軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十二話:スライムは潜入する

さすがは俺の分身だけあって、偽スラちゃんたちは優秀だ。

今や敵の本拠地となった城内に潜入し、次々に有益な情報を届けてくれている。

「スラちゃん、帰ってこれたね。私たち尾行されてないよね?」

「ぴゅいっ!(大丈夫!)」

もう一つのミッションも無事達成だ。

俺とオルフェで、満足に補給できなかった物資をレオナの拠点に届けられた。

これで物資の不足が解消される。

ニコラから頼まれたお使いもばっちりだ。

引き渡しを済ませた俺たちは借り受けている部屋に戻る。

「ぴゅいっ、ぴゅ、ぴゅぴゅ!(寝るから起こさないでね!)」

「珍しいね。スラちゃんがこんなに早く眠るなんて」

「ぴゅい!」

まあ、寝るというのは方便だ。

今日の情報収集での一番の成果は間違いなく、地下施設を見つけたことと、そこにいたとぐろをまく巨大生物の発見。

あれの秘密を暴きたい。

通常時であれば、偽スラちゃんたちの情報は後でまとめて閲覧するが、相手が相手だけに調査中に消される恐れもある。

だから、調査中はリアルタイムで意識を共有しておきたい。

どんな些細なことも見落とさないようにするため、あえて潜入する偽スラちゃんにすべての意識を集中させる。

オルフェが作ってくれた寝床である籠に体を沈めて意識を集中させる。

さて、鬼がでるか蛇ができるか。

真実を調べさせよう。

俺との同期が始まったことで偽スラちゃんが行動を始める。

地下にある謎の施設で、屋敷以上に巨大なとぐろをまくピンクの蛇。

いや、蛇というよりミミズだ。表面がつるつるで内臓器官を思わせる。

さきほど、人を丸ごと一人飲み込んだが、その瞬間以外はぴくりとも動かない。

ひどく気味が悪い。

「ぴゅっ、ぴゅい(ボス、行きます)」

震える声で偽スラちゃんがその生物の口内に翼を生やして飛び込む。

怖いのを必死に押し殺してまで頑張るところを見ると、よほどスライムスリーの追加メンバーになりたいらしい。

もし、無事に帰ってこられたら通常の偽スラちゃんニ十体分の密度を持たせたカリスマに作り替えてやろう。

口には歯がなく、体内には大きな空洞が広がっていた。

偽スラちゃんは楽々、その体内に忍び込める。

そして、奥へ奥へと進んでいく。

不思議な感じだ。

粘液でぬめっているが、中身は体液で満たされているわけではない。

そして、数分飛んだ先に別れ道ができた。

「ぴゅい、ぴゅぴゅい(ボス、どうしましょうか?)」

『ぴゅいぴゅ(魔力を強く感じるほうだ)』

「ぴゅいっさ!」

俺の指示通り、魔力を感じるほうに曲がる。

すると、体内とは思えない広い部屋に出た。

床には、他の場所とは違い粘液ではなく、ピンク色の気持ち悪い液体に満ちていた。

偽スラちゃんに命令を出して採取させておく。

さらに、偽スラちゃんに魔術を使役させ周囲を照らさせた。

俺たちは息を呑む。

そこにはありえないものが並んでいた。

偽スラちゃんの恐怖が俺にまで伝わってきた。

『ぴゅい、ぴゅるぴゅるぴい(こんなもの、あるはずがないんだがな)』

この部屋にあったもの、それは肉の木に取り込まれた無数の人間だ。

異常な光景だった。

この部屋には無数の肉の柱が木々のように生えており、その木の中には一本一本、人が閉じ込められており。

その中には、偽スラちゃんの目の前で食われた人間までいた。

『ぴゅいっぴゅぴゅ?(ここに人間がいるなら、外で動いているのはなんだ?)』

そう、今まで邪神の能力は洗脳能力だと思っていた。

実際、人が変わったように七罪教団に協力するように変わっていった人々がいる。

だけど、それは間違いらしい。

ここに食われた人間がいるのだから、外にいるのは別のもの。

俺は、偽スラちゃんを通してみた映像を思い出す。

あのとき、ピンク色の怪物は人を丸飲みしてから、吐いていた。

洗脳が終わったから吐いたと思っていたが違ったようだ。

おそらく、邪神の能力は複製を作り出すこと。

食べた相手を取り込んで、複製を外に出す。

その複製は、本人と同じ記憶と能力を持ち何食わぬ形で社会に溶け込む。

……なんて恐ろしい能力だ。

気がつけば、周り全てがこいつの作った化け物に変わっているなんてこともありえる。

人の作った社会がこいつらに乗っ取られる。

そして、さらなる懸念があった。

本当にこいつの能力は、吸収して複製をつくることだけか?

なにか大事なことを見落としている気がする。

思考を巡らせていると、地面に溜まっていたピンクの液体が下から噴き出て、雨のように降り注ぐ。

それらは肉の木にとらわれていた人々の顔を濡らし、口の中に入っていく。

この液体は吸収した人々を延命させるためのもののようだ。

だとするなら、生かしておく必要があるはずだ。

それを知りたい。

『ぴゅいっぴゅ、ぴゅいぴっぴ(試したいことがある。おまえが監視していた男を肉の木から切り離せ)』

「ぴゅっ、ぴゅいっさ!」

偽スラちゃんが触手を伸ばし、刃の形に変質させる。

もともと偽スラちゃんが監視していた人物は別の偽スラちゃんに監視させていた。そちらとも意識を同期しておく。

偽スラちゃんが刃を振るう。

肉の木が切断されて、取り込まれていた男が解放される。

その次の瞬間だった。

別の偽スラちゃんに監視させていたほうの男の形が崩れ、ピンクの肉の塊になり、どろどろになる。

ちょうど、会議をしているところだったので悲鳴が響き渡る。よくよく見ると、悲鳴を上げる人々だけではなく、苦々し気にしている者たちがいた。

そいつらは同類なんだろう。

……この瞬間、その複製は肉の木でとらえていないと姿が保てないことがわかった。

『ぴゅい、ぴゅぴゅい、ぴゅい!(今すぐ、可能な限り肉の木を切り倒せ!)』

「ぴゅいっさ!」

偽スラちゃんが次々に肉の木を切り倒していく。

城内を見ている偽スラちゃんのほうからは、ところどころで悲鳴が上がっているのが伝わってくる。

城内で、それも権力者たちが何人もピンクのどろどろ肉になるのだから、大騒ぎになるだろう。

『ぴゅい、ぴゅぴゅ(そろそろ撤収だ。一番軽そうなやつを抱えて離脱しろ』

「ぴゅいっさ! ぴゅひぃーーーーーーーー」

偽スラちゃんが悲鳴を上げる。

あたりの壁柔から、肉の鞭やら肉の槍やらが伸びて来て、偽スラちゃんを襲う。

偽スラちゃんは器用に避けつつ、小柄な女性を背中に乗せて飛行し、入り口に戻ろうとする。

ここに来てミスに気付いた。

潜入前にもっと強化しておけばよかった。あるいはもっと強い偽スラちゃんを使うべきだった。

偽スラちゃんは悲鳴をあげながらも、なんとか逃げよう逃げようともがく。

だが、健闘もむなしくどんどん追い詰められていった。

進路が完全に肉が盛り上がってできた壁に塞がれ、壊して壊しても再生する。

そうこうしているうちに、複製人間の軍団に囲まれる。

俺は偽スラちゃんに人間を放棄するように告げ、逃げることを最優先に命じたが、それすらもできない状況になった。

助けた女性が肉の壁に埋もれて消えていく。

「ぴゅぴゅ、ぴゅいっぴゅ、ぴゅひー、ぴゅっぴゅぴゅ(ボス、自分はここまでであります。ですが、奴らの道具に成り下がるつもりはありません」

『ぴゅひっ、ぴゅぴゅ!?(貴様、一体何をするつもりだ!?)』

まさか、偽スラちゃんは自分が吸収されて、記憶を奪われることや、自分と同じ能力をもった偽偽スラちゃんが現れることを懸念しているのか?

たしかに、敵側の偽スラちゃんは厄介だ。

下手をすれば、スライムネットワークにアクセスされて、こちらの情報が筒抜けになるかもしれない。

「ぴゅい! ぴゅっぴゅ、ぴゅいいいいいいいぃ(道連れだ! 俺と一緒に地獄に行こうぜ!)」

偽スラちゃんがありったけの魔力を放出しながら、体の成分を組み替えていく。

これは……。

『ぴゅいっ! ぴゅぴゅぅ!(やめろ! 生きていればあとで増援に救出を!)』

「ぴゅぅー、ぴゅぴゅぅぴぃ(スライムフォー、なりたかったな)」

そして、大爆発。

偽スラちゃんは自らの体を爆弾に作り替え、ありったけの魔力で起爆した。

複製人間たちを巻き込み、化け物の体内に大打撃を与え……消滅した。

『ぴゅいぃぃぃ、ぴゅぴゅっぴ(馬鹿な奴だ。だが、貴様の犠牲、無駄にはしないぞ)』

偽スラちゃん、貴様はいい部下だった。

生きていればスライムフォーにしてやったのに。

……あれ、なんかおかしくないか。

なんで、まだ俺は現場の状況を認識で来ている?

その答えはすぐにわかる。

「ぴゅひぃ、ぴゅうひぃ(ふう、危なかった)」

偽スラちゃんは生きていた。

そして、ゆうゆうと複製人間たちの頭の上を飛んでいく。

そのからくりは簡単。

単純に、コバエよりも小さいので気付かれてない。

偽スラちゃんは自爆したのだが、実のところ自爆に使ったのは体の99%程度。残り1%は物理無効体質にして爆発に耐え、爆発のどさくさに紛れて逃げている。

この自爆は目くらましだ。

死ぬ前の盛り上がりや、悲痛な叫びは演出とノリのようだ。

さすがは俺の分身、俺に似てお茶目だ。

『ぴゅい、ぴゅぴゅう(見事だ。俺まで騙された)』

「ぴゅいっ、ぴゅう!(生き残れたのは賭けの結果であります。死を覚悟しました!)」

俺は苦笑してしまう。

『ぴゅいっぴ、ぴゅっぴゅぴ(大したやつだ。帰ってきたらスライムフォーにしてやる。帰還するまで油断するなよ)』

「ぴゅっ、ぴゅいっぴ!(はっ、ありがたき幸せ!)」

心なしか偽スラちゃんの飛行が上機嫌そうなものになる。

まったく、心配させやがって。

だが、今回の潜入のおかげで対策が見えた。

……とりあえず、このピンクの化け物をぶち殺しつつ、中の人間を救えば王城を取り戻せる。

このことをレオナに伝えて、作戦を練り上げるとしよう。