軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31.趣味と実益を兼ねています

見る見るうちに、ジャムを食べつくした庭師猫。

お皿のふちについたジャムまで器用にスプーンですくいなめとると

『ごちそうさまでした』

と言うように一声にゃぁと鳴き、こちらへ近づいてきた。

これはもしや、お礼に撫でさせてくれるパターンかな?と思ったけど。

庭師猫は我関せずといった様子で丸まり、安らかな寝息を立て始める。

苺を育てて疲れたら寝て。

起きて苺ジャムを食べ満腹になったらまた眠る。

欲望に忠実な、肉球持ちの美食家様のようだった。

満足げな寝顔の庭師猫をそっと抱え、毛並みを堪能しつつ自室の長椅子の上へ運んでやる。

軽く庭師猫の毛を払うと、また厨房へと引き返す。

作ったジャムを、料理人たちにも食べてもらうためだった。

「うまいですね」

「うーん、ちょっと甘さが物足りないような?」

「この甘酸っぱさがいいな」

「でもこれ、元は『魔物の宝石』の色違いみたいな果実なんだよな………」

「しっ、黙ってろ」

「それは言わないお約束だ。美味いものは美味いまま食べたいだろうが」

「調理前の形さえ知らなければ、素直に美味しいと思えるんだけどなぁ」

「俺はイチゴの形もちょっと好きになってきたぞ?」

「美味しいは正義だからな」

「「「「だな!!」」」」

料理人たちの声が重なった。

苺ジャム、味に関してはおおむね好評のようだった。

甘さが足りないという人も、砂糖を入れたジャムや、他のクリームや甘味と一緒に出せば満足してもらえるかもしれなかった。

そうなると障害となるのは、やはりイチゴの形のようだ。

毒物では無いと証明するために、私は彼らの前で苺ジャムを食べていた。

そうして実食して尚、彼らの顔はあまり乗り気ではなかったのである。

実際に食べてもらった後は、料理人たちの表情が明るくなったから、味に関しては悪くないはずだった。

彼らの苺の形に対する拒絶感も、味のおかげで少しは薄れてきたようだ。

そこらへんについては、今後も苺料理を作り続け、地道に意識改革に挑戦していきたいと思う。

「庭師猫への貢物も作らなきゃだものね」

庭師猫のため、そして私自身が美味しい苺料理を食べるためにも、挑戦を決意したのだった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「…………重たい…………」

近頃の私の目覚めは、胸の上の重さとあたたかさと共に訪れている。

まぶたを押し上げ、視線を胸元へと向けた。

「…………………」

ライトグリーンの瞳と目があった。

堂々と私の上に乗っかった庭師猫が、早く起きろと言わんばかりにこちらを見つめている。

「いちご、おはよう」

苺が好きだから、いちご。

単純なネーミングセンスだが、これもイチゴという響きを、離宮の人間に広める一環だったりする。

いちごと出会ってから十日ほど。

私の作った苺ジャムがよっぽど気に入ったのか、いちごは離宮に住み着いていた。

見た目は猫そのもののいちごだが、一応希少な幻獣だ。

ずっと猫のフリをしているのも疲れそうだからと、夜は自室に招いてみた。

用意した寝床が気に入ったのか、それからは私の部屋で眠ることに決めたようである。

枕もとの鈴を鳴らし、メイドに合図を送った。

程なく現れたメイドの携える盆上には紅茶と、小ぶりな器に入った苺ジャムなどが乗せられていた。

「ほら、いちご。朝ごはんだよ~」

メイドが下がった後、いちごに器を差し出してやる。

待ってましたとばかりに、とてとてと駆け寄るいちご。

その右手には部屋の片隅に隠していた、小さなスプーンが握られている。

小さな猫に丁度良い大きさのスプーンは、私が整錬で作ったものだった。

マイスプーンを握りしめたいちごは、今日も上機嫌そうに苺ジャムを食べている。

猫は肉食よりの雑食だけど、庭師猫は少し違い、草食よりの雑食らしい。

猫との違いはそれだけではなく、庭師猫はいくつか植物に近い性質を持っているようだった。

まず大きな違いとしては、庭師猫は排泄の必要が無かった。

食事は全て魔力やらなんやらに変換されているようで、排泄物となることは無いのである。

そして2つ目の特徴は、日光を浴びる必要があることだ。

数日ならともかく、何十日も日に当たらないと、衰弱して死んでしまうらしい。

見た目は完全に猫だけど、光合成っぽい何かをしているのかもしれなかった。

いちごも暇な時は、日当たりのいい窓辺でまどろんでいることが多かった。

その姿は陽だまりに貪欲な猫の姿そのものなので、正体がバレることは無いはずである。

紅茶を飲み終えると、ちょうどいちごも苺ジャムを食べ終わったようだった。

食後の水の代わりに、苺ジャムの調理過程でできたあくを元にした苺牛乳を飲んでいる。

器用に両手で持ったコップをおろしたいちごが、窓辺へと近づいていく。

朝陽を浴び、苺―――――こちらは庭師猫ではなく、植物の苺――――――の葉が、瑞々しく輝いていた。

窓辺に並べられた陶器製の植木鉢には、苺の株が植えられている。

いちごが、自らの魔力で育てた苺の株だった。

庭師猫の能力を使えば、実がなった状態まで、植物を育て上げるのも可能だ。

だが、植物を実らせるのは、庭師猫のいちごにとっても消耗が大きいらしかった。

なので、より効率よく苺の株を増やすために、実がなる少し前までで育てるのをやめたようだった。

幸い今は、苺が自然と成長し実を結ぶ季節だ。

室内に5株、そして森の中の一角に10株ほどの苺が、緑色の小さな実をつけていたのである。

今もいちごは苺の株を増やしているから、収穫はより増えるはずだった。

「実るのが楽しみね」

あと十数日もすれば、たわわな赤い苺に成長するはずだ。

間近に訪れる苺フェスティバルを楽しみにしつつ、身支度を整えていく。

離宮の運営に関わる書類に目を通し判を押した後、厨房へと向かうことにした。

「ジルバートさん、今日も一緒にシフォンケーキ作りをお願いしますね」

「よろしくお願いします。今日こそは、納得できるものができあがると思います」

いつになく力強く頷くジルバートさん。

彼と軽く打ち合わせした後、シフォンケーキ作りへと取り掛かっていく。

二人の打ち合わせを元に、砂糖の分量や加えるタイミングを微調整。

その他にもちょこちょこと、今までの調理手順に手を加えて仕上げていく。

一つ一つは小さな違いだけど、降り積もれば大きな変化だ。

型から取り出されたシフォンケーキは、表面もけばだち一つなく美しかった。

「美味しい………」

口に含めば名前の通り絹のように滑らかで、しっとりとしつつも軽い食感だ。

柔らかさの中にしっかりと甘さがあり、とても上品な味わいだった。

私が持ち込んだレシピを、よりこの世界の調理環境や材料に合うよう調整した一品だ。

味も見た目も完成度が上がっており、日本でも高級品として売り出せそうな仕上がりだった。

「レティーシア様、やりましたね………!!」

「はい。ありがとうございます。これも全部、ジルバートさん達の協力あっての成功です」

感謝を伝えると、ジルバートさんがはにかんでいた。

そんな彼を祝福するように、他の料理人たちもこちらを見守っていた。

ほんと、ジルバートさん様様である。

彼にとっては、ほんの二十日ほど前に初めて見たはずのシフォンケーキ。

にもかかわらず、その特性や調理方法の改善点を瞬く間に把握してくれたのだ。

実際にこの短期間で、シフォンケーキの完成度はかなり上がっていた。

私一人で取り組んでいたら、なかなかここまではたどり着けなかったはずだ。

ジルバートさん、料理に関するセンスや情熱はかなりのもののようだった。

「このシフォンケーキだったら、5日後の式典に出しても大丈夫よね?」

「間違いありません。この味、そして斬新な食感と形、陛下に捧げるのに申し分ない品だと思います」

シルバートさんの太鼓判を貰えたようだった。

5日後に迫った、陛下の誕生日。

この国では、国王の誕生日には有力者たちが王城に集まるのが慣例だ。

そして、その場で捧げる生誕祝いによって、自ずとそれを贈る人間の格も測られるのだった。

特に私は、この国では新参者だ。

あまり見くびられない様、印象に残る品を贈りたかった。

とはいえ、あまりお金をかけすぎるのも問題なので、料理を贈ることにしたのだ。

この国、ケーキは存在すれど、ほとんどがパウンドケーキのような重めの食感のものだ。

形だって、円形や長方形が主流で、真ん中に穴の開いたドーナッツ型は珍しいはずである。

その点、シフォンケーキは見た目も食感も新鮮だ。

味についてはある程度個人によって評価が分かれるだろうけど、見た目と食感だけでも、十分インパクトはあるはずだった。

………私がこの国で料理に励んでいたのも、実は陛下の誕生日の贈り物を見据えたのもあったりする。

趣味を楽しみつつ、実益も追及する。

趣味の比率が8割を超えていようと、そこらへんは結果オーライだと思うのだ。

このシフォンケーキ、ジルバートさん達との共同作品として提出するつもりだ。

そうすることで少しでも、ジルバートさん達の名前もあがるといいと思う。

深く頷きながら、シフォンケーキを食べていたところに。

「れ、レティーシア様、大変です!!」

血相を変えた料理人が、厨房へと飛び込んできたのだった。