軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

しっかりしてください、カイル

森の中は、視界が確保できる程度の明るさが常に確保されている。

それでも1階層程の明るさではないが……ランタンなどの明かりに頼るまでもない程度だ。

それだけなら普通の森にも思えるのだが、此処が通常の場所ではないと気付かせるのは並ぶ木々の、その並び方だった。

「ここがダンジョンの中だってのを嫌でも認識させやがるな」

「そう、だね……」

まるで迷路を構成するように「道」を作る木々。その光景にカイルは人の手の入った庭園を連想するが、こんな場所に人の手が入っているわけがない。

入っているとすれば、人以外の何か。そしてその「何か」が人に対して抱いているのは、如何なる感情なのか。

それ次第で、このダンジョンという存在の意味は大きく変わるはずだが……今のところ、それを解明した者は居ない。

そもそもダンジョンに果てがあるのかさえ、誰も知らないのだ。

「カイル?」

思考の海に沈みかけたカイルを、イストファの声が引き戻す。

「あ、ああ。すまん」

「しっかりしてください、カイル。貴方が一番死にやすいんですよ?」

「分かってるよ」

言いながら、カイルは周囲の木々に視線を向ける。

此処に在る木々は何らかの果実をつける木のようで、リンゴの木の比率が高いものの、たわわに実る果実の姿は常人であれば感嘆の声をあげさせるに足るものだった。

しかし……カイルにはそのおかしさが透けて見えていた。

何しろ、此処に生っている果実は全て別の季節に実るものなのだ。

季節を一切無視して実る果実達は、ダンジョンの異常さを改めて理解させるものに過ぎなかった。

「さっきの人はカブトムシに気を付けろって言ってたけど……」

言いながらイストファはドーマのメイスを構え、周囲の木々を注視している。

虫なら木にとまっているかもしれないし、果実をもぐ瞬間に襲ってくるのでは……と考えたのだ。

しかし、どの木々にもカブトムシどころか他の虫がいる気配もない。

「カイル、ドーマ。カブトムシのモンスターって、どんなのだろうね」

「カブトムシ、ねえ……聞いたことねえな」

「少なくとも普通の森には居ないと思いますよ。居るとすれば、南方の大陸くらいかと」

「ああ、あっちは常識じゃ測れねえのがたくさん居るって話だからな」

どんな場所なんだろう、とイストファは少し興味を引かれて……視界の隅で何かがキラリと光った事に気付く。

「……えっ……あっ!」

それはイストファの頭ほどの大きさの巨大なカブトムシ。

ただし、その角は真っすぐ伸びた槍のような鋭さを持つ凶器だ。

かなりの速度で飛来するカブトムシに向けてイストファはほ反射的に小盾を構え……その瞬間、カブトムシは急加速してイストファの盾にぶち当たる。

「う……っ! カイル、ドーマ!」

「分かってる!」

「次が来ますよ!」

ドーマの警告の直後、イストファの真横をカブトムシが高速で通り過ぎる。

続けて更に一匹がイストファの肩にぶち当たり、革鎧に跳ね返されて空へと舞い上がる。

だが、その衝撃は大きく……イストファはビリビリと伝わる衝撃に顔をしかめる。

前の革鎧であれば貫通していた。それを説明されるまでもなく理解できてしまう。

「この……!」

イストファを集中攻撃するように何度も飛来するカブトムシにイストファはメイスを振るうが、中々当たらない。

ヒラリと躱されるのはイストファの腕というよりも、何度も突撃してくるカブトムシ達にイストファの集中力が削られているせいだろう。

「カイル、何か魔法を……!」

「あんだけ密着されたら使えねえよ!」

少し前までならともかく、今のカイルは少しずつ魔力が上がってきている。

殺しはしないだろうが、多少の怪我をさせてしまうのは確実だ。

火魔法では範囲が広すぎ、電撃魔法でも敵との距離が近すぎる。

他の魔法でも似たり寄ったり……そこまで考えて、カイルは一つの魔法系統を思い出す。

「これならどうだ……フリーズストーム!」

「うわっ!?」

カイルの杖から吹き出た吹雪がイストファごとカブトムシ達に襲い掛かり、その表面を薄い氷で覆う。

だが、カブトムシ達はすぐに氷を破って舞い上がり……その矛先をカイルへと変えるかのように空高く飛翔する。

「カイル!」

「へっ、馬鹿が! ヒートウェイブ!」

空へ舞い上がったカブトムシ達へカイルの杖から赤い波動が照射され、カブトムシ達の動きに変化が訪れる。

火ですらない、ただの熱を放射するだけの魔法だが……カブトムシ達の動きは大きく鈍っていたのだ。

その光景にイストファはホッとして、けれど首筋にゾクリとした悪寒を感じて正面へと振り向き……心臓の止まるような感覚と共に小盾を構える。

カブトムシ達の羽音に紛れるようにして飛来していた巨大なクワガタムシ。

巨大な刃物のような鋏を大きく開き迫っていたソレを防ごうとして、イストファはすぐに最悪の未来を予想する。

ダメだ、防げない。斬られる。

そんな恐怖と共に地面に転がるイストファの上空をクワガタムシはジョギンッ、という恐ろしげな音をたてて通過する。

そして、その隙を狙うかのようにカブトムシ達が上空からイストファに向けて急降下を開始する。

「この……メガン・ボルテクス!」

明らかな連携攻撃。カブトムシが縫い留め、クワガタムシが首を狩る。

そんな殺意に満ちた攻撃方法を悟ったカイルの電撃魔法がカブトムシを追い散らし、飛来するクワガタムシを慌てて起き上がったイストファがメイスを構えて迎え撃つ。

だが、ゴブリンの時のように正面から打ち合うなど出来るはずもない。

あの巨大なハサミを相手に真正面からなど、とても正気の沙汰ではない。

「……!」

鋏を避けて、横から殴りつければ。そう考えたイストファとクワガタムシが交差して。

思い切り殴りつけられたクワガタムシの身体が、近くの木に叩き付けられ地面へと落ちた。