軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

013_王子様をお土産に

数日後の放課後、リサは廊下に一人立っていた。

窓から見える景色は雲一つない青空が広がっている。

冒険に絶好の日だ。

――――誘われる準備は、ばっちり!

なぜ教室に残らず、一人でこんなところにいるのかというと、前世のゲーム内では廊下で戦闘チュートリアルのイベントが開始されたから。

いわゆるパーティの誘われ待ちをしている。

別のところにいたところで、おそらくは強制的に起こるはずだけれど、リサは念のためにゲームの流れをなぞることにした。

戦闘チュートリアルが起こらないとレベルが上げられないわけで、ヒースクリフとのイベント条件も満たすことができなくなる。

開始が遅れるとそれだけレベルが上がるまで時間がかかってしまうわけで、慎重すぎるぐらいがちょうどいい。

「まだかな?」

廊下を見渡すも、放課後のおしゃべりに勤しむ同級生ばかりで待ち人の姿はない。

一年生は未経験の者がまだ多いけれど、“マジラバ”の放課後は基本的に魔物との戦闘である。

生徒は放課後に数人のパーティを作って、魔物と戦うことを学園によって推奨されていた。

理由の一つは、魔法をより使いこなし、威力を強くするには知識を得るだけでなく、戦闘で経験値を取得してレベルを上げる必要があるから。

もう一つは、魔物を倒すこと自体が魔法を使える者の役目でもあるからだ。

以前、リサが森で出会ったように、魔物は大変危険な存在で、人に害を為す。

力のある者、たとえば騎士であれば、倒すことも可能だけれど、魔物を倒すのに一番効率がよいのは魔法だと言われている。

だから、魔法使いは率先して魔物を倒す必要があり、戦いは学園に入学してまもなくから始まる。

「来た!?」

廊下の奥から、カツカツという靴音が聞こえてくる。

おしゃべりしていた同級生たちがおおげさに道を空けていく。

待っていた人物に違いなかった。

「ご機嫌いかがですか、リサ? 今、少しお時間いいかな?」

後ろにセオを引き連れたステファンは、リサの前まで来ると、優雅な仕草で右手をお腹に抱え込み、頭を軽く下げて挨拶してくる。

「こんにちは、ステファン王子。なんのご用でしょうか?」

軽く膝を折って、リサも挨拶を返す。

「リサ、来たばかりで申し訳ないけれど、魔物スポットへエスコートさせてくれないだろうか」

「私が魔物スポットへ!?」

あくまでも庶民出身で何も知らないリサを演じる。

「驚くのも無理がないね。普通なら、こんなに早く魔物と戦うことはしないから」

「そう、なのですか? ではなぜ?」

リサの演技に気づいていないのか、ステファンが真剣な表情で続ける。

「貴女は普通ではないから」

「光の魔法を使えるから、ということでしょうか?」

ステファンが大きく頷いた。

後ろにいるセオは、少し距離を取ってじっと二人の会話を見守っている。

「そのとおりだよ。そして、僕は王から貴女の実力を近くで観察する役目を命じられているんだ」

胸に手を置いて、パーティに誘いに来た理由を話す。

「けれど、僕が貴女の力になりたいという気持ちは命じられたからではなく、本心から。最初の魔物との戦い、僕に守らせてはくれませんか?」

純粋で、真面目なステファンらしい誘い文句だった。

これがヒースクリフだったら、何も言わずに魔物スポットの前まで連れて行かれたことだろう。

「たしか……リサは一度魔物と出会っているんだったね? もし、その時の記憶で躊躇するのであれば、怖いなら、僕は待つよ。貴女の気持ちの整理がついてからでも構わないから」

「大丈夫です! 行けます!」

ゲーム内のリサは、ここで顔を俯かせ、震えながらも行くことを決心するのだけれど……。

そこまで演技しきれなかった。

正直、早く魔物を倒したい。レベルを上げたい。

自分の実力を試す意味でも、リサはうずうずしていた。

「けれど、生徒は全員がいつか経験することで、遅かれ早かれ……えっ? 平気なのかい?」

「はい、魔物を倒すのは学園生としての義務ですから!」

なんの躊躇も見せないリサに、ステファンが驚いていた。

セオの瞳も「んっ?」と見開かれている。

「え、ええ……では……行きましょうか」

「その前に、よろしいでしょうか?」

何をとはあえて言わずに、リサは教室に向かう。

ステファンは戸惑いつつも、セオを伴ってついてくる。

「お待たせ、アンナマリー!」

授業の終わった教室には、一人アンナマリーが待っていた。

事前に、魔物退治に行きたいのでここで少し待つように言ってあったのだ。

ローズとデイジーには、それとなくステファンとのことを匂わせて、先に帰ってもらった。

「遅いですわ! リサ、貴女はいつまでわたくしを待たせたら……って、あっ……ステファン!?」

さすがに少し遅すぎた。

リサの顔を見るなり、アンナマリーは怒り出すもステファンがいることに気づく。

途中で頬に手をおいて、カーッとなった。

一々ステファンに対する仕草が可愛い。

ぎゅっとしたくなるのを抑えて、アンナマリーの腕にだけ抱きついた。

「ステファン王子、二人っきりじゃ不安だから、お友達もいいですか?」

「あぁ、もちろんですよ」

当然だとばかりにステファンが微笑む。

「なっ……聞いてなっ、リサが二人で魔物スポットへ行こうと誘って……」

「一緒のほうが楽しいに決まってるから!」

アンナマリーと二人で行く約束をしていたので彼女が戸惑う。

リサはざっくり笑顔で返して、彼女に目配せする。

ステファンと仲よくするチャンスだ。

「……です、わね。同行いたしますわ、ステファン」

「アンナマリーが来てくれると、頼もしいよ」

ほっとした声で優しく微笑むステファンの顔を、おそらく真っ直ぐに見つめてしまったのだろう、アンナマリーの顔にボッと火がつく。

近くで見ていると彼女の表情の変化がよくわかるので、楽しい。

「っ……面倒を見て差し上げるだけですわ」

照れて、パニくったうえに、ツンになるアンナマリー。

そんな様子に、にやつきが止まらない。

アンナマリーに王子様をお土産作戦……大成功!

※※※

まだ顔がやや赤いアンナマリー、微笑みを絶やさないステファンと一緒に学園の敷地を出る。

一番弱い魔物が出る魔物スポットがあるのは、王都を出てすぐに広がる平原だ。

ステファン一人で問題ないと考えたセオと別れると、三人で向かう。

それにしても……。

改めて先導するステファンと、リサの隣で彼を意識しているアンナマリーを見る。

この戦闘チュートリアルは、元々ステファン王子とリサの二人きりだった。

けれど、今はステファンとアンナマリーの三人パーティになっている。

ということは、ゲームでは攻略対象としか一緒に冒険できなかったけれど、アンナマリーや、ローズ達も誘えるかも? ああ、夢広がる――――!

イベント戦闘でゲスト参加はあったけれど、アンナマリーたちを誘うことはできなかった。

ゲームになかった仕様に、思わず興奮と妄想が止まらない。

公爵家兄妹パーティとか、悪役令嬢取り巻きパーティとか、楽しそうだ。

でも、今は初めての戦闘に集中しなくては……。

楽しみではあるけれど、同時に上手くやれるかという不安もある。

「見えてきたよ、今日行くのはあそこの魔物スポットだ」

ステファンが歩く速さを緩めると、前方を指さす。

見通しのいい平原の真ん中に、不自然な緑色の霧のようなものが広がっていた。

その前には鎧をつけた見張りらしき騎士が二人、槍を持って立っている。

「これが……魔物スポット……」

実物を見たのはこれが初めてのこと。

今度は演技ではなく、魔物スポットを興味深く観察する。

霧は奥に向かって広がっているようで、二人の騎士が立っている間だけ色が薄くなっていた。

あれが入口だろう。

“マジラバ”の世界では、様々な場所に“魔溜まり”と呼ばれる闇の魔力を帯びた澱みが自然と発生し続ける。

“魔溜まり”の周囲には霧が広がり、取り込まれた動植物や人工物が魔物化した。

それらを総称して“魔物スポット”と呼んでいる。

RPGで例えると、日常的な景色が変化した小さなダンジョンのようなもの。

最初は半径二十メートル程度だけれど、放置すると広がっていき、やがて養護院の森みたいに魔物が外まであふれ出し、人間に危害を加え始める。

広域化させないように“魔物スポット”が見つかると、王立魔法機関が魔法使いや騎士を派遣して管理していた。

実際には霧の膨張に反応して広がる特殊な魔法結界を張って、入り口以外からの人の出入りを制限している。

同時に魔物が外にあふれ出すのを防いでもいた。

ただ、管理して危険を排除するだけだと広がり続けて、人間の生活圏が脅かされるので、できるだけ“魔物スポット”を消す必要がある。

出現した“魔物スポット”を消去する方法は、二つ。

一つは、中にいる魔物をすべて倒すこと。

魔物は魔法使いでなくても武器などで倒すことは可能なので、生まれたばかりの魔物スポットなら比較的簡単に行える。

二つ目は、光の魔法“浄化の光<プリズムライト>”を魔物スポットの根源である“魔溜まり”に使うこと。

これならば、中の魔物もろとも消え去るので、一体一体倒す必要がない。

特に広くなり過ぎた“魔物スポット”を消すのに、光の魔法があるか、ないかでは労力に雲泥の差があった。

これが、リサが国から特別視される理由。

魔物スポットは出現や膨張など、未だに不明な点が多い。

苦労して消しても一夜にして同じ場所に復活することもあれば、数時間で急激に広がって森一つを飲み込んだ事例さえある。

“魔物スポット”は国の脅威に他ならず、その処理は魔法使いの一族である貴族の義務とされていた。