軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

158 最後の想定(8)

「……完敗じゃ。

残存兵力が不足しておる上に、ティムが落とされておる時点で、わしらにはすでに4拠点を同時に陥落させる術がない。どこかを奪っても、わしが離れた場所は容易に奪還され、その度に兵を失うじゃろう。

このような、リズムが異なる複数拠点が連動する山砦など聞いた事もない。

拠点構築は作りが複雑になる程穴があると思っておったが……ちょっと穴が見えんかった。

止むを得ず力押ししたらこの惨敗じゃ」

いやいやいや。

俺は慌ててじじいを慰めた。

「こ、こんな程度で諦めていたら、『百折不撓』の名が泣くぞ!

そりゃベスターは細かい舅みたいな奴だからな。

あいつの想定の深さと、執念深くリスクを潰した詳細設計を見たら先生でもたまげると思う。

だがまだ先生にもやれる事がある!

俺たちが先生に全滅させられたら負け、先生が戦死したら俺たちの勝ちだ!」

俺はじじいに一泡吹かせるために、結局最後の想定が始まってからも1人地下室で仮眠を取っていた。

ようやく出てきたところなのに、あっさり降参などされては、俺の林間学校の思い出は隔離生活を繰り返しただけの黒歴史になってしまう。

何としてもクラスメイト達と協力プレイをしなければ終われないぞ!?

ゴドルフェンは白髭を撫でて意外そうに目を細めた。

「……それはもはや、拠点防衛戦とは呼べんのう。

わしら攻め手側は、侵略の手始めにこの国境拠点を攻略し、その後この国へと攻め込む想定じゃ。

その為の兵力がいなくなった時点でわしらの負けじゃ」

いやいやいやいや。

「お、落ち着け先生!

さては侵略側だからモチベーションが低いな?!

王国を守護する立場でも、そんなにあっさり負けを認めるのか!

じゃあこうしよう、ここから先は先生が防衛側だ!

どうせこれまでもさんざん想定を弄りまくってきたんだから、別にいいだろう?

期限である明日の昼12時に、双方へと援軍が届くから、それまでに拠点を押さえた方が勝利を掴む。

先生の背中には護るべき民がいるぞ!

そういうことにしよう!」

俺がこうしてじじいを煽ると、ゴドルフェンはゆらりと闘気を立ち昇らせた。

「何が狙いじゃ、アレン・ロヴェーヌ?

そこまで言われたら流石にわしも聞き捨てる訳にはいかんが……

今の時点で『完勝』なんじゃ。

続きをしても、お主らにとって、スコアが加点方向に向かうとは思えんがのう」

ふー。

危なかった、何が百折不撓だまったく。

あっさり折れそうになりやがって。

俺はニヤリと笑った。

「スコアだと?

そんなものは、どうでもいいから好きにしろ。

俺は、俺たちはまだまだ遊び足りないんだ!

最後まで付き合ってもらうぞ!」

俺がこう言うと、隣に立っているベルドも苦笑して、だが力強く頷いた。

ゴドルフェンは目を丸くし、そして腹の底から笑った。

「……ふぉっふぉっふぉっふぉっ!

よかろう、アレン・ロヴェーヌ。そしてベルド・ユニヴァンス。

担任として諸君らの持てる力を全て受け止めよう。

尤も……残念ながら貴様らは――」

そう言ってゴドルフェンは仕込み剣を抜き放ち、俺に向かって飛び込んできた。

「ここで戦死じゃ!!」

だがベルドがこれを受け止める。

少々手違いがあったが、想定していた展開だからだ。

その一呼吸の間に俺は後ろへと飛び下がり、赤い瓶の蓋を開けてゴドルフェンに向けて麻痺薬を散布した。

ベルドには呼吸を止めるように言ってあるが、かなり危険な役割だ。

俺は1人で残るつもりだったのだが、俺を確実に生存させるためには盾役が必要だと言って、自ら残ってくれた。

広範囲の索敵魔法が使える俺を、絶対にここで墜とす訳にはいかないとの事だ。

ゴドルフェンはすぐさま狙いをベルドに切り替え、ベルドの鋼鉄の棒を弾き飛ばし、返す刀でベルドの首筋へと仕込み剣の切先を向け――

ようとしたが、その剣先にいつもの鋭さがない。

ベルドはゴドルフェンの剣を掻い潜って組みつこうと飛びついた。

ゴドルフェンはぐらりと体を揺らしながらも、何とかベルドの組みつきをいなして後ろへと飛びさがった。

すぐさまローブの袂で口元を押さえ、魔力分解を早めるために体内で魔力を練り始める。

「……なるほどのう。

そういう事か、アレン・ロヴェーヌ!」

そう言って遺跡から飛び出して、一直線に森の中へと走り去ろうとする。

「ちぃっ!」

この状況判断の的確さ、決断までの速さ……

なんて厄介なじじいだ。

「追うぞベルド!

じじいの体内から麻痺薬が完全に切れたら、かなりこちらが不利になる!」

だが、結構麻痺薬を吸ったはずのじじいの動きが速い。

あっという間に俺の索敵魔法の範囲から消え去った。

『磨き抜かれた身体強化魔法こそが全ての基本』というのは、ゴドルフェンの口癖だ。

……方角からして南か東だな。

俺とベルドが必死に後を追いながら、どちらに行くべきかと悩んでいると、分かれ道へと差し掛かった辺りでダンが近づいてきた。

「東だアレン。

アルのチームが待ち受けている狩場へと追い込むぞ」

「了解!」

俺たちが東拠点の方へと転進したところで、『ドーン! ドーン!』と幾つかドルの地爆が破裂する音がした。

東はゴドルフェンの通りそうな道に、ドルが地雷原を作ってある。

俺たちはどのようにドルの地爆が埋められているか、法則を頭に叩き込んであるが、ゴドルフェンはさすがに分からないだろう。

だが爆発音は止まない。

そこで足を止めてくれたり、迂回路を模索してくれたら助かったのだが、やはりそこまでぬるくはないか……

今はまだドルの地爆は、ゴドルフェンに深刻なダメージを与えられるほど威力が高くはない。

すぐさまそう判断して強行突破に出るあたりがいかにもじじいだな。

俺たちとしては、地雷原を真っ直ぐ突破されるのが一番嫌な展開だ。

東拠点の先に逃すと、隠れられる場所が多く、探し出すのが大変だからだ。

だが流石に速度がかなり落ちているのか、ゴドルフェンの背を俺たちは捉えた。

前方でアルが叫ぶ。

「包囲するぞ!

絶対にここで仕留める!」

そしてアイスバレットの弾幕でゴドルフェンを牽制して狩場へと追い込む。

ゴドルフェンがこれまでの地雷とは埋める場所の法則が異なる、5つ目の地雷を踏んだ所で、地面の底が抜ける。

所謂落とし穴だが、ゴドルフェンは底が抜けた瞬間に剣を側面に突き刺して底まで落ちる事を回避した。

底にはメノウスパイダーから取れる粘着物質が嫌と言うほど敷き詰められており、底まで落ちていれば勝負がついていただろう。

「舐めるでないわ!」

そして魔法で土を操作してすぐさま飛び出してきた。

落とし穴に落ちてから出てくるまで1秒とは……

本当に麻痺薬効いてるのか、あのじじい!?

だがアルとドルの足止めで包囲は粗方完成した。

皆で一斉に躍りかかる。

最初に剣を合わせたソフィアと、追い込むために無理をしたベルドがここで落とされたが、ゴドルフェンを河道へと追い落とし、後ろには落差が70mはある滝だ。

「終わりだゴドルフェン!」

俺はそう言って弓に手を掛けた。

だがゴドルフェンは――

壮絶な笑みをその口元に湛え、躊躇いなく滝壺に向かって飛び込んだ。

嘘だろう……下手したら死ぬぞ!!

ドボーン!!!

俺たちが恐る恐る滝壺の方へ目をやっていると、ゴドルフェンは暫くして飛び込んだ場所から離れた場所へと浮かび上がって、すぐに岸へと跳び出した。

そしてこちらに一瞥もくれずにガサガサと森の中へと分け入った。

ゴキブリかあのじじいは……

だが……

捨て台詞ぐらいは吐くと思ったのにまさか一瞥もくれないとは、じじいはかなり本気モードだな。

いいぞ、面白くなってきた!

その後は神出鬼没なゴドルフェンの攻めを、ベスターの作戦で受けるも、少しずつこちらの戦力を減らされる展開となった。

04時00分、ドル、フェイ戦死。

07時30分、ステラ、ココ、シャル戦死。

10時00分、ケイト、ララ戦死。

そして11:30から最後の包囲戦をして、ジュエ、マギー、ピスが堕とされ、それと引き換えに今度こそゴドルフェンを袋小路まで追い込んだところでタイムアップとなった。

「くそうっ!

引き分けかっ!

しぶと過ぎるぞ、くそじじい!」

俺とゴドルフェンは、その場で大の字になった。

課題としては拠点を時間まで守り抜いたので、こちらの勝利なのだが、ゴドルフェンを仕留めきれなかった時点で、俺の中では胸を張って勝ち切ったとはとても言えない。

「ふぉっふぉっふぉっ!

担任の沽券は何とか守り抜いたのう。

よくもまぁこれだけ年寄をいたぶる罠を、次から次へと仕組めるわ……

流石に疲れたわい。

若さには勝てんのう、ふぉっふぉっふぉっ!」

いつもは何を考えているか今一つ分からないゴドルフェンは、子供のように笑っていた。