軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第79話 「魔法では、動かせなかったの?」

夏はピークを過ぎ、朝晩の空気が軽くなってきた。

毎回ではないが、セリスと二人で話すときに、エアハルトの話を聞くのが当たり前になっていた。

エアハルトは発明王としても旅人としてもエピソードの尽きない人で、セリスも話しながら思い出すことがあるようだった。

「ああ、でもこの話は前もしたな」

「いえいえ、もう一度聞きたいです」

そんなやりとりも数回した。

絶対に言うつもりはないが、前世の祖父や、ライタ町でのボランティアの一環として話し相手になったご老人と似たものを感じる。

ほとんど同じだったとしても、カイとしては楽しい話は何度聞いても楽しい。

「あのときのハルトは傑作だった。スキルで作った、やたら尖った飾りのついた角ばった大きな鎧の真ん中に乗って、『見よ!この完璧なパワードスーツを!!』と言いながら一歩踏み出してな」

「大きいって、家くらいの高さですか?」

カイが質問すると、セリスは少し考えて軽く首を横に振った。

「いや、もう少し大きかった。そうだな、ツーレツト町にある二階建ての家はわかるか?あれくらいの高さになっていたと思う」

「そんなに大きな金属の鎧を、スキルで作れたんですね」

うなずいたセリスは、目を細めた。

「スキルについては、あやつはまさしく天才だった。それでだな、一歩踏み出したと思ったらそのまま重みに負けて倒れた。その先に、ハルトの家があった」

「うわぁ」

「ふわぁ」

思わずカイが声をあげると、一緒に聞いていたオスカーも目を丸くした。

オスカーは、セリスがエアハルトの話をしていると気づくとやってくるのだ。

どうやら、発明王の話が楽しいらしい。

「当然だが、家は巨大な鎧に圧しつぶされて全壊。あやつの言うところの『お宝』も全滅だった。それで反省したと思ったら、勝手に森を切り開いて実験場を作りおった。それはもうエルフの村長にデカい雷を落とされてな。だが、実験の被害を考えれば何とも言えんということで、実験場には誰も近づかないことで話がついた」

ふふふ、と楽しそうに笑うセリスだが、きっと当時のエルフの村の人たちは戦々恐々としたことだろう。

「その、おっきな鎧ってどうなったの?」

オスカーが、目を煌めかせてセリスに聞いた。

「ああ、それがな。そんな大きなもの、一人で動かせるわけもないだろう?何やら歯車がどうのと工夫もしていたのだが、結局諦めて、普通に人が身につけられるサイズに調整しておった」

セリスが肩をすくめると、オスカーは不思議そうに首をひねった。

「魔法では、動かせなかったの?」

セリスはうなずいてから微笑んだ。

「我は見ていないが、ものすごくゆっくりなら一歩踏み出すことはできたらしい。だが、『俺のは三倍どころか百分の一倍にしかならなかった』とか何とか言っていた。色々聞いた感じだと、魔物退治に使いたかったらしいな」

敵だか味方だかよく分からないセリフだが、とにかくエアハルトはヒーローロボ的なものを作りたかったようだ。

それは確かに、男の子の夢の一つではある。

残念ながら、カイはライダーの方にハマっていたので詳しくは知らなかった。

「魔物の攻撃を通さない要塞みたいな鎧なら、怪我も減りそうな感じですね」

考え得る利点をひねりだしてみたが、自分で言ってもカイはあまり納得できていない。

絶対、エアハルトは理由などどうでもよく、ただロボを作りたかっただけだ。

「そうだな。まあ、実用的ではないということですぐに別のものを作っていたから、発明王の寄り道の一つなのだろう。そのときの技術が生きて、オルゴールができたらしいからな」

「発明王、すごい。いっぱい作ってたんだね」

オスカーの純粋な称賛に、セリスは嬉しそうに微笑んだ。

そんなある日、セリスが手紙を持ってカイの家にやって来た。

いつもは通りがかりに会ったときに話すだけなので、わざわざここまで来るのは珍しい。

「突然すまんな。しかし、適当に話すのもどうかと思ってな」

「いえいえ、仕事がなければゆっくりしているだけなので、気にしないでください」

カイは、セリスにソファをすすめてお茶を出した。

「ありがとう。それで、話というのはこの手紙なんだが」

ひらり、とセリスはローテーブルの上に手紙を広げた。

「読んでもいいんですか?」

「ああ、まずは読んでくれ。我には判断がつかん。南の森で採れた薬草を送って、ついでにカイの話をチラッと書いただけだというのに、別料金まで払って急ぎで届けてきたんだ」

うなずいたカイは、手紙を手に取った。

最後まで読んでから、もう一度読んだ。

「できなくはない、かな……?でも僕、普通の修理屋ですよ?」

その手紙には、エルフの村で使っている特製の魔道具を修理してほしいと書いてあった。

どうやら、エルフが独自の技術で作った魔道具が故障したものの、王都の魔道具職人には頼みたくないそうだ。

技術の流出も心配だが、書いてあることが真実なら独特の魔力を持つエルフにしか使えない魔道具らしい。

直すよりも作る方が簡単なので、新しく作ることはできるとも書いてあった。

だがエルフの文化的に、できるのなら直して使い続けたいという。

「それでだな、その魔道具も送ってきおった」

「え?魔道具を送ってきたんですか?」

いくら故障しているとはいえ、配送が不完全なこの国で不用心な気がする。

「ああ。まあ、故障しておるから最悪どうとでもなる。届けに来たのも、村と直接やりとりしている商店だからな。下手をするとエルフとの取引がふいになる。きちんと我の家まで届けてくれたぞ」

それなら実物を見るべきだろう、とカイはセリスが借りている家まで一緒にやって来た。

商店の近くを通ると、見たことのない荷馬車が停まっていたので、きっとセリスに荷物を届けに来た商人だろう。

店の中で、色々と物色している男性も見えたが、ブリギッテが楽しげに話していたので、もしかすると顔見知りなのかもしれない。

「これだ」

庭に置かれた箱を指して、セリスが言った。

腰くらいの高さがあるサイコロのような形の箱は、一見するとただの木箱にしか見えない。

「それじゃあ、ちょっとスキルで見せてもらいますね」

「ああ、頼む」

「『故障品再生』」

スキルを起動させると、目の前に立体映像が出てきた。

その内部構造もCADのように線で描かれ、どう動くのが正しいのかまでわかる。

これが何か理解したカイは、思わず息をのんだ。

「エルフは、かなり自動化を進めているんですね」

「自動化?そういえば、ハルトがそんなことを言っておった気がするな。我らは、単に耕作機と呼んでおる」

それは、いわば自動耕運・種まき・収穫機だった。

一台三役を超える、何でも農作業ロボである。

外側こそただの木箱だが、中身は精巧に組み合わされた機械だ。