軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第164話 はさみ打ち作戦

作戦、といってもまずは敵の戦力を知らなければなにもできない。

隠し通路の出口から、インヴィジブル・スカウトを偵察に出す。

いつもの通り、リモート・ビューイングを受けた透明な偵察兵が、無人の通路に出ていった。

なお、リモート・ビューイングをかける前に一度、アイソレーションは切ってある。

アイソレーションは、こういった類の魔法すら阻害してしまうのだ。

強力すぎるがゆえの欠点、というところである。

その通路は……いや、通路というより洞窟というべきだろう。

この地底神殿の最深部は、剥き出しの土壁に覆われていた。

壁面にこびりついた光る苔が、淡い輝きを放っている。

インヴィジブル・スカウトは、ルシアの指示通り、ロウンの地底樹がある大樹の間の方へ向かう。

不意に、ぼくの手がぎゅっと握られた。

偵察兵の視界を共有しているぼくは、どきりとする。

ルシアだ。

彼女の手は、わずかに震えていた。

「申し訳ありません。怖いのです。いまのわたくしは、ともすれば怒りに身を任せてしまいそうになります。怒りで判断を誤ることが恐ろしいと感じます」

「そうだね。ぼくも、感情だけで動いてしまったことがあった。幸いにして、アリスとたまきとミアが賢明だったから、うまくいった。ううん、育芸館のみんながいたからだ。……ルシア、きみはひとりじゃない」

ルシアはしばし沈黙したすえ、「はい」と首肯した。

少女の震えが静まっていく。

ぼくは、ほっと安堵の息をついた。

彼女はきっと、長いこと、感情で行動することを戒められてきたのだろう。

それは、さきほどのお姉さんとの会話を見ても、わかる。

それが王族ってことなのかもしれない。

だからこそ、己の胸中に渦巻く憎悪とか憤りとか、そういう激しい感情に、戸惑っている。

怯えすらしているのかもしれない。

ぼくは、彼女に対してただ気休めを、かりそめの安らぎを与えることしかできないだろう。

さて、インヴィジブル・スカウトの視界のなかでは、開け放たれた両開きの扉の前に来ていた。

そっとなかを覗き込む。

差し渡し五十メートルくらいの広い部屋で、四方に出口がひとつずつある。

天井が高く、ドーム状になっていて、その天井に取りつけられた白い石が真昼のような光を降り注がせている。

フロアの中央に、一本の枯れ木があった。

枯れ木はしなびて、いまにも倒れ落ちそうだ。

あれが……ロウンの地底樹、か。

「なんか地底樹、枯れちゃってるみたいだけど」

「神像石が外部との接続を断ち、封印状態に入っているからです」

「ルシアなら、この封印を解くことができるってことだね」

「はい」

枯れ木の周囲にグロブスターのような肉の塊が設置されていた。

そこからコードのような肉のコードが、室外に延びている。

あれが……女たちのマナが運ばれる先か。

で、あのグロい肉塊を使って、枯れ木に花を咲かせましょう、と……。

悪趣味だなあ。

いや、単純に、モンスターたちは彼らに必要なことをやってるだけなんだろうけど。

案の定、肉塊の前にゾラウスが三体いる。

さらに、ゾラウスたちを守るように、漆黒の鎧騎士が四体、立っている。

不気味な鎧騎士は、身の丈二メートルを超える偉丈夫で、剣と盾を持っていた。

あれもモンスター……なんだろうなあ。

ファンタジーで鎧のモンスターって、なにかあったっけ。

デュラハン……はアンデッドだな。

あくまのよろい……ってドラクエだから置いといて。

あとは、リビングアーマーとか?

アンデッド、ゴーレム系、意識の高い騎士……。

うん、わからない。

鎧騎士は、さらに部屋の四方に四体、分散配置されていた。

各々が四方の通路をにらみ、侵入者がいないか見張っている。

兜の奥で、赤い瞳が不気味に輝いている。

「鎧騎士が八体、ゾラウスが三体。鎧騎士、鎧のなかがどうなってるか不明」

「やはり鎧騎士の戦闘力が不安ですね」

「見た感じ、ぼくのパラディンの方が強い……とは思う。でも数が多いな」

いまのぼくのMPだと、インヴィジブル・スカウトをディポテーションで送還しても、パラディンをあと一体、出すのが限界だろう。

ゾラウスがいる以上、それ以下の使い魔を出すのは危険がおおきすぎる。

となると、こっちの前衛は三体か……。

いまここにアリスとたまきがいてくれれば、いやどちらか片方でもいてくれれば、だいぶ精神的に余裕ができるんだけど。

難しい判断を迫られるな。

なにより、鎧騎士がどういうタイプのモンスターかまったくわからないのがキツい。

「ドレッド・フレアで鎧騎士を追い散らして、その隙にまずゾラウスを叩くというのは……いや、あの鎧騎士がアンデッドだったら意味がないか。鎧を着たアンデッドって、なにか心当たりがある?」

「まずスケルトンが鎧を着ている可能性があります。鎧が本体で中身が空洞のモンスターというのも……」

「あー、やっぱりデュラハンみたいなやつって、この世界にもいるのか」

デュラハンなのかなあ。

でも、なんとなくだけど、アンデッドじゃない気がするんだよなー。

嵐の寺院で見たアンデッドの空気とは、微妙に違う気がするっていうか。

なんにしても、鎧騎士って、中身の心当たりがありすぎて困る。

向こうが意図してのことかどうかはわからないけど、結果的にぼくたちは敵戦力をどう評価していいか、ひどく戸惑っている。

「戦闘の際、ほかの場所から援軍が来る可能性も考慮した方がいいのかな」

「はい。わたしたちが出る通路は、反対側が行き止まりの倉庫ですからおそらくだいじょうぶですが……ほかの通路から増援が来る可能性はあります」

「ルシア、きみはロウンの地底樹とコンタクトするのに、どれくらい時間がかかる」

ルシアは少し迷ったすえ、「あなたがたの時間単位で一分程度頂ければ」といった。

「やっぱり、最初から部屋にいるやつらは全滅させないとどうしようもないな」

「はい。それは最低限の条件ですね」

「あ、そうだ。あの枯れ木は、巻き込んで焼いちゃってだいじょうぶ?」

ルシアの息を呑む音。

あー、やっぱダメだったか。

そりゃそうだよなー。

最悪、神像石が無事なら、楔としての役目は果たせると思うけど……。

ご神体だもんね。

「な、なるべく、それはやめていただけると……」

ルシアの声が震えていた。

あ、はい、デスヨネー。

でも一応、突っ込んだことを聞いておこう。

「神像石は、焼かれても無事?」

「はい。ですが、あの、わたくしがコンタクトするにも、樹そのものがなくなってしまうと、いささか不具合が発生する恐れが……」

「わかった、うん、その戦術はナシで」

まとめて焼き払えれば楽だと思ったんだけど。

仕方無いか。

ところで、これまでルシアは、せっかく覚えた火魔法のランク9をまったく使ってこなかった。

単純に、火魔法ランク9の範囲攻撃魔法、インフェルノがここでは使い辛いのだ。

インフェルノは、轟音と共にすさまじい爆発を起こす魔法である。

ダンジョンのなかで必要以上に騒ぐのは、敵を必要以上におびき寄せて危険だ、という判断だ。

加えて、白い部屋で隣を草原に変化させて使ってみたところ、予想以上に爆発がおおきかったというのもある。

今回も、たぶん使用することはないだろう。

ルシアがロウンの地底樹を焼くことに対して強い忌避感を抱いている以上、仕方がない。

リアリストの彼女がこうまで抵抗するのだ、なにかあるのだろう。

そのかわり、もうひとつのランク9、プロミネンス・スネークに頑張ってもらう。

宙を舞う炎の蛇を呼び出し、三秒ほどかけてターゲットを指定すれば、以後はターゲットとしたものをどこまでも追いかけるロックオン追尾型魔法だ。

どこまでも、といいつつその射程距離はせいぜい二百メートル程度なのだが……。

付与魔法のランク7に、トレマーセンスという魔法がある。

簡単にいうと、振動感知だ。

相手が地面に足をついている以上、移動すれば必ず、その衝撃が床に伝わる。

この魔法を利用して、遠くの目標に対して、その標的を直接視認せずにプロミネンス・スネークを発動できないか。

ぼくとルシアは、白い部屋の隣にできたフロアで、何度かそのコンボを試してみた。

犠牲になったぼくの使い魔たちには、哀悼の意を捧げたい。

結論からいうと、標的がおおよそ百メートル以内であれば、充分な追尾性能が発揮できた。

ただし、追尾中、ルシアが常に対象を把握していなければならない。

つまり対象がジャンプしたりすると、追尾が不可能になり、避けられてしまう。

とはいえ今回の場合、初撃でそれがバレるとは思えない。

安全圏からの、曲がる狙撃。

切り札としては、充分なはずだ。

「とりあえず、魔力解放を三倍で、黒鎧を一撃必殺していこう」

作戦はこうだ。

地底樹の間から二度ほど曲がった先の通路にルシアが待ち構え、プロミネンス・スネークで遠距離から殺していく。

敵が押し寄せてきたら、パラディン一体で通路に立ちふさがり、ルシアを守る。

で、ぼくなのだが……。

ぼくと残るパラディン二体は、隠し通路の別の場所から出る。

ルシアから見て、地底樹の間の反対側だ。

ルシアの方には、ゾラウスの護衛とおぼしき黒鎧たちが行くだろう。

ゾラウスの周囲が手薄になったところで、パラディン二体でゾラウス自身を強襲する。

これには、ゾラウスがほかの場所に逃げて増援を連れてこないようにする、という目的もある。

そしてぼくは、みんなを応援する。

完璧な作戦だ。

……相変わらず、ぼくがただ見ているだけ、という点については目を瞑ることにする。

なおルシアには、ヤバくなったら隠し通路に逃げ込むように、といってある。

ぼくの方に合流してくれるなら、なおよい。

その場合、ルシア側のパラディンは足止めで犠牲になるかもしれないけど、コストとして割り切る。

ぼくはアイソレーションをかけなおしたあと、地底樹の間を挟んでルシアとは反対側の通路の陰に隠れて、決行のときを待ち……。

約束の時間が来た。

通路から、そっと顔を出して、地底樹の間を覗き見る。

ちょうど、反対側の通路の奥から轟音が迫ってくるところだった。

黒鎧たちが、一斉にそちら側を向く。

炎に包まれた蛇が身をくねらせながら通路を飛んで、部屋に突入する。

一体の黒鎧にぶち当たった。

黒鎧の騎士の全身が、業火に包まれる。

かん高い叫び声があがった。

その身を焼き焦がし、倒れる黒鎧。

一撃で殺したか。

さすが、ランク9の単体魔法の三倍消費だ、威力がハンパない。

残る面々が狼狽し、ゾラウスがガラスを引っ掻くような声をあげる。

黒鎧のうち四体が、ルシアのいる通路に駆け出そうとして……。

その間に、もう一体、プロミネンス・スネークが出現し、黒鎧を一撃で屠った。

ここでぼくがレベルアップ、レベル40になる。

白い部屋で、軽く打ち合わせ。

二体とも仕留めたことを伝えた。

ルシアの側にいった黒鎧は、あと三体。

まあ、最悪でも逃げればいい。

ちなみに、黒鎧は一体につき青い宝石を三個、落して消えた。

レベル15前後ってことかな……。

やっぱり、まともに正面からやりあったら、かなり危険な相手だったか。

スキルポイントはまだ7だから、温存。

和久:レベル40 付与魔法7/召喚魔法9 スキルポイント7

さっさと白い部屋を出た。

もとの場所に戻り……。

さて、今度はぼくの番だ。

フロアに残るモンスターは、黒鎧が三体、ゾラウスが三体。

数は多いけど、こちらは全員にアイソレーションがかかっているから、ゾラウスは実質的に無力化されている。

このまま一気に潰すしかない。

「いくぞ」

ぼくの合図とともに、パラディン二体が通路の陰から飛び出す。