作品タイトル不明
29.リドートーの炭火焼鳥
山を下りてきた私たちは、キャンピングカーを出した。そして、その横で倒してきたばかりのリドートーを取り出す。
「それで。メルはこいつで何を作ってくれるんじゃ?」
「鳥の魔物ですから、鳥料理でしょうか?」
「そうだなぁ……」
鳥料理。色々あるけれど、久しぶりに食べたいものは――。
「うん、焼き鳥にしよう。しかも、炭火で焼いた、美味しいやつ」
「おっ、美味そうじゃな! たくさん作ってくれ!」
「何か手伝えることがあったら言ってくださいね」
二人の反応は上々だ。これは、完璧な焼き鳥を作らないとね。
ネットショッピングの画面を開き、考える。必要な物は炭だよね。ここは奮発して備長炭にしよう。
でも、車内の中でやるとなると、煙が凄いことになりそう。じゃあ、今日は外で焼いて食べよう。
そしたら、他に必要なものは……。串、コンロ、網……くらいかなぁ。
そうだ! 焼き鳥だけだし、飲み物とかも工夫しようかな。流石に十歳でお酒は飲めないから、それに似たようなものは……。
「あっ、これいいね」
画面を操作すると出てきたのは『子供のためのビール』という商品。中はジュースで出来ており、コップに入れると泡が出るタイプだ。
うん。雰囲気も出るし、とても面白そうだ。早速、必要な道具の購入ボタンを押すと、目の前に買った物が出現した。
「なんじゃ、なんじゃ! 色々出てきたぞ! 何かするのか!?」
「外で焼いて食べようと思ってね。その方が楽しいでしょ?」
「わぁ……外で焼いて食べるなんて、野性的ですね。とても面白いと思います」
普段とは違う場所で二人は楽しそうに笑ってくれた。これは、楽しい夜になりそうだ。
◇
私の目の前には頭と足を切り落とし、みんなで羽を毟った後のリドートーがある。テーブルに乗せると、思ったよりも小さい胴体だなぁ。
「本当に解体なんて出来るのか?」
「難しそうです……」
「とりあえず、やってみるね」
魔物の解体なんて初めてで、上手く出来るか不安だ。でも、解体しなければ、焼き鳥は食べれない。
私は覚悟を決めて、リドートーの体に包丁を入れた。そしたら、スッと包丁が迷いなく動き、どんどん肉が切り分けられていく。
凄い! 私ってばこんな力があったの!? ……もしかして、『転生者の料理技術』のお陰? だから、こんなにもすぐに解体出来るんだ。
じゃあ、他の魔物も解体も出来るってことかな? これから魔物を倒しても、このスキルがあれば解体で困ることはないってことだね!
そんなことを考えながら切り分けていくと、あっという間に部位に分けて切り終わった。
「はい、これで完了。あとは串に刺していくだけだよ」
「それだったら、私でも出来そうです。手伝いますよ」
「わらわもやるのじゃ!」
「じゃあ、お願い」
二人に串を手渡すと、切り分けた肉を刺していく。
「なんか、それぞれで感触が違うのじゃ。同じ肉なのに、どうしてじゃ?」
「部位によって肉質が違うからだよ。だから、食べる時も色んな肉質を感じることが出来るよ」
「えっ、そうなんですか? 鶏肉は鶏肉じゃないんですか?」
「同じ鶏肉の部類に入るけれど、食感は違うよ。だから、楽しみにしてて」
この異世界には部位によって食感が違う文化は根付いていないのかな? 鳥だったら、そこから取れる肉は全部鶏肉っていう括りなのかな?
だったら、二人に部位によって違う食感がして、どれも美味しいって言うことを教えてあげたい。焼き鳥の醍醐味は違う部位の食べ比べでもあるんだから。
「よし、完了! 早速、火の用意をしなくちゃね。ティナ、火をつけてくれる?」
「任せてください!」
コンロに備長炭を並べると、ティナが火魔法を発動させて火をつける。すると、備長炭が赤く火がともった。十分に備長炭を熱した後、串を並べていく。
「こっちが塩で、こっちがタレね」
「なんじゃ、それは」
「味を変えるんだよ。どっちも美味しいから期待していて」
「へぇ、どんな味でしょうか?」
二人が期待した眼差しをコンロに向ける。すると、肉の焼ける匂いが漂ってきた。それは、時間が経つごとにどんどん濃くなっていき――。
「うわー! まだか! まだ食べられないのか!」
「焼いているだけなのに、どうしてこんなに美味しそうな匂いが……!」
「じゃあ、タレをつけるね」
悶える二人を見つつ、肉にタレを塗る。すると、ジュワッといういい音と共に、タレの匂いが充満した。
「な、なんじゃこの匂いは! 香ばしくて、芳醇な匂い……こんな匂い、知らないのじゃ!」
「うぅ、この匂い……お腹に来ますっ! 早く食べたいです」
「ふふっ、ちょっと待ってね」
さらに身悶えする二人を眺めると、一旦車体に戻る。そこで冷やしておいた、子供のためのビールとコップを持っていく。
「はい、二人とも。コップ持って」
二人にコップを持たせると、そのコップに子供のためのビールを注ぐ。すると、黄色い炭酸が弾けながら溜まっていき、最後には泡が出てくる。
「おぉ? なんじゃ、この楽しそうな飲み物は」
「あっ、良い匂いですね」
「こういう飲み物も必要かなって思って買っといたの。あっ、そろそろ食べごろの部位があるみたい。まずは、この肉を取って」
そう言って、串を指示した。二人が串を取ると、まじまじと見つめる。
「それはレバーだよ」
「どれどれ……はむっ。むっ! 濃い、濃い味がする! それに、食感が気持ちいいのじゃ!」
「わぁ、凄いコクです。こんなに濃い味を食べたの、初めてです。トロっていていて、癖になりそうですね」
私も一口食べてみると、強いコクを感じた。ねっとりとしたにトロッとした食感。独特の風味が癖になりそうだ。
「じゃあ、これ。部位はむねだよ」
「ほう……。むっ、さっきと全然食感が違うのじゃ! これは、とても食べやすいのぅ!」
「凄くさっぱりしていますね! しっとりとして食べやすいですし……これは塩の方が美味しいです」
むねはしっとりとしていて、塩味がピッタリだ。食感もとてもよく、思わず夢中で食べ進めてしまうくらいだ。
「次も王道のももだよ」
「むむっ! ジュ、ジューシーじゃぁっ! 肉汁が溢れて止まらんぞ!」
「肉汁のうま味が流れ込んできて、頬がキュッとなります。これは、堪りませんね!」
やはり、王道のももは反応が違う。溢れる肉汁と、肉々しい食感は誰でも虜にしてしまうほどに魅力的だ。
「最後に皮」
「むーっ! このカリッとしたところ、堪らなく美味いのじゃ!」
「凄い油……。背徳的にうま味を感じます。これも、癖になりそうです!」
二人とも、ちゃんと皮の美味しさを感じているみたいだ。この焼けた皮と火が通った皮の食感。背徳的な油のうま味。それがとんでもなく美味しいっていうのが分かってくれて良かった。
「ぷはーっ! 肉を堪能した後に飲む、これは美味しいのじゃ! なんだか、今日も美味しいしか感じ取らんぞ!」
「えへへっ、美味しいですね。焼くだけでこんなに幸せになれるなんて、思ってもみませんでした」
「まだまだ焼くから、どんどん食べて!」
私はまた新たな串を焼き始めると、二人は嬉しそうにはしゃいだ。楽しい夜はまだ続いていくみたい。