軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【おまけ⑤】弟君は苦労人なので。

「金山の管理……ですか」

フォッシモ・ダエラールは、父である子爵の言葉に頬を強ばらせた。

社交シーズンも終わりが近づき、フォッシモは姉の結婚式を見届けて、自分の準備の為に少し早めに子爵領に戻っていたのだが。

遅れて戻ってきた父が執務室に呼び出して告げたのが、金山管理に打診に関する話だった。

「我が最愛の娘をお飾りにしようとしたボケ宰相閣下と、我が最愛の娘を振りやがったボンクラ伯爵の推挙だ」

「閣下の話は誤解だったし、ボンボリーノは確かにちょっとクソ野郎ですけど、俺の前以外でそれを口にしないで下さいね……」

「分かっている!」

ドン! と執務机に拳を叩きつけて、痛かったのかますます顔をしかめて腕を振る父に、フォッシモは深く溜息を吐いた。

この父は気が小さい割に感情が昂り易い……要はわりと短気で、自分の娘が大好きなのだ。

なので姉には甘く、しかも彼女が賢く論破されてしまう&さっさと自分で決めて色んなことを実行してしまう故に、結果イースティリア様に嫁に出しはしたものの、誤解が解けても娘を取られた意識が抜けず、彼に辛辣である。

ーーー正直、姉上が今後一生、結婚しなくていいと思ってた節があるんだよな……。

姉は本当に優秀で、タウンハウスに引っ越して文官や宰相閣下の秘書をしながらも、子爵領の運営にまで携わっていた。

手紙を通してあれこれとフォッシモに指示して、うちが富むように動いてくれていたのだ。

父ではなく。

領主としては可もなく不可もないが、新しく何かを始めることに尻込みしがちで気が小さい、儲ける才能がない父ではなく。

……適切な判断をしてくれた姉のお陰で、フォッシモは貴族商売のイロハを多少学べたし、家柄は良いがジリジリと貧しくなっていっていたダエラール子爵家は、今ではある程度立て直している。

そうした諸々があって、父はボンボリーノの件の後は姉を手放したくなくなっていき、それなりにあった縁談に難癖つけて断っていたのを、フォッシモは知っていた。

社交界で多少悪い噂が流れたところで、姉が貴族学校の首席で、かつ美人であることは周知の事実。

姉に憧れるあまり家族になりたいと願った御息女が、兄や弟を焚きつけたという話もチラホラ聞いていた。

アレリラ本人が知らないのは、宮廷に上がった後、貴族として出席を義務付けられているものだけ出てさっさと帰る上、それ以外の社交を全くしなくなったからだ。

にも関わらず、結局イースティリア様に掻っ攫われ、フォッシモがもうすぐ子爵を継ぐ段になっての、金山運営の話。

父のギリギリギリという歯軋りの音がとてもうるさい。

「あの連中、アレリラを良いように弄んだ上に、厄介ごとを押しつけてきおって……!!」

「いや、普通に善意だと思いますよ」

二人は姉を弄んだりはしていないが、父の頭の中ではそういうことになっているらしい。

実はボンボリーノの事に関して、フォッシモは誤解していなかった。

というか、両家の父親が鬼のように激昂したせいでボンボリーノの話をまともに聞かなかった婚約解消の話し合いの後、フォッシモも文句をつけに行ったのだ。

すると彼はヘラヘラしながらこう言った。

『アレリラ嬢は、きっとオレと結婚しない方がいいと思ったんだよ〜。オレにあの子は勿体無いよー』

と。

そしてさらに詳細を聞けば、ボンボリーノが婚約解消しようとしていたのを、前伯爵が止めていたせいであんな事になったという。

どっちにしたって婚約解消させられた姉に言うことではないので、黙っていたが。

また、イースティリア様から彼女が秘書になった経緯にもボンボリーノが関わっていると聞いたので、フォッシモ的にはすんなり金山の話の善意を信じられたが。

問題が一つ。

ーーー何で管理の打診が、父上じゃなくて俺なんだ……。

父の性格をイースティリア様もボンボリーノも知っているので、こっちにお鉢が回ってきたんだろうと薄々気づいてはいる。

気づいてはいるが、父の言う通り金は入るけど、動く金額が大きいだけに忙しそうなのも事実。

正直、領地経営の片手間以上の仕事になるので、面倒くさい気持ちが強い、が。

「えっと、父上。嫌なら断ります?」

「宰相、ひいては王家の意向に逆らうことなど出来るわけがないだろう!?」

「ですよねー」

まぁ、気が小さい父が陰口以上の行動を取る訳がないので、さもありなん。

ーーーなので俺に断る権利はなし、と。

近々、爵位の引き継ぎもあり忙しいこの時期に。

少々うんざりしながら、フォッシモが受け取った書類に目を通してみると……どうやら金山で得た金そのものの利益は、国家に納める税以外の大半が姉の所得となるらしい。

職人や鉱山夫連中を囲うペフェルティ領と、金山の採掘計画や帳簿、現地が適正な環境かどうかを監査するダエラール家の利益はあれど、イースティリア様やボンボリーノ本人の利益はほぼなし。

ーーーやっぱどう見ても善意だよな。

監査をこちらに回したのは、姉の実家である子爵家に、少しでも利益を回そうとしてくれているのだろう。

しかも管理費の定期収入以外に、姉からの『アレリラの取得利益の半分を、子爵領に分配する』という旨の書類まで混ざっていた。

が、それは流石に貰いすぎなので後で姉に手紙でも 認(したた) めて考え直してもらうことにしよう、と、後で自室の保留の箱に入れておくことにする。

「まぁ、とりあえずやりますけど。用件はこれだけですか?」

最近、次期領主としての他領や宮廷貴族との顔合わせの意味合いもあり、昼餐会や夜会などへの参加が増えていて、父から押し付けられ始めている仕事が滞っているのだ。

その為に仕立ての良い服なども新調していて、子爵家的にも少々懐が痛い。

出来ればさっさと部屋に戻って、領地の仕事やら収入の見込めそうな事業案などを片付けていきたいのだが。

「……半年後に、ペフェルティ領でのアレリラとクソ宰相閣下の視察がある。その日程調整の為に、予定表をアレリラから受け取り、その後、宰相夫妻警備計画立案の手伝いの為に、アホ伯爵に会ってこい!!」

「冗談でしょう……父上が行ってくださいよ。まだ子爵なんだから」

王都と自領の往復には、二週間は見なければならない。

何故ならダエラール領と王都の間には、広大で肥沃なウェグムンド領が横たわっているからだ。

宰相閣下の行動予定は機密に当たるので、当然ながら郵送で済ませるわけにはいかない。

「うるさい! 何で儂がアホ伯爵の顔を見なければならんのだ!」

「姉上には会えますよ?」

「アレリラがクソ宰相閣下の横で、幸せそうな顔をしてるのなんざ見たくもないわ! 一人で里帰りするようについでに伝えてこい!」

ーーーこの娘バカめ……。

なんだかんだ言いつつ、姉の結婚が幸せなものだったことを喜んでいるくせに素直ではない。

内心で父を罵りながら、フォッシモはニッコリと笑う。

「じゃ、今滞ってる領地の仕事は、父上にお願いしますね。利益の出そうな重要な仕事はアンドリューに振っておきますから」

アンドリューは、こちらも最近代替わりした、フォッシモの二つ年上の家令である。

最初はただの下働きだったのだが、姉に頭の回転の速さを認められて、直々に事務処理と宮廷式実務術を叩き込まれた彼は、フォッシモの右腕として能力を遺憾なく発揮してくれている。

「仕事が滞っているのはお前の責任だろう!」

「いえ、父上が爵位を譲る際の根回しを、面倒臭いからと後回しにしてくれていたせいですね。仕事を引き受けてくれないなら、王都にはご自分でどうぞ。仕事が遅れると領民から反感を買いますよ?」

「ふん、反感が怖くて領主が務まるとでも?」

「母上のご実家からのものも混じっておりまして。お祖父様や伯父上が仕事の遅れを許してくれれば良いですが。ちゃんと父上が今対応していると伝えておきますので」

以前家令として勤めてくれていたらしいお祖父様は、父の教育者であり、頭の上がらない人間の一人である。

そして伯父は父の乳兄弟で、良い意味で遠慮がない。

「ぐぬぬ……フォッシモ! 貴様、いつの間に父にそんな逆らい方をするようになったのだ! そんな育て方をした覚えはない!」

「お祖父様と姉上直伝です。で、どうするんですか?」

「……分かった、やる」

よほどボンボリーノとイースティリア様に会うのが嫌らしい。

ーーーやれやれ。

領地に帰ってくる前にしておいて欲しかった、と思いつつ、執務室を退出したフォッシモは知らない。

姉が少し前にとある公爵令嬢と仲良くなり。

一年後の社交シーズンに、新子爵お披露目の場で自分が見初められて、猛アタックを受けることになろうとは。