軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第3章 2

広くて立派な庭園を抜けた先に、大きなガラス張りの建物があった。

中へ入ると湿り気のある温かな空気に包まれる。

見慣れない植物の並ぶ中を通り抜け、奥の部屋へ入ると何羽もの鳥の声が聞こえてきた。

「わあ」

柵に囲まれた通路の両側には植物が植えられ、何羽もの鳥がその上を飛び回っている。

よく見ると餌を食べている鳥や、羽繕いをしている鳥もあちこちにいる。

(すごい! 沢山いる……)

大きさも色も様々な鳥が思い思いに過ごす姿に気分が高揚してくる。

どれも綺麗で可愛いなあと眺めていると、地面を歩く青い頭の鳥が見えた。

緑色の長い羽と尾がまるでドレスのように下がっている。

「あれは……孔雀!?」

前世でも、この世界の本でも見たことのある姿に思わず声を上げると、鳥がこちらを見た。

ゆっくりと羽が広がる。

扇状に、鮮やかで美しい模様が現れた。

何て美しいんだろう。

自然にこんな模様があるなんて不思議だ。

うっとりと眺めていると隣から視線を感じた。

(あっ……またやってしまった)

アゲイト様のことを忘れて孔雀に見入ってしまった。

振り返ると、優しい顔が私を見ていた。

「ベリル嬢の、何かに夢中になっている時の顔はとても綺麗だね」

「……え」

唐突な言葉に頬がかあっと熱くなる。

「すみ……いえ。……ええと、ありがとう、ございます」

反射的にすみませんと言おうとして、それはダメだったと気づいて言い直すと、アゲイト様は満足したように笑顔になった。

「あれはクジャクって言うんだ」

アゲイト様は孔雀へと視線を向けた。

「……はい」

「ベリル嬢は色々なことを知っているんだね」

「……本を読むのが好きなんです」

お妃教育で一番楽しかったのは、王宮にある図書館を使えたことだ。

貴族でも手に入らない稀少な本が沢山あるあの場所は、私にとって宝の山だった。

「そうなんだ。うちの屋敷にある図書室にも珍しい本が沢山あるらしいから、今度見にくるといいよ」

「はい……ありがとうございます」

オーランジェ公爵家の図書室!

王宮にはないような稀少な本もあるのかもしれない。

楽しみだなあと期待に胸を膨らませながら鳥たちがいる部屋を出ると、そこは休憩室のようだった。

外の庭園が眺められるテーブル席ではお茶を楽しんでいる人たちがいる。

「ベリル嬢。向こうで絵画展をやっているようだよ」

アゲイト様が示した先には看板が置かれていた。

「絵画展……!」

「見ていこうか。疲れていない?」

「はい、大丈夫です」

中へ入ると白い壁の部屋の中に、二十点ほどの絵画が飾られていた。

明るい色彩の、風景や動植物を描いたそれらは、同じ作者の手に見える。

(どの絵も素敵……)

細かな筆致と複雑に重ねられた色から画家のこだわりが伝わってくる。

一枚の絵に目が留まった。

手のひらほどの小さなキャンバスには、枝に止まった青い鳥がとても精密に描かれている。

「綺麗……」

何て鮮やかな羽なんだろう。

知らず息を詰めて見ていたのか、苦しさを覚えて息を吐く。

「そちらの絵が気に入りましたか」

ふいに声が聞こえて、振り返ると中年の男性が立っていた。

「突然失礼します。この絵の作者です。あまりにも熱心に見ておられましたので」

え、作者本人!?

「彼女は自分でも絵を描くんですよ」

驚いているとアゲイト様が言った。

「ほう、そうですか」

「あ、あの……とても……素敵です」

まさか作者から声を掛けられるとは思いもよらず、一気に緊張しながらも何とか私は言った。

「ありがとうございます」

(……だめだ、言葉が続かない)

どんなに繊細で素敵な絵だとか、もっと言いたいこと――それに聞きたいことがあるのに。

気になるのは、羽根に使われている絵の具だ。

明るくて輝いて見える澄んだ青は、今まで見たことがない色だった。

白いお腹の下にもその絵の具を混ぜているのだろうか、少しキラキラしている。

(何て名前の絵の具なんだろう……)

聞きたいけれど……恥ずかしい。

「凄く細かい絵だね」

アゲイト様が絵を見て言った。

「……はい」

「ベリル嬢は、この絵のどこが好き?」

「え……えと……羽根の色です」

「色?」

「はい……こんな青い絵の具の色……見たことがなくて……」

「それはカーマイン王国産のコバルトブルーです。通常のコバルトより鮮やかで透明感があるのが特徴なんです」

画家が言った。

「カーマイン王国……」

ゲームの攻略対象の一人、留学中の王子の母国だ。

二十年ほど前に国交が始まり、年々関係を深めている。

「とても稀少なもので、師匠から少しだけ譲っていただいたものです。どうしてもこの羽の色を再現したくて。色の違いに気づいてもらえて嬉しいです」

(稀少なんだ)

「ベリル嬢もこの絵の具欲しいの?」

「……私には、もったいないです」

アゲイト様に聞かれて首を振る。

個展を開けるような画家の師匠がやっと手にいれるような絵の具だ。

私みたいな素人には入手できないだろう。

(残念だな……)

名残惜しく思いながら、私は展示室を後にした。