軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

強かった、ね

だが、まだ死んではいない。

再び飛び立とうとするクワガタへとイストファは襲い掛かり、何度も足で踏みつける。

体重をかけて何度も、何度も踏みつけて。その姿に敗北を悟ったのか、カブトムシ達はあっという間に木々の間を抜けて何処かへと飛び去ってしまう。

「あ、この……!」

カイルは魔法で足止めしようとするがカブトムシが飛び去る方が早く、小さく舌打ちをする。

その間にも息を切らしたイストファがクワガタムシから魔石を取り出すべく短剣を抜いたのを見て、近くへと歩いていく。

「終わったか」

「……うん」

クワガタから取り出した魔石を見下ろしていたイストファは、立ち上がりカイルへと振り向く。

「強かった、ね」

「ああ、そうだな」

「強いのもそうですが……あんな虫相手じゃ、私も武器無しじゃどうしようもないですよ」

「うん。それに……たぶんだけど、僕の短剣じゃ折られてたと思う」

言いながら、イストファは短剣を鞘に仕舞う。

あの冒険者の男に言われた通り、鉄の短剣では此処では通用しない。

鎧も今着ている魔物革の鎧でなければ、この場に死体を晒していたのはイストファになっただろう。

そしてイストファの死が仲間の死に繋がるのは言うまでもない。

「……ドーマ。このクワガタの魔石で、僕の武器を進化させられると思う?」

「それは……やってみないと分かりませんが」

イストファから渡された魔石を手に取り、ゴブリンのものと比べるとそれなりに強い魔力が籠っているのをドーマは感じ取る。

大きさこそ然程でもないが、ゴブリンガードよりも更に強い魔力。それはあのクワガタムシが2階層でもそれなりの強さのモンスターなのではないかとドーマに感じさせるに足るものだった。

「では、やってみましょう。イストファ、短剣を」

「うん」

イストファから受け取った抜身の短剣の刀身にドーマは魔石を触れさせると「合成」と短く唱える。

ポウ、と小さな音と共にドーマの手の平から生まれた光が魔石を包み、その形を崩れさせていく。

「わあ……」

「ほお」

イストファ達が見守る前でドロドロに崩れた魔石は短剣の中へ吸収されるかのように消えていき、短剣がキン、と音を鳴らす。

「これで完成です」

「……何か変わったようにゃ見えねえが」

「そう簡単には変わりませんよ」

不満そうなカイルに憮然とした表情でドーマは唱えるが、イストファが少し残念そうにしているのを見て肩をすくめる。

「あのですね。そう簡単に進化するようなら迷宮武具はもっと流行っています」

「まあ、うん……そうだよね」

言いながらもイストファが残念がっているのは隠しようもなく、そんなイストファの眼前でドーマは短剣を軽く弾いてみせる。

「確かに進化はしませんでしたが、合成する事で鉄の質は良くなっています。前よりも確実に強くなっているんですよ」

「う、うん」

「分かったら残念な顔をしないように。それで、どうするんですか?」

「どうするって」

「進むか、戻るかだな。正直かなり面倒だぞ、この階層は」

何しろゴブリン相手の時とは違い、上を警戒する必要が出てきている。

羽音が煩いから見つけるのは簡単だが、相手には先程披露してきた急加速がある。

防御が遅れれば致命的だし、下手をするとカブトムシに戦闘力を完全に奪われた上で嬲り殺しにされかねない。

「俺達がこの先を安全に進むには、イストファの武器の更新が必須だ」

「武器、かあ……」

やはりゴブリンガードの魔石も合成する必要があるだろうか、とイストファは自分の腰の袋を見る。

武器さえ進化すれば、ある程度はどうにかなるはずなのだ。

「黒鉄や赤鋼の武器を買ってもいいんだが……それなりの値段はするぞ」

「そうですね。黒鉄の長剣を買うとして、最低でも一本3万イエンはするはずですし」

「そ、そんなにするんだ」

今のイストファではとても買えない金額だ。そう考えて……イストファは、自分の手の中の鋼鉄のメイスを見下ろす。

「え。じゃあ、このメイスの値段って」

「30万イエンです」

思わず落としそうになって、イストファは慌てて握り直す。

30万イエン。1万イエン金貨が30枚。予想を遥かに超える金額の武器を振るっていた事にイストファは思わず嫌な汗が出る。

「鋼鉄製なら、そのくらいはしますよ。安物ならもう少し値段は下がりますけど」

「そ、そっかあ……」

「まあ、こんな所でする話でもないですが……それで、どうします?」

「お前が決めろ、イストファ。この階層で矢面に立つのはお前だからな」

「ん……」

正直、先程の戦闘はかなり辛かった。一歩間違えれば死んでいたのはイストファだったし、クワガタムシを倒してまた少し強くなったはずの今でも、また出会った時に確実に勝てるという自信はなかった。

けれど……それは乗り越えなければいけない壁でもある。

だからこそ、イストファはメイスを握る力を僅かに強くする。

「なら、もうちょっとこの階層での狩りに付き合ってほしい。僕の短剣が進化すれば、ドーマにメイスも返せる。そうすれば、もっと安定するはずだから」