軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 フォークダンス

学園の中央にあるグラウンドでは、学園祭の後夜祭として王立学園生達とゲスト達がフォークダンスを踊っている。

この後夜祭に参加しているのは、学園生と他国から正式に招待されたゲスト達、そして坂道部のお化け屋敷や地理研究部のスタンプラリーなど、部活動の出し物を攻略して景品を獲得できた者だけとなっている。

中央に大きな篝火が焚かれ、それを囲むように女子が輪を作り、その外側に男子が輪を作って踊っている。

輪への出入りは基本自由で、好きな時に好きな場所へ加わったり抜けたりしていい。

曲は日本のフォークダンスの定番曲をアレンがいくつか鼻歌で適当に再現して、それを音楽が得意なジュエやケイトなどの学生が編曲した。

各曲ごとに、その場ですぐ覚えられるような簡単なステップが付けられている。

「ふう、やっと追い出し作業が終わったと思ったら、もうフォークダンスも終盤か……急ぐぞダン、ドル」

俺とダン、ドルが中央グラウンドに着くと、フォークダンスはすでに終盤の時間に差し掛かっていた。

風魔法を鍛えている俺やダン、そしてドルの光魔法なんかは索敵能力が高いので、一般の参加者を漏れなく学園外に退出させる作業を手伝っていたのだ。

この学園祭は、こうした運営面も可能な限り生徒達が自ら行う方針で運営している。

今流れているのは、スラブの商人が題材になっている有名なロシア民謡で、誰でも一度は耳にしたことがあるであろう曲だ。

凸形などのブロックが落ちてくる古典的な落ちゲーのBGMで流れていたあの曲と言った方が、一定の年齢層以上には通りがいいかもしれない。

演奏担当は何人かいるが、今はピスがギターのような弦楽器を奏で、カノンが魔物の革が張られた太鼓を叩き、どこか哀愁を感じるメロディーに沿ってシャルが優しく歌っている。

意外な事に、王立学園生には音楽が出来る奴がそこそこいるみたいだ。

俺は前世はもちろん、ロヴェーヌ家でも全く楽器演奏には縁が無かったが、貴族の教養として習わせる家が一定数あるのだろう。

まぁピスのギターは、たまたま地元に滞在してた吟遊詩人のあんちゃんに教わったとか言っていたから、英才教育というわけではなさそうだけど。

相変わらず何でもそつなくこなす奴だ。

歌詞は『行商人』という原曲のタイトルと、うろ覚えの記憶から俺が適当に書いている。

確か元々は 綿布(キャラコ) などの品物をパンパンに詰めた 行李(こうり) を背負って、恋をする村娘に会いに行く的な、行商人の歌だ。

歌詞はほとんど記憶になかったから、その昔母上を助けてくれた行商人のコルと薬師のムーばぁさんの物語を勝手にアレンジして書いた。もちろん俺の妄想も含まれている。

「よーコニーにルディオ、そこ入れてくれ!」

ちょうどBクラスのコニーとルディオがいたので、輪に入れてくれるように頼む。

「ようお疲れアレン」

「王立学園が誇るAクラスの凡顔三兄弟が揃い踏みだな。こりゃ壮観だ」

ルディオがそんな軽口を叩くと、女子の輪はざわめいた。

「あ、あの方達があの有名な……」

「ええ……間違いないでしょう……」

……な、何が有名なんだ……。凡顔三兄弟と言えば――?! みたいな連想ではないと信じたいが……。

俺達は取り敢えずルディオのけつを蹴り飛ばしてから、輪に加わった。

「……で、なんでアレンは楽器もできないのに曲なんて作れるんだ?」

隣で踊り始めたドルが不思議そうに聞いて来るが、もちろん前世のぱくりですとは答えられない。

「……別に必ずしも楽器が弾ける必要はないだろう。ようはやる気の問題だ」

そんな風に、いつも通り適当に誤魔化す。

まぁ前世にも、楽譜は読めないが自分で曲を作っているというシンガーソングライターがいたし、別に不可能ではないだろう。

「……ちなみに、このダンスには一体何の意味があるんだ? 意味深な歌詞を書きやがって…… 」

俺の隣のドルの、そのまた隣で踊り始めたダンが疑いの目で俺を見ているが、別に深い意味などない。

歌詞の内容はこんな感じだ。

セブンスピアに眠る竜の秘宝を探し求めて山奥の寒村に訪れた行商人が、 薬師(シャーマン) の村娘に恋をする。

秘宝(夢) を追い求めていつのまにか年老いた商人は、最後の最後に秘宝へと続く鍵を手にするが、結局秘宝そのものには辿り着けず、生涯の恋も叶わぬまま……という内容だ。

哀愁のあるメロディも相まって、どこか行商人が道化の自分を自嘲しているような雰囲気もある。だが俺的には、夢と恋の両方を追い続けた、どうか幸せな人生であってほしいとの願いを込めて書いている。

「夢と恋の力の素晴らしさを讃えただけだ。お前らがあまりにクソ真面目で、夢はともかく恋をしている様子がかけらもないからな」

この曲は、基本的には内外で向き合っている男女がペアになって踊る。

そして一節終わるごとに外側の男子の輪が時計回りに一つずれて、ペアが変わる仕様になっている。

なので、可愛いあの子と踊るペアが近づいてくると、どきどきが止まらないという訳だ。

俺が『どやっ』とその趣旨を説明すると、ダンとドルと、ついでにコニーとルディオも顔を引き攣らせた。

「ダンスでどきどきって……幼年学校生じゃないんだぞ……。そもそもなんで総当たりなんだ……? 別に踊りたい人に直接踊りを申し込めばよくないか?」

ドルがそんな風に、情緒の欠片もない強者の論理を振りかざす。

「むしろ学園生は皆、何がお前の狙いなのか疑心暗鬼でどきどきしてるんじゃ……。何なんだ、あの禍々しい偶像は……」

そう言ってダンが指さしたのは、篝火の近くに設置している腰くらいの高さの木彫りの像だ。

収集癖のあるココが八番街で手に入れてきた。

彫りは本格的だが制作された時代や背景となる文化などその正体は不明で、ココでも何の神を祀ったものかすら分からないらしい。

恐らくはどこかの少数民族か何かが、何らかの儀式に用いていたものだろう。

ココ曰く、ものすご~く珍しい、ただのガラクタとの事だ。

もちろん単に雰囲気を盛り上げるための演出の一つで、深い意味などない。

あの周りをくるくる踊っていたら、ワンチャン奇跡的に禁断の『神降ろし』でも起きないかなぁ~なんて下心もないでもないが、まぁ流石にないだろう。

「そもそも、皆があまり恋愛をしないのは、お前が引き締めているからだろうがアレン……」

ドルがこんな言い掛かりを付けてきたので、俺は即座に反論した。

「この恋の魔術師、アレン・ロヴェーヌ様に向かって寝言を言うなドル……なんで俺のせいで皆が恋愛しなくなるんだ……」

俺はことあるごとに恋愛の素晴らしさを語っているし、自分だって彼女が欲しいと明言している。

にもかかわらず、なぜか硬派一徹の修行僧のように思われている節がある。

恐らくはフェイとジュエを拒絶していることなどが関係しているのだろうが……あなたは最後に差し出された二枚のカードが、どちらもジョーカーのババ抜きがあったらどうしますかという話だ。

理不尽すぎるだろうが……。

そりゃフェイとジュエにしたって、流石に第一印象ほどの悪印象はない。

だが余りにも周囲の状況が重すぎて、とても恋愛対象には思えない。

普通の学生なら、好きとまでは言えなくともまずは付き合ってみて、結果うまくいったりやっぱりダメだから別れたり的なお試しが可能だろう。

だがもし俺があの二人のどちらかと付き合ったりしたらどうなるか。

外堀を埋められ、内堀も埋められ足に鉄球を嵌められて囲い込まれ、後戻り不可能になるのは火を見るよりも明らかだ。

性格の不一致で別れま~す、などとは冗談でも言い出す事は出来ないだろう。

一体いつから俺の恋のハードルはこんなに高くなってしまったんだ……。

「何が恋の魔術師だ……アレンがクラスメイト以外の女子と仲良く話しているところなんて見た事ないぞ?」

ダンが白け切った顔でそんな事を言ってくるが、それは俺が避けてるんじゃない、避けられているんだ。ナゼかな。

「……仲良く男女で話してたら、何故か風に舞い上げられた砂が目に入るってもっぱらの噂だぞ?」

「それは単なる四大精霊が一柱、レ・シルフィの悪戯だ。何でもかんでも俺のせいにするな」

「……俺が魔法研で女子と話してるだけで露骨に不機嫌になるし」

「それは単にドルがモテるのが気に食わないだけだ」

「…………と、とにかく、アレンは口では恋の魔術師がどうの、裏定理がこうのとあーやこーや言うくせに、自分はわき目も振らずに修行に邁進しているから、皆が遠慮しているんだ」

「そ、それはあまりに恋愛の糸口がなくて、趣味しかやる事がないからやむにやまれず――」

「ステラなんていっそ坂道部は恋愛禁止にしようか……とか真剣に検討してたぞ? まぁケイトに止められてたけど」

「れ、恋愛禁止だと?! 一体何人が坂道部に加入していると思っているんだ! 青春は一度しかないんだぞ?!」

……いったいどこの 坂道(さかみち) グループだよ、ストイックすぎるだろう……。

「そう思うなら行動で示せよ……。ほら、あの子なんて可愛いし、さっきからアレンの方を意識してるぞ」

ドルにそう言われ、俺の胸はどくんと高鳴った。

学園の女子とは一切目が合わないのに、いかにも高貴な感じのその外国の女の子とは、何度か目が合うなとは思っていたのだ。

もしただの勘違いだと恥ずかしいから、知らん顔をしていたのだが、ドルが言うならやはり気のせいではないだろう。

ペアを組む順番が近づいてくると、ユグリア王国ではあまり嗅ぐことのない独特の香りが僅かに鼻につく。

彼女は可憐な笑顔でダンスをし、手を繋ぐ動作のところで何かが包まれた紙を渡してきた。

そして俺と踊った後は、完璧なお辞儀をして輪を抜けていった。

「み、見たかダン?! 今の可憐で優しそうな女の子を! ドルよ、今のはどう考えても脈ありだったろう?!」

ちょうど曲が終わったので、俺が慌てて渡された紙を広げると、そこには混沌とした模様の石が嵌められた指輪が入っており、包み紙にはボルジョミ王国第一王女・ミリアリアとあった。

「ボルジョミ? ああ、確かバリバリの武闘派の現国王が隣国をどんどん滅ぼして急拡大したのはいいが、やりすぎて今は逆に三つの国に攻められて滅亡寸前になっている西の中規模国だな」

「ああ、どっかで嗅いだ事がある匂いだと思ったら、ありゃ船乗りの間で一時流行った西国の媚薬の匂いだな。おめでとうアレン、そのどう見ても裏魔道具の指輪を嵌めたら、次の王様はお前だ。式には呼ぶなよ?」

ダンがいい笑顔でそんな事を言って、俺の肩に片手をぽんっと置く。

「…… 着火(イグニッション) 。ふざけんなダン! この指輪はお前が嵌めろ!」

「やめろバカッ! ほんとに抜けなくなったらどうするんだっ!」

と、俺が包み紙を燃やして無理やりダンに指輪を嵌めようとしていると、いつのまにかララが近くに立っていた。

「あの、アレン、ダン、それにドル? ちょっと紹介してもいいかしら?」

振り返るとそこには、ララと、いつか河川敷であったジェアナさんが立っていた。

「あの、私……ジェアナ・ユニヴァースと申します。その、以前一度河川敷で……」

ララとジェアナさんの二人がなぜ知り合いなのかは分からないが、もしかしたらジェアナさんはあの淑女クラブの猫カフェで、ララに認められたのかもしれない。

などと想像を膨らませていると、ダンが思い出したように言った。

「ん? あぁ、アレンが不貞腐れてトラブルほいほいしてたあの時の……」

「お、覚えていてくださったんですか?」

ダンがそう言うと、ジェアナさんは『ぱぁぁ』と効果音が付きそうなほど顔を明るくした。

「おい、トラブルほいほいって何だ、失礼な事を言うな。俺はお前の指示通り動かずじっと見学してただけだろうが!」

「ぬかせ、お前が『私の名前はアレン・ロヴェーヌです』って名乗れば、トラブルになんてなりようがないだろうが!」

「名乗っただけで蜘蛛の子を散らしたように逃げられるんだから、初めに名乗ってたらいつまでたっても新しいお友達ができないだろうが!」

「自業自得だろ!」

と、俺とダンがこのようにいつものように戯れていると、その様子を目を丸くして見ていたジェアナさんがくすくすと笑った。

「ふふっ、本当に仲が良いんですね。……あの、私以前からよく河川敷で犬の散歩をしてて。今みたいに帆船部が盛況になる前から、ダニエルさんが毎日ひた向きに帆船に取り組んでいたのをたまたま見てて……すごく憧れていました。よければ次の曲、お願いできますか?」

「え? ああ別に構わないけど……」

「ジェアナさんは、二年Aクラス皆のファンなんですって。ほほほっ」

ほほう、ジェアナさんは二年Aクラスの箱推しか。それはなかなかいい情報を聞いた。

曲は移り、ド定番の恵みの泉から水を汲む喜びをたたえる曲になった。

「今日のダンスの曲は、全てアレンが制作したのよ? こう言っては何だけど、意外な才能だわ」

ララがそう言うとジェアナさんは目を輝かせた。

「まぁ! やっぱり詩の才能があるのね、凄いわ。本当にとっても素敵な曲ばかり……。私は『草原を転がるロウバルチャー』の曲がとっても楽しくて気に入りました。芸術の才能があるって、本当に特別――」

「いやーそれほどでもありますっ!」

だが――

俺が調子に乗ってはっはっと笑ったところで、ふと気がついた。

ララは会話の流れでさりげなくドルの前に陣取っている。

それは別にいいのだが、当然ながらジェアナさんはララの隣なので、ドルの隣のダンからスタートして、次はドルへと移動する。俺とペアになる事はないだろう。

俺は慌てて自分のペアとなりそうな人物へと目をやった。

すると俺と目が合ったその女子は、にこりと笑ってうんうんと頷いた。

「分かる、分かるぞアレン・ロヴェーヌ。砂漠で水を求めるが如く、混じり気なしの勝利への渇望……。これはまさに戦士の唄だ。さぁ 決闘しよう(おどろう) 。お前が私に相応しい男だと示してくれ!」

素顔は可愛いような気もするが、よく分からない。その顔にはファイアパターンのような、実に攻撃的な化粧が施されているからだ。

「……ウムバ族の戦士、それも相当高位の家系だな。彼女らは気に入った男に決闘を申し込み、負けたら一族ごと相手に差し出す。おめでとうアレン、彼女に勝ったら次の戦士長はお前だ。式には呼ぶなよ?」

俺はその女の子の隣にいる、その次に踊る予定の女の子を見た。

そこには前髪がヴェールの如く顔を覆っている、痩せた女の子が爪を噛んでいた。

「ひ、ひひひ。シド様の……復活……祭……魔族の……再興……ひひ、ひひひ」

その次も、そのまた次にも、一癖も二癖もありそうな女の子が待機しており、さらにぞくぞくと俺の脳内アラートを激しく点滅させるデンジャー女子が輪へと加わっている。

「…………俺は急用を思い出したからここで抜ける。まぁせいぜい楽しめよ、二人とも。この『恋の魔術師』が用意した、とっておきの企画をな」

「……ああ分かった。分かったから、足を踏んでぐりぐりするのを止めろ……」

こうして第一回王立学園祭は幕を閉じた。

中には『猫カフェ』などその趣旨のよく分からないものもあったが、さまざまな催しを通じて、この王国で着々と育っている未来の可能性を、参加各国はまざまざと見せつけられた。

なぜこのような、手の内を晒すような真似をしたのか……参加各国はその狙いを計りかねた。

一つだけ言える事は、この古い王国が劇的に生まれ変わろうとしている事。

そしてその変化をもたらしているのは、間違いなくあの男だという事。

彼が制作した音楽に込められた意味を紐解こうと、各国はその意味深長な詩が付された曲を分析したが、その解釈は困難を極めた。

どの時点でアレン・ロヴェーヌがその未来を予想したのか。いつ確信したのかは誰にも分からない。

……いずれにしろ、アレン・ロヴェーヌは着々と備えている。

彼だけに見えている、この大陸を覆う未曽有の未来へ向けて。