作品タイトル不明
28.リドートーを狩る
キャンピングカーが山の手前で止まる。
「着きましたね。さぁ、下りましょう」
ティナがサイドブレーキをかけると、私たちは外に出た。ティナがすぐにキャンピングカーをしまい、目の前に鎮座する山を見た。
「大きな山だね。探すの大変そう」
「これくらいの山、どうってことないのじゃ! よく、山で修行させられたからなぁ……」
「そうなんですね。じゃあ、山のことはサリサに聞けば大丈夫そうですね」
「まぁな。それなりに詳しくはある」
サリサが山で活動していた経験があるから、山での動き方に詳しそうだ。それなら、問題なく山に入れる。
私たちは山へと足を踏み入れ、ゆっくりと登っていく。やはり、斜面がきつく感じられる。こんな中で魔物を探すのは一苦労しそうだ。
「あっ、私の耳で音を拾えばいいんだ」
そうだ、獣人の私は耳も良いんだ。
「私が耳でリドートーの鳴き声を聞き分けるよ」
「なるほど、それはいいな! そしたら、探す手間が省ける!」
「獣人って本当に凄いですね」
少しはみんなの役に立てそうだ。山に耳を向け、少しずつ動かしながら音を拾っていく。えーっと、リドートーっぽい鳴き声は――。
その時――もふっと耳を掴まれた。
「ひゃっ!?」
「メルの耳は可愛いのう。ピコピコ動いて、堪らんわい」
「このもふもふ加減も最高ですよ」
「も、もう二人とも! 邪魔をしないで!」
「メルが耳をピコピコ動かすから悪いのじゃ! あんなもの見せられて、黙っていられるか!」
「そうですよ。凄く誘惑されます」
「……二人とも」
張り切って言う二人を前に私は呆れるしかなかった。少し耳に触らせて満足させると、また耳を山に向けた。
色んな音が混ざり合っている。その中から、鳥っぽい鳴き声は――あっ、聞こえた!
「二人とも、聞こえたよ! あっちの方角にいる!」
「よし、行くのじゃ!」
「逃げない内に追いつきましょう」
リドートーらしき声が聞こえた方向を指さすと、みんなでその方向に駆けあがっていく。
しばらく、山の中を走っていると――木の陰に動く物体を見つけた。大きな胴体に長い脚と長い首。特徴的なくちばしを持っている。
「あれが、リドートーじゃない? ほら、飛べない鳥って感じでさ」
「えぇ、特徴は一致してますね」
「あれで飛んだら、ある意味ビックリするのじゃ」
ということは、あの魔物で確定ということだ。
「じゃあ、どうやって近づこうか」
「こんなものは一気に片付けた方がいいのじゃ! わらわに任せろ!」
そう言って、サリサが前に出る。その時、リドートーがこちらを向いた。凄い、離れた位置からでも分かるなんて。
そんなことを考えていると、リドートーは私たちのいない方向に走り去ってしまった。
「うわー! 逃げられたぞ!」
「凄い察知能力ですね……」
「うん……こっちの居場所が分かってた感じだった。多分、強いサリサに気づいたんだと思う」
「そういえば、強い敵の前では逃げるって言ってましたね」
「じゃあ、わらわは攻撃できんではないか!」
サリサが戦ってくれれば助かるんだけど、このままだとサリサはまともに戦えないってことになる。でも、サリサの攻撃力は魅力的だし……。
「そうだなぁ……弱い私たちが囮になってリドートーを引き付けるっていうのは?」
「それ、いいですね! 弱い敵なら戦ってくれるんですよね?」
「だ、大丈夫か? あの魔物、結構強そうじゃったぞ」
サリサが心配そうに私たちを見る。確かに、あの魔物は強そうだった。そんな魔物を私たちだけで倒すのは無理がありそうだ。
「だったら、私たちで引き付けて、足を攻撃する。相手が上手く走れない状況になったら、サリサが飛び出してきてトドメを刺す。これでどう?」
「それじゃったら、倒せる可能性が高くなる」
「良いと思います。それで行きましょう!」
作戦は決まった。私たちは頷き合うと、走り去ったリドートーを追って、山を駆けあがっていった。
◇
「……いた、あそこにいる」
遠くの木の陰にリドートーの姿を見つけた。ここからだと、どうやらリドートーはこちらの存在が分からないらしい。
「じゃあ、約束通りに」
「分かったのじゃ」
「はい」
私とティナが飛び出していき、サリサが待機する。どんどん近づいていくと、かなり離れた位置でリドートーがこちら向いた。
まるで、私たちを査定しているような視線が向く。そして――。
「ギョーッ!」
耳をつんざく咆哮と同時に、リドートーが地を抉るように駆け出した。
――速い。視界がぶれる。次の瞬間には、もう目の前にいた。
「ティナは後ろで魔法の準備を! 私が止める!」
「分かりました!」
返事を聞くより早く、私は剣を抜き放つ。
直後――風を裂く音とともに、鋭いかぎ爪が振り下ろされた。
「くっ!」
咄嗟に剣で受ける。金属が軋む。腕に衝撃が突き抜け、足元の地面が沈んだ。
重い! 押し切られる!
歯を食いしばり、全身の力を込めて弾き返す。だが、終わらない。
「ギョーッ!」
間髪入れず、二撃、三撃――嵐のような連撃が叩き込まれる。爪が空気を切り裂き、頬をかすめた風圧だけで皮膚がひりついた。
一歩でも崩れれば、そのまま終わる。防ぐだけで精一杯。反撃の隙なんてない。
まずい、このままじゃ押し切られる。
「炎よ!」
背後から響く詠唱。次の瞬間、轟音とともに灼熱が弾けた。
「ギョーッ!?」
リドートーの全身が炎に包まれる。揺れる炎の音と、焦げた匂いが一気に広がった。巨体がのたうち回り、地面を踏み荒らす。視界が揺れ、隙が生まれる。
今だ。呼吸を一つ、強く踏み込む。この一撃で決める!
リドートーの下へのスライディングをして、渾身の力で剣を振るった。
スパッと足が切り離され、片足がなくなったリドートーはバランスを崩して地面に叩きつけられる。
「サリサ!」
ありったけの声で叫んだ。すると、遠くからものすごい圧を感じた。それが、一瞬で近づき――。
「トドメは任せるのじゃ!」
瞬きをする瞬間、目の前にサリサがいた。そして、渾身の一撃を叩き込む。
「ギョエェェッ!」
地面がひび割れるほどの衝撃が響く。その断末魔を最後にリドートーはピクリとも動かなくなった。
「よし、倒したのじゃ!」
サリサがピースサインをしてポーズを決める。思わず、私たちは駆け寄った。
「サリサ、ありがとうございます! お陰で、怪我もなく終わりました!」
「やっぱり、サリサは強いね。頼りになるよ」
「ふっはっはっ、もっと褒めるがいい!」
嬉しそうに腰に手をやって、体を逸らしながら喜ぶサリサ。その姿を見て、私たちは笑い合った。