軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7 後悔の始まり

私がレリアーナを拒絶すると、会場には不穏な空気が漂った。

それを感じ取ったのだろう。

小さな声が、私を呼ぶ。

「パパ?」

……ニーナ。

「私はパパではない」

ニーナの頭を撫でて──これで終わりだ。

歪な家族ごっこは、もう続けるべきではない。

なのに、レリアーナはまだ私に希望を抱いていた。

「カミーユ、ニーナも貴方を慕っているわ。私達、本当に終わりなの?」

「君が裏切った時点で、私達は終わっている」

「お願いよ! 許して……」

「私は君達に同情しただけだ」

「カミーユ……愛しているの……」

泣き崩れるレリアーナ。

彼女は私よりも恋人を選んだ。私への愛などあるはずもない。

今は贅沢な暮らしを望んでいるだけなのだ。

やがてローグ伯爵家の者たちは屋敷を後にした。

すべてが終わり、長年抱えていた重荷を下ろした気分だった。

……もっとも。

レリアーナは、購入させた品々をしっかりと抱えて帰っていった。

そのしたたかさに、もはや苦笑すら忘れるほどだ。

レリアーナ。

あの高価な品々を見るたび、己の過ちを後悔するがいい。

メイベルの横顔が、脳裏に浮かんだ。

戻ってきた時、妻にはもっと相応しいものを贈ろう。

——私の想いが伝わるものを。

屋敷は静寂に包まれる。

ようやく訪れたはずの静けさが、なぜか寂しい。

メイベルならこんな時、何も言わず、ただ静かに寄り添ってくれただろう。

早く会いたいと、心から思った。

両親が屋敷に戻ってきた。

居間には、穏やかな時間が流れていた。土産話に耳を傾けながら、私はぼんやりと思う。こんな日常が、これからも続けばいい――と。

あとは、妻が帰ってくるだけだった。

屋敷に子どもの声が響けば、きっと賑やかになるだろう。両親も孫ができれば、どれほど喜ぶか分からない。

……そのためにも、

夫婦の在り方を、もう一度きちんと話し合おう。

──そう思っていた。

だが、その願いは、無残にも打ち砕かれる。

メイベルの兄、キリウスが我が家を訪れたのだ。

「メイベルとの離婚はどうなりましたか? 連絡が無いので心配で」

挨拶もそこそこに彼は私に尋ねた。

「離婚などしていない。メイベルはセシリーに会いに行ったんだ」

するとキリウスは首を振って「アイツ、どういうつもりだ」と呟いた。

そして知った。メイベルに離婚されたことを。

神殿から封書は届いていたが、どうせ寄付の要求だと思い放置していた。

──白い結婚による破綻。

「うそだ……」

視界がぐらりと揺れる。

隣では母が顔色を失い、そのまま崩れ落ちた。慌てて使用人たちが駆け寄る。

私は……一歩も、動けなかった。

そして思い出す。

初夜に、私は彼女に言ったのだ。

『いつでも離婚してくれて構わない』と。

メイベル……。

いつから、決断していた?

どうして、相談してくれなかったんだ……こんな、大切なことを。

「一体、留守中に何があったのだ。セバス、報告しろ!」

報告を聞き終えた父の視線が、まっすぐに私を射抜いた。

「メイベルは素晴らしい嫁だった。だからいつかお前も受け入れて、良い夫婦になると信じていたのだが。まさかレリアーナを優遇して、メイベルを軟禁するなど、お前は何を考えていたんだ!」

胸が、ずきりと痛む。

分かっている。あれが愚かだったことくらい。

それでも――言い訳が、喉元までせり上がってきた。

「軟禁などと……メイベルには部屋で待機してもらっただけです。レリアーナには後悔させたかった。それだけなんです」

「後悔させるなら、門前で追い払えばよかっただろう! 招き入れた時点でお前は、あの裏切者に未練があったのだ!」

──未練?

「ち、違います。レリアーナを後悔させて、追い出せばそれで……」

「それでこの結果なのか。馬鹿者め! ああ、メイベルには申し訳ない。どう償えばいいのか」

父の声は、怒りよりも――深い失望に満ちていた。

胸にじくじくと、鈍い痛みが広がる。

……私はまた、間違えたのか。

いや、最初からずっと、間違い続けていたのかもしれない。

「話し合えば、メイベルはきっと分かってくれます」

「何を話し合うと言うのだ。メイベルはお前に、もう愛想が尽きたに違いない」

父は頭を抱え、深くため息をついた。

……本当に、私は。

どうしようもない男だ。

嫡男としての責任も、夫としての在り方も、何一つまともに果たせていない。

悩みばかり抱えて、肝心なところで誤る。

それでも――

「セシリーの所に行ってきます。メイベルを連れ戻します」

きっと、メイベルは分かってくれる。

……今までだって、そうだった。

どんな時も、彼女は微笑んで受け止めてくれた。

レリアーナに未練などなかった。

誤解を解けば――許してくれるはずだ。

震える手で身支度を整え、私は逃げるように屋敷を飛び出した。

転がり込むように馬車へ乗り込み、強く扉を閉める。

早く、早く──

メイベルの元へ急がなくては。