軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

012_最初の告白

授業が行われる部屋は、教室というより小さめのホールといったところだった。

教壇を中心とした扇状の形をしていて、生徒の座る場所はよく見えるように段差がつけられていて、どの席からも下にいる教師を見ることができる。

机の上にはそれぞれ羊皮紙が一枚、置かれていた。

王立魔法学院の授業についての説明が書かれていて、初日のガイダンスといったところだろう。

リサはアンナマリー達と一緒に最前列に座って、教師の説明を受けていた。

避けがちな最前列へ、人の目を気にすることなく真っ先に座るところは、自信家というか、怖い物知らずというか、さすが公爵令嬢らしい。

それでもアンナマリーはどこか落ち着かないように見える。

髪を自分の指でくるくるとしている様子からすると、先ほどステファンに触られたところがまだ気になっているに違いない。

ちょっとその気になり方、可愛い。

当人のステファンも、アンナマリーの少し後ろにいて、ちらりと見たら、やけに熱っぽい視線を送っていた。

――――このまま上手くいってくれそう。

身内贔屓が入っているかもしれないけれど、お互いに意識していて、いい感じだと思う。

前世の知識では、いきなりリサを虐めているところを見たステファンは、アンナマリーから距離を取ることになっていく。

今の状況とは大違いだ。

――――私は、アンナマリーの嫌われフラグの改変に成功した。

これは、アンナマリーに関する問題が好転しただけでなく、もっと大きな意味も持つ。

今回の件にかかわらず、どんな未来も変えられる可能性が高くなったということ。

それは、アンナマリーだけでなく、リサ自身の未来についても当てはまる。

「――――!」

教室に終了のチャイムの音が鳴り響き、反射的にリサは立ち上がった。

「リサ、どうされたのです?」

アンナマリーが驚いて、リサに声を掛けてくる。

「ちょっと用事を思い出したの! 行ってくる!」

「え、ええ……いってらっしゃい」

戸惑うアンナマリーたちを教室に残し、一人で走り出す。

校舎から出ると、中庭の隅にある東屋<ロトンダ>へ向かった。

「未来、決めた!」

走りながら、宣言するように独り言を口にする。

「なかった、ヒースクリフとの恋人エンド、実現できるかもしれない!」

リサが目指すのはステファンでも、セオでも、まだ出会っていない人のルートでもない。

前世のゲームでは、エンドルートのなかったヒースクリフだけれど……。

「ヒロインの力をもってすれば、きっと――――」

青空の中、芝生を全力で走る。

令嬢としては、失格だけれど、一秒でも早く会いたい気分だった。

「想定外だったヒロインへの転生を恨んでごめん!」

何も悪くなんてない。

だって、家族じゃないから、恋愛できる。

「ヒロインだからいつもちょっとラッキーで、優遇されていて、未来を切り開きやすい!」

だから、今ではむしろリサとして転生できてよかったと思える。

「居た……」

ロトンダが見えてきて、そこに人影を見つける。

――――昼休みのこの時間、ヒースクリフはたまにロトンダで、変なものを売っている。

ゲームでは、冒険に必要なアイテムを唯一売ってくれる存在だ。

「リサじゃないか、どうしたんだ? もしかして、俺に会いたくなって、昼食も摂らずに探しに来てくれたのかな?」

ヒースクリフを見つけたものの、全力で走ってきたので息が切れてしまった。

彼はロトンダに黒い布を敷いて、変なまじない人形や、丸めた羊皮紙、時計、オルゴール、小瓶などの雑貨品を広げている。

「そうかも……しれません」

やっと呼吸を整えると、答える。

リサもロトンダの中に足を踏み入れた。

「やっぱり、俺って愛されてるなぁ。じゃあ、お嬢さんの愛でこれを買ってくれないか?」

ヒースクリフが羊皮紙と時計を手に取る。

「“恋が叶う羊皮紙”と“ドキドキが止まらない時計”今なら半額!」

冗談なのかもしれないけれど、リサは大まじめだった。

治まり始めたはずの鼓動が、また速くなっていく。

「あなたの名前を書いたら、叶いますか? 時計なんかなくても、今ドキドキしています」

さすがにヒースクリフも驚いて、目を大きくする。

「えっ! えっ? 俺がいいの? 本気?」

力強く頷く。

――――前世では叶わなかったから、今度はあなたとのストーリーが見たい。

しかし、ヒースクリフはふっといつものおどけた様子に戻る。

「イケメンだらけの魔法学園にいて、魔法が使えず、生徒でもない存在に真面目になっちゃう?」

「魔法とか関係ないです」

彼の言葉を否定する。

「そっか、リサは庶民出身だったね。じゃあ、アンナマリーの兄である俺を尊敬してるとか、そういうやつだ?」

ゆっくり、大きく首を横に振って否定する。

「――――私は、あなたのことが、もっと知りたい<、、、、、、、>」

そう告げると、ヒースクリフは一瞬真剣な顔に戻る。

そして、次にはなぜかその顔に影が差したように見えた。

「…………」

ヒースクリフの視線が、リサを見つめる。

まるで、心まで見通そうとするかのように、じっと……。

――――この瞳……どこかで……。

なぜかその時、彼の瞳に黒い炎が宿り、揺れたかのように見えた。

以前、どこかでそんな瞳を見たことがある気がする。

「教えてあげてもいい。リサの知っていることを話してくれたら」

しばらく見つめ合っていたところで、ヒースクリフが低い声で沈黙を破る。

「あなたの周りの不幸を、回避する方法とか……たぶん、わかるかも」

何も考えることなく、リサは答えていた。

口にしてから、おそらく信じてもらえないと気づく。

きっとまた茶化されるだけだろう。

「…………」

しかし、ヒースクリフは少し怖いぐらいの真剣な顔のままだった。

――――疑っている? 信じてくれている?

その表情からだけだと、どちらかわからない。

「正確には……アンナマリーも、ヒースクリフも救って、幸せになる未来への道筋に、少し目処がつき始めたところです」

嘘はつきたくなくて、正直なところを話す。

アンナマリーの婚約破棄については、このままフォローしていけば上手くいくと思う。

けれど、まだヒースクリフの事業失敗については、何も掴んでいない。

「アンナマリーも、俺も……救う?」

ヒースクリフの表情が今度は戸惑いの色を帯びた。

やはりリサの言葉が信じられないのだろう。

無理もない。

「あっ、なんだか、上からで嫌な感じですよね。今のは気にしないでください」

――――いけない。これだと、私って突然告白して、意味不明なこと呟いてる危ない人!?

そこまで来て、ハッと気づき、リサはトーンダウンした。

好きだからって、知り合っていきなり一方的に宣言したら、引かれてしまう。

最低でも、お友達エンドの難しい条件ぐらいは満たしてから告白するべきだ。

ヒースクリフとの未来があると思ったら、つい突っ走ってしまった。

「了解、今のは二人だけの秘密。でも、リサなら、いつでも、どこでも、上からでも下からでも、抱きしめてあげるよ」

「ひゃっ!?」

気づけばヒースクリフに距離をつめられていて、耳元で囁かれていた。

「おっと……」

驚くあまり、バランスを崩したリサの腰にヒースクリフの腕が伸びる。

しっかりと抱き留められてしまった。

顔が、身体が、とてつもなく近い。

「そんなに抱きしめて欲しかったのかな?」

「えっ……やっ……その……」

真っ赤になったリサは、ヒースクリフに、見つめ合ったままロトンダの内側にあるベンチへと運ばれる。

「ありがとう、ございます」

ベンチに座らされ、感謝を述べる。

彼が離れるとばかり思ったけれど、腰に腕を回されたままだった。

「このまま君の感触を味わいたいんだけど……いいかな?」

またも耳元で甘く囁かれる。

「……っ」

今、頷いたらどうなってしまうのだろう。

このまま抱きしめられて、きっとそれだけでは終わらない気がする。

止まらなくなって、このままロトンダのベンチに倒れ込んで……直接、肌を重ねてしまうかもしれない。

ヒースクリフに求められれば、今の自分はどんなことも断れないだろう。

彼の目が細められて、至近距離で目が合い、じっと見つめられてしまう。

リサへ吸い寄せられるようにヒースクリフが来たのか、リサが吸い寄せられたのかわからないほどに、距離が縮まっていく心地がする。

このままでは……。

――――キス……されそう。

きっと唇を重ねられたら、理性なんて全部飛んでしまう!

リサは二人の触れそうな唇の間に、ぐいっと手を出して自分の唇をかばった……成功!

「私、免疫なくて、なんでも本気にしちゃいますから、ほどほどで」

寸前のところで、リサは踏み止まった。

いきなりここでキスとか、既成事実とか、初心者の自分には難易度が高すぎる。

それに色々問題ありすぎ。

「ほどほどってのは、一番難しいね」

今度こそ彼が離れ、アイテムを広げていた場所に戻る。

そのあっさりと引いた様子に、先ほどのことは本気だったのか、冗談だったのか本当にわからなくなる。

「今のは、なかなかいい返しだったよ、リサ」

茶化すように、笑いながら彼が答える。

先ほどまでの妖しげな様子から一転、いつもの調子に戻っていた。

彼の普段見せない一面が見られたので惜しい反面、ほっともしている。

「会ったばかりだから、健全なやつでお願いします」

「んー、うーん。健全な男女のスキンシップ……それはまた難題だ」

ヒースクリフが真面目に何やら悩んでいる。

すると、彼が近くにあったバスケットへと手を突っ込んだ。

「俺のとっておきサンドイッチを食べる……とか、どうかな?」

「えっ……」

リサの口元に一口大のサンドイッチが運ばれてくる。

中身はなにか、などと考察する余裕なんてなかった。

恥ずかしいけれど、彼の手から食べさせてもらえる誘惑には勝てない。

「いいんですか?」

「恋の媚薬入り、俺の虜になってもいいなら」

尋ねながらも、引き寄せられるように口元がサンドイッチに近づいてしまう

「望むところです!」

意思表示すると、ヒースクリフの持つサンドイッチにぱくっと食いついた。

「……んっ」

「ついてる、わざとかな?」

彼がリサの唇の端についたサンドイッチのソースを、無言で手で取る。

そして、ペロッとその指をヒースクリフ自らなめた。

思わずぞくっとしてしまう。

「イチゴも食べるか?」

今度は、彼のその指が、半分にカットされたイチゴへと伸びる。

サンドイッチと一緒にバスケットへ入っていたらしい。

彼の色気に当てられて、リサは無言でこくこくと頷く。

「どう? 美味しい?」

緊張とドキドキで、味なんかわからなかったけれど……。

前世では病気で食べることが許されなかった生クリームは、眩暈がするほど甘くて美味しい。

――――絶対、婚約エンドにたどり着いてみせます!

この時、リサは強く心で誓った。

※※※

その日の夜、リサは寮の部屋に戻ってからも、ヒースクリフのことばかり考えていた。

昼間の彼とのことが、熱に浮かされたかのようにいつまでも頭から離れない。

「…………」

ネグリジェに着替えてベッドに入ってからも、中々寝付けない。

ヒースクリフの手に触れた唇が気になって、気づけば何度も指で触れていた。

「こんなことで浮かれていてはだめ!」

自分を叱咤する。

前世のゲーム内で、ヒースクリフのお友達エンドの条件は、おまけの隠しエンドだったためか、難易度が相当高かった。

最低限それを満たさないと、もともとなかった婚約エンドなんて夢のまた夢だ。

「それにしても、遠いなぁ……」

このゲームの一周目最大レベルは50で、ヒースクリフのエンドは、エンド前までにレベル49が必要になる。

攻略対象達との友好度も、全員に好印象までが必須。

可能な限り厳しい条件を全て盛り込んだようなもので、一つ取り逃せば、クリアするのは難しく、時間もかかる。

それでもリサには諦めるつもりなど、微塵もなかった。

「待っててね……全部クリアして、絶対に叶えて見せるから!」

ベッドからむくっと起き上がると、一人で意気込んだ。

「っと、条件うんぬんもあるけど、まずはヒースクリフとの日々の語らいも全部回収しないと。取りこぼしたらどんな影響があるかわからないし、注意しよう!」

彼はヒロインを導くナビ役なので、会話は強制的に出てくるものばかりで気をつけていれば問題ないはずだ。

そうでなくとも前世の知識で、彼のセリフならば、すべて覚えているから問題ない。

「何より……会いたい……」

また彼の昼間の顔を思い出した。

いつものふざけている時の顔、軟派な微笑み、真剣な横顔、それに少し影のあるレアな表情。

昼に別れたばかりなのに、同じ世界にいるならなおさら、もう顔が見たくてたまらない……。

「次に絶対会えるイベントは、戦闘チュートリアルだっけ。エンド条件のためにも、レベルもガンガン上げていこう! おー!」

頷くと、一人気合を入れて右腕を天井に向かって突き出した。

ステータス《リサ》

LV2/光属性

魔力 6

HP 10

MP 60

状態/健康

魔法

・浄化の光<プリズムライト>LV1

・眩忘の光<ニフライト>LV1

・癒しの光<ヒーリングライト>LV2

・光の矢<ライトアロー>LV2

・光の防壁<ライトシールド>LV2