軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

159 不合格

その後俺たちは待ちに待った温泉へと入るため、シティング湖の湖畔にあるヴァンキッシュ家の別荘へと移動した。

流石に皆の足取りは鉛のように重い。

ちなみに、先に戦死ゾーンに移動したライオは、馬鹿だからティムさんに稽古を付けてもらったりしていたらしく、誰よりもヘトヘトになっていた。

恋バナでもすればいいのに……

山紫水明の地と名高いシティング湖は、最盛期のダーレー山脈麓の紅葉を、鏡のように写した美しい湖で、俺たちが別荘の前の中庭へと到着すると、すでに全てのクラスが到着した後だった。

「よ〜Aクラスさん!

随分とのんびりした到着だな!

悪いが一番は俺たちBクラスが頂いたぞ?」

こう声を掛けてきたのは坂道部の部員でBクラスのコニー君だ。

「この林間学校で最も大切なのは、自分を超えることだ。僕たちが如何にして一番をもぎ取ったのか、たっぷり聞かせてやろう」

これは魔法研のルディオ。

俺たちAクラスに一矢報いたBクラスの奴が、いい笑顔でマウントを取ってくる。

充実した林間学校だったのだろう。

「……あぁ、そうか。

それは凄いな。

今度ぜひたっぷりと聞かせてもらうよ。

だけど……悪いが今は少しだけ寝させてくれ。

限界なんだ」

先頭を歩いていた、いつもはノー天気なアルがルディオの肩をポンと叩きながらこう言って、足を引き摺るようにして真っ直ぐ別荘へ入ろうとする。

1-A全員が、言葉にできない異様な雰囲気をその身に纏っている。

その尋常ではない気配に、前庭に溜まっていた他のクラスの生徒は息を呑んだ。

玄関のドアを開けて入ると、ざわざわと声が広がり、Dクラスのレベランス出身の女の子がジュエへと声を掛けた。

「ジュエ様!

林間学校どうもお疲れ様でした。

……よもやジュエ様を擁するAクラスが最後に到着とは……あのAクラスの第1想定は鬼畜のような内容でしたので心配しましたが……お怪我がないようで良かったです。

最下位のクラスはこちらの大広間で雑魚寝、などとふざけた事を言っておりましたが、ジュエ様は私のベッドでお休みください。

運良くDクラスは2番目に帰ってこられましたので、そこそこの部屋を確保しております」

ジュエはニコリと微笑んで、ゆっくりと首を振った。

「そのお部屋は貴方が勝ち取ったのでしょう。

自分が成し遂げた事に誇りを持って、遠慮なくそちらのお部屋を使ってください。

それよりも……Aクラスはここで寝てもいいのですね?」

ジュエは返事を聞かずにその場へと崩れ落ちた。

Aクラスのクラスメイト達が、ぼろぼろの格好のままジュエに続いて次々にその場で横になる。

その様子を見た他のクラスの生徒達の騒めきは、水を打ったように静まった。

「ちょっ、ちょっと待てお前ら!

何寝てるんだ、まずは風呂だろう?!

1週間近くも体を拭いたりクソ冷たい川で水浴びしかしてないんだぞ!

起きろアル!

ここで自分を超えろ!

部長がそんな事じゃルディオに笑われるぞ!

おいドル! 鬼の副長がそんな事でどうする!」

俺は慌てて皆に声を掛けたが、一向に返事がない。

まるでただの屍のようだ。

「お疲れ。

随分しごかれたみたいだね、アレンちゃん。

……アレンちゃんだけなんでそんな元気なの?」

俺が不甲斐ないクラスメイト達に絶望していると、トゥーちゃんが声を掛けてきた。

「あ、トゥーちゃんお疲れ。

いや俺は くそじじい(ゴドルフェン) のせいで、比較的寝る時間が取れたと言えばそうなんだが。

…………ところでトゥーちゃんはもう風呂入った?」

トゥーちゃんは首を振った。

「いや、流石に俺も疲れてさ。さっきまで仮眠を取って、今から入るところ」

おおっ!

「じゃあ一緒に風呂へ行って、その後色々語り合おう!

トゥーちゃんは好きな女の子いるのか?

もしかして彼女いる?」

俺がこう尋ねると、トゥーちゃんは顔を真っ赤にした。

「ええっ?!

いきなりなんだよアレンちゃん!

俺は魔導車部が忙しいから、恋愛なんてしてる暇はないよ!」

そう言って、目を逸らした。

くっくっく!

俺はつい心の中で忍び笑った。

「……まずは風呂だな!

その後たっぷりと語り合おう!

な、トゥーちゃん?」

俺はがっちりとトゥーちゃんと肩を組んだ。

「ほ、本当に好きな子なんていないぞ、アレンちゃん!

ちょっと気になる子はいるけど、好きとかそういうんじゃないんだってっ!」

そうして俺は、風呂をたっぷりと堪能した後に、Eクラスのメンバーが男女別に当てがわれている使用人用の大部屋へと突撃し、たっぷりと語り合った。

俺が皆から恋愛話を色々と聞き出してきゃっきゃっと喜んでいると、そういうアレンちゃんはどうなんだとトゥーちゃんから反撃を受けた。

俺が仕方なくロジータさんとの苦い思い出の話を開陳すると、Eクラスの面々には爆笑されたのには参ったが、まぁそれも青春だ。

こうして俺は、楽しみにしていた林間学校での青春をやっと心ゆくまで堪能した。

翌朝。

「林間学校オリエンテーションの成績を発表する!

まずは到着順位! 第5位――Aクラス!」

Eクラス担任のリアスが、成績下位からクラス別に成績を発表する。

ちなみにアレンは、スコアなどどうでもいいと言って、朝風呂に出かけている。

アレンは昨日、Eクラスの面々と恋バナを楽しんだ後、疲れて皆が寝た後に全種類風呂を制覇している。

生徒の一番人気は屋上に造られたシティング湖が一望できる展望露天大浴場だが、アレンのお気に入りは湖側ではなく山側のこぢんまりとした、普段は管理人などが利用している半露天風呂だ。

湯量を確保するために加水している他の大浴場と違い、3人も入れば体が密着するほど手狭なその風呂は、源泉そのものを掛け流しで使用しており、湯温も高い。

当然生徒に全く人気がなく閑散としており、装飾といえば散り落ちて浮かぶ 紅葉(もみじ) くらいのその風呂は、実にアレンの好みに合致していた。

湯はごく薄い琥珀色で、染み出したモール成分(太古の植物由来の成分)により、浸かると同時に全身が鰻のようにヌルヌルと滑るように感じる泉質だ。

来客用ではないので男女の別も無く、使用する際は「使用中」の札をかける事になっている。

話が逸れたが、結果は次のような内容だ。

順位によって振り分けられる得点が決まっている。

第5位、Aクラス(50点)

第4位、Eクラス(100点)

第3位、Cクラス(125点)

第2位、Dクラス(150点)

第1位、Bクラス(200点)

「続いて任務難易度とその達成度を掛け合わせた、総合得点を発表する」

そう言ってリアスは唇を舐めた。

任務難易度と達成度は、当然ながら総合得点に反映される。

任務難易度はそのままの意味だが、達成度は例えば指定された時間内に任務を終えたか、殲滅任務ならば討ち漏らしが無かったかや、捕縛任務や討伐任務では指定された数をクリアしているかなどが加味される。

例えばAクラスが第4想定で捕縛する工作員5人のうち1人を逃すと、達成度は80%となる、といった具合だ。

到着順位が基礎点になり、これに上記難易度と達成度が掛け合わされるので、任務を無視してスピードだけを優先しても、総合得点は伸びない仕組みになっている。

「まずはEクラス。

任務難易度10、達成度90%。

総合得点900点。

これは例年で言えばCクラス相当のスコアだ。誇りを持っていい」

そうリアスが言うと、Eクラスから歓声が上がり、他のクラスから拍手が沸き起こる。

続いてDクラス。

任務難易度12、達成度60%。

総合得点1080点

これは例年で言えばBクラスでもかなり高得点の部類だ。

続いてCクラス。

任務難易度14、達成度80%。

総合得点1400点

これは例年で言うAクラスの平均スコアを上回っている。

そもそもゴドルフェンを中心として検討、設定された任務難易度が、例年よりもかなり高いのに、今年の1年生は坂道部で基礎体力が途轍もなく鍛えられ上げられている関係で、彼らは普通に任務に対応してしまった。

これだけの高得点ラッシュになるのも当然の帰結といえる。

ちなみに、この林間学校を境に、坂道部は『王立学園の裏必修科目』とまで言われる名門部活動の地位を不動のものにする事となる。

そしてBクラス。

任務難易度16、達成度85%

総合得点2720点。

「これは1年生における、これまでの歴代3位のスコアだ。

おめでとう」

リアスがこう言うと、大広間は一瞬静まり返り、ついで大歓声が沸き起こった。

「よっしゃ〜!」

「やってやったぜ!」

「俺たちの実力を思い知ったか!」

Bクラスの生徒達は抱き合って喜んだ。死力を尽くし、かつ結果が伴ったのだから当然だ。

到着順位の基礎点がAクラスの4倍あり、達成度が85%を超えているのだ。

間違いなくAクラスに勝利したと、彼らが確信したのも仕方がないだろう。

だがそこで教師のリアスが手を叩いて場を落ち着かせた。

そして表情を消してこう言った。

「ここまでで……この学年は歴代1年生の学年平均で最高スコアを記録している。

諸君らは、本当に自分に誇りを持つべきだ」

大広間に困惑が広がる。

「ど、どういう意味だ? Aクラスが足引っ張ったから歴代1位を逃したとか?」

こう呟いたのはBクラスのコニー君だ。リアスはこの呟きには答えず、努めて事務的な声で続けた。

「Aクラスを含む、全クラスの総合得点は、この通りだ」

そう言って、なぜか口頭で発表せず、全体順位が書かれた紙を貼り出した。

皆が固唾を飲んで見守ったその紙には、次のように書かれていた。

――――総合順位――――

Eクラス

到着順位4(100点)

任務難易度10、達成度90%

総合得点900点

Dクラス

到着順位2(150点)

任務難易度12、達成度60%

総合得点1080点

Cクラス

到着順位3(125点)

任務難易度14、達成度80%

総合得点1400点

Bクラス

到着順位1(200点)

任務難易度16、達成度85%

総合得点2720点

Aクラス

到着順位5(50点)

任務難易度65、達成度140%

総合得点4550(!)

――――――――――

静寂の大広間は、意味がわからない、そんな心の声で埋め尽くされた。

コニー君はちらりとAクラスの方を見た。

Aクラスの面々は、さして興味もなさそうに、喜ぶこともなく淡々とした表情でスコアを見ている。

それどころか、フェイとジュエはよほど風呂に入りたかったのか、先を競うように着替えを持って広間を出ていった。

「ず……ずるいぞ!

いくらなんでも難易度65なんておかしすぎるっ!

ライオやアレンがいるからと言って、そんな難易度に設定されるはずがない!」

コニー君がこのように抗議したのは当然だし、彼がしなくてもその他の誰かが抗議しただろう。

「コニー君の疑問は尤もだ。

当初Aクラスの任務難度は25に設定されていた。これだって我々は、不可能だと言ってゴドルフェン翁を止めたんだ。

だが彼らは易々とその想定を超えた。

そのままでは訓練にならないので、難易度を途中で無理矢理にでも弄り、上方修正せざるを得ない、そう翁が判断するほどにな。

もちろんこの林間学校は、特定の個人が頑張ったからと言って、スコアが劇的に伸びるような甘いものではない。

同じような課題をこなしてきた今の君たちになら分かるだろう。

つまり彼らは 集団(・・) として桁違いに突出していたという事だ」

コニー君が押し黙ったのを見て、リアス先生はAクラスの面々へと声を掛けた。

「Aクラスの諸君には、このスコア ――林間学校史上最高スコアだが―― に納得がいかないという思いもあるだろう。

だが、安心してくれ。総合得点の横にあるあの記号。あれは結論保留という意味だ。

正直私も他の先生方も夜を徹して真剣に話し合ったが、適正なスコアがどの辺りか、と言うところがこの場では結論が出なくてな。

だが、今のスコアが『低過ぎる』という事だけは一致している。

一旦全てを最低限の暫定評価に留め、学園に持ち帰ってから慎重に吟味されることとなった。

間違いなく上方修正されるだろう、大幅にな」

このあまりにも信じがたい説明に、不満の色を浮かべていたBクラスのメンバーは呆然とした。

ただでさえ理解不能なスコアなのに、これでも得点を大幅に抑えていると言うのだ。

そんな中、Bクラスのリーダー格であるアリス・マスキュリンが歯を食いしばって拍手を始めた。

彼女は林間学校中、我の強いBクラスをまとめ上げてここまでスコアを引き上げた立役者だ。

悔しくないはずはない。

そのアリスが拍手を始めたのを皮切りに、大広間に万雷の拍手が沸き起こった。

「おめでとう!」

「凄すぎて文句を言う気にもならねぇよ!」

「いったいどんな内容をこなしたら、そんな馬鹿馬鹿しいスコアになるんだ?!」

「よく生きて帰ってきたな!」

「流石は俺たちを代表するAクラスだ!」

Bクラスを率いたアリスは、称賛を受けても泰然とした態度を崩さないAクラスの同級生達を、しっかりとその目に焼き付けた。

本来であれば自分があそこにいてもおかしくはなかった。

事前の模試の合否判定では、Aクラス合格の可能性は十分にあったのだ。

サプライズでAクラス入りして、世間をあっと言わせたのはアレンだが、Aクラスを逃して最も意外に思われたのが彼女だ。

受験にたらればは無いが、あと一問、学科で正答を取っていれば。

あとほんの少し、実技でスコアを出していれば。

アレンが彗星のように現れさえしなければ。

何度人生でたった一度の受験を後悔したか分からない。

その過去の後悔を取り返すべく、入学からこちら、血の滲むような努力をしてきた。

そうして全てを懸けて林間学校に臨み、敗れた。

だがアリスの胸中に不思議と後悔は無かった。

自分は全てをやり切ったという自負があったからだ。

この悔しさをバネに、自分はまた伸びる。

確かな確信を胸に、闘志を激らせながらその手をしっかりと叩く。

今は勝者に惜しみない称賛を。

自分があちら側に行った時に、今の彼らのように、泰然と胸を張れるように。

目の前の光景が滲んでも、アリスはその手を休ませず拍手し続けた。

勿論――

アリスがAクラス入りするという事は、必然的に1人クラスが落ちる事を意味する。

それは鉄の掟。

Aクラスのスコアは最終的に『評価不能』と結論づけられた。

一応のスコアは以下の通りだ。

Aクラス

到着順位5(50点)

任務難易度82、達成度160%

総合得点6560

これにしたって従来の全学年における歴代最高スコアを大幅に更新した途轍もない得点だ。

だが、ゴドルフェンが敗北を宣言した際に、アレンがもう少し遊ぼう、などと言い出さなければ、Aクラスは恐らくは1番に到着していた可能性が高い。

その場合のスコアは低く見ても以下となる。

Aクラス

到着順位1(200点)

任務難易度70、達成度150%

総合得点21000

途方もないスコアだが、到着順位による基礎点が、1位と5位では4倍異なるので、これ以上は下げようがない。

この数字を見て、学園は従来のスキームで評価する事に無理があると結論づけた。

達成度はそもそも100%が最高で、そこから減点方式で数字が決められるものだ。

学園側が想定しうる最高、即ち100%を楽々と超えられている時点で、出題側に問題があった事は明白だ。

さらに言うと、ベスターの拠点構築までは、詳細設計図を参考にする事で、感嘆しながらも何とかスコアに拾い上げたが、ライオの魔法剣、ジュエの範囲回復魔法、そしてアレンがやった正体不明の麻痺薬散布など、その価値が計り知れずスコアなどつけようがない。

これらの点については、国から極秘(機密レベル4、軍事機密と同等)の指定を受けた。

アレン・ロヴェーヌは言った。

『スコアなどどうでもいい、好きにしろ』と。

その言外には『お前らの物差しで、自分たちを計れるものならやってみろ』という皮肉が、そして絶対の自信が溢れている。

そして――

結論は、教育機関としてあるまじき『評価不能』。

この国が誇る超名門校、長久の歴史を刻む王立学園は、その歴史上初めて、教育機関として『不合格』を、1-Aクラスの生徒達に突きつけられた。