軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30.猫様への貢ぎジャム

幻獣の1種、庭師猫だと判明したサバトラ。

その能力を確認するため、私たちは森へと足を伸ばしていた。

庭師猫とルシアン、それにジルバートさんと連れ立って歩いて行く。

やがて視界が開け、イチゴの株が見えると、ジルバートさんが感心したように口を開いた。

「……話には聞いた事がありますが、イチゴの実り方は、『魔物の宝石』とは異なっているんですね」

「『魔物の宝石』は、どんな風に実るのですか?」

「あちらの方は、背の低い木の先端部に実ります。地面近く、ツルの先に実るイチゴとは別物ですね」

「なるほど。それならイチゴと『魔物の宝石』を、間違って収穫する可能性は低いのですね」

朗報だ。

似ているのは、あくまで果実の外見だけのようだった。

取り違える可能性が減るならいいことだ。

「三株とも、どれも食べごろですね。確か、イチゴの本来の収穫時期はもう少し後のはずですから、庭師猫が自らの魔力で育てたんでしょうね」

庭師猫、促成栽培(?)を行うとは、なかなかにすごい生き物のようである。

その能力を確認するため、私は懐からガラス瓶を取り出した。

ガラス瓶の中身は、手元にあったイチゴから回収した種だ。

果実の表面を水と攪拌し、種を分離することに成功。

その種を塩水に入れ、沈んだ種を使うことにする。

塩水選というこの方法で選んだ種は、中身のつまった優良な種のはずだ。

イチゴを増やす場合、親株からの株分けが日本では一般的だったが、目の前にあるイチゴの株には株分けできそうな部分が見当たらないため、今回は種をまいてみることにした。

軽く地面を掘り返し、種を埋めた上へと土を被せる。

そうして庭師猫を見ると、心得たというように種へと近づいて行った。

「あ、立った」

二本足で立ち上がった庭師猫が、前足を種のあるあたりへと伸ばしている。

丸っこい手には、黒い肉球が見えた。

「肉球が光った……………」

肉球パワー炸裂!

………などというお馬鹿ワードが脳内を駆け巡る。

淡く仄かな光が肉球に宿り、地面へと降り注いでいた。

光が当たった場所の土が震え、緑の新芽が顔を出す。

初めは指先ほどだった芽が、見る見るうちに大きくなっていく。

茎が伸び葉が茂りツルが垂れ、元々生えていたイチゴの株と同じ大きさにまで成長した。

急成長したイチゴへと肉球をかざしていた庭師猫が、すいとその腕を下す。

そのままこちらへと近寄ってくると、くいくいとドレスの裾を引っ張った。

どうしたのだろう?

かがみこむと、胸元にしがみつかれてしまった。

慌てて抱き留めると、そのまま瞳を閉じ体を預けてくる。

「眠ってる………」

時折ヒゲをひくつかせながら、庭師猫が腕の中で丸まっていた。

ドレスごしに、ぐんにゃりとした温かな感触が伝わってくる。

…………魔力を使い疲れたのだろうか?

美味しい食べ物をねだり、眠りたいときに眠る。

猫に似た外見の通り、マイペースな性格の持ち主のようだった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

幸福な重みを腕に抱えながら、私は離宮への帰りを歩いた。

離宮に入り、庭師猫をクッションの上に寝かせると、厨房に向かうことにする。

せっかく新鮮なイチゴが手に入ったのだ。

庭師猫の期待に応え、お礼の貢物を捧げるためにも、さっそく料理してみることにする。

「『魔物の宝石』だ………」

「まさか食べるつもりか?」

「違う違う、あれはイチゴだ」

「イチゴ?」

「ジルバートさんがそう言ってたな」

「食べられるものなのか?」

「うーん、俺はちょっと嫌だな………」

私を遠巻きにするように、料理人たちが見物していた。

『魔物の宝石』と似たイチゴを恐れつつ、料理人として興味はあるらしい。

できたら彼らにも、イチゴ料理を食べてもらいたいと思っていた。

食べて味わってもらい、イチゴの美味しさに目覚めてもらえたら計画通り。

自分一人で料理していると、どうしても多様性や試行回数が減ってしまうのだ。

料理人たちにイチゴの美味しさを布教し、あわよくばイチゴ料理の研究仲間にしたいところだった。

何を作るかも、そうすると自然と決まってくる。

料理人たちがイチゴに拒否感が出るのは、形が『魔物の宝石』と似ているからだった。

ならば初めは、あまりイチゴの形が残らない料理がいいはずだ。

「苺ジャム作りには、銅の鍋がいいのよね」

手にした銅製の鍋は、整錬で作り出したものだ。

鉄くずを材料に整錬を行っていたことが多いけど、ぼちぼち他の素材にも手を出していた。

今回はシンプルな銅製の鍋だけど、いずれはホーロー鍋作りとか挑戦してみたい。

整錬は色々と試し甲斐のある魔術なので、今後も研究を続けていくつもりだ。

「まずはイチゴを下準備して、っと………」

イチゴを洗い、ヘタをとり小さく切っていくことにする。

ごろごろとイチゴが入ったジャムも美味しいけど、今日はイチゴの形をあまり残さない方針だ。

イチゴを鍋へと並べ、レモン汁をふりかけていく。

今回はイチゴの持つ甘さを味わってもらうため、砂糖は使わないつもりだ。

保存性は落ちるが、新鮮なイチゴを使っているから、甘さはしっかりと出るはずである。

ついで鍋を火にかけ、強火で一気に加熱していく。

ジャム作りのコツは、短時間で煮詰めることだった。

その方がイチゴの風味が損なわれず香りも残るはずだ。

今回、鍋を銅製にしたのもこのためだ。

鉄製の鍋より熱伝導率が良いから、短時間で均一に火を通すことができる。

ジャム作りにはピッタリな鍋だった。

「よし、そろそろ火を少し弱めて………」

沸騰しでてきたアクを、丁寧にすくっていくことにする。

取り除いたアクは捨てず、器の中へと集めることにした。

発泡酒などで割れば、ほんのりと香るイチゴ風味の飲み物ができるはずである。

そのまましばらく煮詰め、木べらで焦げないよう混ぜていく。

かき混ぜた時、少し鍋の底が見えてきた。

そろそろだろうか?

木べらにつけたジャムを、コップの水の中へと落とし込む。

ジャムは水に溶けることも無く、静かに底へと沈んでいった。

ジャムテスト成功。水分はしっかり飛んでいるようだ。

鍋を火からおろし、粗熱が取れたらガラス瓶へと入れていく。

鍋を片付けつつ、ジャムが冷えるのを待っていると、背後から視線を感じた。

「……………」

じーっと。

厨房の入口から監視するように、庭師猫が見つめてきていた。

イチゴジャムの香りに惹かれ起きてきたのだろうか?

早く食べさせろと言うように、無言の圧力をかけてきている。

どうもこの庭師猫、普通の猫のように鳴き声は上げず、静かに訴えてくるタイプのようである。

待ち時間に撫でて構ってやろうとすると、するりと距離を取られてしまった。

さっきこちらの腕の中ですやすやと眠っていたくせに、今は触らせてくれないとは、微妙な猫心のようだった。

そんなこんなで、つかずはなれずの距離からの圧力を感じることしばらくして。

十分に冷めたジャムを、さっそく食べてみることにした。

スプーンですくうと、とろりとした表面が煌いた。

イチゴそのものも可愛らしいけど、ジャムになるとまさしく宝石のように綺麗だ。

ルビーのようなジャムを一口食べると、甘酸っぱい匂いが香り立つ。

とろみのある滑らかさの中に、時折まじるイチゴの欠片が楽しかった。

砂糖を入れなかったおかげかさっぱりとした口当たりで、ジャム単体でもたくさん食べれそうな仕上がりだ。

「……………」

美味しいけど、背後からの視線が痛いです。

はやくこっちにもよこせと、庭師猫が無言の訴えをしているようだった。

ガラス瓶からジャムをよそい、浅い皿へとのせてやる。

庭師猫の前に皿を置いたが、匂いを嗅ぐだけで口をつけようとはしなかった。

「食べないの………?」

見守っていると、庭師猫がこちらを見上げ、右前足で水をすくうような動作をした。

何度も繰り返すその動作。

何かを伝えたいようだが、これはもしかして…………

「………スプーン?」

半信半疑のままスプーンを皿のふちにおいてやると、庭師猫が素早く手を伸ばす。

「わぁ…………!」

肉球と肉球の間に挟み込むようにして。

器用にスプーンを握った庭師猫の姿があった。

………どことなく、自慢げな顔をしている気がする。

ドヤ顔の庭師猫が、スプーンをジャムへと伸ばしていく。

そっとすくわれたジャムが、小さな口の中へと消えていくのが見えた。

「にゃっ⁉」

可愛らしい声が、庭師猫から飛び出した。

記念すべき初鳴き声だった。

庭師猫は一声あげると、ジャムを早口で頬張っている。

貢物のジャム、どうやらお気に召したようだった。