軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ダンジョンはやはり特別だな、という話

そして、翌日。再び第7階層にイストファ達は立っていた。

薄暗い、今にも雨が降りそうな曇り空。湿り気を含んだ風。

この全ては第7階層「極彩色の楽園」の住人達に有利に働いていく。

スライムとアメイヴァ。片方でも厄介なモンスターのコンビが大量に潜むこの場所は、人類にとってはひたすら不利な場所でもある。

だが、今度のイストファ達は少し違う。

ステラの一週間の特訓を経たドーマ。

イストファとカイルの連携訓練。

そして何より、イストファの纏う鎧は頼もしい鋼鉄の輝きを放っている。

この一週間、3階層で必死に集めた魔石をドーマの「合成」で全て注ぎ込んだ結果だ。

「よし、今度こそ……だね」

「だな。期待してるぜ、ドーマ」

「勿論、全力でやりますよ」

短剣を抜き放つイストファの背後で言うカイルに、ドーマはそう答える。

特訓の成果を……と言いたいところではあるが、実際にどの程度動けるかはやってみないと分からない。

何しろ、モンスターを倒す事で目に見えて成長するような場所はダンジョンしかない。

ステラに地獄のような場所に付き合わされたからといって、それが外である限り、ドーマが著しく成長したというわけではないのだ。

「……そういう意味では理不尽な気もしますが……それが普通なんですよね」

「え、何の話?」

「いえ。ダンジョンはやはり特別だな、という話です」

「ふーん?」

言いながらもイストファは周囲を警戒しながら歩き出し……カイル、ミリィ、そしてドーマの順に歩いていく。

警戒している時にスライムたちが出るというわけではなく、かといって気を抜けば地中からアメイヴァが襲ってくるかもしれない。

ゴブリンと違い一撃で致命傷になりかねないという点では、一階層よりも嫌らしい構造だとすらいえる。

そうしてしばらく歩いた後……イストファ達の眼前で、一体のスライムが池の中からザボッと音をたてて飛び出してくる。色は……赤。

そのまま即座に放ってくる火球をイストファは短剣で斬り裂き、そのまま地を蹴り赤スライムへと一気に迫る。

だが、赤スライムとて自分に迫る敵は警戒する。再度放った火球を裂かれた事に驚愕したか、低く長く跳ねてイストファの横を通り抜けようとし……その瞬間、イストファにボールか何かのように蹴られ空中へと跳ね上がる。

「でやあああっ!」

一撃で斬り裂かれた赤スライムは真っ二つになって地面に落ち……しかしその隙を狙ったか青スライムが池の中から飛び出て氷塊を放つ。

確実に頭部を狙ったその攻撃をイストファは上半身を逸らす事で回避し、腰のナイフを抜き放ち投げる。

ザクリと音をたてて刺さるナイフは青スライムを一撃で絶命させ、しかしそれでは終わらない。

池の中から飛び出してくるのは黄スライム2体。

流石に反応できるわけもないが、カイルの放った氷魔法が黄スライム達を氷結させる。

「ありがと、カイル!」

「ああ! しかし一気にきやがるな……!」

まさか一体で敵わないと悟り集団戦術をとっているわけでもないだろう。

恐らくだが、そういう生態なのだろう。

言葉を話す事もないスライム達だが、集団で獲物を狩るように「出来て」いるのだ。

そんなカイルの考えを裏付けるかのように周囲の池からスライム達が現れ、イストファはすぐに手一杯になってしまう。

「チッ……!」

消費は大きいが、ここで広範囲魔法を使うしかない。

そう考えカイルが杖を構え直した時。カイルの足元から、地面を突き破りドロリとした何かが現れる。

それだけではない。ミリィの足元からも同様にアメイヴァらしきものが現れている。

穴などなかった。ならば何処から。

答えは簡単だ。穴を掘って隠れ、そこに内側から土をかけて偽装していた。

まさかそんな知恵が。それとも本能か。

とにかく拙い。どうすれば。その考えが纏まる前に、ドーマの声が響いた。

「ホーリーレイ!」

ドーマの身体から空へと放たれた魔力が、ほぼ一瞬のうちに光の雨となって周囲へ降り注ぐ。

ジュウ、と音をたててアメイヴァやスライムを灼く輝きは、しかしカイルやミリィ、そしてイストファには何の影響もない。

「これは……!」

「凄い……」

「光の、雨……?」

カイルが、イストファが、ミリィがそれぞれの感想を漏らす。

相当の魔力の籠った、強烈な光の雨。

しかしそれは地面を穿つ事無く、スライムやアメイヴァ達をのみ貫いている。

「ホーリーレイ……そうか、これが神官にしか使えない『聖』属性の魔法か」

光でありながら、光ではない。

神官の才能を持つ者にしか使えない攻撃魔法であり、味方には影響しない広範囲攻撃魔法。

魔法士の魔法には不可能な領域でもある。

「凄い、ドーマ! そんな魔法覚えたんだね!」

イストファが驚きの表情と共に振り返った時。ドーマは荒い息と共に膝をつく。

「……ぜえ、ぜえ……くっ」

「ド、ドーマさん!?」

「おいドーマ!」

カイルとミリィが慌てたようにドーマに近づき、イストファも駆け寄ってくる。

「だ、大丈夫です。一気に、魔力を消費しただけで……」

「チッ、そうか。アレはどう見ても大魔法の範疇だ。そうならないわけがねえ、か」

そう、ドーマは元々魔力が大量にあるわけではない。

出会った頃はともかく、今となっては魔力の成長著しいカイルと比べれば魔力は低く、その代わり体力に関してはカイルよりもよほど高い。

まあ、イストファと比べれば体力はかなり低いのだが……そういう意味で2人の中間程といえるだろう。

そんなドーマが、大魔法級の魔法を唱えるのは少しばかり無理がある。

(……とはいえ、確かにこの階層を生き抜くには必須……ですね)

切り札よ、と言ってステラがこの魔法を教えてきた時には「何故そんなものまで使えるのか」と驚いたドーマではあったが……なるほど、この魔法があれば仲間を的確に救う事が出来るだろう。

「少しだけ、待ってくださいますか。すぐに……回復しますので」

だが、乱発は出来ない。

使いどころの難しそうな「切り札」の取り扱いを、ドーマは真剣に考えていた。