れても吸収されて足を引っ張るだけ。少数精鋭がいいと思う」
「うん、私もそう考えていた。パパとオルフェお姉ちゃん。それに、パパの分身。……それから、もう一人、最強戦力がもうすぐ来るはずだから」
最強の戦力?
それはいったい?
その俺の考えを読んだかのようなタイミングで扉が開かれた。
「遅くなってしまったわ。【剣】のエンライト、シマヅ・エンライト参上。私の剣が必要になったようね」
キツネ耳にもふもの尻尾を持った、浴衣姿の美少女がそこにいた。
【剣】のエンライト、シマヅ・エンライト。
エンライトの姉妹たちの中で、最強の武力を持つ剣士。
いいタイミングで現れる。
もしかしたら、これもレオナの計算かもしれない。
「突入部隊は、パパ、パパの分身、シマヅお姉ちゃん、オルフェお姉ちゃん。最強の精鋭部隊だよ」
誰も意を唱えるものはいない。
あれを内側から倒すなら、これが最適だろう。
「それから、ニコラ、吸収されていた人たちに与えられてたピンク色の液体が気になるんだけど」
「それなら、すでに動いてる。父さんが持ち帰ってきてくれたのを解析した。人を生かすという点で理想の液体。栄養が完璧に揃ってカロリーも多い、体内免疫を強め、老化も止まる。凡そ、人類の夢そのもの……ただし、ひどい依存症がある。救出した人たちはこれを毎日摂取しないと三日もしないうちに気が狂う」
前半だけなら最高だが、後者はどうにもならない。
人を生かし、隷属させるための悪魔の薬だ。
「そっちは任せていいかな?」
「ん。任せて。依存症を緩和させる薬を作っている。ただ、ニコラだけだと手が余る。もう一人いる」
「そっちの増援は明日着くよ。だから、準備を進めておいて」
ニコラが頷く。
その増援はヘレンだろう。
これで、姉妹が五人そろう。
エンライトの姉妹が揃ってできないことは何もない。
ここまでは好きにされたが、いよいよ反撃の開始だ。
あの化け物から、この国を取り戻そう。