軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第3章 1

「まあ。とても似合っているわ」

私の姿を見るとお母様は笑顔になった。

「……子供っぽくないでしょうか」

大きなフリルのついたブラウスと、淡いピンクの地色に花柄のワンピースは可愛い過ぎるような気がする。

「そんなことないわ。あなたいつも地味な服ばかり着るから慣れていないだけよ。マリンに選ばせて正解だったわね」

今日はアゲイト様と街へ行く。

家族にそれを伝えると、「お姉様の服は私が見立てるわ!」とマリンが張り切ったのだ。

マリン曰く「初めてのデートだから初々しさと期待を表現した」らしい。

(最初は乗り気じゃなかったのに……)

遊び人なんてと言っていたマリンだが、今回の外出には私より積極的になっているようだ。

何でも、学校で私のことを聞かれるという。

「次の相手に紹介したい人がいるんだけどって、変な人ばかりなのよ。お姉様を馬鹿にしているわ」と憤慨しながら言っていた。

具体的にどう変なのかは教えてくれないけれど、何かしら問題がある人が多いらしい。

皆「一度婚約破棄されたのだから条件が悪くても断れないだろう」と考えるようだ。

「遊び人な所以外は好条件なアゲイト様がずっとマシに思えてくるわ!」と怒っていたから、よほどなのだろう。

(遊び人……。アゲイト様は結婚しても、恋人を作るのかな)

政略結婚が多い貴族は、結婚相手以外の恋人がいる場合も多い。

もしもそうなったら……私は領地に引きこもらせてもらいたい。

オーランジェ公爵領は海があり、風光明媚な土地が多いと聞いている。

そういう場所で絵を描いて暮らせたらいい。

「奥様。オーランジェ様がいらっしゃいました」

侍女がアゲイト様の到着を告げた。

玄関へ向かうと、お父様と談笑していたアゲイト様が私を見て微笑んだ。

「ベリル嬢。今日は華やかで可愛らしいね」

「……ありがとう、ございます」

(挨拶がわりにさらっと褒め言葉が出るんだ)

さすが慣れている人は違うなあと感心してしまう。

「今日は……よろしくお願いいたします」

「そういう硬いあいさつはいらないよ。遊びに行くんだから」

挨拶をするとアゲイト様は笑顔のままそう言った。

「……はい」

「それではベリル嬢をお借りします」

「ああ」

「気をつけてね」

両親に見送られて、私はアゲイト様のエスコートで馬車に乗り込んだ。

「おすすめの店は予約してあるんだ。魚介が人気の店なんだけど、苦手なものはある?」

馬車が走り始めるとアゲイト様が尋ねた。

「……いえ……大丈夫です」

「他に行きたい所や欲しいものがあったら遠慮なく言ってね」

「……はい」

「見たいところはある?」

(見たいところ……)

特にないと言おうとしたけれど、それではダメなんだろう。

(でも街で見たいところ……)

画材を売っているお店や本屋には行ってみたいけれど、私の趣味だから一人で行った方がいい。

それ以外だと……何があるんだろう?

「……街には、あまり出たことがないので……どういうものがあるのか、分からないんです」

考えても思いつかなかったので正直に言った。

「そうなんだ」

「すみません……」

「謝る事じゃないよ。確かにお嬢様だとあまり出歩かないか。行ったことがあるのは?」

「……時計塔のある広場や……池のある公園を散策したことは、何度かあります」

「池?」

「ええと……博覧会のために作られたとか……」

「ああ。あそこは広くて綺麗でいいよね」

「……はい」

(ああ、つまらない会話だろうな)

アゲイト様が話を振ってくれるのに、上手く返せなくて悲しくなってくる。

「じゃあ、花鳥園に行ってみる?」

思案していたアゲイト様が言った。

「花鳥園……?」

「庶民向けの施設なんだけど、大きな温室の中に鳥を放し飼いにしているんだ」

(鳥を放し飼い!?)

前世でもそういう施設があり、一度行って見たいと思っていた。

「行く?」

「……はい……行きたいです」

「じゃあ先に行こう」

アゲイト様が従者に指示をすると、馬車は速度を上げた。

(どんな感じなんだろう。鳥に触れたり出来るのかな)

人に慣れているのか、眺めるだけなのか。

花鳥園というからには花も咲いているのだろうか。

(間近で見られるだけでも……)

ふと、アゲイト様が微笑みながら私を見ていることに気づいた。

「ベリル嬢は興味があることになると表情が変わるね」

「……そう、でしょうか」

(え、そんなに顔に出てる!?)

思わず頬に手を当てる。

「うん。楽しみなんだなって伝わってくる」

「……すみません」

「どうして謝るの?」

「……ええと……」

私の悪い癖だ。

上手く喋れないから。

自分の性格のせいで周りに迷惑をかけているから。

だから謝らなくてはとすぐ口にしてしまううちに、口癖になってしまった。

「……すみません」

ああ、また言ってしまう。

「ベリル嬢が好きなものは何?」

気持ちが暗くなっているとアゲイト様の声が聞こえた。

「え……」

私の好きなもの?

唐突な質問に戸惑う。

「――ええと……絵を描くこと、です」

「絵が描けるんだ? すごいね、どんな絵を描くの?」

「……風景画や……家族の絵も描きます」

「へえ。俺絵のことは分からないけど、描く人によって同じ場所を描いても雰囲気が全然違うよね。あれってどうして?」

「――それは……描きたいものが、人によって違うからだと……思います」

「描きたいもの?」

「風景そのままを写したいのか、特に印象に残ったものを描きたいのか。自分が感じた空気を絵にしたいのか……どんな絵を描きたいのかは人によって違いますので」

画材の違いもあるだろう。

同じ油絵でも絵の具の選び方や溶き方、塗り方によってかなり差が出る。

それらは全て「どんな絵を描きたいか」で変わるのだと、私は思う。

「なるほどね」

アゲイト様は頷いた。

「どんな自分になりたいかで見た目や喋り方を変えるのと一緒か」

「……あ……はい」

そうか。

気にしたことがなかったけれど、ファッションも同じなのか。

「この間のベリル嬢は上品で綺麗なお嬢様だったけど、今日は可愛い女の子なんだね」

「……ええと……はい……」

マリンが「初デートなんだから初々しさを出した方がいい!」と言っていたから、そうなのだろう。

「可愛い子は自信があるからすぐ『すみません』なんて言わないよ」

にっこりとアゲイト様は笑った。

「だから今日はその言葉は禁止ね」

「――はい……」

(この人……すごい)

私の下手な説明を、別のものに置き換えてすぐ理解して。

褒めながらやんわりとダメ出しをする。

(こういうことが出来るからモテるんだろうな)

本当にすごい人だなあと感心していると、馬車が目的地に到着した。