軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十四話:スライムは出発する

シマヅとヘレンがこちらに向かって来ていると聞いていたが、まさかこのタイミングでシマヅが到着するとは。

疲れているという言葉は本当のようで、あのシマヅが息を切らしている。

体力お化けどころか、体力魔人のシマヅが息を切らすというのは相当だ。

妹のために、必死だったのだろう。

かつて、アッシュポートの屋敷にシマヅがやってきたことを思い出す。

あのときも、シマヅはオルフェとニコラのために必死だった。

冷静沈着に見えて、姉妹のためならどんな無茶でもするのがシマヅだ。

「シマヅねえ、これ飲んで」

「ありがたいわ。手持ちのポーションがきれていたの」

ニコラがポーションを二つ渡す。

一つは魔力で強められた栄養剤、もう一つは体力回復ポーション。

シマヅはそれを一気に飲み干す。青っぽかった顔色に赤みがさす。

「じゃあ、作戦会議は終了。出発は三時間後。それまで体を休めてね。……シマヅお姉ちゃん、ほんとありがと」

「姉が妹のために頑張るのは当然よ。ただ、もう少し余裕をもった日程だと楽でいいわね」

魔術でシマヅの体調を確認したが、ここ数日寝ないで強行軍してきたようだ。

三時間で疲れをなるべく取らないと。

「薬湯を用意しよう。魔術で疲労回復効果を強化する。三十分を入浴に使い、残りの時間で仮眠するのがいい。レオナ、倉庫を借りるぞ。そこに風呂を作る」

「えっ、お風呂!? そんなの作れるの」

「作るというか、すでに作ったものを【収納】している。天然温泉そのものも在庫がある。すぐに、最高の温泉を用意してやれる」

姉妹たちはみんな、俺の影響でお風呂好きだ。

シマヅの疲れを取るにはこれがいい。

「私も一緒に入るよ! ずっと、お風呂なんて入れなかったんだ! シマヅお姉ちゃん、一緒に入ってもいいでしょ」

「構わないわ。オルフェとニコラもどうかしら?」

「私も入りたいよ! ニコラ、うっかりしてたね。昨日もお父さんにお風呂を頼めば良かったかも」

「ん。反省。当然ニコラも一緒に入る」

「姉妹水入らずで、楽しんで来てくれ」

娘の成長具合を楽しみたいとは思うが、正体がばれた今、もう一緒にお風呂もないだろう。

さて、作戦会議も終わったし、あのサイズのものを【収納】から出すには人型では無理だ。

ぴゅいっと戻るとしようか。

「ぴゅいっ!」

やっぱり、スライム形態は楽だ。

まだまだ人型の維持は辛い。

さてと、倉庫に行きますか。

そうして、スライム跳びをすると体が抱きかかえられた。

「もちろん、お父さんも一緒だよね」

「ん。あれだけ一緒に入っていて、今更断るわけがない」

「指揮官として命令、パパもきっちり疲れを取ってね!」

「父上、諦めて。今までの報いよ」

「ぴゅひっ!?」

娘たちが怖い。

有無を言わさず、一緒にお風呂に入ることになっている。

……別に娘と一緒のお風呂は嫌じゃない、むしろうれしい。ごほんっ、とはいえ、そろそろ年頃だ。恥じらいを持ってほしい。

お父さんは複雑だ。

【収納】から湯舟を取り出して、温泉を注ぐ。

ちなみに、ニコラが錬金魔術を使い一回り大きく改造した。もともと三人用で作ってあり、さすがに四人+スライム一匹だとせまく改造が必要だった。

「この温泉すごくいいね。パパたちが旅で立ち寄ったところの温泉かな?」

「うん、温泉の村ブローンに行ったんだ。そのときのお湯。そこで、エレシアと再会したの。元気にやってるかな?」

「ん。エレシアはしっかりしてる。心配はいらない」

「私も会いたかったわね。ずいぶんと会っていないわ。それにしてもブローンのお湯は素敵ね」

「ぴゅふぅー」

いやいや、娘と一緒にお風呂というのはいいものだ。

ただでさえ気持ちいい温泉がパワーアップしている。

倉庫の中とはいえ景色がいい。

俺の娘たちはとんでもない美少女ばかりだ。

オルフェは相変わらず良く成長している。

シマヅは胸はそれなりだが良く引き締まっているモデル体型で美しい。それにキツネ耳と尻尾がラブリー。

レオナは年相応だが将来に期待できそう。

ニコラはない。だけど、幼児体形というわけではなくすらっとしていて可憐だ。

「父さん、また変な目で見てる」

「ちょっと照れちゃうね」

「パパなら、別に見ていいよ。見るだけじゃなくて、その先も。ね、シマヅお姉ちゃん」

「……どうして、その話題を私に振ったのかしら?」

「あれ? 言っていいの?」

「言葉を選ばないと後悔するわよ?」

「ぴゅう、ぴゅぴゅ、ぴゅ~」

スライムというのは便利だ。

こういう言葉に詰まる状況でも、とりあえずぴゅいぴゅい鳴いていればいい。

そうして、俺たちは温泉で疲れをとった。

温泉の後、シマヅには追加でポーションを飲ませ、仮眠をさせた。

やっぱり、魔術が使えるほどに進化が進んだのは喜ばしい。

シマヅには、敵が敵だけに万全な体調にまで復帰してもらいたい。

もし、レオナの言う通り、邪神の正体がカッチャクッチャの場合、シマヅの力が必要になる。

吸収体と複製人間の戦闘力は大したことがないが、完全体が出てきたら俺の手に余る。

究極の戦闘兵器に対抗できるのはシマヅぐらいだ。

「ぴゅふぅー」

シマヅの回復が終わる。

俺もひと眠りしよう。

「ぴゅひっ!?」

シマヅの手がぎゅっと伸びて来て抱きしめられる。

シマヅはぐっすり眠ったままだ。

これは反射的なものだ。

シマヅは二種類の眠りを習得している。一つは常に意識のどこかを起こして、なにかあればすぐに覚醒する眠り。

もう一つは、意識を完全に落としきり短時間で効率よく回復するための眠り。

戦場に置いて、いかに眠るかというのは大事だ。

パフォーマンスを維持することも実力のうち、シマヅは後者の眠りに入っているので、完全に無意識で俺を捕まえたことになる。

「ぴゅいぴゅー(しょうがないなー)」

姉妹の中で実は一番親離れで来てないシマヅの抱き枕になってやろう。

レオナのために強行軍で来てくれたんだ。それぐらいはしてやってもいい。

それに、シマヅの匂いや柔らかさは嫌いじゃない。無意識状態なら強く抱きしめすぎる悪癖もない。

「ぴゅうーぴゅいー」

無理に逃げず、この時間を楽しむのだ。

いよいよ出発の時が来た。

会議室で、装備と作戦の確認を終わらせる。

「準備は万端だよ。お父さん、がんばろうね」

「ぴゅいっ!」

「シマヅねえ、いくつか手榴弾を持たせとく」

「ありがたくいただくわ。刀だけだと対応力に限界があるの」

突入班が一か所に集まっている。

オルフェは杖を抱え、シマヅは腰に刀を差している他、いろいろと物騒なものを隠し持っている。

そして、スライムフォーのうち、スライムイエロー。さらに偽スラちゃんが五体ほどが整列している。

この三時間の間に、城のほうでも動きが出ている。

奴の腹の中で肉の木から切り離した者たちの複製が出来たようだ。

複製が城にやってきており、どろどろに溶けるところを見ていたものはひどい拒否反応を起こしているが、まだまだ城内には無事な奴らの人形がいる。

力技で、新たな人形どもを受け入れさせている。

「父さん、依存症を治す薬、完成まであと一歩。でも、その一歩がニコラの知識と技術じゃ足りない。ヘレンねえが必要。あと、その研究過程で偶然、面白いものができた。やつらの結合を解く薬。これをかければ、人形は全部どろどろになる」

面白いものができてしまったようだ。

うまく使えば、一気に城を取り戻せる。

レオナのほうを向く。レオナなら視線だけで意図を察してくれる。

「それはすごいカードになるね。パパたちの救出作戦が失敗したときは、それを切り札にした作戦に移行する」

「ん。どっちみち依存症を治す薬のほうは、行き詰まり。ヘレンねえが到着するまで、こっちを作っておく。できたサンプルはオルフェねえにもっていって貰う。それ、武器にもなる」

奴らの細胞を破壊するものだ。彼女の言う通り強力な武器となるだろう。

スライムフォーのニューフェイス、スライムイエローに先導されて、俺たちは地下を進んでいた。

「ねえ、スラちゃん、黄色のスラちゃんがやってる、あれ、便利だよね。スラちゃんもできない?」

外に出ているので、スラちゃん呼びに戻してもらっている。

どこで誰に聞かれるかわからない。

「ぴゅんぴゅん」

首を振る。

スライムイエローは強化前からかしこい偽スラちゃんだった。

そのせいか頭が回り、なんと体色変化を駆使して自らの体に文字を表示することで、鳴き声以外で意思疎通している。

できなくはないが、あれは結構疲れる。

スライムフォーはそれぞれに特化分野を持つ。スライムイエローの場合は、変化・変形に特化した偽スラちゃん、だから苦もなくああいうことができるのだ。

「残念。あれならもっとスラちゃんとお話しやすくなると思ったのに」

オルフェが口を閉じる。

シマヅが立ち止まり、手で止まれと指示を出したからだ。

彼女は気配に敏感だ。誰か先にいるようだ。

「やっぱり見張りを用意されたようね。ここから先に四人ほどいるわ」

「どうしよう。シマヅ姉さん」

「ここは私に任せて。相手の力量を考えれば、正攻法でなんとかなるわね。少しだけ本気を出すわ」

その次の瞬間、シマヅがたなびくキツネ尻尾の残像が見え、コンマ数秒後に四つの打撃音が重なって聞こえた。

オルフェとともに顔を出す。

すると、そこには崩れ落ちた四人の見張りと納刀するシマヅ。

どうやら、一瞬で四人の意識を刈り取ったらしい。

「シマヅ姉さん、また強くなったね」

「そうね。剣から迷いが消えたわ。私は強くなっている。父上のおかげよ……先に進みましょう」

もとから姉妹で最強だったシマヅがさらに成長しているのは、うれしい誤算だ。

彼女がいれば、大抵の状況はなんとかできる。

この勢いで、あのピンクのミミズからすべての人を救い出し、そして内側から食い破るとしよう。

あんなものは人の世界に存在してはいけない。