軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あんなの相手してられねえ

歩いて、歩いて。幾つかの戦闘を経て、それでもイストファ達は7階層を進んでいた。

この厳しい7階層で戦う事で成長しているせいか、思ったよりも疲労はない。

ダンジョンはそういうものであり、そこに今更疑問はない。

ないが……精神の疲労だけはどうしようもない。

何処にゴールがあるかも分からずに進む道程は精神の疲労を速め、それは自然と肉体の疲労へと転化されていく。

「大丈夫? 3人とも……」

「ええ、大丈夫です。このくらい……大した事はありません」

即座にそう答えるのはドーマだ。

地獄のようなあの一週間に比べれば、このくらいはたいした事はないと言い切れる。

言い切れるが……それでも、ステラという絶対的な庇護者が居た時と比べれば精神にかかる負荷が明らかに大きい。

知らず知らずのうちにステラに頼っていた事実、そしてステラに預けていた「責任」が自分に降りかかってくる事を、その重さをドーマは感じ舌打ちしそうになる。

自分の弱さ、情けなさ、頼りなさ。それを一気に実感したような気がしたのだ。

だからこそ、負けるものかと思う。

「私よりも、2人は……」

「俺だって平気だっつーの」

「ボ、ボクもです……」

カイルとミリィはそう言って強がるが、ミリィの精神的な疲労は明らかだ。

特にミリィはこの階層で役に立てていない事を気にしてもいるのだろう、せめて足を引っ張るまいと気を張っているだけに、カイルと比べても疲労っぷりが顕著だった。

「何処かで休めればいいのですが……」

「うん。でも、何処で休めばいいんだろう?」

今までの階層は、少なからず休むタイミングはあった。

モンスターが地面から生えてくるわけではない以上、多少の警戒さえしていれば腰を下ろすことは出来たのだ。

だが、この階層では地中から生えるようにアメイヴァが現れる。

潜んでいる穴を偽装する事まで分かっている以上、ほんの少しの気のゆるみすら許されない状況だ。

「一気に通り抜けるしかないけど……」

今までは、カイルが地図を買ってきていたから探索に迷いはなかった。

だが、この階層に地図はない。ミリィがマッピングしてはいるが、この広大な空間では本当に目印程度の役にしかたちはしない。

そして、イストファ達が一階層で使ったような「端」を歩き回る方法も此処では使えない。

「何処かにある小屋」が出口である以上、それは端ではなく真ん中かもしれないし、もっと思わぬ場所であるかもしれない。

結局のところ、こうしてマッピングしながら地味に進むしかないのだ。

「ったく。レアモンスターが出てこねえのは救いだな」

「レアモンスターですか。ここだと、どんなのが出ますかね?」

ドーマに問われ、カイルは「んー……」と悩むような声をあげる。

「他の階なら分からねえって言うところだが、此処だとある程度候補は絞れるな」

「それって……此処がスライムとアメイヴァしか出ないからですよね?」

「ああ。自然と、その系統に絞られるな」

たとえば、ビッグスライム。人間の大人程の大きさを誇るスライムで、白スライムであっても一撃で叩き殺されかねない攻撃力を持っている。

たとえば、ビッグアメイヴァ。こちらも巨大で、牛一頭を丸呑みするとも言われる。

「ま、階層守護者がコレって可能性もあるが……あとは、絶対会いたくねえが『それ以上』の大きさの場合だな」

「いるんですか、そんなの」

「理論上はな。だから一応基準はある」

家一軒ほどの大きさであればメガ。それすら超える……街壁すら乗り越えかねない程の大きさであればギガと呼称される。

まあ……実際にそんなものが出た記録は無いが、出てから慌てるよりは良いと設定されたものだ。

「もしギガアメイヴァなんか居たら最悪だな。単体でモンスター災害を起こせる。まあ……魔法士が数人いれば焼けるとは思うが」

「ねえ、カイル」

「ん?」

立ち止まっているイストファに、カイルは敵かと杖を構えて。

「なんか、さっきから変な感じが……」

「ああ? げっ!」

イストファが視線を向けた先。ミリィくらいならすっぽりと嵌まりそうな……今まで存在しなかったはずの穴から、何かがゴボゴボと沸きだそうとしている。

あの大きさの穴から出てくるアメイヴァの大きさは一体どれ程か。

それを考える前に、カイルは即座に叫ぶ。

「ドーマは俺、イストファはミリィだ!」

「はい!」

「うん!」

ドーマがカイルを脇に抱え、イストファがミリィをお姫様抱っこで抱え、そのまま別方向へと走り出す。

そしてその瞬間、地面を砕くようにして超巨大なアメイヴァが溢れ出した。

まるで津波のように伸びあがり、イストファ達を追い始めるギガアメイヴァにミリィが「ヒイ!」と声をあげる。

「ななな、なんですかアレ! 凄く大きいですよ!?」

「どのくらいデカい!?」

「物凄くです!」

「全然分からん!」

脇に抱えられているカイルは振り返ることが出来ないので見えないが、ミリィの反応からしてメガアメイヴァかギガアメイヴァのどちらかで間違いないと判断する。

即座に手持ちの魔法から有効な手段を頭の中で検索し……すぐに破棄する。

使えば倒せるかもしれないが、もし失敗すれば死ぬ。

今は、その賭けをやるべき場面ではない。

「逃げきれ! あんなの相手してられねえ!」

「うん!」

走って、走って。逃げ切って。今何処にいるのかも分からなくなった4人の、その視線の先に。

小さな一軒家のような小屋と。その前に佇む、黄ビッグスライムの姿があった。