軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

遠くにきたもんだな

「ていうか!」

杖で地面をドンと叩いたローゼが、イストファを指差す。

「オークの事は私にはどうでも出来る事じゃないのでさておくけど!」

「さておくんじゃねえよ。あとイストファを指差すんじゃねえ」

「それどころじゃないでしょ!? ルーンレイカーよルーンレイカー!」

「ああ、俺は見てねえけどすげえ魔力は感じた。で、それが?」

軽い調子のカイルに、ローゼは苛立ったように杖で地面を何度も叩き、エリスがナタリアの背中に脅えたように隠れてしまう。

「そ・れ・がああああ!? 傭兵王の魔剣ルーンレイカー! 失われたはずの伝説の魔剣が此処にあるっていうのに! なんでそんな淡白な反応なのよ! 信じらんない!」

「伝説っていってもな……魔剣の伝説なんざ、売るほどあるぞ」

一番有名なのは統魔の魔剣ベイルブレイド。あらゆる魔法属性を併せ持つと語られる剣で、断てぬもの無しとすら言われている。勿論、実在したかどうかすら怪しい。

他にも悪竜を斬裂いた『竜殺の魔剣ディースラッシャー』、引き抜けば周囲の光すら断つという『絶光の魔剣デイブレイク』、真のミスリルと呼ばれるものを鍛え、永遠に切れ味が鈍らぬという『永劫の魔剣バラストラ』といった吟遊詩人の詩に何度も出てくるような有名どころもたくさんあるし、マイナーどころでも復讐の魔剣ザラ・バッサーハ、吸血剣ゼラーガ、幽剣ユガ・ラーナ、覇獣剣ヴァルガード……とにかく数えきれないほどに存在する。

そんな中で傭兵王の魔剣ルーンレイカーがどうかと言えば、マイナーランキングでも下から数えた方が早い程度だ。

傭兵王が振るったという程度しか伝説が無いのが原因だろうとカイルは考えている。

しかし、ローゼから見ればそうではないらしい。

「魔剣の伝説なんか、実在が怪しいものしかないでしょうが! ルーンレイカーはその存在が確実な……もとい、確実だった魔剣の一振りよ!? たとえドがつくほどマイナーな中のマイナーキングだったとしても、その価値は計り知れないわ!」

「マイナーキング……」

「なんてこと言うんだこいつ……人の心がねえのかよ」

「ローゼ、今のは俺もどうかと思う」

落ち込むイストファを見てカイルとグラートに非難され、全員に微妙な目で見られた事でローゼは「うっ」と呻く。

「わ、悪かったわよ。ただ、私は事の重大さを伝えようと思って……」

「まあ、言いてえ事は分かるぜ」

カイルは言いながら、イストファにチラリと視線を向ける。

「要はイストファみたいなガキが無名に近いとはいえ、一応伝説にも語られる魔剣を持ってる。それが気に入らない連中が出てくるかもしれねえってことだ」

「まあ、そうね」

「だがまあ、心配はいらねえと思うぜ」

「なんでよ」

疑問符を浮かべるローゼに、カイルはフンと鼻を鳴らしてイストファの肩を叩く。

「イストファ」

「ん?」

「そいつにちょっと短剣貸してやれよ」

「あ、うん」

「え、ちょ……そんな簡単に」

言いながらもローゼはちょっと興奮した様子でイストファから短剣を受け取り……その瞬間、ザッと顔を青ざめさせながらへたり込む。

「わっ、大丈夫!?」

「あー、やっぱりな」

ローゼに駆け寄ったイストファとは逆に、カイルは地面に転がった短剣に視線を向けていた。

そう、短剣の宝石は……うっすらと、輝いている。

「な、何よこれ……私の中の魔力が……一気に吸われて……」

「おいおいローゼ……なあイストファ、その短剣……なんなんだ?」

ローゼを抱き留めたグラートに言われて、イストファは「えーと……」と説明する言葉を探す。

「確か……マジックイーター、だったかな」

「へー」

「マ、マジックイーター……!? なんてもの触らせるのよ……!」

適当な感想を漏らすグラートとは違い、ローゼは青褪めた顔を更に青くしながら震える。

「持ち主の魔力をも吸い取る魔剣……! なんでそんなもの持って平気なのよ……」

「えーと……僕に魔力が無いから、かな?」

困ったように言うイストファに、ローゼは目を丸くし……やがて、長い溜息をつく。

「ああ、そう。でも、なるほどね。これで理解できたわ……そんなもの、他の誰にも使えやしないわ」

「だろうな。普通の剣士が持っても急性魔力欠乏でマトモに戦えなくなること請け合いだ」

魔力は第二の血液のようなもの。全くないイストファが珍しいパターンなのであって、普通は魔力は誰にでもあるし、無い事が有利に働くことは絶対にない。

ないが……それを覆すのが唯一、このマジックイーターの取り扱いだ。

まあ、魔力と引き換えにする価値があるかと言われれば、絶対にないと誰もが断言するのだが。

「どうせいつかルーンレイカーの件はバレるだろう。だが、マジックイーターの件と合わせれば欲しがる奴は居ない。よっぽどの馬鹿を除けばだがな」

ルーンレイカーの件だけ独り歩きするよりは、その方がいいだろうとカイルは考えている。

「ま、それにしても……」

カイルはちょっと話についてこれなくなってきているイストファを見ながら、困ったような笑いを浮かべる。

「お互い、ゴブリン一匹に慌ててた時と比べりゃ……遠くにきたもんだな」

「……うん、そうだね。僕もそう思う」

世界的に見れば、イストファもカイルも大したことはない部類に入る。

それほどまでに世界は広く、性能で言えばルーンレイカーを超える剣など山のようにあるだろう。

それでも……歩んできた道を、イストファ達は確かに感じていた。